週末大冒険

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ちょっと出かけてみないか。忘れかけていた、ワクワクを探しに。

No.516【東京都】さようなら、有楽町高架下の名店!「慶屋」のうどん、うまかったなぁ…!

山手線も乗り入れ、皇居も目の前である有楽町駅。そこの高架下に「慶屋」という、うどんのお店があった。

 

屋外というか屋台というか立ち食いというか、一見するとそんな風にも見えてしまう粗雑な雰囲気のお店なのだが、実は名誉ある「うどん百名店」に複数回登録されている、めっちゃおいしいうどん屋さんなのだ。

 

 

この雰囲気の中でうどんを食べるのがたまらなく好きだった。しかし残念ながら、2025年9月に閉店してしまった。その翌月である10月に店舗前に立った僕は、心にポッカリと穴が開き、そこに秋風が吹きこんだかのような気持ちになったよ。

 

 

ここのカレーうどんが絶品だったのだが、もうこのお店でこのおいしいカレーうどんを食べることはできない。

だけどもその思い出を語ることならできる。せめて、あなたにも知ってほしい。慶屋の魅力を…!

 

 

オリンピックの裏側で

昭和時空の高架下

 

2021年8月。空腹の僕は、有楽町駅前をフラフラと歩いていた。

 

TOKYO2020

TOKYO2020の大会開催のため、車は迂回を強いられていた。

「TOKYO2020って何?」っていう後世の方々にご説明すると、これは2021年に開催された東京オリンピックを指している。なんで「2020」なのかというと、本当は2020年の予定だったから。でもコロナウイルスの流行で1年遅れての開催になったんだよ。

 

そんなオリンピック真っ只中に僕はいた。

オリンピックはさておき、どこかでご飯を食べよう。スマホを取り出して検索すると、「まんぷく食堂」というお店があることを知った。昭和レトロなコンセプトで面白そうだし、"まんぷく"ってことは文字通り満腹になれそうだ。じゃあ、そこに行ってみようか。

 

高架下にいざなわれる1

まんぷく食堂のある高架下に入り込んだ。いきなり「ビフテキ」とか書かれている。ビーフステーキの略語であり、昭和時代に使われていた言葉だね。意味は分かるが、僕は人生において一度も使用したことのない言葉。

 

高架下にいざなわれる2

あぁ、ところでまんぷく食堂は開店していなかった。

ここ、居酒屋じゃないか。食堂って名前だから勘違いしたよ。週末などは昼過ぎから営業するそうだが、今日は平日。開店するのは普通に夕方以降だそうだ。今はまだ13時過ぎだぜ。全然無理。まんぷく食堂の前で、僕だけ空腹食堂。後生だからビフテキ食わせてくれよーって思った。

 

高架下にいざなわれる3

ところでこの高架下、ボロボロでレトロなポスターが多数貼ってある。僕にはこの時代のポスターの内容はよくわからないし、本物かどうかもわからない。おそらくはまんぷく食堂が世界観を演出するために貼っているのだろうな。

 

高架下にいざなわれる4

子連れ狼」だけ読めるけど、何を意味しているのかはよくわからない。

そんな昭和の空間から連続するかのように、その先に僕の目に映ったお店がある…。

 

高架下にいざなわれる5

うどん・そばの慶屋。営業しているようだ。なんだここ…!

 

 

衝撃のカレーうどん

 

有楽町駅付近の高架下にて、慶屋といううどん・そばのお店を見つけた。すごいロケーションだ。

 

慶屋との邂逅1

暗い空間にたたずむお店。どうやら"店舗内"という概念はないみたいだ。完全に歩道にはみ出したところにテーブルとイスの席がある。あとは5つほどのカウンター席のみと見た。

ここからでは全容がイマイチ掴みづらい。少し角度を変えてみよう。

 

慶屋との邂逅2

なるほど、ヤベー。暖簾にはデカデカと「カレーうどん」と書かれている。カレーうどんが名物なんだな、暖簾もカレー色だしな。

しかしチラリと見えたメニューには、普通にかけうどんやかけそば、それから温玉うどん・天ぷらうどんなどもあるっぽかった。あとコロナ禍だからかテイクアウトも可能な様子だ。

ちょっとビビってしまうが、今日はここに突撃してみるかー…!「すみませーん」と店主のおじさんに声をかけ、無人のカウンター席に座った。

 

慶屋との邂逅3

これがお店に吊り下げられていたメニューだ。普段だったら僕は、初回訪問のお店であれば普通のうどん・そばになんらかのトッピングをしたものをオーダーするだろう。

だが、あそこまでデカデカとカレーうどんをアピールされてしまったなら、ここはもうカレーうどんでいくしかないのではなかろうか…?

