日本列島はご存じの通り北海道・本州・四国・九州の大きな4つの島から成っていて、「離島航路整備法第2条第1項」に基づく定義だとこの四島が"本土”なの。
本州とほかの三島は橋なりトンネルなりで繋がっているんだけど、本州と九州の間は徒歩で海底を歩いて渡ることができるの。それを「関門トンネル」と呼ぶ。

歩行者用の海底トンネルって、世界的にも類を見ないすごく貴重なものなのだそうだ。
だから今宵は、本州の山口県側からと九州の福岡県側、両方からアプローチしたときの思い出を語ろうと思うのだ。

さてさて、今回のエピソードはほぼ全編アンダーグラウンドですぞ。
山口 ⇒ 福岡
みもすそ公園から海底へ
スタートは「みもすそ公園」だ。「関門橋」のほぼ真下にあり、歩行者用の関門トンネルである人道の入口にある。

激しいテンションで海に向かって砲台が並べられているのだぞ。のっけから火力が高め。幕末の下関戦争のときに設置されたもののレプリカだそうだ。

時代は全然違うけど、源平合戦のラストバトルの地でもある。源義経と平知盛の両軍のエースが関門橋の下で対峙している様はメチャメチャかっこいいな。
あとは少し沖合の巌流島では宮本武蔵と佐々木小次郎も決闘しているしな。下関ってバトル物の聖地なのだね。
上の写真、対岸に見えているのが九州福岡県だ。結構近いのだ。一番狭いところで幅はわずか700mという。

じゃ、九州まで歩こうか。
ところで最初に、この関門トンネルの人道を軽くご紹介しよう。多くの人はご存じかとは思うけど、本州から九州に渡るルートは複数ある。
1つは僕が今見上げている関門橋を渡る方法、もう1つは僕も過去に何度も通っている
関門トンネルを使う方法、そして裏技で船なんてのもある。

その関門トンネルなのだが、車道と人道の2種類がある。海の中のルートはほぼ一緒なんだけど、人間や自転車は入口も出口も車道とは別のところに設置されて、そこから出たり入ったりなんだ。
料金は歩行者は無料、そして自転車は20円。自転車は原付の人は、小さな料金箱が設置されているので各自その中にお金を投入するみたいだ。
今まで関門橋も関門トンネルの車道も何度も使ってきたが、人道を使ったことは無い。大体今までの旅って「早く九州に渡りたいぃぃ!」って思っていたから、下関でゆっくりしている機会が無かったのだ。
なので今回あえての人道なのだ。車はみもすそ公園に停めてあるので、またすぐに戻ってくるけどね。

すごく無機質で金属丸出しのエレベーターで地下55mまで下る。
外観も中身もボタンもレトロな風合いで、小学校の頃近くにあったスーパーの上層部に住む友達の家に行くときに使ったエレベーターみたいだなぁと思った。

上りは「Gボタン」で下りは「Bボタン」なのだ。何の略?
口頭だとどっちもわかりづらいよね。「すみません、ギーボタン教えてもらえます?」みたいになって、「は?どっち?」ってなるよね。
ここに「Dボタン」を混ぜるとさらにカオスになるので、もし今後途中下車できる階層を設けるなら「D」にしてほしいな。
そして海底を九州まで歩く
はい、エレベーターで地下まで来たよ。

ちょっとしたホールがあった先に、九州まで貫く長い長いトンネルが口を開けている。対岸である九州側のエレベーターまで780mあるらしい。10分弱で山口県から九州福岡県まで歩けるってこと。

海底トンネルのスタート地点。人道だけども立派な国道2号。国道のオニギリ標識が誇らしげだ。
おぉ、結構人がいるな。ずーっと続いているトンネルを除いてみると、100人は余裕でいそうな気配だ。移動のためだけではなく、観光としても人気があるし、地元の人のジョギングコースとしてもよく使われているらしいよ。
ここから九州までは海底を780m歩けば到着できる。では、歩いて行ってみよう、九州!

