週末大冒険

週末大冒険

ちょっと出かけてみないか。忘れかけていた、ワクワクを探しに。

No.132【愛知県】深夜3時~明け方のラーメン屋!客は店主に見つからぬよう木立に隠れる!

「大丸ラーメン」。

名古屋の今池という町にかつて存在したラーメン屋さんだ。

 

知っている人は、「あぁ、あの伝説の…!」と目を細めるだろう。

知らない人は、その店を知っている人から話を聞いただけで恐怖に震えるだろう。

要するに、三国志で言えば「呂布」だ。

 

その店は、50年の長きに渡って営業していたが、2012年の11月末で歴史に幕を下ろした。

 

「なーんだ、もう存在していないお店なら興味はないや」だなんて言わないでいただきたい。

呂布が遥か昔の武人であっても現代まで語り継がれるように、大丸ラーメンも未来に語り継ぎたい伝説だ。

 

僕も一経験者として、語り部としての責務を果たしたい。

手元には当時の手記がある。

これに少々手を入れつつ、当時の興奮をあなたにお送りしたい。

 

それでは、お聞きください。

食べるも地獄、聞くも地獄の、大丸ラーメン物語。

 

f:id:yama31183:20210908203635p:plain

大丸伝説1

 

 

死臭の中で見つけたもの

 

今池の町といえば、名古屋屈指の繁華街である。

24時間、喧騒の絶えない街というイメージがある。

僕には、そんな街を拠点としていた時期がある。

 

頻繁に歩く道があった。

大きな幹線道路に設置された、綺麗な白い敷石の埋め込まれた歩道だ。


ここの特定の10mほど、歩道が急にベタベタになる。

革靴で歩くのがメッチャ不快だ。

 

 

Googleマップストリートビューで、2012年のものを見つけたので上に貼り付ける。

ここだ。このレトロで昭和テイストなビルの前であった。

正確に言うと、向かって左側のシャッターが下りている当たり。


向かって右側は、一見すると営業しているのかどうかわからないような鍵屋さん・金庫屋さんが入っているみたいだが、ほとんどの場合はシャッターが下りていた。

でも、薄暗い中で営業しているシーンも何度か見かけた。

 

上層階はアパート的な感じのようだ。

ビルの脇に上層階に上がる階段があるのだが、暗くて狭くて覗いただけでちょっと怖かった。

 

 

そんなビルの一角にある、シャッターが壊れたように1m上がっている部分。

 

ちょっとしたひさしがあり、その下には雨の日は、ボロボログチャグチャの玄関マットが敷いてあるから、なんかの施設の入口だと思うんだ。

だけどもなんだかわからない。

入口なんだろうけど、間違っても入りたくはないタイプの入口だ。

 

そこの前の歩道がいっつもベタベタなのだ。

そしていっつも上のストリートビューのように、1mだけ開いているのだ。

 

季節は6月だった。

ジメジメムシムシで有名な6月だ。

このシャッターの1mの隙間から、すっごい臭いがするの。

とても失礼な言い方で申し訳ないのですが、腐ったような、ホームレスのような臭い。

本当にそうなのだから、しょうがない。

 

その半開きシャッターの前を通るときは、いつだって必ず息を止めていた。

だけど気になるから、チラッと横目でシャッターの中を見る。

 

ゴミの山。

ダンボールが転がっている。

そしてシャッターのすぐ奥には小さな小さなカウンターがある。


店舗?飲食店系の廃墟かな?

そのカウンターの上もダンボールやゴミで溢れているから、とても営業しているとは思えない。全てが汚すぎる。

 

*-*-*-*-*-*-*-*


7月下旬

相変わらず息を止めて、その元店舗らしき場所の前を通過したとき、すごいものを見てしまった。

 

キャベツのダンボールを持ってきたであろう業者さんが、シャッターの中を覗いて、中に人に何かを話しかけている!

キャベツを納品している!

 

マジで!?現役の店舗!?飲食店??

看板もないし営業しているところを見たことも無いけど?