 

僕は600円の冷やしカレーうどんにした。高架下は電車や車の通行音が反響しやすくって、ちゃんとおじさんの耳までオーダーが届いたか心配だったが、おじさんは静かにうなずいたのできっと大丈夫だ。

 

慶屋との邂逅4

『当店は手打うどんそば店です。立喰店ではありません。時間のない方は、御遠慮願います。』と書かれた貼り紙。お店の高いプライドが窺える。こういうロケーションだからササッと提供されて、サクッと食べれることを期待する人も多いのだろう。

そんなんじゃない、本格うどんそば店だってことだ。ワクワクしてきたぞ。

 

慶屋との邂逅5

おじさんが狭い狭い厨房でなにをどうやっておいしいうどんを作っているのかは不明だし、全幅の信頼を寄せるしかないので、待ち時間を利用して僕は周囲をキョロキョロと眺めた。

 

これはテーブル席。せわしなく歩道を行き交う人がチラッと不穏な目でこっちを眺めてくる、そういう立地だ。テーブルクロスは大層年季が入っていそうだね。うどんの名店とはにわかに結びつかなそうなテーブル席だが、そのギャップが萌えポイントだね。

 

慶屋との邂逅6

僕の座っているカウンター席。椅子の足元をよーく見てほしいのだが、敷地ギリギリに収まるかどうかくらいの位置だ。テーブル席はグレーゾーンなのかもしれないが、カウンター席はめいっぱい前のめりで座れば敷地だ。

ちなみにあまり後ろに椅子を引いてしまうと、歩道に向かってちょっとスロープになっているので、最悪後ろに倒れて後頭部を打つ。

 

…そんな妄想をしていたら、おじさんから「ご飯はつけますか?」と聞かれた。よくわからないけど「はい」と返答した。

 

慶屋との邂逅7

これが冷やしカレーうどん、ご飯つきだ。こだわっているだけあり、10分弱くらいは待ったと思う。全然あり。

水で締めた冷たいうどんをカレー汁につけて食べるスタイル。ご飯はカレーメニュー限定のサービスのようだ。ありがたい。

 

慶屋との邂逅8

んで、うまいー!

うどんは細麺で絹のようにツルツルだ。味も上品。カレー汁はややスパイシーで、ダシなどと融合させているのだろうが、それが絶妙。小麦粉っぽくもないし、ダシっぽくもなく、でもうどんと最高に合う。

 

うどんの量は少なめ。たぶん少食の人でも「やや少ないかな…」って思うくらいのボリュームだ。だからこそご飯の存在が嬉しい。カレーとご飯、後半はこの組み合わせでガツガツいける。

 

慶屋との邂逅9

うまかった。お腹を満たして高架下から出て見上げた空が青かった。

オリンピックイヤーの夏、僕にもかけがえのない思い出ができた。

 

 

慶屋の魅力にハマる日々

 

以降、僕は何度も慶屋に通うこととなる。それらを少し羅列していこう。

 

寒い冬の日のこと1

それは寒い冬の日のこと。慶屋には屋外の概念がないので、高架下を吹き抜ける木枯らしを背中で受け止めながら麺をすすることとなる。

望むところよ。こういう日はアツアツのカレーうどんで温まればよい。スパイス効果でホットになれるに違いない。

 

寒い冬の日のこと2

カレーうどん。大き目の渋い器で提供してくれる。やっぱカレーは麺もアツアツの状態で食べるのが至高かもしれない。麺が少なめだが物足りないくらいがちょうどいいかもしれない。

すぐ目の前は皇居だが、皇族は徒歩圏内なのにきっとこのお店を知らないし、知っていても来ることができないよね。それってちょっと切ないよね。…って考えたりした。

 

寒い冬の日のこと3

最後はここにご飯をぶっ込めばカレー雑炊になるんだよ。そういう庶民的でワイルドな食べ方をしてみるのもこのお店の魅力の1つ。頭上を走る山手線の走行音と、店内にかかる割れたAMラジオをBGMにしてすするカレーうどんのうまいことよ。

 

