駅で言えば大阪城北詰駅。そこに昭和レトロな佇まいの角打ちのお店があった。店名は「高野酒店」。
角打ちというのは、酒屋さんの店内にてお酒を飲むこと・そのようなことができるお店を指す。基本的に売っている商品そのままの値段で飲むことができるので居酒屋と比べて安いし、立ち飲みのお店が多いのでサクッと短時間で満足できるお店が多い。
『角打ちのお店があった』と過去形で書いたのは、2024年8月で閉店してしまっているからだ。創業100年を超える超老舗だったのだが、ここで歴史に幕を閉じることになってしまって非常に残念だ。
僕は2回だけこの高野酒店を訪問して、1人カウンターでお酒を飲んだ。本来であればもう何度か訪問してからブログ執筆したかったが、もう訪問することはできないので、このタイミングで執筆する。
最初はドキドキの入店
誰かと誘い合わせて行けば、たいていのお店の入店ハードルは3分の1くらいに下がると思う。でも残念ながら僕は友達が少ない。いつだって基本は1人だ。
なので最初にこのお店に入るときには少し躊躇した。あまりに渋さがほとばしっていて、常連さんだけだったりしたらどうしようって思ったのだ。
ガラスサッシが全面に入っていて、どこから扉を開ければいいのか選択肢が多すぎるのも悩ましい問題であった。
この写真を撮っているすぐ後ろが大きな交差点であり、入店時には道行く人の視界に必ず入ることになる。だからこそスマートに入店するか、人の途切れた瞬間に入店したいという気持ちもあった。チキンだろ、僕。
レンガ調の壁といい、ガラスのサッシの風合いといい、アサヒビールの暖簾といい、昭和な雰囲気がビンビンだね。ここに似合うようなダンディな人間になりてぇなぁ。
さて、結論から言うとお店の入口は大きく2つある。
まずは向かって右側。こちらは酒類が売っている大きな冷蔵ケースがある売店スペース。かつ、広々したホールにいくつかのテーブルとイスが設置されており、主に複数名のお客さんがワイワイと楽しめる雰囲気。…だと思う。よくわからん。
なぜなら、僕は右側の扉をくぐったことがないからだ。
右と左の扉の先は繋がってはおらず、中央に鎮座する厨房スペースを使ってスタッフさんのみ行き来できるような感じだ。だから僕はチラリと様子を垣間見たことがある程度だ。
向かって左は立ち飲み用のカウンターが連なるスペース。
外から見た感じで右はテーブル・左は立ち飲みっていうのがなんとなくわかったので、1人である僕は2回とも左側の扉を開けた。
さて、入店するぞ。
豊富なおつまみとビンビール
天ぷら盛り合わせ
カウンター席の奥の方では常連さんと思わしきおじさん・おばさんたちが、オーナーのおじいさん含めてワイワイと話していた。
まずはちょっと距離を置いておいた方がいいかな?柱際の落ち着けそうなスペースを陣取る。
ドリンクメニューはない。右側エリアであれば冷蔵庫から直接選べるのかもしれないが、少なくともこっちの左エリアには情報はない。
角打ちであることと、アサヒビールの暖簾が掲げてあったことから、アサヒビールのビンは100%あるに違いない。なのでそれをオーダーした。
上の写真、向かって右側は厨房と思わしきスペース。向かって左側にはオーナーのおじいさんが腰かけ、カウンター越しに常連さんの相手をしている。
おじいさんの目の前にはおでん鍋がある。ちょっとだけ気にはなったが、2回とも僕はこれを頼むことはなかった。
フードメニューにはおでんが無いこと、他のフードで満足してしまったこと、そして常連さんとおしゃべり中のおじいさんに「おーい、おでんいいですか?」と声をかける雪が無かったことなどが要因だ。
目の前の壁には『今日のメニュー』というのが貼ってある。ちょいと日付部分はマスキングさせてもらったが、毎日こうやってメニューを考えているのだなぁ。角打ちなのになかなか凝っている。
値段は書かれていないが、きっと良心的な価格に違いない。値段は気にしないでおこう。オーナーの奥さんであるおばあさんに、ひとまず天ぷらの盛り合わせをオーダーした。
「温めるのでちょっと待ってね」と言われたしばらく後、天ぷらが登場した。
内容物はイワシ大葉・レンコン・エビ・シシトウの4種類だよ。あらかじめ揚げてあるものをレンジで温めてあるので、正直ちょっとペシャっとしている。
だけどもそれはそれでいいんだよ。角打ちの酒屋さんに、揚げたてサックサクの職人さんみたいな天ぷらなんぞ求めてはいない。角打ちといえば缶詰や乾き物やスナック菓子などが多い中、こういう手作り感のあるメニューがあるだけで感動ものなのだよ。