今まで僕、このシャッターの前を100回ほど、朝6時から夜23時くらいまでまんべんなく歩いていたけど、店なの!?

ゴミ屋敷ではないの!?えーっ…!??

 

でも、シャッターの奥からは、ボロボロのカッコの70歳くらいのおじいさんが出てきてキャベツ屋さんの応対をしているんだ。

 

f:id:yama31183:20210908203047p:plain

大丸伝説2

Googleマップストリートビューの最古の映像に、偶然それに類似するシーンが収められている。おじいさんが外の物品を建物内に運び込もうとしている。

 

えーー、どういうこと?キャベツ屋さん、あの臭いの中で大丈夫なのかな?

キャベツの運命もかわいそうだな。

 

しかし、あの店舗(?)は一体なんなんだ?

なぜにキャベツを大量に買い付けているのだ?

 

僕はWebで調べた。

店名のあるお店であれば一発だが、看板や暖簾などを出している気配はない。

だからWebでそれっぽい住所を打ち込んだり、ビル名や同じビルに入っている鍵屋さんの名前で検索したり、いろいろやったさ。

 

そして…、検索できた!!

 

  • 店名…大丸ラーメン
  • 営業時間…深夜3時~早朝5時

 

えぇぇぇぇぇーーーーーー!!!??

 

…これが、僕と大丸ラーメンとの出会いだった。

 

 

僕らは物陰に潜むネコだ

 

大丸ラーメン。

僕が良く歩く通りの、臭くて汚い半開きシャッターの中は、そう呼ばれているお店だと知った。

いや、本当にオブラートに包まない表現で申し訳ない。ただしガチで不快感しか感じていなかった。


営業時間は深夜の3時ごろから5時ごろまで。

オーナーのおじいさんの気分次第なのだそうだ。

なるほど、だからいつも店の前を通っても営業していなかったのか。

 

ちょっと気になったので、さらにWebでいろいろ調べてみた。

 

  • 店名は知っていても場所は知らない人が多い。看板が出ていないので、深夜に今池の町を徘徊して自力で探す形式。
  • 創業50年で、おじいさんが若いころからやっている店。
  • ドカ盛りで激安。麺はうどんや焼きそばも使っている。
  • クソマズい。
  • お客さんに材料を買いに行かせたりする。
  • カウンターを拭く雑巾に触ると、手を洗っても臭いが落ちない。
  • 深夜のわずかな時間しかやっていないのに、すごい行列する。ファンも多い。「大丸ラーメンの歌」も作られている。
  • 2012年の8月に閉店予定。なぜなら、お店のあるビルが東日本大震災のあとの査定で基準値を満たしていないことが発覚。老朽化もあって取り壊されることになったから。


うおぉ、濃厚すぎて情報を頭の中で処理しきれない…。

とりあえず調べながら「ヤベー、ヤベー」しかコメントが出て来なかった。

 

普通の人は「すごいカルトなラーメン屋がある」というウワサを掴んでから必死に店の場所を探すんだけど、僕は真逆だった。

怪しい建物を発見し、それを調べて行くうちにラーメン屋だと気付くという。

 

とにかく、8月末に閉店するのか。

既に今は8月第2週だから、あと3週間か。

てゆーかさ、あんなヤバい店でラーメン作って、深夜なのに人が来るの?

信じられないんだけど。

 

でも、ちょっと興味をそそられる。

自分の目で見てみたい。あわよくば、食べてみたい。

 

だけども、あと8月末閉店ってことはもう今週末しか行く機会がないと気付く。

その次の週末から僕は北海道に旅立ち、その旅行が終わるのがもう8月最終週だからだ。


よし、じゃあこの週末に調査してみるか…。

ボロクソ書いておいて、結局のところ興味津々なのだ。

自分で自分が恐ろしいぜ、まったく…!

 

*-*-*-*-*-*-*-


2012年8月11日(土)、深夜2時過ぎに僕はフラリとこの通りに現れた。

こんな深夜にドカ盛りラーメン食べたい気持ちは1ミリもないけど、これも調査だ。

 

お店が視界に入る角を曲がると、うおっ!!

