そこに日本の中心があると聞けば、日本中どこへでも飛んでいくタイプの人間、それが僕だ。
日本の中心がどこなのか知りたいし、立ってみたいのだ。
あれは2022年、夏の暑い日であった。
僕は諏訪市の「日本土真ん中」を目指したのだ。
日本土真ん中。"土"は"ど"と読む。
つまりは"ど真ん中"に対する当て字だ。
深刻な猛暑続きの日本列島。
そんな中をエアコンの壊れた車でドライブするのは、一見すると自殺行為だと思われるかもしれない。
でも大丈夫。
信州の高原地帯はそれなりに涼しかったから。塩嶺高原、最高だったから。
あえて語ろう。
凍える1月から見たら懐かしささえ感じる、青空と緑の広がる夏のある日のことを。
日本の中心は塩嶺高原に?行ってみよう
まずは冒頭であなたにご理解いただきたいことがある。
それは「日本の中心は日本各地に無数にある」ということだ。
ぶっちゃけその数、30ほどもあるのだ。
あなたは今、「何を言っているのかわからない」という顔をしているだろう。
わかるわかる。
僕も最初はそうだった。
詳細については上記リンク先の【特集】をご覧いただきたいが、日本の中心にはいろんな定義があるのだ。
定義の数だけ、日本の中心があるのだ。
そしてこの無数の日本の中心を全部巡ってみたいと夢見ているのが、この僕だ。アホでしょ。
今回ご紹介する"日本土真ん中"とは、そんな30近くもある日本の中心の1つなのである。
じゃあ"日本土真ん中"やらは、どういう定義から日本の中心を名乗っているのか。
それは僕と一緒にゆっくりと紐解いていこう。
僕だって訪問時はその定義、知らなかったのだから。
場所は「塩嶺高原」の一角だと聞いている。
上の写真内の標識、「博物館・地球の宝石箱」というやたらキラキラしたネーミングのスポットが記載されていて気になる。そっちだ。
ちなみに地球の宝石箱には個人の方が収集した鉱石や岩石が展示されているそうだが、ちょっと今回のテーマはそれではないのでスルーする。
ここか…??
「信州塩尻農業公園 チロルの森」という施設の広大な駐車場前に到着した。
たぶんここいら辺。少なくともここから300m以内。
しかし、チロルの森のゲートは封鎖されていた。
そして「閉園しました」というプレートが掲示されていた。
あれ!?これヤバくないっすか!
もしこの敷地内に日本土真ん中があるのだとしたら、もう誰も訪問できなくなっちゃうってヤツですか!?
ちょっと焦った僕であったが、背後を見て冷静さを取り戻した。
「紅葉山」と書いてある丘。
そういえば、日本土真ん中は紅葉山にあると聞いたことがあったよな…。
だとしたらチロルの森の敷地ではない、車道から見てその反対側に進むのだ。
狭いしその先に日本土真ん中があるとは書いていないが、道はあるぞ。
わっ!本当に狭ッ!!
でも行ってみよう!希望はこの狭路の先に!!
※チロルの森は、オーストリアのチロル地方をモチーフとしたテーマパークであったが、コロナウイルスの影響で2020年秋に閉鎖となってしまったそうです。悲しい。
日本のど真ん中ってここなのか!
紅葉山に向かう狭路。
脇をチラリと見たら標識があった。
よしっ!僕の推測は正しかった!
この狭路もMAXでもあと200mだ。そう考えれば楽勝だ!
狭い狭い。しかも舗装もなくなった。
しかしあとちょっと。
前方に見えている左右の分岐、あそこを右に行けばすぐに駐車場と土真ん中の碑があるぞ。
もっとも、チロルの森から土真ん中の碑までも300mなので、歩いて楽勝な距離だ。
チロルの森の駐車場は閉鎖されてしまっているが、うまいことあなたが路肩とか駐車するのであれば、歩いたほうがある意味ラクかもしれない。
うん、すっごくいいです…!
