大阪京橋駅のホームには、とんでもなく人気のご当地コンビニがあった。
その名は「アンスリー」。キヨスクのような小さなコンビニではあるが、そこで売られているフランクフルトが大人気なのだ。
もう文字通り飛ぶように売れる。ホームを見渡すと、みんなフランクフルトを食っている。お祭りかな、ここは。
そのアンスリーだが、2024年3月にて消滅するという。
これは、そんなアンスリーのかつての営業風景、そして閉店の瞬間に密着したドキュメンタリーである。
では、ライヴ感のために、あなたも手元にパリパリに焼いたウインナーを用意してご覧いただきたい。
みんな群がる濃厚フランクの魅力
かねがねウワサには聞いていた。
京橋駅のホームにあるアンスリーのフランクフルトが大人気だと。ケチャップやマスタードを使わずとも満足のゆくスパイシーな味で、だれもが衝動的に買ってしまう魅力があるものだと。
しかし永らく僕がここを訪れなかったのは、僕が車を使う旅人だからである。駅構内に売っているため、鉄道を使うか入場券を使うしかないからだ。
しかしだ。あるとき改札の外にあるアンスリー京橋片町口店をふと発見した。ここにはフランクフルトは売っていない。
だが「あぁ、この改札をくぐって1分も歩けば駅ホームのアンスリーでフランクフルトを食べられるんだな」って思ってしまったが最後。僕の右手には駅の入場券が握られていた。
人生ってさ、勢いが必要らしいよ。
アンスリー京橋ホーム大阪方店。今回の記事のメインとなる店舗だ。阪急線の1・2番線にある。
人がジャンジャン行きかうホームにある。電車が来る直前は、電車待ちの人の行列に埋もれそうな店舗。
ローカルコンビニというくくりではあるが、キヨスクみたいな規模とラインナップである。だがナメるな。ヤツはフランクフルトという強大な武器(アイデンティティ)を所持しているぜ。
『フランクフルト1本140円』の輝かしい看板。
なんと1日700本を売り上げるらしい。…700本ッ!!
待て待て、それってどういうことだ?
このお店の営業時間は早朝から深夜まで非常に長いが、とりあえず7:00~22:00の10時間に利用する人が多いと仮定しよう。10時間で700本。つまりは1時間に70本。1分で1本以上。
ヤベーな、それ。もちろん時間によっては購入者の増減があるから、人の多い時間帯などは、1分で2・3本は売れているのではないだろうか?
1人の人がお金を払って購入して…に20秒くらいかかるだろうから、繁忙時間帯は息をつくヒマもなくフランクフルト対応が発生しているのではなかろうか。
脳ではそんな小難しいことを考えていたが、足は勝手に店頭に向かっており、口は勝手に「フランクフルト下さい」と動いており、お金と引き換えに手にフランク。
そうですね、まずは食べなきゃね。
ひとくちかじると、パキッといいサウンドがホームに響いた。
うめぇなこれ。ケチャップやマスタードはつかないのだ。駅の人ごみの中でそんなものチマチマつけていたり、それを手に持っていると他の人についちゃったりするからだ。
そのかわり、かなり味は濃厚。ケチャップやマスタードはいかないのだ。
絶妙な焦げ目がこうばしく、そしてサラミに近いような濃厚な味わい。あれ?なんで僕、ビールのことを考えているのだろう…。
周囲をチラリと見ると、僕と同じようにフランクフルトを持っている人が8人いた。老若男女さまざまだ。
そして食べている最中にも、どんどん人がフランクフルトを買う。なんて店だ。すごすぎるぜ。
みんなきっと腹が減っているから買うのではない。そこにおいしいフランクフルトがあるから買うのだ。買って食うのが日常だから買うのだ。そう感じた。
そこに迷いや決意はない。みんな当たり前のように買っていく。「雨が降ったら傘をさす」と同じように「京橋駅のホームに立ったらフランクフルトを買う」なのだろう。
僕も食べてわかった。これ1本で今日1日のモチベーションが変わるね。
「今日は試験だ、朝から憂鬱だな」・「今日の会議は疲れたな」、そんなときもこれを食べれば気分はお祭りだ。もちろんハッピーなときに食べればさらに気分はパラダイスだ。
駅のホームで50年、こうしてフランクフルトは大阪の人々に愛されてきたそうだ。
だが聞いてくれ。
アンスリーは2024年3月までに全店閉店するらしいぞ。え…、じゃああのフランクフルトはどうなる…??