本当にあのボロボロのビルの前に20人くらいたむろしている!!

いつもシャッター半開きで腐臭が漏れてくる店舗に明かりがついている!

 

まずは通行人を装って、店の前を通過してみた。

中からプワンと醤油の香り。

チラリと見えた店の中はやはり汚いけど、食べ物の匂いがしただけでかなり安心感を感じてしまったから、人間って不思議。

 

たむろしている客層は、メインは大学生から20代後半の男性。そしてその連れの女性。

うおぉ、女性もあんなヤバい空間入るのだね。初デートだったらいろいろすごすぎる。

あ、でもほとんどの人は飲食店としてもこの店の顔しか見ていないから平気なのかな?

昼間のデロデロの状態を見ていないから。

 

それからちょっと怖そうなおじさんたち。

今池はライブハウスとか多いので、それ系の人と、あとは繁華街だから夜のお仕事系の人が多いみたいね。

 

怖いけど、列の一番後ろに並んでみる。

大体並んでいるのはグループか、1人でも常連っぽい人。

僕は新参者で1人だから、ちょっとドキドキだ。

 

2:30、店の中からオーナーのおじいさんが出てきた。

僕らの方を見て、「今日は営業しないです!帰ってください!」と言う。

僕らがモジモジして店の前からなかなかどこうとしないと、「営業しないと言ってますでしょ!帰ってください!!」と再度言う。

僕らは仕方なく店の前を離れ、誰もいなくなった。

 

…ってのは、実は毎日やっている恒例行事らしい。

 

Webで事前に読んで知っていた。

行列の人が騒いで近所迷惑にならないように、追い払うらしい。

並んでいたおよそ20人の人たちは、思い思いの場所で虎視眈々と店の様子をスパイの様に伺う。

 

f:id:yama31183:20210905214957j:plain

大丸伝説3

2:50、おじいさんがまだ店の前をウロウロして、お客がいなくなったかを監視しているみたいだ。


僕は道路の対面からコッソリそれを見ていた。ネコのように。

僕の近くで待機している人がもう2人ほどいたけど、「これは開店まで時間がかかりそうだな…。今日は全員食べることはできないだろうな…。」と言っている。

なんだこの人、相当な手練れだ。

 

なんかね、この店は以前はもう少しまともな営業時間だったのよ。

夕方開店で朝方閉店みたいな。

 

だけどもおじいさんの体力が追い付かなくなり、開店時間がどんどん遅れ、だけども閉店時間は朝の5時で固定。

そんな感じで今では午前3~5時の営業となってしまったのだ。

だけどもこれもおじいさんの気分次第なんで、もっと早いこともあれば遅いこともあるらしい。

 

…雨がポツポツ降ってきた。あー、カサ持ってないわ。

なんか気分が萎えるなー。

 

3:15になった。まだ誰も店の前に戻って来ない。

みんなビルの陰や木立の陰からお店を監視している。

おじいさんも時折ビルから出て来ては、周囲をキョロキョロ警戒している。

なにこの深夜のサバイバル劇。


んー、なんかもう今日はやる気失せたな。僕、帰るわ。そんで寝るわ。

明日の夜に再チャレンジしてみようと思う。

そして、きっとそれがラストチャンスだ。

 

 

買ってこい、ブラックサンダー

 

翌日の2012年8月12日(日)、僕は再び大丸ラーメン攻略に乗り出す。


深夜3時開店って言っても、今はオーナーのおじいさんのスタミナも限界近いから、実際に店がOPENするのはもっと遅くだろう。

そう考え、昨日よりもアプローチ時刻を遅く設定する。

 

2:45、大丸ラーメンの前に来た。

まだ店は準備中。30人ほどの人たちが店の様子を窺いながらたむろしている。並んでいなくって、お店の前にウジャウジャしている感じだ。

店内の席は…、5席だっけ6席だっけ?

