その建物の存在に気付いたのがいつだったのかは、もうよく覚えていない。
しかし2014年に初めて外観を写真に撮った日のことはよく覚えている。
真冬の四国を走り回っていたとき、国道55号沿いのすごい廃墟テイストあふれる建物が目に入る。
「あぁ、そういえばここにこんな建物あったよな。何の建物かはわからないけど、すごいから写真に撮っておこうかな。」と、考えた。
冒頭で、そのときの写真2枚をご紹介する。
すーーっごいレンガワールドだ。目のくらむほどのレンガで構成されている。
ツタが絡まっていて雰囲気があるが、真冬ということもあって枯れている。
これはこれで退廃的な雰囲気が出ている。
もう1枚の写真だ。
窓枠は丸く、車輪のようなものがはめ込まれている。これが大変エモいな。
そして左端を見てほしいのだが、「ユアサボデー」と書かれている。
ここは何かの工場とかの敷地なのだろうか?
人がいれば声を掛けるところなのだが誰もおらず、無許可で写真を撮ること自体どうなのかと思う。
速やかに立ち去ったった方がいいであろう。
…そう考えて、これ以上キョロキョロせずに車を発進させた。
この建物の正体を知ったのは、帰宅後にWebで調査したときである。
「大菩薩峠」という名前の現役カフェ!!
マジか!そうだと知っていたなら店内突撃したのに!!
チクショウ!
またいつの日か、このお店でちゃんとくつろげる日を夢見ようじゃないか!
廃墟喫茶へようこそ
少し時は流れ、日本6周目。
ちょっとドロドロと空が曇り始めた初秋のことだ。
夢を叶えるためにやってきた。
どう見ても廃墟。
すっげぇな。
この曇り空とレンガの質感が、バッチリとフュージョンしている。
右端の街灯なんか、もうホラーな世界観だ。
ちなみに手前に停まっているレトロな車は、僕の愛車ではない。
これはお店の車らしい。
僕の愛車の日産パオはその背後の柱の陰。
少し角度を変えてもう1枚。
今回は日産パオもしっかり写そう。
こうやって見ると、21世紀な感じが全然しないけどな。
これ古城だ。きっと古城です。
建物の前には『営業中 10-8』という看板が立っていた。
10:00~18:00の営業ということだろう。
前回はこれ、なかったな。
休業日だったのか、設置するスタンスになったのは最近なのか。
もしこの看板があったら、前回も入ったかもしれないのに。
…って一瞬思ったけど、この建物が喫茶店なのかどうなのか、どこにも書いていないよな。
何も書かずに「営業中」とだけあっても、初見ではバリバリ警戒しちゃうよな。
店の入口はどこか。
正解は左側の階段である。
右側のスロープは、実は屋上駐車場に上がるためのもの。
しかしこのお店は敷地が広くて、先ほどの写真の通りお店の前に充分駐車できる。
それにお店と愛車のコラボ写真を撮りたかったので、今回はこのスロープの先に車を進める意義は見い出せなかった。
僕は向かって左側の階段を昇る。
途中で軽くアールを描く階段。
左右共にレンガなので圧迫感があり、「カツーンカツーン」と自分の足音が響く。
まるで古城の塔を登っているかのような感覚になる。
2階に到着。ここで建物内に入るための入口が見えてきた。
チラリと内部が見えるが、中も総レンガ造りですんごい堅牢そうな気配だ。
ワクワクしてきたぞ、これホントに喫茶店かよ。
おっ、外と中の境目には重厚な鉄の扉があった。
悪い人が塔に幽閉とかされちゃうような、そんな分厚い鉄扉だ。
ちなみにこの扉の裏には巨大な鉄の金庫もあった。
ここから先は店内になるのだが、実はこのお店、内装は撮影禁止なのだ。
うん、知ってたけど一応店員さんに聞いてみたけど、やっぱNGだった。
ただしメニューの写真のみであればOKとのコメントをいただいたので、それは後程掲載させてもらおう。
では入店だ。
絶品ピザとアイスコーヒー
「こんにちはー」と怖々入った。
こんな廃墟みたいな建物だから、そりゃ初回に1人で突撃すりゃビビり散らかすわ。そうに決まっている。
店員さんが「あちらの窓側の席にどうぞー」と言ってくれ、日本で例えるなら縁側みたいな、メインフロアと少しだけ境界線のある窓際の席に僕は着陸した。
内装のイメージは、大体こんな感じであった。
店内も壁・天井・床のほぼ全てがレンガであり、茶色一色。
カウンター席もレンガ調で、なかなか渋い。
僕のすぐ脇には、冒頭でお見せした車輪付きの丸窓があり、それ越しに見る外はなんだか別世界のようであった。
店内にも2つほど、壁を巨大な円にくり抜いたゲートがあり、目を引いてた。
そして15:00という時間もあってか、わりと広い店内には僕以外にお客さんは2組ほど。
なかなかにくつろげるぜ。
メニューが出てきた。
黒い扇子を広げると、そこにメニューが書いてある。
他の店でこのような形式を見たことはあるが、毎度とてもユニークだなって思う。ワクワクしちゃう。
フードメニューは、サンドイッチ・ピザ・カレー・焼きそば・ハンバーグ・カツなど。
店員さんの人数に対し、かなり手広くやっている。
サラミピザが600円と安かったのでこれにし、そして300円のアイスコーヒーをつけることにした。
ビビってしまってブレてしまった写真ではあるが、これだけでもいくつかの情報は得られよう。
ピザはシンプルではあるがチーズたっぷりで、しかも複数種類のブレンドのようでとてもコクがあり、おいしかった。
