あなたが井戸に水を汲みに行くとしよう。
あ、「井戸で水なんて汲んだことねーよ」って思うかもしれないが、その場合は無理矢理脳味噌をタイムスリップさせてくれ。
あなたが井戸に水を汲みに行くとしよう。
井戸を覗き込むと、そこには体長2m近い巨大なウナギがグネグネしながら泳いでいた…。

恐怖だよね!!
僕なら水を汲むのも怖くなるし、その水を使うのも怖くなるし、夜は井戸のそばに行くのも怖くなるね。夜に井戸の中から「パシャン…!」みたいな水音が聞こえてきたら、もうダッシュで家の中に飛び込んで母親の布団に潜り込むね。間違いない。
巨大ウナギの住む井戸…。そんな井戸が実在するのだ。名前を「オオウナギ井戸」という。
長崎県の、橋で繋がった小さな島「樺島(かばしま)」。本日のお話の舞台はそこなのだ。
集落の狭路の先の井戸へ
2023年秋、僕は樺島を目指していた。長崎市の中心地から南へ南へと、半島の突き当り付近まで20数km進むことになるぞ。なかなかの距離。

あれが樺島なのである。実は初めての訪問ではないので「懐かしいな…!」って思った。
周囲7.5kmの小さな島である上、結構緑あふれて坂道の多い島であり、ほとんどの人は島の入口に当たる橋付近に住んでいる。

全長227mの「樺島大橋」を渡り、島へと入った。どうだい、島なのにかなり山深い印象でしょ?
丁寧に目指すオオウナギ井戸への標識が出ているので、それに従う。以前来たときは標識なくって心細くなりながら進んだ記憶があるな…。
そして上の写真、よく見ると「樺島灯台」を示す文字もある。
島の反対側、南端に立つ灯台だ。相当な狭路の峠道を越えていくことになり大変だぞ。前回は行ったが今回は辞めておくわ。

大きくて無料の観光駐車場があったのでそこに愛車を停めた。ここも前回は整備されていなかったな。ありがたい限りだ。
井戸はこの奥の集落の狭路にあり、とても車では入れない。仮に入れたとしても駐車できるような場所はない。ここから2・3分歩くのだ。

「レストランだいまん」の標識に従って歩けば間違いはない。伊勢エビトルコライスが名物なのだそうだ。そのワードに惹かれるが、まだ朝で開店前なので立ち寄ることはできない。

なかなかの狭路なのである。正面にそびえる山が、この島の緑豊かさを物語っているねぇ。すごい島。
しかし前回に比べて新しい家が増えてきているように感じる。着実に世代交代が行われているのかもしれない。

ゆるい坂道を登りながらどんどん奥へと進む。仮にこれが車であり、対向車が来たら確実に半泣きになる狭路だ。狭い上にクネクネなんだもん。徒歩でよかった。

レストランだいまんまで来た。
オオウナギ井戸はこの店の目の前なのでここより奥に僕は進んだことはないのだが、見る限りここから先は別次元にエグい道になっているね。Googleマップのストリートビューで見る限りでは集落は基本上の写真で見えている部分で終わりで、あとは山深いクネクネ道がずーっと続いているようだ。

それでは本題、オオウナギ井戸だ。すごいでしょ、このエクステリア。
オオウナギ井戸を見学する
ウナギは井戸から水槽へ
目的のオオウナギ井戸。

普通に一般家屋と一般家屋の間にある。敷地も家一軒分くらいだ。このチェーンのところに「売地」って書いてあった方がしっくりくるようなロケーションだが、オオウナギ井戸だ。
敷地は向かって手前側が井戸、向かって奥側が水槽小屋の2段構えの配置になっている。
雰囲気いいでしょ。こんなにもローカルな観光スポットはなかなかないぞ。ちなみに初回到達時の僕の手記には『福井県の「常神のソテツ」に匹敵するローカルさだ!』って書いてあった。
常神のソテツが気になる方は、あとで上記リンクから飛んでいってほしい。
閑話休題。