ひとまず6回転くらいしないと僕の順番は来ないな…。

 

3:15、人々が列を作り始めたので、僕もそれに混じった。

1人で並ぶのは何かアウェイな感じだ。ヒマ。

 

3:20、昨夜と同様におじいさん出現。「営業はしないです!帰ってください!!」と声を張り上げ、僕らを追い払う。

いや、じゃあそのお店から漏れてくる醤油のにおいはなんなんだと。あなたの夜食か?

ひとまずみんな撤退。そして昨夜同様にネコのように思い思いの物陰から店を物色する。ニャー。

 

3:37、再びコソコソと30人が店の前に集結。

行列ができた。僕もスルリとその行列に入り込んでいる。

 

僕の後ろに並んでいる2人組の片方の人は、「この店、今月で閉店するから10数年ぶりに食べに来てさぁ。楽しみだ。」とかなんだとか話している。

その相方は今回が初回の訪問っぽい。聞き耳を立てて情報収集をしておこう。

 

3:42、行列の前の方からアメの袋が回ってくる。

自分の分を取って後ろに回す。

このお店、待っている間におじいさんがこうやってお菓子を回してくれるのだ。

なんだよ、ついさっきは追い払ったくせに優しいじゃないか。

ツンデレか。惚れるぜ。

 

そしてよく見えないが、この後すぐにどうやらお店が開店したようだ。

この時間(3:45)に開店とは。遅ー…。

 

4:35、並んでいるうちに空が少しずつ明るくなってきた。

鳥がチュンチュン。

あー…、何やっているんだ、僕…。

でも、行列は順調に進んできた。あと10人、2回転くらいかなー。

 

4:40、行列の一番前のお客さんが、おじいさんに買い出しを頼まれたらしい。

近所の「100円ローソン」に竹輪とブラックサンダーと麺を買いに行かされた

Web情報によれば、これも恒例イベントだ。

 

買い出し担当のヤツ、嬉しそうに生き生きと「100円ローソン」に走って行きやがった。

なんなんだこの店…。麺も具材も「100円ローソン」とは。

しかしね、まだ開店から1時間弱、10数人しか店に入っていないのに、もう食材在庫切れ?

計画性の無さが素晴らしいぜ、コラ。

 

4:53、いよいよ行列の先頭まで来た。

店内のカウンターにてスタンバイしている人が外の僕を見て、「1名入れるそうですよ」とおじいさんの言葉を伝言してくれた。

来たー!ついにあの暗黒空間に足を踏み入れるとき!!

カウンター5席だけのクッソ狭い店内に入り、外に一番近いカウンターに座る。

 

f:id:yama31183:20210908205017p:plain

大丸伝説4

うわぁ、うわぁ…!!

あれだけ忌み嫌っていた店内に入っちゃったよ。

そんで暑いなここ。地獄か。

開けっ放しのドアから朝の少しヒンヤリした風が吹き込むのが不幸中の幸い。一番外に近い席でよかった。

 

f:id:yama31183:20210908205522j:plain

大丸伝説5

僕の席からの眺めがこれだ。

 

カウンターは僕を含めて男性3名、女性2名。これでギュウギュウ。

おじいさんはカウンターと荷物に囲まれた、1畳も無いスペースで汗だくになってラーメンを作っている。

 

冷蔵庫を置くスペースが無くって、僕らの座席の後ろに冷蔵庫がある。

ときどきおじいさんは「冷蔵庫から竹輪取ってくださーい!」と僕らに指示をする。

 

f:id:yama31183:20210908205222j:plain

大丸伝説6

5:05、まだ出てこないラーメンを待っていると、突然おじいさんが言う。

 

「暑ーい!もうダメ!休ませて!もうここね、炎のすぐ側なんだもん。炙られているようなもんだもん!はい、今日は店内にいる人まで!」

そしてちょうど1人が食べ終わって空いた客席にドカッと腰を下ろした。

 

…は?もう辞めちゃうの?店内にいる人までってことは、僕のラーメンまではOK?