ホームのアンスリー、最後の瞬間
2024年3月12日。この日の21:00にアンスリー京橋ホーム大阪方店が閉店するという情報を掴んだ。
20:33、つまりは閉店27分前に僕は京橋駅構内に足を踏み入れた。
フランクフルトを愛する旅人として、最後に食わねばならない。そしてアンスリーの最期を見届けなければならない。
前回と同じく、行き交う人でにぎわうホーム。心なしか、アンスリーに群がる人が多い気がする。
これ、後日にX(旧Twitter)でコメントいただいたのだが、「そういえばあの日のあの時間帯は、車内でフランクフルト食べている人が多かったなぁ」という方がチラホラいた。静かに最後の晩餐をしていた人がそれなりの人数いたのだろう。
さて、最後にフランクフルトを味わうか…。
まさかもう販売終了していたりはしないよな…。
おいおいおいおい!!前回はあれだけミッチリ詰まっていたケースに、今回はフランクフルトの在庫が2本しかない。
売り切れ直前なのか製造量をセーブしているのかは知らないが、これは急いだほうがいいぜ。
こうして20:40、僕はアンスリーで買うのは最後になるであろうフランクフルトを手にした。相変わらずのパリッとした食感、塩味の強く肉々しいフランクフルトに頬が緩む。
あわやこのラスト2本で終売かと思われたが、見ていると数本ずつケースに補充している。どうやら閉店間際だから生産量を大幅に抑えているみたいだな。
ところでところでだ。
これを最後に書くと生卵をぶつけられちゃうかもしれないのでここいらのタイミングで書くんだけど、僕らとフランクフルトは今日で永遠の別れということではない。
アンスリーは終わるけど、「もより市」っていう新しいブランドのお店がここにでき、名物のフランクフルトはそのお店での販売を引き継ぐのだそうだ。
だけども"アンスリーのフランクフルト"としては、今日までしか食べることができない。そういう意味では感慨深いよね、って話だ。
食べ終わったが、僕はまだここを立ち去りはしない。
アンスリー閉店の歴史的瞬間をこの目で見届けたいのだ。あと15分だ。
商品の片づけが始まった。向かって右側、商品を青いケージに収納し始めている。さぁ、どんどん買える商品が少なくなってくるぞ…。
しかしフランクフルトは同じペースでちょいちょい補充される。お客さんも当たり前のように買っていく。
上の写真のように店舗の前には電車を待つイスが数脚あるのだが、今はアンスリー閉店を見届ける特等席となっている。
向かって左側の商品の撤去も始まった。スーツの人だ。きっと本社から来ている偉い人だ。偉い人自ら引導を渡す魂胆だ。
一方、フランク班はお構いなしに延々とフランクフルトを焼いて補充している。いいぞ、もっとやれ。
店舗を遠巻きにする人の輪がゆるーくできつつある。みんな今までのアンスリーとの思い出を頭に描きつつ、写真撮影したりしている。
それを知らない人は、電車を降りて「どうしたどうした?今日は何?」みたいな顔をしている。
商品陳列棚はかなりスカスカとなった。ポップなども回収されつつある。
近くにはプロの取材なのか個人的な取材なのかわからないが、大層いいカメラを構えてこの一部始終を撮影している人がいた。
そこに陽気な外国人が通りかかった。閉店4分前のことだ。
外国人は足を止めると、カメラの人に対し「おぉ、いいカメラを持っているね?どこのメーカー?ちょっと見せて。」みたいなニュアンスのことをフレンドリーに話し始めた。
親切なカメラの人は手を止めて、陽気な外国人に話し始めた。いいの?このタイミングで手を止めていいの??
どんどん片付けが進行する店舗。話が弾む外国人。あっちもこっちも目が離せない!
閉店1分前の20:59、陽気な外国人は満足して去って行った。
ー そして21:00… ―
いや、21:00ピッタリでは閉店しなかったのだよ。
まだフランクフルトは1・2本ずつ補充され続け、21:00を過ぎても2人ほどの人がフランクフルトを購入した。
その1分後、ついにシャッターが下ろされ始めた。
最後のお客さんが食べ終わった串をカウンターに戻そうとし、スタッフさんが締めかけたシャッターをまた少しだけ上げて串を回収した。
チラリと見えたが、まだこの瞬間までフランクフルトは追加補充されていた。絶対に品切れにならぬよう、最後まで焼き続けていたプロ根性がすごい。
ケースに残った数本は、このあとシャッターの裏でスタッフさんたちが「おつかれさまー」とか言いながら食べてほしいと望む。
アンスリーってさ、阪神・南海・京阪の3社の鉄道会社で展開していたらしいよ。
アルファベットで書くと「HANSHIN」・「NANKAI」・「KEIHAN」であり、3社とも「AN」が入る。だからアンスリーだ。その歴史に幕が下りる。
長い間、お疲れさまでした。
3分後、もうギャラリーも去りつつあった。
通りかかったおじさんが、いつもと違う店の佇まいを不思議そうに思ったのか、スーツの人に「どうしたんですか?」と話しかけていた。
切ない。3分前に1つの歴史が終わったんだよ。
帰り際に冒頭でご紹介した、僕がホーム上のアンスリーに行くきかっけとなった片町口店を覗いてみた。こちらはまだあと数日営業するのだ。
こちらは7日後の3/19にクローズするそうだ。しかもさっきのホームの店舗とは違い、もより市に変換するなどの文言がない。完全にクローズしてしまうのだろう。
こうしてわずかに残ったアンスリーも次々閉店し、最後の店舗も3/28に閉店したそうだ。さよならアンスリー。
エピローグ:もより市のフランクフルト
2024年度になった。それはもう、この世にアンスリーのない世界…。
僕は再び京橋駅を訪れた。この物語を完結させるためには、もう一度ここに来なければならないと思ったからだ。
入場券を買う。電車に乗るわけでもないのに改札を通ってホームに上がる。
あのアンスリーは今 ―
あ、上るホームを間違えちった。もより市と「名物フランクフルト」の看板、見えちった。
でもテイク2をやらせてくれ。
あのアンスリーは今 ―
もより市になっていた。1週間ほどの改装の後、こうして新たな道を歩んでいる。
しかしよく見るとフランクフルトのポップなど、以前と同じものを使っているような気がしてほっこりする。
しかも相変わらずみんなフランクフルトを食べている。すばやく数えてみると8人いた。以前と一緒だ。安堵した。
僕も買った。
腹が減っているから買うのではない。そこにおいしいフランクフルトがあるから買うのだ。買って食うのが日常だから買うのだ。
「雨が降ったら傘をさす」と同じように「京橋駅のホームに立ったらフランクフルトを買う」のだ。
そんな日常よ、これからも永遠なれ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: アンスリー京橋ホーム大阪方店
- 住所: 大阪府大阪市都島区東野田町2-1-38
- 料金: フランクフルト¥140他
- 駐車場: なし。付近のコインパーキングを使用のこと。
- 時間: 平日…6:30分~23:30、土曜…6:30分~23:00、日・祝日…7:00~23:00