まずは井戸を見ようぜ、井戸。オオウナギ井戸なんだから井戸を覗かずして何をするというのだよ。鉄格子の隙間から下を覗き込んでみた。

薄暗くって空が反射してしまってなんも見えない。でもまぁいいのだ。なぜならば、この井戸の中にオオウナギはいないからだ。
「じゃあオオウナギ井戸じゃないじゃん」っていうツッコミを受けそうだが、その通りだ。ただ、以前は確かにこの井戸の中にオオウナギが住んでいたのだ。
2011年まで井戸に住んでいたオオウナギが死んで以降、井戸での飼育を辞めて隣の水槽で飼うことにしたそうなのだ。
アイデンティティを放棄してしまったか。しかしそれもまた人生。

井戸の奥にある小屋、そこでオオウナギが飼育されている。井戸からほんの2mほどのk距離なのに、ご丁寧に「こちら」と書かれている。

壁には「運勢うなぎ登り」と書かれたプレートと、顔はめパネルがある。これ、自分で壁から取り外して使っていいタイプなのだろうね。1人だからやらんけど。
しかしこれは果たしてウナギなのだろうか…。体長が短くってむしろナマズのようだ。なかなかに好みの別れそうなビジュアルをしているが、変にデフォルメされてゆるキャラ化されていないところが好き。

そして主役のオオウナギだ。鉄パイプに入って1ミリも動かない。血圧を測るときの腕みたいになっている。パイプの長さはこれで正解?頭も下半身も出ちゃっているけど、ウナギ的にこれで快適なの?

…というより残念なのが、頭が向こう側を向いてしまっている点だ。どう角度を変えようとも見えない。広角レンズ使ってももちろん見えない。

精一杯のズームでこんな感じだ。
水槽は2つに仕切りで分けられていて、それぞれ1匹ずつ合計2匹のオオウナギがいる。それぞれ「うな子」と「チョロ」という名前がついているようだ。
しかしそのどちらも背面を向いていて顔を拝むことはできなかった。
ウナギはどうやってここに来た?
さて、先ほどはオオウナギについて、2011年までは井戸で飼育しており現在は水槽飼育だと書いた。ではこの2匹はどこからやってきたのだろうか?
どうやら正解は「他の場所で飼育していたものをもらい受けてきた」らしい。

とはいえ、出身は遥か南国らしいな。日本まで泳いできて、そして捕獲されたのだろうな。チョロは『僕達樺島が、だ~い好き!』と言わされている。
1行目の「オオウナギ」の字の右側にきっと詳しいステータスが書いてあるのだろうが、にじんで消えてしまっている。知りたい。

うな子は約30歳であり「田原ダム」で捕獲されたのだそうだ。
『私の名前をうな子って呼んでいるけど、本当はオスかもしれないのに…人間って、勝手よね。』って言っている。
それ以前に捕獲や展示している方に憤慨する方が先だと思うけどね。オスかメスかよりも、"うな子"っていう名前を付けた方に言及する方が先だと思うけどね。
「人間って勝手よね」とか「僕達樺島が、だ~い好き!」とウナギの気持ちを代弁しているかのような表記がすでに、人間って勝手よね。
この全方向から突っ込めるプレートが好き。

この2匹は9代目のオオウナギ。
そもそも初代はいつなのかっていうのはハッキリしていないそうなのだけど、大正時代に発見されたものを初代としているらしい。
そもそもオオウナギとは体長1.8mに達する巨大なウナギで、ここ樺島あたりが分布の北限地。1923年に天然記念物に指定され、集落の人々に長年見守られてきたのだそうだ。

調べてみると、初代から6代目までは井戸の中に自然発生していたそうだ。島の中を流れる「田原川」がウナギの生息場所の1つらしい。
たぶんそれと井戸とがどこかで通じていたんだね。紛れ込んでしまった個体が井戸の中で大きくなったのだろう。