聞いてみると僕のは作ってくれるって。

「でも外の人のは無理ね。帰ってもらってください。」

そう僕に指示をする。

 

しょうがないので僕はドアから顔を出し、「あのー、もう今日は作らないそうなんで、帰ってほしいそうです…。」と告げる。

外にはまだ2・30人が並んでいるんだけどな。

そういやもう店の閉店の時間である5時を回っているな。

 

外の人たち、「は??」みたいな顔をしている。

なかなか現実を受け止められずに、その場を動かない。

奥でおじいさんが「本当に作らないから、待ってもらっていても悪いけどダメだから、帰ってもらってください、ハイ。」と再度言う。僕はそれを伝言する。

 

外の人たちもそれでようやく諦めだした。

僕のすぐ後ろに並んでいた、「10数年ぶりに食べに来て楽しみだ」と言っていた2人組も、ションボリしながら帰って行った。

 

…ねぇ、で、僕のラーメンは?

おじいさんはドッカリ座り込んじゃってレストタイムをエンジョイしているけど、誰がラーメン作るのですか??

 

 

うどん・焼きそば足しますか?

 

2012年8月12日(日)、早朝の5時過ぎ

僕はラーメン屋で、自分のオーダーしたラーメンが出てくるのを待っていた。

 

ま、オーナーのおじいさんは、僕ら客と同様にカウンターのこっち側の椅子に座っているんだけどな。

カウンターのあっち側?

いや、誰もいないよ。無人

 

f:id:yama31183:20210908205316j:plain

大丸伝説7

そんでこんな早朝だけども朝ご飯としてラーメンを食べるのではないのだよ。夜食。

もう2時間半も待っていて、外はすっかり明るくなってきちゃった。

 

「暑いですね。扇風機つけますね、ハイ」

おじいさんはそう言い、針金だけで出来ているような昭和テイストの扇風機のスイッチを押す。

なんか「ガショガショ…ガション」と音がしただけで、扇風機は再び静かになった。

アレレ。

 

上を見ると、蛍光灯がチカチカ点滅しだした。

「今月でお店もおしまいですし、私も74歳ですし、何もかもが寿命なんですよ…、ハイ。」

おじいさんは寂しそうにそうつぶやくが、吹っ切れたように立ちあがり、またカウンターの中に戻ってラーメンを作り始めた。

 

僕は今まで店の外観を「汚い臭い」とののしっていた。

もちろん内装も備品も全てが汚い。

 

麺を上げるザル、なんかチラッとしか見えなかったけど、デロデロみたいのが付着していない?ザルから麺じゃない何かが垂れ下がっていない?

深海からいろいろ引き上げるサルベージ船のカゴを彷彿とさせた。怖い…。

 

で、なんやかんやで僕と他2人の、今日のラストのラーメン3つが完成した。

「えー、ではそこのアナタ、立ってください、ハイ」

おじいさんは目の前の客を1人立たせる。

 

説明しよう。

5席ほどしかない大丸ラーメンのカウンターの上は、物が多くて内側からお客さんにラーメンを出そうにも、ラーメンを置ける場所が1箇所しかない。

その1箇所に座っているお客さんが、全員にラーメンを配るのだ。

 

f:id:yama31183:20210908205017p:plain

大丸伝説8

幸い、そこの席は常連と思わしき人。

僕じゃなくて本当に良かった。あの席だけは嫌だった。

 

鬼のように大盛りのラーメンは、注意してもスープがこぼれる。

だからカウンターのふきんを使って丼を持って、そーっとおろすんだ。

 

そのふきんは当然スープで汚れ、洗っていないのかどうかはナゾだけども色はブラウン。まるで油揚げのようだ。

これを使用した者は手を洗っても匂いが落ちないという、伝説のふきん。呪いのアイテム。

その彼が、素晴らしき自己犠牲の精神で、カウンターのラーメンを僕を含む3名に回してくれた。

 

f:id:yama31183:20210908205641j:plain

大丸伝説9

5:10、戦闘開始!敵は強大だぞ、気合入れて行け!!

