宗谷郡猿払村にある、「道の駅 さるふつ公園」。村としては日本最北だし、2012年に「道の駅 わっかない」が誕生するまでは、日本最北の道の駅であった。
そんな極めて日本の北端に近いこの道の駅のすぐ脇に、ちょいとミステリアスな地下空間がある。
それが今回取り上げる「さるふつ公園地下歩道」だ。
名前の通り、ここは地下の遊歩道。こっちからあっちに行くためだけの役目の歩道。ただし、ご覧の通り美しい(?)空間演出がされているのだ。
最北を目指す人も、道の駅で休憩する人も、なかなかここの存在には気付かないだろう。そんなスポットを少しだけ楽しむ、これも旅の醍醐味かもしれない。
道の駅 さるふつ公園
オホーツク海沿いの国道238号にある道の駅 さるふつ公園。まずはここについて触れたい。
僕は宗谷岬から南下しつつ訪問したこともあるし、浜頓別側から絶景ロード「エサヌカ線」を経由してこの道の駅を訪問したこともある。でも、後者の方が印象深いかなぁ。
海を前に広がる原野の中の道の駅って感じだ。空も海も大地も果てしないロケーションだ。
そんな道の駅のシンボルともいえる施設が、「農業資料館」と「風雪の塔」だ。それが上の写真の2つの建物ね。
右の風車型の建物が風雪の塔だ。
ここ猿払村は酪農業。超広大な村内の農用地のほぼすべてを牧草地に全振りし、酪農に心血を注いでいる村なのだ。
1984年、生乳生産量が年間2万t・一戸当りでは平均200tを突破したという。僕にはそれがどのくらいすごいことなのかはとくわからないが、とにかくすごいことらしいのだ。
村の人はそのステータスに大喜びで、それを記念してこの風雪の塔を建てた。
ただ、この塔は一般観光客は上まで上がることはできない。中に入ったところで何もすることも無いので、こうやって外観を眺めるのが好きだ。
向かって左は農業資料館だ。明治後期からの北海道開拓で使用した農具や、村の歴史を紹介した資料が展示されているという。
ただ、今は閉館している。僕も、この道の駅には何度も訪問しているが、農業資料館には入ったことがない。そもそも北上しているときにはもう目前に迫る日本本土最北端の「宗谷岬」に早く行きたくってしょうがないし、南下しているときにはチェックイン時刻が迫って焦っていることが多いのだ。
こう言っては失礼かもしれないが、あまり生気を感じさせない建物。
Webでいろいろ調べてみたが、オフィシャルサイトにおける紹介はあっても、一般観光客が「中に入ったよ」っていう記録は見つからない。あぁ、なんか気になる…!
酪農で栄えた村だから、もちろん乳牛に最大の感謝をしている。
『乳牛感謝之碑』というネーミングがどこかツボ。ちょっと劣化しているけどな。補修してあげてほしいね。現在は「登ったりしないで」という注意書きがあるが、昔そういう注意が無くってまだ劣化もしていなかった頃、出会った旅人と一緒に登ってしまった件はごめんなさい。青空で気分が高揚していた。
道の駅の中央にはドーンと「ホテルさるふつ」というオシャレで綺麗なホテルがあり、隣接している「憩いの湯」ではお風呂に入ることもできる。レストランもあるし、充実しているのだ。
キャンプ場もあり、その向こうにはどこまでも牧草地が広がっている。
…ということで、宿泊もお風呂もグルメも充実しているし、眺めもいい道の駅だ。僕はそんなに活用したことは無いが、あなたが最北エリアに行く際にはぜひチェックしてみてほしい。
ネオンに彩られた地下空間
入口は目立たないぞ、見落とすな
前段が長くなってしまったが、いよいよ本題のさるふつ公園地下歩道だ。
なぜ前段を丁寧に説明したかというと、道の駅の広大でのどかな雰囲気と、これから入って行く地下空間の暗くて閉塞的な雰囲気とのギャップがすんごくって、それが面白いからなのだ。
これが地下への入口だ。非常にソリッドで無骨なデザインだ。僕の知る限りでは特に「こっちにいいもんありますよ」みたいな表示もないので、わざわざここに近づく人も少ないのではないかと思う。
冒頭で、これはこっちからあっちに行くための地下遊歩道だと書いた。じゃあその遊歩道はなんのために存在するのか。
上のGoogleマップをご覧いただきたいのだが、国道238号の西側に道の駅があり、東側に「いさりの碑」・「インディギルカ号遭難者慰霊碑」というオブジェがある。これらを安全に見に行くための歩道がさるふつ公園地下歩道なのであろう。
当然ながら横断歩道を作るよりも地下に穴を空けて遊歩道を作る方が遥かにコストがかかるのだろうが、このあたりは地平線まで続く原野のごときフィールドで車もスピードが乗っているので、地下に遊歩道を造ったのだろうな。
むしろいさりの碑やインディギルカ号遭難者慰霊碑よりも地下遊歩道の工事費の方が高いと思うし、そもそもいさりの碑の前にも広大な駐車場があるんだから碑を見たい人はそっちに停め直した方が早いのでは…、みたいなヤボなことを言ったら、僕の存在が消されるかもしれんね。
