竹富島の展望所「なごみの塔」。集落の中心地に建ち、島のシンボルのような存在だと思っている。
1953年に造られた建物であり、国の登録有形文化財にもなっている。つまりは歴史的にも重要なスポットなのだ。
しかし老朽化のために2016年から一般人の立ち入りが禁止され、その後に改修工事が入ってそれが2020年に完了したのだが、「やっぱ一般観光客がワイワイ自由に登り降りするのはちょっと難しいかもな」みたいな判断がされて2024年現在も立入禁止なのである。
その決断が間違っているとは思えないが、なごみの塔から見下した島の景色をもう二度と見られないと思うと切ない気持ちにはなる。
だからね、今回はかつて僕がなごみの塔に数回登った思い出を語ろうと思う。
僕は初めて塔に登る
僕が初めて竹富島を観光したときのことだ。何もかもがわからずに単身島に上陸し、自転車をレンタルして紙の地図を1枚もらった。
地図には『オーリトーリ ミーハイユー』と書かれていた。八重山諸島の言葉で『ようこそ ありがとう』だ。テンション上がるぜ。
小さな小さな島。集落には真っ白な砕いたサンゴが敷き詰められ、住民の方々が常に綺麗に保ってくれている。
そして沖縄の伝統的な赤瓦の屋根の住居。重要伝統的建造物群保存地区にも登録されているのだそうだ。
実際はこの白亜の道の照り返しがまぶしいほどだった。最高の気分だ。
地図なんぞいらない。自分の思うままに迷路のような集落の中を走るのが楽しい。そして見つけた食堂で八重山そばを食べたりして楽しく過ごした。
自転車を漕いでは汗をかき、アツアツの八重山そばにコーレグースをかけすぎては汗をかいたのだが、都会とは違って気持ちのいい汗であった。
今回は割愛するけど、島内の有名なビーチにも足を延ばした。メチャクチャ綺麗なビーチに目を奪われ、木立の日陰に座って海を眺める時間は至福だった。
こうして集落内に戻ってきたところで、僕はやり忘れていたことに気づいた。
登録有名文化財、なごみの塔。高さ6mの小さな丘の上にある、高さ4.5mの小さな塔だ。
こうして見るとコンクリの遊具のようにも見えてしまうが、れっきとした重要建造物なのだ。最初にもらった地図にも目立つように表記してあったよな。ここに登らねば。
ただしご覧の通り会談も狭そうだし上の展望台も狭そうだ。2人くらいずつしか登れない。あなたも街中で電柱の整備とかしているゴンドラ付きのトラックを見たことがあるかと思うが、あれと同じがもう少し小さいくらいだと思っていただきたい。
これがなごみの塔の建つ「赤山公園」の丘からの眺め。
先客のカップルが塔に登っているので、彼らが下りてくるのを虎視眈々と待ち受けながら撮影した。この状態でもそこそこ眺めはいい。これから登る塔の上からの写真と見比べてみてね。
カップルと入れ違いに階段を上り始めた。
いやこれ階段じゃない。むしろハシゴだ。傾斜エグい。Wikipedia情報によれば幅約45cm・奥行き約16cm・段差が約35cmらしい。すさまじいな。前方に距離を稼ぐのよりも倍以上のペースで上方に距離をかせぐのだ。てゆーか奥行き16㎝だぜ。足を載せるスペースすらない。つま先でがんばれ、踏ん張れ。
登った。おぉー、気持ちがいい。塔の足元にいたときとは全然見通しが違う。集落全体を見渡すことができる。それもそのはず、このなごみの塔は島内で最も高い場所の1つなのだ。
彼方にずーっと水平線が続いているの、わかるかな?特に右端あたりの海の色がとってもきれいだよね。
反対側の眺めはこんな感じ。こことほぼ同じ高さの堅牢な建物がある。これ、最終章で大事な存在になってくるから覚えておいてほしい。
竹富島に通っていた時代
普段は本土を車で走り回ることをメインの活動としていた僕だが、2年連続で竹富島を訪問したこともあった。一時期僕に八重山諸島ブームが来ていたのだ。
竹富島の集落を巡っていると、なんだかテーマパークに来たような気分になる。限られたエリアに僕の日常とは違う風景がギュッとコンパクトに形成されているのだ。まさにそれってテーマパークであろう。
「観光化に力を入れすぎて、これはかつての八重山の原風景ではない」という声も耳にするが、それでも竹富島がこのような景色を保つには相当な努力をしていることだろう。何より僕はこれ以外の竹富島を知らないので何とも言えない。
集落の中は、ときどき観光客を乗せた水牛車が通る。僕は乗ったことないが、これを眺めるのも楽しい。急に立ち止まって用を足したりするし。すぐにスタッフさんが清掃するけど。
ただ、旅人たちの間でよく聞く話として、「夜になると観光客がほとんどいなくなるのですごく静か。住民と宿泊者だけの、かつてに近い竹富島の雰囲気を味わえる。」という。
僕は宿泊もしたことがないが、いつかそういう光景も体験したいと思っているよ。
