伊豆半島の沖合、熱海からフェリーに乗って数10分のところに「初島」という小さな島がある。
住民数は200名弱。
海岸線一周で約4kmほどあるが、観光客が入り乱れるエリアはごく一部だし、地元の方の集落も基本1箇所だ。
とにかく箱庭のような小さな小さな島なのである。
コロナ禍前の数年であるが、僕は定期的にこの島を訪れていた。
そして島の面積の1割くらいを占めているんじゃないかっていうリゾートホテルに宿泊し、気の知れた友人たちと酒を飲んでいた。
島についてチェックインして、リゾートホテルのプールではしゃいで酒飲んで…。
もちろんそれだけでも最高に楽しい。
でも、そうじゃないんだ。それだけじゃないんだ。
遊び疲れた仲間たちはグッタリしているが、夕食までにはまだ時間がある。
僕は観光MAPを手に取ると、1人そっとホテルの部屋を出て行った。
70分の一人旅が始まった
制限時間は70分である。
短いようであるが、初島は小さい島。この際、この限られた時間でどれだけ楽しめるのかを試してみるのも良いだろう。
とりあえず、今まで何度も歩いた「港 ⇔ ホテル」ではないところに行きたい。
願わくば、1人だからこそ気兼ねなく入り込める路地裏だとかに行きたい。
脇道に反れ、観光客が全くいない道に入った。
人はいないが早速ネコがいた。これだけでなんだか嬉しいニャ。
全然リゾートっぽくない、ちょいとヒビ割れたアスファルトと歩いていると、心安らぐ集落が眼下に見えてきた。
初島がリゾート開発されたのは、1964年の高度経済成長期らしい。
都心からでも日帰りで行けるリゾートアイランドとして脚光を浴びたそうだ。
願わくば、僕はそれ以前の痕跡を見つけたい。
地図を基にやって来たのは「初島公園」である。
草ボウボウでサンダルで入るのがはばかられたし、遊具の骨格が心なしか歪んでいるように感じた。
心のどこかで「想像した通りだ、ふむふむ」って思った。
幸先のいいスタートだ。
地図を見ると、近くに「縄文遺跡」と「地蔵小屋」がある。行ってみよう。
こういう現地ならではの観光MAPにしか登場しないようなスポットって、そそられるよね…。
縄文遺跡について、残念ながら写真は撮影し忘れた。
「海洋研究開発機構_深海底総合地震観測ステーション初島陸上局」という名前の、小さくって割と痛みの激しい建物の横にある、草ボウボウの空き地。
ただの普通の空き地だったので、思わず写真に撮るのを躊躇しちゃった。
今は後悔している。
地蔵小屋はこのあたりのはずだが…。
結論から言うと見つからなかった。付近を一往復したけど、全くダメだった。
後日Webで必死になって探したが、そもそも地蔵小屋の情報自体が皆無だった。
ただし僕と同じ地図を持って、僕のように探し回って断念した人が1人いただけだった。
心の中で勝手に"同志"と呼ばせてもらおう。
地蔵小屋を諦めてそのままUターンをするのもシャクだ。
このままさらに進もう。いったいどこに行くんだ、この道は。
未舗装路になった。
轍は残っているものの、中央の草がやたらと元気。
そして道はネチョネチョしている。これは足元汚れますなぁ。
ホテルに戻った後の話なんだけど、身内に「なんで靴をそんなに汚しているの!」と怒られました。
原因はこの道です。僕が悪いのではありません。
もっと進むと草が生い茂って獣道みたいになった。
草をかき分けよう。
わっ!なんだか急にトロピカルな世界観になったぞ!
なんだここは!
少し歩くとさらに土地は整備され、芝生の上のべンチで悠々とくつろぐセレブもいる。
あー…、これはわかったかもよ。
これはたぶんだけども「アイランドリゾート」というリゾート施設の敷地だ。
普通の人が行かないような敷地の裏から入ってしまった。
ここ、入場料だとか必要なんじゃないかな?