絵に描いたような夏空。高原の中の愛車の日産パオ。
夏はこういうドライブがいい。こういう写真がいい。
日本土真ん中の碑はさておき、まずは僕はこの高原のロケーションをしっかり堪能した。
僕の愛車の目線の先には、このような人工的な貯水池があった。
これはそんなに水の色は綺麗ではないが、それでも風景の中に水があるっているのはいいものだ。
で、肝心の日本土真ん中の碑はどこなのかというと…。
僕の愛車の後ろに立っている石柱。
あれが土真ん中の碑だ。
数年前までは木製であったが、最近石碑にバージョンアップしたらしい。
つまりはお金をかける価値があると判断されたのだな、嬉しい限りだ。
日本の中心は数あれど、愛車と一緒に写真を撮れるスポットは非常に少ない。
ここは貴重なのだ。
だから目いっぱい碑に近づけるようにして愛車を停車させた。
この車は今、限りなく日本の中心にいる。
それでは日本土真ん中の碑をしっかり見てみよう。
デザインはわりとシンプル。
基本、四角柱に『日本土真ん中』の文字が刻まれているのみだ。
ただね、その石碑の上をよく見てほしい。
なんだか小さくってかわいい3匹の生き物がいるーーー!!
これ、フクロウなのだ。フクロウ三姉妹なのだ。
すぐ脇にある説明板の内容をご説明すると、この森はリスやフクロウなどの小動物も住む自然豊かな森。
フクロウは「福を呼ぶ」ということで、健康長寿福・元気福・財来福の3つの守り神としてここに設置したんだとか。
こういうワンポイント、好き。
木立の向こうはキャンプ場のようで、ファミリーたちの楽しそうな笑い声も風に乗って聞こえてきた。
他には鳥のさえずりしか聞こえないような本当に静かな山の中であった。ステキ。
…ところでなぜ、ここが日本のど真ん中なのだろうか?
次の章ではそれを追求していきたい。
日本土真ん中とは何?調査しよう
説明板を読み解く
日本の土真ん中。
"土"っていうのが当て字であることは一瞬でわかるが、なぜ"土"なのか。
そして日本の真ん中である根拠は何なのか。突き詰めていきたい。
まずは現地にある説明板を読んでみよう。
まずは"土"の意味について記載されている部分を抜粋する。
[土]とは緑豊かな大地を意味し、人や動物が集まってくる気持ちのいい所、という意味です。
なるほど、マジでステキ!
これについては理解した。
次に、日本のど真ん中である由縁だ。
日本のほぼ中央に位置する長野県、(この付近には経度緯度からの日本中心の標がある)その中心にあたる塩尻市塩嶺高原紅葉山、人の体に例えると「へそ」にあたり、「日本土真ん中」と名付けました。
うおっ、ちょっと混乱してきた!
まずは長野県を"日本の中央に位置する県"といきなり定義付けてきた。
その根拠として、「()」で囲った「日本中心の標」を引き合いに出してきている。
日本中心の標は上記リンク先の記事でもご紹介した、僕の大好きなスポットである。
長野県の辰野町にある。
しかしわからん。
「アイツ(日本中心の標)もいるんだから、長野県は日本の中心の県だよな。それは認めろよ。だけどもさらにその中心はアイツじゃねぇ。オレだよ。」と、いきなり中心の座を奪い取っている。
その根拠は明記されていない。
説明板の「()」の部分を省くと、文章は『長野県の中心にあたる塩尻市塩嶺高原紅葉山』となる。
…なぜ中心?
