日本の道路で最も急坂と言われる、奈良県と大阪府を結ぶ「暗峠(くらがりとうげ)」。
はたしてこの峠を、ボロくて昭和で非力な日産パオで横断することができるのか。
誰しもが幼い頃に一度は思い描いた疑問であろう。
今宵、あなたのその疑問に僕が終止符を打つ!
愛車の日産パオで、これから暗峠に突撃する!!
天候は雨!!
凍えるほどに寒い!!
条件は芳しくないが、チャレンジに危険はつきものだ。
僕は奈良盆地を越え、大阪府との間に壁のように立ちはだかる生駒山系目指してアクセルを踏んだ。
暗峠の恐ろしさ
僕はこうして鼻息荒く「暗峠に行く!」とか言っているのだが、あなたがもし暗峠を知らないのであれば、僕とあなたとの温度差は絶望的なレベルであり、僕は執筆者として失格である。
なのでまずは暗峠についてご説明する。
暗峠の特徴は2つある。
- 鬼のように狭い
- 鬼のように坂が急
はい、これが狭さの一例だ。
上の写真を見て「これくらいなら運転できる」と思う方もいるだろうが、これ対向車も来るからな。
そして離合スペースとか基本ないからな。
住宅地とか民家とかあるエリアを繋ぐ峠道なのだ。
そこかしこに生活の息吹を感じ、その軒先をスレスレで避けていくイメージのエリアも多い。
スリル満点だ。
2000年ごろまでは「幅1.3m以上 通行禁止」という伝説の看板もあった。
アホかって話だ。
今はどんな軽自動車もこれ以上はある。
そしてもう1つの特徴、急坂について。
これまた他では大変できないほどのヤバいレベルだ。
日本の車道で最強の勾配とも言われている。
大阪側は特に激坂で、最大勾配37%となっている。
ちょっとピンと来ないかもしれないが、傾斜10%を超えると普通の人は「ヤベー坂だな」って感じる。
天下の険と言われる「箱根峠」の平均傾斜は斜度10%ほどだという。
車がひっくり返るんじゃないかと思った北海道の「茂津多岬灯台」への道も、斜度15.5%だった。
静岡県の「薩捶峠」の由比側は、一度車を停めて躊躇した。
壁のように坂が立ちはだかっていたからだ。
誰しもがビビる、圧巻の坂。
しかしこれは斜度19%~20%ほどとのことだ。
そして島根県の「ベタ踏み坂」。
これは斜度6.1%だ。もはや赤子である。
もう一度言おう。
暗峠は最大斜度37%。
もしかしたら軽トラしか入らないガチな林道だとか、坂道の狭小住宅の駐車スペースなど、これに勝るところもあるかもしれない。
だけども世間一般で国内最大傾斜と言われるのは、ここだ。
もう1つ言うと、狭さと激坂という特徴を持っているにもかかわらず、暗峠は国道だ。
ついつい国道だからと信頼してしまったり、カーナビが安直な判断をしてしまうと、キツい洗礼を受けることになるのだ。
さて、今回は暗峠を「登り(奈良側)」・「下り(大阪側)」の前後編に分けてお送りしたい。
まずは奈良側なのである。
前哨戦、榁木峠
国道308号。
…いや、もうここは酷道308号と書こうな。
暗峠だけではない、奈良側から見るとその1つ手前に「榁木(むろのき)峠」というガーディアンがいる。
"第二暗峠"とか呼ばれたりもする。
愛車の日産パオのカーナビは頑なに榁木峠に行くのを拒否していたが、僕は構わずハンドルを榁木峠側に切った。
普通の人は榁木峠に行かないほうがいい。
現地の看板においても、榁木峠が国道にもかかわらず、「こっちは〇〇に行けますよ」みたいな道路標識が一切ないのだ。
だから僕、308号は国道なのにどこから乗ればいいのかちょっと迷ったわ。
クソクソに狭い住宅の隙間を、「グオォォォ!」ってレベルに登っていく坂道。
路面は当然、ドーナツ型の滑り止めスタイルだ。
ドーナツあると、そこそこな急坂。
ドーナツなければ、まだまだ甘い。
有名な慣用句。
そして絶望的に狭い。
本当に狭いところは停車なんてする心のゆとりがないので写真は無い。
しかし写真に撮れたところも充分に狭い。
これネタバラシしちゃうけど、この峠はあの暗峠の奈良側よりも狭く、そして急なところが多いからな。
榁木峠の名前、ここでしっかり覚えてから帰ってほしい。
一度道を間違えて、半泣きになりながら狭い道で切り返しをした。
引き続き、榁木峠はどんどん山深いゾーンに入っていく。
対向車来るな来るなと祈りながらハンドルを握る。
幸いにして四輪は来なかった。
バイクと歩行者ならいた。
ちなみにこのときの僕は、まだ榁木峠と暗峠を対比できていない。
「こんなところで苦戦していては、暗峠なんて到底無理だぜ!気合い入れろよ!」って自分自身を鼓舞していた。
この辺か!?
