伊勢に田曽浦という小さな漁港の集落がある。
国道から海際にあるその集落までは高低差があり、国道を反れて集落に降りていくには、急カーブを通過する必要がある。

はい、これが実際のカーブの写真だ。厳密にはこのカーブを通らなくても集落に行けたりするのだが、まぁここは話の流れ的にうなずいておいてほしい。
…で、急カーブを運転するとなるとそりゃ慎重にもなるであろう。そんな急カーブに必要なアイテムはカーブミラーである。…一般的には。

だが見てくれ。田曽浦では急カーブにあるのはカツオだ。カーブミラーに対し、"カ"しか合ってない。全然ダメこれ。
いや、よく見るとカーブミラーもあるのだが、ドライバーが最初に気を取られるのはカーブミラーじゃなくってカツオだろ、どうみても。やっぱダメこれ。
…そんなインパクトほとばしるスポットを拝みたくって、僕は伊勢の深部を目指すのだ。3回ほど。
最初の出会い
ツーリングマップルに翻弄されて
僕は巨大なオブジェが好きなのだ。
巨大なカニ・クマ・カニの爪・オロロン鳥・土偶・ナマハゲ・大王イカ・牛乳パック・伊勢海老・タコ・カブトムシ・シーサー・ヤンバルクイナ・馬…、全部いい。
ちなみにこれら全て「あぁ、あそこだね」ってわかった人がいたら、間違いなく僕と同類なので今度握手しようぜ。

ツーリングマップルを見てくれ。
『大カツオが鎮座!』と書かれている。巨大オブジェ好きの僕としては、もうこれを見てから気になって気になって、夜しか眠れない。行こう。
日本5周目のことだ。国道260号で田曽浦集落付近まで来た。改めてツーリングマップルを確認する。

ここ大事なことなので、ツーリングマップルが指し示す先に赤丸をつけた。
大カツオは国道を1本反れた漁港の近くだな。カーナビを見ながら正確にその場所にやってきた。
んっとー…、カツオ、いないんだ。車を停めて周囲を見渡したが、どこをどう見てもいそうにない雰囲気。海とヤブと歯科しかない。
Webから過去にアプローチしたことのある人の情報を探してみた。しかしこの当時は大カツオのことをWebに書いている人は数人しかいなくって、いてもレポートに詳細な位置までは書いていなかったりしている。
だが、わずかな記載文章から、少なくともここではないような気がした。つまりはツーリングマップルの表記は間違っているってことだな。

国道260号をもうちょっとだけ西に行ってから、集落方面に道を反れた位置、それを次の候補とした。田曽浦集落への分岐が出てきたので、それに従って国道を反れて集落に向かう。
わぁ、なんかローカルな道だなぁ…。

またまたツーリングマップルを見てほしい。実際は上記地図から左にわずかにズレ、こんな感じの場所にカツオがいるだろうと推測したのだ。
だが、結論から言うとこれも違う。1つ前の写真で示した通り、鬱蒼とした小道が続くだけだった。そんな道をしばらく進むと、海沿いにある集落中心部に出てしまった。
いやいや、これは流石に行きすぎでしょ。ツーリングマップルもここまで記載ズレていないっしょ。
諦めてUターンしようにも、狭路続きだし地元の軽自動車がせわしなく走っているのでうかつにターンや停車はできない。そのままズルズルしばらく走る。

赤線部分を走り、現在地は赤丸部分だ。
僕1人だったらもう少し頑張って周辺を捜索してもいいが、今回は同行者がいるのだ。一般人をこれ以上巻き込むわけにはいかないな…。
同行者もカツオに興味を持ってくれていて、車の中でめっちゃキョロキョロしているので恐縮だが、これたぶん大カツオは見つけられない。どこかにいたのかもしれないが、撤去されてしまったというパターンもあるし。

そのうち集落を通り過ぎ、また国道260号に向かう登り坂に入る。
「まぁこのまま国道260号に乗って田曽浦とはさようならだな」って思っていたら、隣で同行者が「大カツオいた!!」って大声出した。
うおぉ、ホントだ!!大カツオ、意外なところで発見!!
大カツオとの初対面
…というわけで、結論から言うとツーリングマップルの場所は僕が思った以上にズレていたのだ。こういうことはたまーにある。実走取材に基づいて作られているから、それも醍醐味と言えば醍醐味だ。
ただ、これはいつとは明言しないが初回訪問時のツーリングのものなので、2025年現在は直っているかもな。

4mくらいの大きさかな?かなりデカいぞ。これが冒頭にもお見せした急カーブにいきなり出てくるのだから、存在を知らなかったら面食らうこと間違いなしだ。
たぶん一般観光客から見たら「ふーん」で終わるようなオブジェだけど、僕らコイツの発見を心から喜んだ。こうやって苦労して見つかるマイナースポットは楽しいねぇ。

とにかく嬉しかったので、付近でしばらくキャッキャとはしゃいだり写真撮りまくったりした。
ここ田曽浦の集落は、カツオ漁が昔から盛んなのだそうだ。カツオの一本釣り漁では、かつて年間漁獲高日本一を記録したこともあるそうだ。近くには「日本一かつお村モニュメント」や「カツオ漁師のモニュメント」もあるしな。
そんな経緯から集落をアピールするために、ここにカツオが展示されているのだろうと考えた。