ただ、7代目以降については前述の通り近くで捕まえてきた。9代目のチョロとうな子については井戸ではなく水槽で飼うようになった。
もう「オオウナギ井戸とは?」って感じだ。屁理屈を言いたい人にとっては「オオウナギの横に井戸があるだけじゃん…」とも思われかねない。

まぁね。でも井戸も終盤は環境悪化の影響でオオウナギにとっては住みにくくなり、最後に井戸に暮らしていた8代目の「うな太郎」は、井戸を覗き込んでも滅多に見ることはできなかったらしいしね…。
そのうな太郎のお墓は水槽のさらに裏にある。大事に埋葬されている。

でもさ、やっぱ井戸の暮らしていた頃のウナギの姿、ちょっと見たいよね。もう二度と見られないその光景。
…実は僕は見たことがあるのだ。では、2011年にお亡くなりになったうな太郎の時代にジャンプしよう!
かつて井戸の中に住んでいた姿
前方に、橋で繋がる小さな島が見えてきた。

あれが樺島なのである。朝の6時台のその島は、朝日に赤く照らされていた。実は初めての訪問なので「すごいワクワクするなぁ…!」って思った。行ったことの無い地に足を踏み入れるのはドキドキだもんね。

全長227mの樺島大橋を渡り島へと入った。アドリブで道を進んでいくと、オオウナギ井戸を示すの立て札があったので道が正しかったと確信できた。
民家に囲まれた空き地みたいなところが駐車場なのか?雑然としていてよくわからんのだ。しかし狭路であろう集落の中に車で突撃するのはリスキーすぎると判断した。
すぐ近くではおばさんが洗濯物を干していたりして、なんだかここにいていいのやら
悪いのやら。そんなすごいローカルな雰囲気なのだが、とりあえず空き地に車を停めた。

ボロボロの看板ではあるが、どうやら空き地を駐車場として使ってよかったらしい。ではここから狭い民家の路地裏を歩いて井戸に向かおう。

シニアカーのおばあちゃんと、ゆっくり歩いているおばちゃんが前方にいる。僕はおふたりに警戒心を与えぬよう、一定距離を空けてゆっくりゆっくりとついていった。
数分歩き、その井戸を発見た。普通の民家と民家の間にあり、うっかり通り過ぎるところだった。
でも、よくよく考えてみればそうだよな。この井戸って別にウナギを飼うためのものではない。生活のために使っていた井戸に、いつの間にかオオウナギが住み着いていたのだ。もともと観光スポットでもなんでもない。こういう場所にあってしかるべきなのだね。理解。

案内板によれば、ここに住んでいるウナギの名前はうな太郎。近年はこの井戸のウナギは環境悪化のせいで姿を現すことはめったになくなったそうだ。
見えるかなー、太陽が反射して見にくいぞー。肉眼ではよくわからないので、鉄格子の隙間からカメラのシャッターを押してみた。

写ったーー!!これがうな太郎!!
めったに姿を現さないというオオウナギが偶然に撮れた!しかもいい具合に頭の部分が水面の反射を免れていた!
うな太郎は体長170cm・体重14.8kg・胴回り47.5cmあるという。バケモンだぜ、なんてビッグスケール…!

井戸の奥には簡素な小屋があり、『オオウナギこの内です』と書かれている。
しかしまだ早朝だからか窓部分と思わしきところが施錠されていて何も見られないし、なによりオオウナギは井戸の中にいたのだから小屋を覗く必要もない。目的は達成できたのだ。
大満足!ではついでに樺島灯台に行こう!!
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これは、うな太郎が亡くなる数ヶ月前の物語。

今でこそ井戸から水槽に住処を移したオオウナギであるが、ちゃんとした環境で、正面にあるお店だいまんのスタッフさんの手によって飼育されている。きっとウナギたちにとってもこっちの方が幸せなのであろう。

静かでのどかなこの島には、今もオオウナギの稚魚が住んでいる。この環境をこれ以上壊さないように、みんなで守っていきたいものだね。

以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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