 

本当はこの店、カメラ厳禁なんだ。完全撮影禁止をもう50年も貫いてきた。

だけどもおじいさんが「もう閉店だから、自由に撮ってください、ハイ」とみんなに言っていたので、僕も撮影できた。

 

このお店は、盛り付けもボリュームも適当。

だから作るたびに微妙に違うラーメンになっちゃうんだって。

そうしたら昔、「Webで見た写真と実物が違うぞ!」と突っかかって来たお客さんがいたそうだ。

そういうトラブルを抑制するため、撮影禁止にしていたんだって。

 

まずは大量のモヤシ。軽く湯がいてあるだけで、味付け無し。

マジで絶望するほどの味気のなさ。

 

f:id:yama31183:20210908205222j:plain

大丸伝説10

でも、これは知っている。

だからこそ、カウンターの上にソースや醤油、ニンニクチューブがあるのだ。

みんなこれで好きに味付けするのだ。

おじさんに頼めば焼きそばの粉末スープも出してくれるらしい。


それらの調味料がスープに溶けだして初めて、大丸ラーメンのスープの完成なのだそうだ。なんだそりゃ。

ひとまずソースをかける。こだわりのラーメン店なら、この時点で激怒だな。いや、待っている間にアメを食べていた時点でアウトかな。

 

drive-ns.hatenablog.com

 

モヤシ地獄。なんとか食べ進める。

ソースをかけたところで味気ない。テンションが全然上がらない。

だけどもコイツをどうにかしないと麺が出て来ないのだ。

 

f:id:yama31183:20210908221159j:plain

大丸伝説11

もうビビッてカメラがブレちゃって恐縮なんだけど、ようやくラーメン本体の登場。

だけどもこれでもまだ普通のラーメンの1.5倍はある。


中太麺、そしてナゾの味付けの肉、買ったばかりでまだ冷たいチクワ、カマボコ。

味は…、うん、マズい!!

すでに閉店した今だから正直に言うけど、マズいよこのラーメン。

 

スープは昆布だしと醤油だけで作っているらしい。

それをラーメンのスープと呼べるのかどうか、なかなかキワドいラインを攻めている。


ナゾ肉だけは、オリジナリティのある濃い味付け。

これだけはイケるかも。

でも、考えたら負けだ。一気に食べないと、絶対に完食できない!

 

隣の人は僕より先に食べ始めたため、もう完食間近。

おじいさんに「替え玉いりますか?」って聞かれていた。

 

ここは替え玉無料なのだ。

まぁデフォルトで普通のラーメンの倍くらいのボリュームがあるので、替え玉まで行くには相当生命力がある人に限られるけど。


隣の人は「あ、うーん…」と渋っている。

するとおじいさん、「うどん?焼きそば?」みたいに聞いていた。

オーダーしたうどんが投入される。

それ、もう既にラーメンじゃねーし…。スープも麺もラーメンじゃねーよ…。

 

f:id:yama31183:20210908221625j:plain

大丸伝説12

5:26、完食!!

限界!汗だく!

 

残したら悪いから、死ぬ気で食べたよ。

カウンターのこっち側の席でバテているおじいさんに、「ごちそうさまでした」とお金を払う。

550円だったかな?タクシーの初乗り料金と一緒ってのを、創業以来ずっと貫いているそうだ。


「ありがとうね。ハイ、ブラックサンダー

そう言って手渡されたのは、さっき客の1人が買いに行かされたブラックサンダー

食後にはお菓子をもらえるのがここのルール。

 

f:id:yama31183:20210908221738j:plain

大丸伝説13

外に出ると、もう完全に朝。

1日が始まりつつあるのに、僕は寝不足だし腹パンパンだし、なにやっているんだろう…。

 