不可抗力とはいえ、僕のようなアウェイな人間がヨタヨタ歩いているのはまずかろう。
僕はすぐに敷地を出て、再び獣道に戻った。
だって僕はネコだもんよ。ネコは獣道を行く。
ここまでの軌跡を地図に記そう。
Googleマップだとかのアプリは全く使っていないので本当かどうか定かでないし、なぜアイランドリゾートに行きついたのかもよくわからないが、きっとこういう旅路だ。
集落の先の港で夕日を眺め
ちゃんとした歩道に出た。
自分で劣悪なルートに突っ込んでおいてアレだけど、ちょっと安心した。
集落の上の道に出た。
民家の屋根越しに富士山が見えるじゃないか、ステキだ。
集落の中を歩きながら富士山の方向に行ってみようかな。
山間部の歩道から集落に降りる急な階段があったので、僕はそこを降りることにする。
森の中から一気に生活臭の漂うエリアに降り立った。
屋根に「cafeあずまや1号」と書かれている家がある。
渋いな。もし営業していて、そして僕に時間がたっぷりあるなら寄りたいところだったがな。
Webを調べてみると「cafeあずまや3号」は存在しているが、1号と2号の情報は全くなかった。1号、行ってみたかったな…。
集落内の道が細い。しかしこの狭い道が心地よい。
観光客はおらず、地元の人がたまーにいる程度だ。
生活感があふれている民家が左右に連なる。そこにお邪魔している感覚が心地よいのだ。
左手に民宿兼食事処がある。
たまのリゾートホテルもいいけれど、こういう激渋な宿もいいよな。
1人であれば僕はこっちを選ぶかな。
優劣ではない、時と場合によって選択肢は変わるのだ。
コンクリートむき出しの武骨な建物の中にある、「飲物自動販売機センター」。
自販機群をすごく仰々しく書くとこうなるのだな。
『その他の雑貨類は…』の文章もとてもエモい。
ここでドリンクを1本購入し、喉を潤した。
正面に「初木神社」が見えてきた。
初島の住民の人がギュッと固まって住んでいる小さい集落も、あの神社のところでおしまいなのである。
せっかくだからお参りして行こうかな…。
初木神社には伝説がある。
昔、漂流した船で1人この島に辿り着いた初木姫が、対岸の伊豆半島に気付いてもらえるように火を焚いて。
それに気づいたのが「伊豆山」にいた伊豆山彦で、まぁあとはなんやかんやのラブロマンスよ。
…ってことは、縁結びの御利益とかあるのかな?
ラブロマンスはさて置き、ご縁は大切だよね。参拝。
さて、鬱蒼とした神社であるがこの脇はもう初島港のようだ。
そっちに行ってみるか。
おぉぉーーーー!!
初島港、エモいなーーー!!
富士山もクッキリと見えている。
よーし、ここで日没を眺めてしまおうかねー。
だんだんと世界が黄金色に染まっていく。
まだ夏の気配でああり暑い日々が続くが、このときはもう9月も中旬なのである。
17:20時点でこんなにも世界は赤い。
港の脇に一直線に並ぶ食事処。
昼間は観光客で大賑わいなこの店たちも、夕焼けに照らされて静かにたたずんでいた。
港からは大きく防波堤が海に突き出している。
その先の方に釣り人や観光客が10数人いて、みんな夕日を眺めている様子だ。
よしっ、僕もあっちに行ってみようかな。
防波堤の先端に到着すると同時に、山肌に太陽がかかった。
今もホテルでは仲間たちが談笑しながら夕食の時間を待っているに違いない。
それもそれでいいが、僕も僕で唯一無二のステキな体験をしている。
散歩っていいな。
真っ赤な夕日が山に隠れたのは、17:25である。
その最後の残照を、僕は防波堤の先端で見送った。
いい1日だったな。
では、再びここまでの軌跡を地図に記そう。
まだ散歩は終わりじゃないぜ。
あと30分は猶予があるだろう。
行きとは違う道を辿りながらホテルに戻ろうではないか。
激レアの登れる灯台、初島灯台
食事処が並ぶ歩道の前を歩き、さらにその先へ。
海岸沿いに僕は島の東を目指して進んだ。こっちに行くのって初めてだなぁ。
喧騒の去った食事処の屋外席。
日中は富士山を眺めながらご飯を食べる多くの人で賑わったことだろう。
こんな一面を見れるのもまたいいものだ。
島に宿泊するからこそ見られる光景なのかもしれない。
あ、イカのかたちの公衆トイレがある。
なんてかわいいデザインなのだろう。そしてまだ新しいようでピッカピカだ。
海沿いに延々続く歩道は、もう観光客が全くいない。僕1人だ。
静かな波音だけが聞こえ、ほんのちょっと肌寒くも感じる。
まだそれなりに人のいた初島港をどんどん離れて行く感覚、ドキドキワクワクだ。
海沿いの歩道を歩いていると、山側に「磯内膳の墓」というのがあった。
普通に歩いていては見落としそうな茂みの中に、ちょこんと墓らしきものがある。
歩道沿いに説明板があったのでかろうじて気付くことができた。
説明板は本のようなユニークな形状だ。
めくると英語や中国語のページが出てくるんだぜ。
ところでこの磯内膳の逸話がなかなか芳ばしかった。
以下に簡単にご紹介する。
磯内膳は酒乱で精神病な困った侍なので、島流しされて初島にいた。
島のおっちゃんが運んでいた肥料がちょびっと磯内膳の服にかかってしまってブチ切れ、「決闘すんぞコラ!」ってなったこともある。
そのときはおっちゃんが意を決して巨大な斧を研ぎ出したので(内心ビビリ)、「オマエの勇気はすごいな。許す。」と謎の上から目線で身を引いたりした。
そんなこんなの永久に困った人なので、そのうち切腹を命じられましたとさ。
…なんか同情の余地がない。
さらに歩く。
こんなガードレールも手すりも無い歩道を1人でトボトボと歩いているんだよ。
しかもだんだん空が暗くなってきた。
空の月がいい色になってきた。
夜がもうそこまで迫ってきている。
大きめの岩が乱雑に摘まれているゾーンがあった。
その前に立っている説明板を読むと、これは江戸城を造る際に採石した跡地なのだそうだ。
あー、なるほど。
江戸城を建てるときって伊豆半島のいたるところから石を持って来たもんな。
西伊豆の「室岩洞」っていう採石跡とか、僕は大好きだぜ。そのうちこのブログで紹介したい。
わっ、いきなりオシャレな施設が出てきた。
これは海岸の歩道の突き当りにある「島の湯」っていう温泉と、あとはレストランや宿泊施設が合併したリゾート施設らしい。
右端に車が停まっている。まさかさっきの歩道は車道だったのか?