長野県を描いてみた。
うん、ここが長野県の中心というのはわからんでもない。
しかし「なんとなく」なのか「計算して」なのか知りたい。
「塩尻市塩嶺高原紅葉山」まで明記しているということは、紅葉山が長野県の中心である確固たる根拠がある可能性を考えた。
しかし説明板からはこれ以上は読み取れない。
…であるならば、帰ろう。
帰ってから追加の調査をすればよい。
観光協会に問い合わせる
僕は、回答をブログに掲載させていただくことを前提に、塩尻市の観光協会に問い合わせすることにした。
塩尻観光協会様からは、さらに市内の北小野支所様に相談が行ったそうで、ここからの内容は北小野支所様にて調べていただいた内容だ。
なんとなんと、ここを日本の中心とした当時の関係者の方からの証言も得られたそうなのだ。
お忙しいところ面倒な質問にご回答いただき、大変ありがとうございます。
まずは説明板の文言を以下に再掲する。
日本のほぼ中央に位置する長野県、(この付近には経度緯度からの日本中心の標がある)その中心にあたる塩尻市塩嶺高原紅葉山、人の体に例えると「へそ」にあたり、「日本土真ん中」と名付けました。
僕には、長野県の中央を塩尻市塩嶺高原紅葉山とした理由は、「人の体に例えるとへそにあたるから」というように読み取れた。
計算や測量ではなく、イメージ重視なのだ。
この推論が正しいかどうか、観光協会さんに聞いてみた。
結果、「その通り」とのご回答をいただいた。ありがとうございます。
加えて、「辰野町には経度緯度から日本ど真ん中とする標が設置されていることから、紅葉山もほぼ日本の中心と捉えている」との回答をいただいた。
先ほどリンクも貼った、日本中心の標のことだ。
「隣町だけどもそんなに遠いわけでもないし、こっちも日本の中心って名乗って不自然じゃないよね」ってことだ。
アバウトな気もするが、そもそも日本の中心の定義自体がアバウトなのでそういう考えもアリだと思う。
では、なぜそんなアバウトな中でも塩嶺高原紅葉山を土真ん中と名付けたのか。
これについても観光協会さんからご回答をいただけた。
2000年(平成12年)のことだ。
地元住民の方々が「紅葉山を地域の人々が憩える場にしたい!」って頑張り、ミズバショウの池を造ったり植樹したりと、この周辺を整備したんだって。
その結果、このような気持ちのいいスポットが完成した。
だけども住民には一抹の不安があった。
「とりあえず完成したはいいけど、この先ちゃんと整備活動を継続できるだけのスポットとして日の目が当たり続けるのだろうか?」と。
整備活動にも予算が必要だもんな。
予算を獲得するには、それだけの魅力を発信し続けないといけないもんな。
はい、話が繋がって来たね。
紅葉山を観光スポットとしてPRすることで、多くの住民が関心を持ち、安定した整備に繋がる。
そのためにはもう1つパワーフレーズが必要。
「じゃあ、日本土真ん中って名付けようか?」ってなったのだ。
大体こんなあらすじではあるが、経過などの記録自体はあまり現存しておらず、関係者の方の記憶によるところもあったらしい。
だけども僕にとっては大満足の情報であった。
充分すぎる。本当にありがたい。
これからもみんなの憩いの地でありますように
僕は説明板を読んだ上で、「なぜここは日本の中心なのか」と、アレコレと嫌味ったらしい質問をぶつけてしまったかもしれない。
しかしこの説明板、この地域の人が本当に読んでほしいのは日本の中心の根拠ではなく、きっと以下の部分なのであろう。
日本土真ん中の子の地点は標高960m 苦労ないよ
苦労(96)がない(0)ということね。
そんな当て字から始まる段落。
10年前から地域の人々によってもモミジ4500本、アカマツ数万本、ヒノキなども植えられてきた里山。
しかも昔から村人が「ここは気が休まるね」って言って来た地なのだ。
いい空気・綺麗な木・マイナスイオン。それらが作り出す、居心地のいい空間。
僕もここに来てそれを体験し、"ど真ん中"を"土真ん中"と表記した理由がよくわかった。
観光協会の方は、質問へのご回答の後に、このように書いてくれている。
平成22年には、「日本土真ん中の碑(当時は、木製でした)」が建立し、日本土真ん中ウォーキングという大規模イベントを開催したことで、全国から多くの人が訪れるようになりました。
現在も、中学生を含む多くの地元住民によって紅葉山は整備されており、「日本土真ん中」とした成果は大きいものと認識しております。
うんうん…。なんて温かい。
これからもこの地がみんなの憩いの場となるよう、僕も心からお祈りします。
ふと興味を持ち、フラッと訪れただけの僕。
だけどもここにはアツい住民の方々の思いがあったのだ。
いや、どんなスポットでもいろいろ調べれば、人の魂がこもっているのだろう。
そういうのを感じられるから、旅は辞められないよね。
2023年で日本6周目は終わるだろうけど、まだまだ走りたいよね。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 日本土真ん中
- 住所: 長野県塩尻市北小野
- 料金: 無料
- 駐車場: あり
- 時間: 特になし