天ぷらうどんを食べた日1

これは天ぷらうどんだ。具の多いかき揚げが嬉しいよね。ザクザクした食感がとてもよい。ダシも東日本特有の、しょうゆ味が強めでかつやや甘味がある。

天ぷらうどんを食べた日2

狭いカウンターテーブルは、うどんの器を置いてピッタリくらいの奥行だ。多くを求めず、うどんを食すことのみを追求したらこういうお店になった…みたいな感じだよね。

 

食べていると業者の人が来て、お店のおじさんとおしゃべりしていた。電車の走行音で会話はほとんど聞こえないはずなのにちゃんとコミュニケーションが取れているっぽいのは、これまた熟練の技なのだろう。

 

天ぷらうどんを食べた日3

高架下の名店。一般受けしない外観だが、味だけは間違いなく誰もが認めてくれるであろうお店。そんなお店の味を知っている自分自身が、ちょっとだけ誇らしかった。

 

それは月夜1

それは初夏の月の綺麗な夜の記憶…。

満月を見ると誰しも興奮するよね。初夏のまだ暑くなりすぎない気候のいい時期であればなおさらである。もちろん僕は有楽町を目指していた。

 

それは月夜2

うぉぉ、すんごいにぎわっている。奥のまんぷく食堂の、店外にまで並べられたテーブル席とワイワイ酒を飲んで楽しむ人たち。まさに夏らしい光景。

その空間と、隣の慶屋との一体感よ。慶屋もカウンター席に2人、テーブル席に1人お客さんがいる。今夜は夏祭りですかな…?

 

それは月夜3

このお店にもビールや焼酎といったお酒類はあるが、僕はそれらは頼んだことはなかった。カップ麺であればビールも合うだろうが、個人的にはうどんとビールは合わせたくない。ましてはここでは、ちゃんとうどんに向かいたい。

なのでお酒を飲んで盛り上がる人々の歓声を聞きながら、僕は静かにうどんを食うよ。それだけで幸せ。

 

…あ、そういえばカレーうどんが50円値上げされて650円になったねぇ。かわりにコロッケ・温玉・かき揚げなどのトッピングメニューが充実している。

 

それは月夜4

今回は650円の冷やし温玉うどんにしてみた。

おじさんは1.5畳くらいの狭いスペースで効率よく調理をする。なんか厨房の洗面台にいろんな備品が突っ込まれていて本来の用途を満たしていないような気もするが、そういうのも含めてこのお店のテイストだ。

 

それは月夜5

冷やし温玉うどん。月夜だから温玉だよ。具は他にはキュウリ・天かす・ミニトマト・ワカメ。夏らしい涼しげなラインナップだねぇ。冷たいダシ汁もツルツルのうどんに非常にマッチする。

 

それは月夜6

後半、温玉を崩すと味は一気に濃厚になって2度楽しめる。

高架下からでは月は見えないけれども、周囲の喧騒を聞きながら食べた温玉うどんで満足。

 

それは月夜7

次はまた違うメニューにしてみようかな。次回の訪問が楽しみだ。

 

 

あれが最後のカレーうどん

カレーとコロッケについて

 

2025年、今年のまだ寒い時期のことである。僕はいつものように慶屋を訪れていた。

 

最後の慶屋1

結論から言うとね、これが僕が営業している慶屋を見た最後となった。このときは最後になるだなんて思いもよらなかったけど。当たり前のようにこの日々が続くものだと思っていたんだけど。

 

最後の慶屋2

思い起こせばこのとき、違和感はあった。「さーて、今日は何をオーダーしようかな」って思って店舗上部のメニュー表を見上げると、メニューはカレーうどんとカレーそばしかなかった。おっかしいな、ほかのメニューはどこに行ったのだろう…?

 

「おじさん、いろんなメニューを作るのに疲れてしまったのかな?」って思った。その結果、残したのがカレーうどんである点に、カレーに対する魂を感じた。普通のうどん・そば屋にはあるまじきチョイスだ。

 

最後の慶屋3

寒い時期なのでね、そうであれば温かいカレーうどん一択だ。それと、何か新しい要素がほしいな。もう一度メニューを見上げ、トッピングでコロッケを頼んだ。

そしていつものようにボケっと後ろの歩道を眺めながら、おじさんが丁寧にうどんを調理してくれるのを待つのだが、この光景も最後になるとは思っていなかった。

 