アイスコーヒーは量がたっぷりであり、秋とはいえちょっと暑い日に涼を得るには最適だった。
そして木製のテーブルと、対面のレンガ調だが重厚でウッディなイスが少し写っている。
ここから店内は落ち着くテイストであることも想像できよう。
内装の写真撮影がNGなのは先ほども書いた通りだが、店員さんはそのとき「外観であればご自由にどうぞ。入口を出てすぐのところもなかなかいい写真が撮れると思いますよ。」と言ってくれた。
なるほど。
僕は階段を真っすぐ上がってきただけであり、この入り組んだ建物はまだ見どころがありそうだ。
しっかりと店内を堪能し満足すると、僕は外に出た。
店主が1人で建てた夢の城
さて、この章は再びお店の外観写真を貼り付けつつもい、2001年8月25日に掲載された徳島新聞の記事の内容を噛み砕いてご紹介したい。
ここを建造したのは「島 利喜太さん」。
大菩薩峠のオーナーさんである。オーナー自ら、1から店を作ったのだ。
時期はちょっとわからないけども、島さんは20代の頃(たぶん1950年代~60年代)に、数年をかけて日本一周をした。
「こんな峠に万里の長城のような建造物があったらステキ。自分の土地でそれを実現したい。あと、自分はコーヒーが好きだからそれを商売にしたい。」…っていう2つの野望を抱き、お店作りを始めることとなる。
1966年頃の着工だったらしい。
ふむ、確かに僕もかつてホンモノの大菩薩峠には登山で行ったことがある。
確かにステキな場所だった。
島さんはレンガでお店を造ろうとしたのだが、レンガ工場はそう簡単に個人相手にレンガを提供してはくれない。
なので島さん、裏山にレンガ製造用の窯を作り、そこでレンガ造りから始めたのだそうだ。やること徹底している。
あまりにストイックなので、最初は数人いた職人さんもちょっと引き気味になって姿を消してしまい、ほとんど全てを島さん1人がやったのだそうだ。
そのレンガの数、実に10数万個。
そんなこんなで着工から6年後の1971年、大菩薩峠がオープンする。
先ほど掲載したお店の鉄扉に、このオープン年が刻まれていることに気付いたかな?
ちなみに店内のテーブルやイスなども全部島さんの手作りだ。
シンボリックな車輪付きの窓も、普通に農作業用で使われていた大八車を解体して車輪をはめこんだらしい。
少なくとも徳島新聞に掲載された2001年時点では、建物は未完成とのことだ。
…てゆーか、もう我が子のように思えてしまってちょこちょこ増築したり改装したりしちゃくなっちゃうよね。ライフワークだよね。勝手にそんな気がしている。
だからか、ここは「徳島のサグラダファミリア」とか呼ばれたりもしている。
ちょっと気が引けたので撮影はしていないが、2階中庭の奥には島さんの作業場というかアトリエというか…のような空間もある。
今も島さんは、そこにこもってこの城のバージョンアップを思い描いているのかもしれないね。
クリエイターの執念は、きっと無限大なのだ。
行くならちょっと注意して
なかなかにインパクトの強いお店だ。
しかし雰囲気最高のお店だ。
あなたも「実際に行こうかな」と心揺れ動いたかもしれない。
だとしたら、2つ注意点がある。
1つ目は、前述の通り内装は撮影禁止である点だ。
僕はそれを知っていて店員さんに念のための確認をしたりしたので、特に波風が立ったりはしていない。
しかしそのルールを知らずに撮影してしまおうものなら、かなり強く怒られると聞いている。なかなかにヘコみ、その後も尾を引くレベルと聞いている。
(オーナーの島さんはあまりお店にはいないようなので、それ以外の店員さんに)
インスタ映えとかエモいとかいう言葉ができる前から、それを先取りしているようなこのお店。
写真に残したい思いは強いが、ダメなのだ。
重々注意してほしい。
2点目は接客についてだ。(これまた島さんのことではない)
Webなどで読む限りは、ホスピタリティな対応は一切期待しないほうがいい。
僕は15時台という閑散時間に訪れたので、店員さんの心にもゆとりがあった時間だったろう。
最低限の言葉しか交わしていないが、特にそれ以上も求めていないので何も感じなかった。
しかし繁忙時間に訪れてお店側に確認・要求などを求めるシーンが生じると、穏やかではないようだ。
これまた渋い思いをするかもしれない。
それぞれお店のスタンスがあり、どれが正解とかどれが間違っているとかはないと僕は考える。
だから精一杯オブラートに包んで書いた。
もう少しリアルに知りたいのであれば、「食べログ」のコメントなどに目を通して予習しておくとよいと思う。
もちろん僕は記載内容の信憑性だとか、齟齬・トラブルの責任は負いかねるが。
それでも、ここは魅力的である。
あなたも機会があったら訪問し、内装を目に焼き付けていただきたい。
廃墟でホラーで撮影NGだが、たぶん一生の記憶に残る喫茶店。
1人の男が生涯をかけて築いてきた喫茶店。
そんなエネルギーを感じることができるのではなかろうか。
大菩薩峠、またいずれ行きたいお店。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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