寺田町に超激渋な甘味処があるというのでフラリと訪問したのは、2024年の最も寒いであろう時期のことだ。
お店の名は「甘党ゆかり」。
店内に入れたのは1度きりではあるが、ウワサでは90歳代とも言われる仙人のようなおじいさんが営んでいるそのお店は渋さがあふれていた。
メニューは200円の氷みぞれ1点のみだが、とてもインパクトのあるお店であった。
2024年秋、このお店が閉店してしまったと聞いた。Googleマップで調べても「閉業」フラグが立っている。また行きたいと考えていたのだが、間に合わなかった。残念だ。
本来は再訪問してからブログの記事にしようかと思っていたが、それはもう叶わなそうなのでこの折に執筆することとした。
僕が人生で初めて1人で甘味処に突撃したお店。 甘党ゆかり。
静かな生野本通商店街
お店は一 般車両は入れない「生野本通商店街」の中にあるので、車でアプローチするのであれば近隣に駐車してから歩くのがよい。
時刻は16時を回っており、冬の太陽は西に大きく傾いている。
甘党ゆかりが閉店してしまうのが心配だ。一応Web情報だと18時閉店なのであるが、おじいさんの個人経営のお店だもん、気が向いたら早く閉店してしまう可能性もあるかもな。
バリバリ交通量の多い国道24号の脇道から始まる生野本通商店街を正真に見据えた。
ちょっと不安になるくらいに入口部分が暗いんですけど??国道から一転して静かな雰囲気を醸し出す商店街に一抹の不安を感じながらも、足を踏み入れた。
静寂。限りなく静寂。ときおり自転車が通過する程度で、ほとんどのお店がシャッターを閉めている。営業しているお店を探す方が難しいくらいだ。
そんな中て甘党ゆかりは60年以上も宮業を続けているという。店主のおじいさんがまだ20代の頃に創業し今も1人で営んでいるという。
きっと地域の人に昔から愛されるお店であり、そして店主のおじいさんのバイタリティもすごいんだろうな。
Googleマップでお店の位置を確認しながら来たのだが、Googleマップが到着フラグになったのにお店がどこだかわからずに1分ほとキョロキョロしてしまった。
どうやら風景に溶け込みすぎていて気付かなかったのだ。一度認識してしまえば当たり前のようにそこにあるのに、認識する前はそこにあることすら気付かない。
あなたにもあるよね?いつも通る道の脇に空き地ができて初めて、「あれ?ここにあった建物ってなんだっけ?」ってなるヤツ。
当たり前すぎる建物は、風景に溶け込んでしまうのだ。無意識化に隠れてしまうのだ。僕はこの商店街に来たのは初めてであるが、60数年に及ぶこのお店の歴史が、一見さんの僕にも風景化能力の効力を与えてきたっでわけだ。
もったいぶったが、これが甘党ゆかりだ。
店頭に照明がついている。どうやら営業しているみたいだ、よかったぜ。
甘党ゆかりの氷みぞれ
情報量の多い外観
さて、それではお店の外観からじっくり見ていこう。
不思議な配列だなって思った。グレーの建物が空間を開けて3棟並んでいる。ゆかりを挟んだ両側は新しそうだ。どうやらここ数年で建ったらしい。
ゆかりもこうやって両側を挟まれればビル自体は古くはなさそうに見えるのだが、お店の顔部分だけはやたらと風格が漂っている。
この両側部分のテイストに惑わされ、最初僕はゆかりの存在に気付かなかったのだ。
外観をWebで見たことはあったのだが、てっきり木造のせいぜい2階建ての独立店舗だと思っていた。その思い込みが盲点だったのだ。
ズームしてみるととっても渋い。
店頭には暖簾が吊るされているのだが、劣化が激しくって布地部分がほぼ消滅している。残った部分もグリングリンに竹竿に巻き付いている。なんてこった。暖簾の意味よ、いずこへ。
店頭のショーウィンドウ。本来であればここにはメニューのディスプレイなどが入るのだろうが、このお店ではインテリア空間となっている。
ただ、「さっき大きな地震でも来ましたか?」ってくらいに中が荒れている。無造作に積み重ねすぎ。ガラス戸を開けた瞬間に崩れ落ちそうだぜ。
あと、ディズニーランドの2001年記念ソーサーが目を引いた。行ったんだね、おじいさん。
下段部分。上段にも増して雑多なラインナップであり、おばあちゃんの家のタンスの上みたいなフリーダムな空間になっている。渋いアイテムが多いものの、ミッキー・スティッチ・スヌーピー・ピンクパンサー・ピカチュウと、かわいいキャラも見え隠れだ。
ゴチャついてはいるが、それがこのお店が重ねた年月の重みの証なのよね。
扉の左にはメニューボードが掲示されている。
しかし書かれているのは氷みぞれのみ。他にもメニューが書かれている形跡があるが、今はもうやっていないらしく封印されてしまっている。
でもいいさ、最後に残った氷みぞれを味わえればそれでいい。真冬だけど。寒いけども。
激渋店内で氷みぞれを
中の様子がわからないのでちょっと緊張したけど、勇気をもってドアをガラリと開けた。
うむ、実に渋い店内だ!想像通り店内も激渋だ!これは店主のおじいさんに断って撮影させていただいた写真だ。
4名がけのテーブルが4つあるが、うち1つは物品であふれて埋まってしまっているので、MAX12名がこの店のキャパなのだろう。…もっとも、一気にそれだけの席が埋まることはほぼ無いかもしれないけども。
この一角がナイスだ。あと、4つあるテーブルのうちの2つには、テーブルの上に扇風機がドデンと鎮座している。なかなかに斬新なスタイルだなって思った。