間もなくおじさんが何かを僕に語り掛け、その声は電車の走行音でかき消されるのだが、「ご飯つけますか?」と聞かれていることはもう経験上わかっているので「お願いします」と返答した。

カレーうどんとご飯が提供され、でもコロッケが出てこないので「コロッケは…?」と切ない声で聞いたら「あぁ、すみません…!すぐ準備します。」とのことで、うどんを食べながらしばし待った。

 

最後の慶屋4

世の中には、駅の立ち食いそば業界を中心にコロッケそばやコロッケうどんが存在することは知っている。しかし僕は麺類含む汁物(?)にコロッケを入れることはあまり得意ではない。

とっさのオーダーだったので自分自身でも真意は謎だが、カレーはギリギリ僕の言う汁物には含まれないのではないかと振り返る。コロッケカレーなら受容できる人間なので。

 

最後の慶屋5

後半、コロッケの半分をカレーに入れた。見た目はちょっとアレな感じになるが、うまくないわけがないよね。カレーとコロッケ、すごく相性がいい。こいつらさ、前世では恋人同士だったんじゃね?

…ま、それは知らんけども今回もカレーうどん、絶品だった!ごちそうさま!

 

 

閉ざされたシャッターの前で

 

2025年の夏が始まっていた。世間は夏だ夏だと盛り上がりつつあったが、数ヶ月ぶりに訪れた慶屋のシャッターは閉まっていた。

 

休業する慶屋1

いつも開いていたお店のシャッターが下りていて、黄色い暖簾や黄色い提灯がないと、なんだか途端に物悲しい気持ちになる。文字通り心の中を灯していた光が消えてしまったかのような気分だ。

 

休業する慶屋2

シャッターには『しばらくの間お休みします。』と貼られていた。すごくシンプルであり、多くを語らないおじさんらしい貼り紙だ。

気になってWeb等を調べてみると、5月中旬ごろから休業している雰囲気らしい。その後も営業していたという目撃情報もわずかにあり、かなり不安定な様子だ。体調を崩されたりしたのだろうか?心配だ…。

 

さよなら慶屋…1

その後も心の片隅で気にはしつつも、正直ちょっとだけ忘れかけていたりもした。

2025年10月、灼熱の夏と残暑がすぎさり、ようやく日本列島が本格的な秋の気配に包まれてきた時期である。僕はふと有楽町のあの高架下を覗いてみることにした。

 

さよなら慶屋…2

慶屋は閉まったままだった。

でも、前回にはない違和感が2つある。1つ目は、シャッターの前にまんぷく食堂の顔はめパネルが設置されているということ。なんだよなんだよ…、これじゃあまるで慶屋のおじさんがもうここには帰ってこないみたいな仕打ちじゃないか…。

 

2つ目は、看板の下に設置されていた赤いテント屋根が撤去されてしまっている点だ。高架下で果たしてテント屋根が必要だったのか、っていう想いもあるけれども、お店らしさをビジュアル面で引き立てる重要アイテムの1つだったであろう。アレがないとどうにもしっくりこない感じはする。

 

あ、あのときの貼り紙はまだシャッターに貼られたままなのだな…。近づいてみた。

 

さよなら慶屋…3

なんと…!

『しばらくの間お休みします。』に対し、二重線が引かれ、おそらくはおじさん自身の文字で『閉店致しました。長い間、大変お世話になりありがとうございました。慶屋』と書かれていた。

デコボコのシャッターに貼られた紙に無理やり書いているので文字はかなり歪んでおり、それがなんだか泣いているようにも見えた。僕も心の中でちょっと泣いた。

 

調べてみると、たぶん9月24日か25日くらいに閉店情報が書き込まれたのだろうと推測する。僕が遅い夏休みを取得し、東北一周をプラプラ走っている間に、1つの歴史が終わってしまっていたのだ。

そしてその紙の余白には、閉店を惜しむ人たちからのアツいメッセージ。

 

唯一無二の雰囲気の高架下のうどん屋さん。Webを見ると絶賛の声が並ぶ、名物のカレーうどん。そのお店に通えたことが嬉しかった。

今までありがとうございました。そしてお疲れ様でした。

…あぁ、今宵は秋風が身に染みるなぁ…。

 

以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。

 

 

住所・スポット情報

 

  • 名称: 慶屋
  • 住所: 東京都千代田区有楽町2-4-11
  • 料金: カレーうどん¥750他
  • 駐車場: なし
  • 時間: 11:00~23:00(土日は19:00まで)