いかんせん相手は生乳生産量が年間2万t・一戸当りでは平均200tの猿払村だぜ。次元が違うのだ。最高に"ハイ!"ってヤツなのだ。「おまえは今まで飲んだ牛乳の本数をおぼえているのか?」みたいに詰め寄られそうだ。
これまた無骨な横スライドサッシ。これをガラガラっと開けて地下へと入って行くのだぞ。ちなみに5回ほどここに来ているが、自分以外の観光客を見かけたことは今まで皆無だ。
なんか「治安大丈夫かな?」みたいな雰囲気の下り階段。この下で煌びやかなアートが待っているとは、まだ想像つかない図。
ミステリアス・ワールド
で、ついに国道の真下だ。ここでミステリアスな空間が広がる。
見る人によっては怖いって思われるかもしれないが、地上の爽やかな景色から暗転してヒンヤリ涼しいこのロケーション、僕はなかなか好きだぜ。
これはブラックライトで照らされることで浮かび上がっているアート作品なのだ。だから普通の光で照らしたりフラッシュ撮影したら真っ白にしか見えないのだよ。
道の駅側は、赤みの強いイラストが中心。そして描かれているのはここ猿払村がモチーフと思われる牧草地だ。乳牛が草を食べている。天変地異が起こりそうな赤い空だが、構わずに草を食べている。
その頭上を星空が照らしている。
星座が描かれているが、ゴメン、星座にフォーカスして写真を撮ったことはあまりないので、これが何座なのかは説明できない。でも幻想的だ。
歩いていくと、赤い色味の陸ゾーンが終わり、青い色味の海ゾーンへと入って行く。
そのギリギリの場所に描かれているのは…、インディギルカ号遭難者慰霊碑だ。実際に、この地下空間を抜けた先にあるヤツだ。よく見ると碑のすぐ脇に海岸線も描かれていたんだね。
このインディギルカ号遭難者慰霊碑は、1939年に旧ソ連のインディギルカ号が座礁して700名ほどの犠牲者が出るという、史上最悪規模の海難事故を祈念して建てたのだそうだ。猛吹雪の中、猿払村の人たちも頑張って救出作業にあたったそうだよ。
その先、道の駅とは反対側の半分ほどは、海をイメージしたアートだ。
海の中の岩、かなりとんがっていてワイルドだね。この地域は実際にも鋭い岩礁が多いのだろうか?怖ェ海域だ。インディギルカ号もこれの餌食になったのだろうか…?
あ、流氷の天使クリオネがいる。それと魚。このあたりだと、タラ・マス・サケのどれかか?よくわからない。あと暗がりにカニがいる。
頭上には巨大なクジラだ。シロナガスクジラか?とにかく巨大でかっこいい。
すべての絵の中で僕はこれが一番好きだ。ビッグスケールな北海道には、ビッグスケールなクジラが良く似合うと思った。
ほんの数10mという、わずかな空間なのである。歩けば10数秒で終わってしまうような距離なのである。
これがもし東京都心などであれば、あまり興味をそそられないかもしれない。しかしこの最北の地、地平線まで広がる草原の地下にこんな世界が待っていると思うと、とてつもなく興味を惹かれてしまうのだ。
だから僕はほぼ大体ここに立ち寄る。
でも、実は反対側の出口の向こうにあるいさりの碑・インディギルカ号遭難者慰霊碑については、失礼ながらまともにその前に立ったことすらない。このアートを見ることが目的になっているのだ。そのくらい、いい…!
涙を飲んだ思い出もあるよ
そうそう、何度も訪問している中で一度、ここのアートを楽しみにして行ったら全然アートじゃなかったこともあるので、最後に余談としてご紹介する。
これだ。実はこれは2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の数日後の訪問である。マグニチュード6.7もあり、一時期は全道が停電したし、大掛かりな復旧活動がスタートしたころであった。
『震災の営業の為 当分の間節電を実施しています』と書かれている。おぉ…、そりゃあしょうがないが、地下はどうなっているのだろうか…?
まばらに蛍光灯はついていたが、ブラックライトではなかった。従い、幻想的な絵は浮かび上がらずに真っ白な壁面だけが出迎えてくれた。僕は少々ガッカリしたが、今から思えばこれはこれで貴重な体験なのかもしれない。
残念ポイントはもう1つあって、このときは同行者がいたのだ。しかも初めてここを紹介する予定だったのだ。
同行者はブラックライトアートを見ることができなかったので、地下道入口に貼ってある写真を見せて「本来はこんな感じなんだよ」と説明するしかなかった思い出だ。
冬季や夜間は地下道自体閉鎖するそうだが、夏季であればよっぽどのことがない限り、美しいアートを見ることができるだろう。あなたの夏の北海道攻略の思い出になることを祈っている。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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