では、今回もなごみの塔に行ってみよう。
塔では数人の中年女性が「怖い!登れない!」とテンパっていた。階段の奥行きが足のサイズよりずっと狭い上、傾斜60度という殺人的な角度だもんな、中高年にはちょっと危険なケースもあるかもしれない。
おばさま方は展望台まで登れたのは1人、あとは途中でリタイアしていた。登頂率、低。よしっ、ここは僕の番だな。
逆光になってしまったが、前回と同じ構図だ。赤い瓦屋根の集落が相変わらず素敵だ。
下ではおばさま方が「やっぱ若い人はすごいわね」みたいな顔で僕を見上げている。そんなおばさま方を得意顔で見下ろした。
…まぁ実はちょっと息が切れていますけどね。
赤い大きな屋根の施設は「軒下のゆんたく休み所」だな。無料でお茶などふるまわれていた記憶がある。あまり直射日光を遮ることができる場所のないこの島において、ありがたいスポットだよね。
これはまた別の年の風景。透き通るような青空が印象的な日であった。
八重山そばと共にオリオンビールをグイっと飲むと、それだけで満ち足りて天国にいるような気持ちになるぜ。
日常のコンクリートジャングルとか、ノルマとかタスクとかどうでもよくなる。そんな時間がひつようなのだ、人生には。
日頃はギュウギュウの電車に乗っている。だけどもここではギュウギュウの水牛車に乗りたくなる。
混雑などでノロノロと徐行運転をする電車にはイラっと来るが、ゆったり歩いていきなり立ち止まる水牛車には「いいぞ、もっとやれ」とすら思う。なんだこのギャップ。
再びなごみの塔にやってきた。
なごみの塔って、正面から見るとマジに柱とゴンドラ部分だけなのね。最低限のシンプルな要素しかない展望台だ。そんなところが好き。
塔はファミリーやカップルが代わる代わる登って楽しんでいる。
それを見て「今回は登らなくっていいや」って思った。もともとなおみの塔まで来る予定もなかったのだ。もっとマイナーなところを中心に巡っていたのだ。
だけども目についてしまったからには来るしかないって感じで、丘まで来たのだ。だってなんだかんだで魅力的なスポットなんだもん。
塔の足元にて、所持しているカメラのジオラマモードを活用して撮影してみた。箱庭のようなこの集落にはジオラマモードが合うと思ったのだ。
まるで物語の中に入り込んだような図になった。さて、これからの僕はどんな物語を紡いでいこうかな…。
なごみの塔に登れた最後
2016年から2024年現在に至るまで登れなくなってしまったなごみの塔。この章では最後の僕が登ったときの話をしよう。
なんだかかつてと比べて人気も上がって混雑してきたな、と感じるなごみの塔。
とりあえずこの角度を見てほしい。登っている瞬間の人もいるので過去一傾斜具合がわかりやすい写真になったでしょ。先頭の人、あきらかに腰が引けているでしょ。
このときには階段のアホみたいな斜度しか意識していなかったが、今から振り返るとずいぶんと老朽化していたんだなぁ…。
ところどころに無数のヒビや傷がある。60数年前のコンクリートだもん、そして海の近くで風雨にさらされていたんだもん、そりゃ痛むよね。
展望台の上から見下ろした図がこれだ。階段ではなくハシゴ、って最初に形容した理由がよくわかるでしょ。あと、僕の足元もかなりヒビ割れているのがわかる。
たった数mの高さなのに「行ってよかった日本の展望スポット 2014」の第18位という驚異の結果を残したなごみの塔。2016年から老朽化のために立入禁止となった。
2019年からは補修工事を行い、ヒビを埋めたり表面を塗り直したり、なんと階段や登頂の展望スペースに金属製の手すりまでつけた。
そんな工事が2020年に終わったのだが、「ぞろぞろと一般客がひっきりなしに上り下りできるような利用形態は好ましくない」との判断となり、現在も立入禁止の状態だそうだ。
もともとなごみの塔は観光スポットではなく、集落のみんなに高い所から素早く情報伝達できるように造られたそうだ。つまりは小学校の朝礼台みたいなもんか。
しかも重要文化財だから、立入禁止になっても文句は言えないし言いたくもない。だけども残念ではある。
最初の章にも出てきたこの建物。
個人商店ではあるのだが、今は100円を払うことでここの屋上から集落を眺望することができ、赤瓦の集落を上から見られるということについては代替案が取られている。「赤山展望台」と名付けられたそうだ。これだけでもありがたいね。
最近僕は訪れていない竹富島。だけども小さな絶景をあそこから見た記憶は忘れない。
次にまた行ける機会を楽しみにしているよ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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