バグったみたいに代わり映えの無い青いトンネルが続いている。まっすぐまっすぐ続いている。
レポートしようにもコメントに困る…。当然景色とか皆無だし。写真1枚貼っておけばそれが全てなのだ。

前半は緩い下り、そして後半は緩い登りになっている。中央部が山口県と福岡県の県境で、ここでは記念撮影をしている人も多かった。
僕の一人旅の身で会話相手はいないので、この変化の少ないトンネル黙々と歩くんだけど、子供たちはすっごいテンション高いのな。キャーキャー言いながら盆と暮れが同時に来たかのようにテンションマックスで走りまくり。最初から最後までクライマックス。
なんで子供ってトンネル内で走るの?声が響くから叫ぶのは理解できるけど、走るのはなんでだっけ??僕も過去走っていたが、もうその理由は忘れた。

はい、来たよ九州。徒歩だとおける範囲も限られているので、とりあえずは人道出口のすぐ目の前にある「和布刈神社」に来た。ここを九州最北端と定義づける人もいるよね。対岸にはさっきまでいた下関市のみもすそ川公園が見えている。

夜景の名所の「火の山展望台」も見えている。僕、あそこの夜景も3回くらい見たなか、確か。
出は戻ろうか。ちょっと付近を見渡したが、ここには店もないし立ち寄れそうな観光スポットも無い。でも今回の目的は九州ではないから、これでいいのだ。
九州に上陸していた時間はわずか3分。3分間九州。そして僕は再び歩いて人道を下関まで戻る。
福岡 ⇒ 山口
夜の和布刈神社を見上げつつ
少し月日は流れて、日本7周目をしている2023年。僕は再び関門トンネルの人道を歩くことにした。

あのときゴールに定めた和布刈神社。今回はここがスタート地点。
夜の関門橋は、そりゃもうすごい迫力で、橋好きの僕としてはたまらない光景だったよ。ゴウンゴウン走る車の音で興奮する。

時刻は21:20だ。なかなかのナイトタイムだ。さっき博多の屋台を満喫しすぎたツケがここに来ているな。
だが人道がクローズするのは22:00である。あと40分あれば余裕で山口県まで往復できるに違いない。行くぞ山口。

ソリッドなエレベーターに乗り込む。時代は令和になったが、エレベーターは相変わらずなんだか昭和で止まっているようなデザインだ。でもそれがいい。そこがいい。

今回ふと思ったけど、「G」は「Ground」・「B」は「Basement」の略なのだろうなって気づいた。「B1F」とか言うもんね。でも「B」って一文字だけ書かれると一瞬何のことだかわからなくなるし、対で「G」があるとさらにわからなくなったわ。

ディストピアの世界の保育園みたいな地下ホールにやってきた。
大気が汚染されて外の空気は吸えず、太陽の紫外線は致死量で、生き残ったわずかな人類は温度管理が徹底された地下で細々と暮らすしかなくなった、呪われた未来の保育園だ。知らんけど。

あぁ、まだ数人の人が歩いている…。ホッと胸をなでおろした次の瞬間、それを打ち消す不安がこみ上げてきた。
あの人たちって、たぶん片道切符だよな…。対岸に着いたらそれでゴール。方や僕は往復しないといけない。車を九州に停めているから、必ず戻ってこないといけない。
つまり僕は山口県まで行って初めて、ここに見えている人で言うところのスタート地点なのだ。今ここに人が数人いることは、何の安心材料にもならない…。
閉鎖間際の海底トンネルで
とりあえず急いで往復しよう。まだ35分あるのだ、充分なのだ。そのように自分に言い聞かせた。

トンネル内には様々なイラストや説明書きが書かれている。あぁ、以前はパソコンが致命的にぶっ壊れたときみたいなブルースクリーンのトンネルだったが、いろいろペイントするようになったんだね。
でも見るヒマがない。見る余裕がない。チラチラと眺めながら早歩きする。
『関門トンネル人道踏破おめでとう』とか書いてあったりするけど、始まったばっかだぜ。しかも最悪時間切れで海底に閉じ込められるぜ。ぜんぜんおめでたくない。