なかなかにスリリングだな…。
ここが島の東の端である。
そして舗装された道もここで終わる。
ここから先は階段を登って島の内陸部の方に入っていくのだ。さよなら海岸線。
「アジアンガーデン」というリゾート施設が現れた。
あぁここは序盤に迷い込んだ初島アイランドリゾートと隣接している施設だよな。
島をグルリと回り込んで戻ってきつつあることを感じた。
しっかしなんてオシャレな雰囲気なのだろう。
僕がここに入るにはまだ早い。人生2度目とかでないと入れそうにない。
灯台だもんね、きっと島のシンボル的な存在。ぜひこの散歩の中で立ち寄ってみたいと思っていたポイントだ。
鬱蒼と茂る木々の中を分け入っていく。
灯台ってこんなモジャモジャなところにあるの?さっきの海岸線だとか、もっと海が近くて見晴らしがいい場所の方がいいんじゃない?
まるで森の中から現れたかのような灯台らしくないロケーションだが、確かに灯台である。
なんというユニークなデザイン!
よく見ると中心には僕らが普通にイメージする灯台がある。
その外側に螺旋階段とそれを支えるフレームがあるのだ。
そして頭頂部に襟巻のようについている展望台も、普通の灯台に対するオプション機能のように設置されたものだ。
なんでこんなデザインなのか。
それはですねぇーーーー、なんと「僕ら一般人が登って楽しむため」なのです!!
全国に16基しかない、”参観灯台”という超珍しい登っていい灯台なのだ。
他の参観灯台について知りたかったら、上の【特集】を閲覧してほしい。
僕は16基全てを巡っているから。
ただ、普通灯台って"灯塔"っていう煙突のように聳える建物の中の螺旋階段を登って行く。
外側螺旋階段はここ以外に国内にはほぼ例がないだろう。すんごい。
ちなみに登れるのは夕方までだ。
このときはもう時間外。
この年は、国内に最初の洋式灯台である「観音埼灯台」が誕生して150年目だった。
『灯台150周年』という節目の年だったらしい。
その後ろには月が輝く。最高。
写真では明るく映るが、この林の中はずいぶんと暗くなってきた。
少しだけ心細い。
出てきたのは「SARUTOBI(サルトビ)」というアクティビティ施設だ。
ご覧の通り、大人のアスレチック。
ハーネスを装着して、木から木へと渡っていくアドベンチャー。
絶対楽しいヤツだこれ。
心の中は未だに少年の僕は、キラキラ光る目でこれを見上げた。
散歩のあとのビールはうまい
さてさて、このSARUTOBIの横のテニスコートを挟んだ先は、もうゴールとなる僕の宿泊地のリゾートホテルですかな?
ホテルが見えてきた。
時刻はまだ17:50であり日没から30分ではあるが、ずいぶんと世tルの気配が濃くなってきたな…。
草をかき分けて歩く。
ちょうどホテルの敷地内でイルミネーションが始まった!
わーい、綺麗だなぁ!!
写真撮影をしていると仲間たちから催促の電話が来た。
僕の散歩ももう終わりの時間だ。楽しかったなぁ。
ちなみに、僕は温泉あがりの綺麗な状態で散歩に出かけた。
にもかかわらず、汗だくでサンダルはドロドロ、服には謎のくっつく植物の種を大量にくっつけての帰還であった。
「あんた何してたの!?」と家族や仲間からのからのツッコミを受けたことは言うまでもない。
まぁ温泉はまた入ればよい。
今大事なことは、散歩が楽しかったということ。そしてそのあとのビールが格別だってことだ。
これが歩行MAPの最終盤だ。
ヘンテコなところばかりを歩いていたかもしれない。
リゾートアイランドとしての面をあまりご紹介できなかったかもしれない。
リゾートな面はまたいつか機会があったらのご紹介でよいだろうと思う。
ちょっとアクセスが不便ではあるけれども、都心からも日帰りできる穴場の島。
小さな小さな島。
あなたがまだ行ったことが無いのだとしたら、ぜひ夏の予定に入れてみてほしい。
今回の記事には書かなかったが、海鮮とかも最高だから。
リゾート施設はどこもインスタ映えの宝庫だから。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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