家に帰る。現実に戻ってきた気分。

ブラックサンダー、今はとても食べきれない。

 

f:id:yama31183:20210908221929j:plain

大丸伝説14

あ、ブラックサンダーじゃなくってモーニングサンダーだった。

アイツ、オーダー間違えて買ってきやがった。

 

グッド・モーニング。

なんという皮肉。

これから寝て、起きてから食べよう。

では、おやすみなさい。

 

 

キミにも届け、この戦慄

 

2012年8月末で閉店予定だった、超カルトラーメン屋の大丸ラーメン。

8月末閉店だからこそ頑張って8月中旬に食べたのに、閉店しなかった。


「ビルの大家さんが、まだ取り壊し工事が始まらないから営業していていいと言ってくれたんです、ハイ」とのことだ。

近いうちの閉店は決まっているが、ギリギリまで営業するらしい。

 

Web上では、10月末説や、11月末説が飛び交っていた。

みんな気になる大丸ラーメン。

 

すっかり肌寒い季節となった。

僕は相変わらず、大丸ラーメンの前を頻繁に歩いていた。

営業している深夜3時とかに出歩くことはほぼないので、いつも営業時間外の半分シャッターの閉じた状態を横目で見ながら通過していた。

 

やっぱり飲食店とは思えない汚くて臭い店の前。

中をチラリとみると、オーナーのおじいさんがカウンターに突っ伏して寝ている。

来る日も来る日も。

いつも同じ服だしね。洗濯しているのかな、あの服…。

 

おじいさんは家に帰っているのだろうか。

70過ぎなのにいっつもカウンターで寝ていて、疲れは取れているのだろうか?

 

24時過ぎくらいに例の「100円ローソン」で買い物をしていると、たまにおじいさんに会う。

いつもカゴいっぱいのモヤシや竹輪を買っている。

レジでおじいさんのすぐ後ろに並ぶと、会計に時間がかかることを気にしてか、「すいませんね、ハイ」と言ってくれる。


まれに夕方ごろ、モヤシを持ってヨタヨタと今池の町を歩いている姿を見かける。

だいぶ足が悪そうだ。


2012年10月下旬、親しい友人たちと名古屋を満喫した。

その際、僕はみんなに「今池にはヤバいラーメン屋があるんだぜ」と紹介した。

昼間の大丸ラーメンの前に行き、先の武勇伝を語った。


半開きシャッターの中から、カウンターで寝ているおじいさんがチラリと見えた。

友人メンバーの1人に「室伏」というナイスガイがいる。

関東圏の廃墟・廃村巡りの頼りある相棒だ。

 

その室伏が「うおぉ、行きたい!興味ある!でも深夜に並ぶのか…」とかモジモジしている。

「もうすぐ閉店なんだぜ、一生に一度なんだから行けよ」、と僕は後押しした。

室伏はやる気になった。

 

夜が更けた。午前2時過ぎだ。

再び友人たちと大丸ラーメンの行列を見に行く。

「じゃ、頑張ってね」と言って室伏を行列に並ばせてから、その場を離れた。

 

そのあとは何度かメールで実況中継が来た。

「なんかおじいさんに『帰れ!』って言われたんだけど!」「お菓子が配られた!」…とか。

うんうん、知ってる。

あと、「寒い」とかメール来る。知らん。

 

f:id:yama31183:20210908223038j:plain

大丸伝説15

そのとき室伏が撮影した写真がこれだ。

 

「8年半前のことで恐縮なんだけどさー…」と、室伏に連絡を取り、当時の画像をもらったのだ。

久々に連絡して大丸ラーメンの画像要求だよ。僕はヒドいヤツだ。

そして室伏も無事に完食したようだ。

 

f:id:yama31183:20210908223223j:plain

大丸伝説16

5:30に完食して帰って来た室伏は、「マズい…。シンドかった…。後悔している。」と言っていた。


ま、食べなくても後悔するより良かったんじゃなかろうか?

フォローするために、「でも、ナゾ肉はそこそこうまいよな」って言ったら、「いや、ナゾ肉が1番マズかった…」と苦しそうに言ってた。

アレ?