サクサクの天ぷらもいいが、幕の内弁当の隅っこにいるようなペシャっとした天ぷらも別物としておいしいよね。これは後者側かも。
これをチビチビつまみながらビンビールを飲むんだよ。背後のガラスの向こうの交差点の雑踏を聞きながら飲むんだよ。最高っしょ、この雰囲気。
他のお客さんがオーナーのおじいさんに「この酒屋を牛丼チェーンにしてはどうか。そちらの方が儲かる。自分がコンサルする。」と提案していた。
おじいさんは難色を示していた。新参者の僕としても、この唯一無二のお店の雰囲気は維持してほしいなぁと感じた。
明太いわしとシューマイ
これは数ヶ月後のまた別の日のこと。
相変わらずまだ入るのに勇気がいるけれど、再び高野酒店の扉を開けた。
今日もカウンター席の奥の方はおじいさんと常連さんでワイワイしており、僕はそこから少し距離を置いたところで1人ゆっくり飲むことにした。
今回は麒麟のビンビールにしてみたよ。
今回も気合の入ったラインナップである。どれも魅力的で全部ほしくなる。
悩んだ末に明太いわしとシューマイをおばあさんにオーダーした。
あぁ、うっま!この写真見ただけでうまそうっしょ。程よいピリ辛で、味が濃い目の明太いわし。思わず写真を撮る前に1匹の大半を食べてしまったよ。
これ、お酒にとても合う。そしてこのちょうどいい量がいいね。立ち飲みに最適なボリュームだ。
続いてシューマイもやってきた。ストーンサークルのような並び方でやってきた。そして勢いあまって醤油をかけすぎてしまった図。
特に何の変哲もないシューマイなのであるが、それがいい。気負わずにパクパク食べられる安心感よ。
これで前回も今回も1000円ほどだったかな?詳細金額は忘れた、ごめん。
おじいさんとは直接話すことはなかったが、おばあさんは結構僕のことを気にかけてくれて「天ぷらにはお醤油でいいかしら?」、「追加注文は大丈夫?」などと声をかけてくれた。
常連さんたちの輪には入れなかったが、退店時には「うるさくしててごめんなさいね!」と朗らかに声をかけてきてくれた。
隣のテーブルとイスのエリアからも、常にお客さんの笑い声が聞こえてきていた。
いいお店だ。少しだけ俯瞰できる位置から、このお店の雰囲気を味わうことができたと思う。これもまた、1人飲みの醍醐味であろう。
2024年8月の閉店
僕はこのお店をまた訪問できることを楽しみにしてた。
次行ったらどんなメニューがあるんだろうと、楽しみにしていた。おでんにもチャレンジしてみてもいいかなって思っていた。
だが、「閉店しましたよ」という情報を9月にSNSからいただいた。オーナーのおじいさんが7月に亡くなり、8月10日ごろにお酒の在庫も無くなったので閉業したそうだ。
ほんの数ヶ月前に訪問したときには楽しそうにおしゃべりしていたおじいさんが…。残念だ。
100年以上続いた高野酒店の3代目であったという。跡取りはいなかったんだね。歴史は終わってしまうのだね…。
「そういえば…」と心当たりを思い出した。
8月のお盆明けくらいに、僕は遠くからこのお店を遠望していた。その際、お店のすぐ前に2台ほどの中型トラックが横付けされていて、「なんだろう?」って思ったのだ。変な胸騒ぎがした。
だけども「昼間だから仕入れとかしているのかな?」・「もしかしたらリフォームとかかもしれないしな」って思って、お店に近づくこともなかった。このこと自体も忘れていた。
思い起こせば、時期的にもこのときにちょうどお店の機材等の搬出作業をしていたのかもしれないね…。
2024年10月に入ってからのことだった。
鳥取県や兵庫県を巡りドライブのついでに、僕はこの町に再びやってきた。近くに車を停め、高野酒店がどうなったのかこの目で確認してみることとした。
あぁ…、すっかりサッパリしちゃったなぁ…。
緑色の特徴的なひさしもなくなったし、壁に取り付けてあった高野酒店のロゴも撤去されてしまったし…。
相変わらず交差点は車も人も多く、誰もこのお店の跡地を気にしてはいないが、僕はしっかり心の中に留めておこう。
オーナーのおじいさんのご冥福をお祈り申し上げます。思い出をありがとうございました。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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