しかしなかなか年季の入ったカツオだなぁ。日焼けして体表がヒビ割れてきて、ボロボロだ。
いつからここに設置されているのか気になる。あと、たぶん裏側は日を浴びていなくて劣化速度も遅いだろうから、ひっくり返して反対側を展示すれば2倍長持ちするかもなって思った。

顔周りは、わりとハンドメイド感のあるデザインだ。
ちょっとだけ拳で叩いてみると、「クォン、クォーン」と中で響く。薄い金属で作られていて、中は空洞なんだね。
大カツオ、僕の前に姿を現してくれてありがとう。
…こうして初回訪問は終わった。
あのカツオはお神輿だった??
少し時間は流れ…。日本6周目と7周目でのアプローチの話をしようと思う。

おぉーっと、驚いた!リニューアルしているぞ、このカツオ!!
まずはカツオ本体以前に、カツオ小屋がピカピカになっている。前回はバキバキのコンクリートで、枯れたツタが絡みついたり雨だれで茶色くなっていたりと、ダメージを感じさせる佇まいであった。

だが、なんということでしょう。
リフォームした新居は目にも優しいベージュで統一され、内部も明るい色合いに統一したことで狭さを感じさせない。床には白い砂利を敷いたことで清潔感が出たな。
上部には匠の遊び心なのか、小さなしめ縄と紙垂もついている。ステキ。

カツオご自身もピッチピチだ。前章と見比べてほしい。鮮度が違う。青さも肌ツヤも全然違う。食べるならこっちだね。あと、目の部分に穴が開いているのはなぜ。
いずれにしても、新居の中の綺麗なカツオは上機嫌そうだ。口角も上がっている。確か以前は口、開いていなかったもんなぁ。

あ、口の中に小銭入っている。「カツ子、それドロップやない。おはじきや。」って言いそうになった。
関係ないけど、ジブリ映画の「火垂るの墓」は、2018年を最後にTV放送されていないそうだよ。一度は見ておきたい映像作品ではあるけど、見ると確実に鬱になるしなぁ…。

ここで僕は、カツオの尾びれ付近に前回なかった立て札があることに気付いた。
鰹神輿 宿田曽八柱神社
この宿田曽地区はかつて日本一を誇る遠洋鰹鮪漁業の郷でありました。
地区では古くから住民の幸せ産業の発展を願い『神祭港まつり』が行われています。
この鰹はその祭りの神輿として住民の有志たちによって作られた二代目鰹神輿です。
…なるほど!カツオはただのデカいオブジェではなく、祭りのお神輿だったのか!!そりゃあ知らなかったぜ。

つまりはこのコンクリ小屋の上部についている注連縄や紙垂も、この鰹を神聖なお神輿として扱うためのものだったんだね。匠の遊び心とか言っちゃってゴメン。
そして、前回見たカツオが初代だったのか。初代を見ておけてよかった。
2代目で急にクオリティが上がったのも面白い。有志の中によほどの職人がいるのだな。

運転席から眺める迫力もすんごい。
この大カツオ、2025年現在はチラホラとWebに出てきているけど、まだまだレアだ。もっと有名になっていいほどのポテンシャルがあるのに。
鰹への感謝と地域の発展を願い
前章でご紹介した立て札には、まだ続きがある。
遠洋漁業が衰退してしまった今でもかつてまちを支えてくれた鰹に感謝の想いを込め、また今後の地区発展と住民の幸せを祈って祀っています。
神社本殿内には港まつりで使用される舟神輿と『子宝梶木神輿』も祀られています。
家族の幸せ子宝を祈願してお参りください。

えっと、そもそも立て札の冒頭には「宿田曽八柱神社」と書かれていたよね。つまりここでいう"神社"とは、宿田曽八柱神社を指すのだろう。
宿田曽八柱神社の場所を調べると、大カツオのいる急カーブから100mほど坂を下ったところに入口があるらしい。よし、行ってみるか。

誰もいない静かな境内。心が安らぐ。お参りをしたり、境内をグルリと歩いたりした。
しかし、立て札に書いてあった舟型のお神輿とカジキのお神輿はどこかな…?ちょっと見つからなかったのだが、既に大カツオを見て満足しているので、深追いはしなかった。

このときの僕は、確認不足だったね。あとから気付くのだが、立て札には『本殿内に』と書かれていたではないか。大カツオが屋外だったので、それらのお神輿も屋外かなって思いこんでしまっていた。
写真奥に写る本殿を除けば、舟型のお神輿やカジキのお神輿を見られたのであろうか…?少しだけ残念だ。

だが、Web検索すれば港まつりの様子を垣間見ることができるぞ。
鰹神輿、まんま魚を担ぐような形態のお神輿なんだね…。しかも上に人が乗ったりしている。舟型のお神輿やカジキのお神輿もいるぞ。カジキは女性専用なのだそうだ。

遠洋漁業は衰退しても、祭りは盛り上がっているし大カツオもリニューアルした。
記憶はこうして受け継がれていくのだね…。
最後に余談ではあるが…。

近くにはタイで有名な迫間浦という集落もあり、こういうデカいタイが出てくる。
やっぱいいよね、こういう巨大オブジェ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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