 

…そして、11月。

名古屋はめっきり寒くなる。

大丸ラーメンの閉店日は11月末で確定した。

本当に最後の日がやってきた。

 

f:id:yama31183:20210908224637p:plain

大丸伝説17

 

 

木枯らしの中のサヨウナラ

 

2012年11月末日。大丸ラーメン最後の日。

別に僕はもう再びあの店に行くつもりはない。

どうせ今日は凄まじい行列になるだろうし。

 

夜に例の「100円ローソン」に寄ると、オーナーのおじいさんがいた。

竹輪とモヤシを買っていた。

 

どちらからともなしに、「こんばんは」と声を掛けた。

ここでおじいさんを見かけるのも、きっと今日が最後。

50年続いた最後の営業、頑張ってくださいな。

そして僕がおじいさんを見たのは、これが最後であった。

 

翌12月1日

いつもいつもずーーっと半開きだったシャッターは、初めて閉じられていた。

本当に終わっちゃったんだね。

なんだか木枯らしが身に染みた。

 

しばらくして、大丸ラーメンのビルの周囲に解体のための足場が組まれた。

ドカンドカン音がして、再び足場が撤去されたときには、もうそこにはビルは無かった。

その後、真新しいビルが建設される。

もうここのロケーションは、以前とは全く違うものになってしまった。


さらに2年半の月日が流れ、2015年4月中旬

じいさんがいつもモヤシとチクワを買っていた「100円ローソン」も閉店してしまった。

僕はその最期も見届けていた。

 

同じく2015年4月、僕は行きつけのバーで知り合った人から話を聞いた。

なんの経緯か覚えていないが、大丸ラーメンの話になったのだ。

あのおじいさんは、ウワサでは閉店してからものの1・2ヶ月で亡くなったとのことだ。

 

そうか…。本当かウソか知らないが、毎日毎日休みなくラーメンを作り続け、お店のカウンターで寝たりして50数年。

まさにラーメンのための人生だったのだね。

その肝心のラーメン、味のレベルが控えめだったけどね。

 

汚いし臭いしマズいけど、ファンの多いお店だった。

(ごく一部の人に熱狂的に)愛されていた。

記憶には強烈に残った。

僕は今も名古屋の話になると、あの大丸ラーメンを思い出す。

 

*-*-*-*-*-*

 

2021年現在も手元には、今池の街のどこかでもらった、商店街のMAPがある。

 

f:id:yama31183:20210908224319j:plain

大丸伝説18

このMAPの一部に注目していただきたい。

 

f:id:yama31183:20210908224408j:plain

大丸伝説19

買い出ししたモヤシを持って歩く、おじいさんがいるのだ。

 

きっとこれから店に戻って仕込みに入るのだろう。

昆布ダシと醤油だけの、メッチャシンプルなスープの仕込みに。

 

おじいさん。

…大橋さん。

ありがとう。おつかれさま。

あなたのことは忘れません、ハイ。

 

 

エピローグ

 

コロナ直前のことであった。

家族と共に深夜の栃木県足利市を歩いていた。

何度か通っている、お気に入りのバーで飲んだ後であった。

 

僕はふと足を止めた。

 

f:id:yama31183:20210908224855j:plain

大丸伝説20

あ…。

ボロボロのビル。赤いひさし。一箇所だけ灯った照明…。

 

記憶の奥底にあった大丸ラーメンの思い出が久々に蘇った。

 

f:id:yama31183:20210908225244j:plain

大丸伝説21

 

「大丸ラーメンっぽいね」と、すぐに横から声が聞こえた。

 

よくわかったな。

昔チラッとお店の外観を見せに行っただけなのに。

胸が温かくなった。

 

以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。

 

 

住所・スポット情報

 

  • 名称: 大丸ラーメン(すでに閉店)
  • 住所: 愛知県千種区今池5-38-23 岐阜正ビル1F
  • 料金: ラーメン¥550
  • 駐車場: なし
  • 時間: 深夜3時~朝5時ごろ