ちなみに今は1年の中でも最も寒い季節なんだけどな。
仙人のような、でもどこかチャーミングなかっこうのおじいさんが出てきてテレビをつけてくれた。
「メニューは氷みぞれだけなんだけど、いいですかな?」と聞かれたので、もちろんOKした。そして「ずっと気になっていたお店なので、来れて嬉しい」と伝えた。
おじいさんは厨房に入っていき、店内はテレビの音声と、氷を削るかすかな音だけが響いていた。待つこと数分。
ふわふわの美しい氷みぞれが運ばれてきた。うわぁ、山盛りだ。これは嬉しいね。
これで200円。お得だ。模擬店のかき氷を買っても、なかなか200円ってことはないであろう。しかしここでは店内でくつろいで、このボリュームで200円なのだ。
実はね、恥ずかしながら僕は氷みぞれを食べるのは初めてなのだ。透明で甘いシロップをみぞれと呼ぶらしい。イチゴやメロンのシロップが王道ではあるけれども、どういう香料を使っていないシンプルなシロップなのだ。
あぁ、冷たい氷が食道を通って胃に落ちていくのを感じる。おいしいとかおいしくないとか、そういう次元とはちょっと違う幸せを、この渋い店内で味わっている。
食べながら壁を見上げた。メニューが貼ってある。しかしお店の外のものと同じく、氷みぞれ以外のメニューが隠されてしまっている。
数年前までは、これ以外にも氷ぜんざいや温かいぜんざいがあったそうなのだ。今は真冬だから本来は温かいぜんざいを食べるに最適だっただけどねぇ。あんこを炊くのはとっても大変だそうなのだ。しょうがないよね。
おじいさんは「昔はこの白いところ全部メニュー札だったんだけどもう無理。でもこれだけは…って氷みぞれだけ続けているんですわ」って少し寂しそうに壁を見上げ、そしてほとんど歯のない顔で笑っていたよ。
まぁでも大事なものが1つ残ればそれで良し、だよね。1つでも何かを続けるって、とても大事だしとても大変なことだよね。ましてや、この商店街で60年以上も続けてきたんだもん。
ところで山盛りの氷みぞれは、注意して食べていたんだけどもポロポロと崩れてテーブルが濡れてきてしまった。持参のティッシュで拭いたけどね。
おいしかった。冷たかったが、心は温まった。おじいさんにお願いし、記念に店内をいろんな角度から写真を撮らせてもらったりした。
あえてご本人には聞かなかったが、Web情報によるとおじいさんは94歳だという。本当かな?20代でこのお店を初めて60数年経つと聞くので、やっぱ本当かな?
それにしては背筋がすごくシャッキリしているのだ。お元気なのだ。10歳は若く思えた。
これからもお元気でお店を続けてほしい。
おじいさんに「またそのうち訪問させていただきます」と伝え、お会計をした。おじいさんは「おおきにー」と満面の笑みで僕を送り出してくれた。
結果的に一度きりとなってしまったが、これが僕の甘党ゆかり訪問記録。
春の夕暮れ、一瞬の邂逅
実は僕、ちゃんと約束を守るために再訪していたのだ。それは春うららなある日の夕暮れ。
時刻は17:30を回ったところだった。
Googleマップ情報では18時閉店なのだが、そうだとしても17:30ラストオーダーの可能性が高い。そもそもそんな閉店時間なんぞにこだわらず、気分で早めに閉店してしまっているかもしれない。
いずれにしてもこの時間はかなりヤバいってことだ。
…って、前回訪問時と同じようなこと書いているな。毎度同じパターンだ。
早歩きで商店街に突入する。あ、今回は入口付近の本屋さんが営業している。子供の頃を思い出すような、懐かしい雰囲気の本屋さんだな。いや、今はそれどころじゃねぇ。
もうすぐ甘党ゆかり…ってところで、視界の隅に見たことがある人がいたような気もしたが、脇目も降らずにゆかりを目指した。
営業しておらず!やっぱ遅かったかぁ…!数分ほど呆然と立ちすくんだ。
でも、どうしょうもない。運が良ければ2024年の夏か秋にまた再訪できるかもしれない。願わくば、暑い時期にあの氷みぞれを食べてみたい。
そのチャンスを待つとするか…。
Uターンして寺田町駅方面に引き返す。
そして歩きながら思い出す。…となると、数分前に視界の隅にいた人は、やっぱ甘党ゆかりのおじいさんではなかろうか。
ちょうど閉店して外出したタイミングだったのではなかろうか。あぁ、もうちょっと注意して見ておけばよかったな。
そんなことを考えながら商店街を抜けて国道を数分歩いていると、前方に…!
あの仙人のようなちょんまげに見覚えがある。黄色いパンツにも見覚えがある。ゆかりのおじいさんだ。
嬉しくなって思わず声を掛けそうになったが、いや待て。今はおじいさんもプライベートな時間なのだから、おいそれと声を掛けない方がいい。
それに、またお店を訪問できるチャンスがあるのだから。おじいさんは背筋も伸びていて、シャキシャキ歩いている。まだまだお店を続けてくれるに違いない。そのときにまたお話ししよう…。
その夢は叶わなかったんだけど、永らくお店を守ってきたおじいさんがようやく隠居生活に入れたのだ。それでいいじゃないか。
一度切り、凍えるほど寒い日に氷みぞれを食べたあの日を、僕は忘れない。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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