僕は新聞社の方の取材に対し、電話口でこう言った。
「あそこは数ある日本の中心の中でも、かなりメジャーなところです。公園として綺麗に整備されていますし、時間を忘れて楽しむことができますね。」
全国の日本の中心を巡っている人間の批評としてこの言葉は新聞に掲載された。
その新聞は僕にも届いたが、「まぁ大した記事じゃないし」と思い、誰にも報告することなくそのうち廃棄してしまった。
…というスポットではあるが…!
僕のコメントはもちろんウソではなくって本心だ。
日本の中心を示す「日本のへそ」がある、「日本へそ公園」。
今回はそこを訪れたときのことを語りたい。
日本の中心はたくさんある
さて、いきなり冒頭から混乱させてしまったら申し訳ない。
日本の中心は1つしかないと思われるのが一般的な思考であろう。
ただ実は中心の定義って曖昧で、定義次第で日本の中心も無数に乱立しているのが実状だ。
ぶっちゃけ30箇所くらいある。
詳細については上記リンク先の【特集】をご覧いただきたい。
そしてこの無数の日本の中心を全部巡ってみたいと夢見ているのが、この僕だ。
今回の記事は、その日本の中心の1つである兵庫県西脇市の日本のへそにスポットを当てる。
兵庫県と言えば、一般的な概念では「え?中心なの?もっと西(左)寄りじゃない??」みらいに思われるであろう。
ここが日本の中心、つまり日本のへそと言われているのは一体なぜなのか。
それぞれの緯度経度の中間は、北緯35度・東経135度の地となる。
それを日本のへそと呼ぶことにしたのだ。
この情報の出典は、現地西脇市の日本へそ公園の中に立っている説明板だ。
説明部分の写真は撮り損ねてしまい、手元に写真として残っているのは地図部分のみであるが、説明部分に記載されていた文面を以下にご紹介する。
ようそこ日本へそ公園へ
みなさん、どうして西脇が日本のへそなのか知っていますか。
左の地図をよく見て下さい。
日本の北の端は、北海道の宗谷海峡で北緯46度、南の端は、沖縄県八重山諸島の波照間島で北緯24度、東の端は、北方領土の択捉島で東経147度、西の端は、同じ諸島にある与那国島で東経123度です。
日本の中心がどこか計算してみて下さい。
わかりましたね。東経135度・北緯35度の交差する地が日本の中心です。
その地がここ日本へそ公園です。
日本の中心の概念が正しいとか正しくないとかについて、僕個人はどうでもいい。
なんなら全部正しいと思っているから、こうして日本の中心を巡り歩いているのだ。
ただ、「おや?」と思ったのもまた事実なので、その違和感を書こう。
日本の東端を「択捉島」としている。
2022年現在において北方領土択捉島が登場するということは、「一般人が行ける行けない・住める住めない」とかではなく、正式な日本の領土を持ち出してきたということだ。
その理論で行くのであれば。
以前に上記の【特集】でも書いたが、日本の東西南北端は以下のようになる。
なんだか少し混乱してしまうが、日本の中心は「考えるのではない、感じるのだ」が鉄則である。
決して否定しているわけではない。
好きじゃなきゃ、わざわざ時間かけて調査し、こんなブログを書いたりはしない。
冒頭からグダグダ言ってしまって恐縮だが、現地を訪れたときのことをご紹介しよう。
ちなみに、僕が実際に現地訪問をしたのは少し過去のことだ。
2022年現在は記載内容からちょっと変わっている点もあるかもしれないが、ご容赦いただきたい。
へそ駅&へそ公園
真冬ではあるが雪や凍結の心配もなく、快晴の中をスイスイと愛車は走っていた。
最高の冬ドライブ日和だ。
西脇の中心地を通り過ぎ、牧歌的な「加古川」の流れるすぐ脇の広場にやってきた。
目印は「日本へそ公園駅」だ。
日本の中心は数多くあるが、その名前を冠した駅まであるのは、僕が知る限りはここだけである。
日本のへそがあるから、駅を造ろうとなったのか。
はたまた駅の近くに日本のへそがあるから、こういうネーミングにしたのか。
前者だったらなかなかの強気なメンタルだなって思って調べたら、やっぱ前者だた。
日本のへそを大々的にアピールしたい意図はビンビンに伝わる。
へそ愛に溢れている。
その駅がこれだ。
ホームは一面のみ。3両編成の電車が停車したらもうキツキツという、小ぶりな駅だ。かわいい。
Wikipediaさんの情報を調べたら、1日の平均乗車人数は2000年で32人、2019年で8人だった。
うわぁ、切ない。もっと盛り上がってほしい。
駅舎のタイルもなかなかに劣化しているが、とてもかわいいのだ。
ファミコン時代みたいなドットのタイルで日本列島と駅名を表現している。
この解像度の荒さ、いいではないか。
最新ゲームのリアルで滑らかなCGもいいけど、ドットを見ると落ち着くことあるでしょ?
話反れるけどさ、日本へそ公園駅の右隣の「比延(ひえ)駅」のふりがなを「びえ」にしちゃったのは誰かな?