この辺が峠の頂上か…!!?
…どうやら峠のピークを越えたようだ。
まぁここまでもアップダウンはそれなりにあったのだが、本格的になかなか激しい下り坂となる。
下るっていうか、落ちる。
愛車のパオのギヤを珍しく1速に…、あれ、入らない。
ちょっと物理的にレバー回りが壊れている。
ここは筋肉で解決だ。
バギッっといい音させながら1速に入れ、エンジンブレーキを最大限にかける。
ここで1速に入らなければ、暗峠では200%死ぬ。ここで動作確認できてよかった。
エンジンをブオンブオン唸らせ、峠を下ってきた。
中盤でいきなり2車線の快走路になった。
そしてそのまま、南生駒の市街地へ。
バスとか普通に見かけてあっけにとられた。
ちょっと安心した。
しかし、ここは峠と峠の間のわずかな隙間に存在する町。
「駅もあるぞ」と安心したが、その駅のすぐ脇の踏切はこんなにも狭い。周辺の道路も狭い。
この時点で、次のステージの困難さを予感する。
さぁ、すぐに次の峠が待ち構えている。
おまちかねの暗峠センパイだ。
暗峠ヒルクライム
休む間もなく。
マジに南生駒駅前から数10秒のゆとりすらなく…。
1.8m以上の幅の車の進入禁止看板。
かつての1.3mと比べたら大幅な緩和だが、厳しいことには変わりない。
1つ前の愛車のHUMMER_H3だったら、既にここで資格なしだ。
ピッチリ立ち並んだ住宅地の隙間に入る。
擦れ違いは極めて困難。
しかし国道だ。
近所の人が自転車か徒歩でしか使わないような下町の路地であれば、このくらいの狭さもありえるかもしれない。
だが、繰り返しになるが県を越える立派な国道だ。
「狭い!わりと狭い!」って思うけど、運良く対向車がほほ皆無だ。
普通の一車線より少し狭い程度なので、狭さは大丈夫。
もちろん一車線分の幅しかないので、対向車来たら泣きますが。
そしてもう1つの要素、激坂。
なかなかにクレイジーなレベルの坂。
しかし僕は結構落ち着いている。
さっきの榁木峠と同程度、あるいはやや緩やかなくらいだ。
あの静岡県、薩埵峠の壁坂に対峙したとき程の衝撃はない。
神奈川県横須賀市の「ツキコヤ」っていうお気に入りの喫茶店に行くときの激坂のほうかまだキツい。
確かに暗峠は、峠の頂上までひたすらに登りが続く。
しかし大阪側と比べれば、奈良側はほぼ傾斜が無しで息をつけるスポットがある。
これはかなり大事だ。
登山でも、途中で平らなところを歩けたり、立ち止まったり、休憩できたら楽でしょ。奈良側にはこれがある。
追って書くけど、大阪側はこれがないから絶望感するのよね。
…とはいえ!
このロケーションはすさまじい。
かなりずっと住宅地が続いているのもすごい。
これ暗峠のルールなのだが、対向車が来たら登っているこっちが下がる。
対向車はバックでこの坂を登れないからね。
しかしこの坂道を下がるのも大概だ。
マニュアル車はクラッチが焼けて登れなくなると聞いている。ひぇー…。
ところどころでカーナビを見る。
既にゴールは暗峠の頂上に設定済みだ。
(峠の向こう側をゴールに設定すると、暗峠を通らずに遥かに迂回する案内となってしまう)
ゴールまであと800m・500m…。
残りがわかるというのはすごく精神が安定する。
正直、「あとちょっとだ大丈夫、なんてことないな」って思った。
時速10km台だと思うが、着実に頂上は近付いてきている。
段々畑と同じ斜度の坂を登っているが、日産パオでもちゃんと登れることがわかった。
車道も綺麗だ。
きっと近年舗装されている。
道幅も少々拡張したのではないかと思われるエリアもあった。
もう頂上付近なのに、こんなにも道路幅が広い部分がある。
これ、かつての倍くらい広くなってない??
そして…!
「信貴生駒スカイライン」の高架まできた!
ヒルクライムのゴールだ!!