そのうち説明が書かれたパネルはなくなり、クオリティが控えめな海底の絵がずっと続くことになった。ずっとこのテイストの海底。ただの青よりかはいいだろうが、これはこれで飽きが来そうな気がするな…。

こうしてところどころに距離表示もしてくれているのがありがたい。
下関まで600mあるが、まだ時刻は21:27だ。33分もある。大丈夫大丈夫。トンネル内は閑散としていて、後ろを見ても進行方向を見ても、僕より後に海底に入って来たっぽい人はいない。今、対向からくる最後の人とすれ違った。でも間に合うはずなんだ…。

しかし考えてもみてほしい。もしこの殺風景な海底トンネルに一晩閉じ込められることになったら。閉所恐怖症だったらきっと耐えきれないだろう。僕は閉所恐怖症ではないが、でも寂しくてきっと死ぬ。
例え時間ギリギリで下関に上陸してタイムオーバーになってもダメだ。なぜなら僕はこのあと大分港からフェリーに乗るのだ。このあとすぐに港に向かわないと家路につくことができないのだ。

おっ、いよいよ県境か。またトンネルについて解説するパネルが増えてきた。
トンネルが中央部は下がっていて、でも逆に水抜き用のトンネルは中央が盛り上がっているのがわかる。海のど真ん中にいるんだなぁ。実感ないけど。

本州って英語でMainLandって言うの、初めて知った。「他の三島に失礼じゃない?」ってちょっとだけ思ったけど、そもそも"本州"の"本"がMainっていう意味だね…。なるほど納得。

県境を越えた。また28分ある。行ける行ける。
そして3・4分ほど歩いたときだ。ふいにアナウンスが流れた。『人道は間もなく閉鎖ー…』みたいなヤツだ。
戦慄が走った。ウソだろ、まだ23分はあるぞ。さすがにアナウンス早すぎないか?
そうだよね、アナウンスしてすぐ閉鎖したらリアルに取り残されちゃう人もいるもんね。今まさに海底に降りてきた人でも間に合うくらいの余裕をもって流しているに違いない。
つまりは片道分は充分に歩けるだろう。…だが、僕はこの後ほぼその1.5倍を歩かねばならない。本州側の地上まで出ようかなって思っていたけど、空気的にそれは厳しくなってきたな…。

カメラをズームした。今、前方に唯一いるグループが本州側のゴールにたどり着くところだ。はい、おめでとう。
では、僕の後ろ側はー…?恐る恐る後ろを振り返る。

ダ レ モ イ ナ イ …
たぶんダッシュで本州まで行ってUターンしても間に合うだろう。だが、既にこの段階で誰もいない状態にもかかわらず、それを実行するだけのメンタルは無い。不安すぎる。寂しすぎる。
1・2分葛藤したが、僕は九州側に帰ることにした。いいんだもん、前回はちゃんと往復できたからいいんだもん…!

小走りで戻り、無事にゴール。
「上の写真、よく見ると遠くにまだ人がいるよ」って思うかもしれないけど、ごめんこれは歩き始める前に撮ったものだ。復路はマジに誰もいなくって、閉鎖のアナウンスばかりが延々流れて心細かったぞ。あなたが行くなら時間に余裕を持って行った方が、心臓に優しいぞ。
最後に鋼鉄のエレベーターでGボタン押して、それがちゃんと動いたところで本当に一安心した。でも面白かったな。
こうして僕は九州の旅路を終え、帰りのフェリーに乗るために大分県に車を走らせる…。

以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 関門トンネル
- 住所(本州側): 山口県下関市みもすそ川町22-34
- 住所(九州側): 福岡県北九州市門司区門司 関門トンネル人道入口
- 料金: 徒歩は無料
- 駐車場: あり
- 時間: 6:00~22:00