…とりあえずだ、公園内にあるという日本のへそを見に行こう。
この公園はなかなかに広大だ。
1㎞四方は余裕である。
その敷地の中には、美術館・科学館・アスレチック・レストランなどなど、いろんな施設がある。
駅の利用客こそ少ないものの、みんな車だとか徒歩で来ているに違いない。
そんなステキな公園内の風景を写真に撮っていなかった。失敗した。
なので西脇市の公式Webの中の、園内MAPのリンクを貼っておくのでお手すきで見てもらえると概要を掴んでいただけると思う。
大正時代の測量結果
僕はMAPを確かめた後、公園内の一角に向かう。
公園の北の端、なんかもう子供たちの喧騒なんかも1ミリも聞こえない、公園内の盲腸みたいな場所だ。
日時計越しに撮影した石柱。あれが日本のへそである。
かなり古めかしいデザインだ。近づいてみよう。
『東経百三十五度北緯三十五度交叉點海抜六十三米標識』って書いてある。
生まれて初めて見る漢字もあってテンション上がったなぁ。なんだよ、"點"って。カッコ良すぎだろ。
さて、この歴史を感じさせる石柱。
実際になかなか古いものである。
大正12年(1923年)に建てられたものだそうで、およそ今から100年前だ。
すぐ前には説明板がある。
「日本のへそ」(経緯度交差点)
この地は東経一三五度、北緯三五度の経緯度交差点で、海抜六三米です。
大正十年、検察省国土地理院の前身である陸軍参謀本部陸地測量部によって計測されたもので、標柱の文字は終戦時の首相で、時の呉鎮守司令長官鈴木貫太郎海軍大将の書です。
東経一三五度は日本標準時を表す子午線で日本の東西の中心であり、北緯三五度も日本国土が二五度から四五度にわたるのをみますと正に南北の中心でもあります。
これを「日本のへそ」と愛称しています。
なるほど混乱した。
さっきの駅前の概念では『北海道の宗谷海峡で北緯46度、南の端は、沖縄県八重山諸島の波照間島で北緯24度』と書いてあったのだが、1度ずつズレた。
北緯25度だと八重山諸島は軒並み外れてしまう。
まぁ「~に渡る」という書き方なのでそこは巧妙にボカされている気もするが。
そして東西の概念は「標準時子午線が日本の中心」と、潔く言って来た。
なるほど、少なくとも大正時代の概念だとこうなのかな??
とりあえず、嬉しいぞ。
石柱の文字が元総理大臣の鈴木貫太郎さんのものであることもスゲーって思った。
うん、ここはすごい日本の中心だ。
国家権力がバックについている。
変に穿った見解をすると消されかねない。
平成時代の測量結果
…前項までは、大正時代の測量に基づく北緯35度・東経135度地点の話をした。
日本測地系と呼ばれていた測量法に基づく方法だ。
しかし1994年、GPSに基づく測量法が一般化された。当然精度も格段に上がる。
こうして改めて測量した北緯35度・東経135度地点、それもこの公園内にある。
そう、日本のへそはこの公園内だけで2つあるのだ!
盛り上がってきたな!
このへそもとんでもないところにあるぞ!
大正のへそは僻地だったが、平成のへそは山頂だ!!
Webを調べたところ、子供たちがワイワイしているエリアから平成のへそまでは、徒歩で10~15分だという。
このときは日本の中心なんて全然興味のない同行者と来ていたので、ここから先は僕1人で行く。
「5分で往復してやるわ、こんな山!」と僕は豪語した。
丘の上に聳える4本のポール。
あの中心が平成のへそだ。
…もうすっごい階段急だよ、ゼーゼー言ってきた。
ふくらはぎパンパンだ。
ようやく山上に着いたら、あんまり見栄えが良くない。
近すぎてカメラのフレームに4本の柱が全部入らないのだ。
4本の柱に囲まれた中心部分の紋様も見えない。
下界の景色だけは綺麗だった。
こんなに高くまで登って来たのだ、僕は。
少し歩きながら角度を変えたけど、イマイチ。
調整を繰り返していたら、そのうち反対側から丘を下り始めてしまったので、慌てて山上に戻る。
まぁなんだかんだで自分的に一番綺麗に撮影できたと思った写真が、これだ。
4本のポールの中央が平成時代の日本のへそである。
そして、4本のポールの内側には紋様が描かれているが、僕がチビすぎて全容を把握できる高さから見られない。
もしかしたら山頂側にキチンと見えるポイントがあるのかもしれないが、わからないし時間もない。
フラフラになって丘を降りる。
汗かいたわー…。
方位の広場
公園内にいくつかある小さな広場のうち、「方位の広場」と名のついたところにやってきた。
西脇市を中心とした世界地図が地面に描かれている。
こういうのがとても好きなのだ。
長崎県にある日本本土最西端の「神崎鼻」の日本地図を彷彿とさせる。
まぁ、そこで2つ上の写真の通り寝そべって日本列島と一体化したのだ。
同行者に「汚い!やめて!」と怒られましたな。
この広場は真ん中で声を出すと反射する造りになっているらしい。
「汚い!汚い…!汚い…!」
あぁ、すばらしい反響だ。
すぐそばにネコがいた。
なぜネコは同じことをしても怒られないのだろうと、ちょっとだけ考えた。
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「あそこは数ある日本の中心の中でも、かなりメジャーなところです。公園として綺麗に整備されていますし、時間を忘れて楽しむことができますね。」
要約するとこうなる。
全国の日本の中心を巡っている人間の批評としてこの言葉は新聞に掲載された。
美術館・科学館があり、駅がある日本のへそ。
散歩したりピクニックする人々もいた。
へそから始まったアミューズメント。
地域起こしの大成功事例ではないだろうか。
そんなスポットに来れたことが嬉しいし、でも機会があったら今度はもっといっぱい写真を撮ったり、見栄えのいい展望ポイントを探したい。
ありがとう、日本のへそよ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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