歴史ある石畳、暗峠
信貴生駒スカイラインの高架が見えたら、もうその向こうが頂上だ。
大阪府との県境だ。
生駒スカイラインは、この暗峠と交差するように、生駒山の尾根を走る有料道路だ。
余談だが、ここから10数分歩いたところに「ぼくらの広場」という、関西最強の夜景スポットがある。
もし気になるなら、僕の過去記事を読んでみて欲しい。
この高架手前が駐車スポットだと聞いている。
暗峠は原則全線、まともな駐車場はないのだ。
駐車はおろか、停車もできない狭さだ。
そんな中で、ここは2・3台ほど車を停められる貴重なスポット。
しかもここだけ傾斜がそんなに急ではないし。
パオを停め、ようやく肩の力を抜くことができた。
では、峠の頂上を少し見学しようね。
カサをさして高架下をくぐる。
暗峠。
頂上の県境付近のわずか数10mであるが、石畳となっている。
石畳の車道の国道は我が国で唯一だ。
暗峠を含む「暗越奈良街道」は日本の道100選にも選定されている。
もともとは奈良時代、平城京と難波を最短距離で結ぶ道として設置されたのが始まりなのだそうだ。
あまりに坂道が急で、馬の鞍がひっくり返りそうになることから、「鞍返り峠」⇒「暗(くらがり)峠」となったという説もある。
江戸時代には参勤交代のルートにもなった。
暗峠は歴史が古いのだ。
車時代よりも遥かに昔、徒歩で峠を越える人のために最短ルートでほぼ直線にブチ抜いた峠。
だからその分傾斜がえげつないし、車時代以前のものだから狭いのだ。
歴史を感じながら、古い暗峠の石碑を撮影した。
…おっと、その写真を撮っていたら、高架下から車が出てきたぜ。
どうだい、この傾斜だ。
ほんの10数m先の車なのだが、坂に隠れて上半分しか見えていない。
これが序の口。
地獄が口を開けたかのような高架下だな。
ちなみに僕の愛車のパオは今、この高架の向こう側でこっちを向いて停まっている。
パオが石畳エリアに到達するのは、もうちょっとだけ待っていてほしい。
峠の茶屋「すえひろ」
気温は5度。
さすがに峠は雨風も激しく、カサを持つ手も冷える。
しかし、そんな過酷なシチュエーションをありがとう、暗峠って思った。
さて、そうは言っても外でのんびりしていられるような環境ではない。
ただし峠には茶屋がある。
「すえひろ」という名前だ。暗峠を攻める方にとっては有名すぎるお店だよね。
入ろう。記念に入ろう。
メニューには食べ物もいろいろあるようだが、ご飯はこのあと大阪で寄りたい店があるので食べる予定はない。
コーヒー一杯もらって温まろうではないか。
入店すると、おじいさん&おばあさんが4人、壁を背にしたイスに座っていた。
下の写真でいうと、左側に並んだ部分だ。
店員さんポジションのイスだ。
つまり誰が店員さんかわからない。
下手すりゃ全員店員さんだ。
正解はどれだ。
「こんにちはー」と言うと、全員「いらっしゃい」と言った。
なんてこった。
いや、正確にはホンモノは1人だけなのだろうか、レトロな食堂や喫茶店って、往々にして店員さんに限りなく近いお客さん、いるよね。
大きなテーブルに案内され、350円のコーヒーをオーダーした。
ストーブが温かく、ありがたい。
すぐに持ってきてくれたお茶もアツアツでおいしかった。身に染みる。
テーブルの正面ではサイクリストのコンビが地図を見ながら「どうしよう、本格的な雨になってきた」と頭を捻っていた。
この暗峠、自転車でのヒルクライムのチャレンジャーも多いのだ。
コーヒーが運ばれてきた。
うむ、僕の舌が正常なのであればたぶんアレだな。インスタント的なヤツだな。
だからどうのこうのってワケではないが。
暗峠の頂上で、ストーブにあたりながらコーヒーを飲むというシチュエーションが大事なのだ。
そして一緒に出してくれたかりんとうをバリバリ食べるのだ。
しばらくすると、サイクリストのコンビは意を決したかのように雨の中を出ていく。
4人のおじいさんおばあさんは、口々に「頑張れよ」・「気を付けてな」って言ってた。暖かい空間だ。
入れ代わりで4人のアジア風の外国人のグループが入ってきた。
たぶん徒歩。
「さっき教えてもらったスポット、見つからなかったよ」みたいなことを、たどたどしくおばあさんに報告していた。
そして頑張っておばあさんとコミュニケーションを取り、うどんとかオーダーしていた。
おばあさん、うどんの種類の説明に苦労していた。
では、僕もそろそろ出発するか。
「あのー、誰にお金をお支払すれば…?」と聞くと、4人のおじいさんおばあさんが口々に「私に」・「私に」と言ってきた。
なんてこった。
そんなこんなで、ボス格と思われるおばあさんにお支払をし、僕は店を出る。
おじいさんが外まで見送ってくれ、「気を付けてな」と声をかけてくれた。
暗峠での「気を付けてな」は、ありきたりの「気を付けてな」ではない。
本当に気を付けねばならないのだ。
言葉の重みが違うなってひしひし感じた。
…では!
いざ暗峠の大阪側へ!!
奈良側と比較にならない、日本一の急勾配!!
奈落に堕ちるダウンヒル!!
ここまで比較的笑顔だったYAMAさんも、さすがにビビり倒したぞ!!
もしあなたが続編を気にしてくれるなら、以下からどうぞ!
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 暗峠(「峠の茶屋 すえひろ」)
- 住所: 奈良県生駒市西畑町1077-1-1
- 料金: コーヒー¥350他
- 駐車場: すえひろにはどうやら2台あるらしいが、活用しなかったので詳細不明。暗峠自体には原則駐車場無し。
- 時間: