杜の都、仙台。
東北一の都市である。
しかし、この仙台市も西の外れまで来ると、都市とは言い難い大自然のアドベンチャーゾーンが現れる。
知的で洗練された都市としての表の顔と、ワイルドでアグレッシブな裏の顔。
そんな相反する2つの魅力を併せ持つ町、仙台。
…なんだそれ。
恋愛マンガとかでこんなキャラいたら、女子どもを無双できるではないか。
仙台に対する嫉妬心から、書いててムカついてきた。
でも、一度決めたからには書こう。
今回は「奥新川(おくにっかわ)渓谷」のお話だ。
ダート走行
山形県との県境付近の山間部に位置する、宮城県内の著名な温泉の1つである。
宮城県と山形県を結ぶ、この緩い峠の快走路を、ご老体の愛車である日産パオがゴキゲンにブリブリ走っている。
この子、これから自分がどんだけワイルドな道を走らされるのか気付いていない。
不憫な子、かわいそう。
国道48号の、ここ。
作並駅と作並温泉の、ちょうど中間付近の何にも無さそうなところで、突如として冒険が始まるので注意だ。
念のため、ストリートビューも貼っておいた。
軽トラの後ろ姿が、この先の不安を象徴しているようでいい仕事してくれている。
赤い看板に示されている、「奥新川(おくにっかわ)駅」。
これが今回の目的地だ。
しかし、その上からそば屋の「スグソコ 車で1分」の矢印に、若干覆い隠されている。
そば屋に押し負けている駅。
この力関係が正しいことを、この後僕は思い知る。
これが、作並温泉と奥新川を取り巻く世界観だ。
今回の記事では、この中の「奥新川渓谷」に絞ってご紹介したい。
奥新川駅については、続編で執筆するからご期待いただきたい。
気持ちのいい森林浴だ。
初夏、最高。
コロナ禍で息の詰まるような思いをして来た2020年夏、この束の間の逃避行で、僕の心は再び息を吹き返そうとしている。
車の擦れ違いもギリギリ可能そうだ。
1分後。
アスファルトがお亡くなりになりました。
短い命だったなー…。
さっきの国道に「車で1分」と書かれていたそば屋を過ぎたら、アスファルト消えた。
アスファルトはそば屋のためのもの。
駅に行く人?そんなの砂利道を通ればいいじゃないか。
そういうヒエラルキーだ。
道はボコボコだ。
しかもそれなりの急勾配で登っていく。
非力な愛車のパオが唸る。がんばれ。
調子に乗って、もう1枚Googleマップのストリートビューから画像をいただく。
擦れ違い不可。雨が削った溝が、えげつない深さ。
このときは梅雨の末期。
道路は泥グチャだし、路面も相当削られているし。
パオの馬力で果たして攻略できるかどうか、本気で心配になる。
路面がしっかりしていて、かつフラット、そして路肩スペースもちゃんとある場所を発見した。
さながら砂漠のオアシスか。ちょっと車を停めよう。
景色がいい。一面の緑。
僕は今、山に抱かれている。
仙台市内のとある駅に向かっているだけの物語なのだ。
山の中には、赤い鉄橋が見えた。
仙山線の鉄橋。
角度的に、廃駅「八ツ森駅」のあたりではなかろうか?
あとで八ツ森駅も探索してみよう。
写真を撮っていたら、後ろから車がやってきた。
よし、あの車をペースメーカーに利用させていただこう。
「アニキー!」みたいなテンションで着いていくんだけど、全然無理だった。
あっちは四駆。こっちはボッコボコで非力のパオ。
1分で視界から消え失せた。
小さい頃、一生懸命ついてくる弟を、クラスメイトの亮二と共に自転車で彼方まで突き放したりしていたんだけど、そのときの弟の気持ちが今わかった。ゴメン弟。
昨日まではずーっと雨だった。
なんんだったら、今日もホントは雨予報であった。
晴れているのは、アレよ。僕の晴れ男パワーに他ならないのよ。
そんなだから、路面に水流が現れた。怖い。
写真ではよくわからないだろうが、すっごい流れているからね、これ。
もう名前を付けてあげたいくらいの川だ。
何級河川だろう?
国道から15分ほど走ったところで、トンネルが現れた。
「北沢隧道」という名前らしい。
これが出てきたということは、もう渓流は目の前だ。
ピカピカのトンネル。路面もアスファルトだ。
ここは文明に感謝するゾーンだ。さぁ文明を讃えろ、と。
渓流と吊り橋
着いた。
パオからはプシュ~って蒸気が上がりそうな状態になっていた。
駐車場は無い。路肩に駐車する文化のようだ。
全部で7台くらいは停められるだろうか?
2台後ろが、さっき僕を突き放していった四駆である。釣り人だった。
写真のすぐ右手が「新川川(にっかわがわ)」の川原だ。
後で知ることになるのだが、ここから奥新川駅方面に数10m走って橋を渡った先に、広い駐車場があった。
そこは20台くらいは停められそうだったし、公衆トイレもあった。
これが駐車場とトイレだ。
青い車の左奥から、川原に下りることもできる。
しかし苔むしていて道も岩もメッチャ滑るし、木々の中で蚊も尋常じゃない数が発生している。
結論、駐車場側から川に下りるのはキケンである。
木々の間から川を撮影しつつ、慎重に下にいってみよう。
なかなか激しい流れ。梅雨だからだろうな。
でも、水はすごく澄んでいて冷たそうだ。
前述の通り、ここは山形と宮城の県境付近。
「関山峠」 というのが県境の峠だ。
この川の源流もそのあたりだろう。
源流にほど近い、穢れのない水が流れていると感じた。
ステキだ。
僕は穢れしか知らないオトナになってしまったけど、この川を見ていると心が落ち着くわ。
そして、向こうには簡素な吊り橋も見えた。
吊り橋、いいな。
橋が好きな僕はあそこに行ってみたい。
川のこっち側からアプローチは大変そうなので、車道の橋を渡り、向こうの橋のたもとまで直接行ってみよう。
うわー…。
アスレチック感がハンパないですぜ。
「合流点橋」という名前らしい。右の立て札にそう書いてある。
わかりやすさとボキャブラリーの無さを兼ね備えたようなネーミングだ。
なんでそんなネーミングなのだろうか。
地図を見てみると、新川川と南沢という小さな渓流がここで合流している。
なるほど、よくわかった。
しかし残念なお知らせだ。
この橋、渡るべからず。
倒木や土砂崩落もさることながら、橋自体も老朽化でデンジャラスなのだそうだ。
少々残念。
この貼り紙はかなり新しく今年のものであるような気がするし、Webサイトを見ても大体皆さん、こんな阻害行為に合わずに橋を渡ってらっしゃる。
僕、ちょっとだけタイミングが遅かったようだ。
橋板だけで見ると、そこそこ綺麗なように見えるのだがね。
たぶん支柱がくたびれて来ているのだろう。
先ほどの橋の全容の写真をご覧の通り、ただでさえ「定員5名」と書かれていた橋だ。
支えられる人数が徐々に減り、今は0名になってしまったというわけだ。
せっかくなので、川原から橋を見上げてみようと思う。
そっちの方がきっと、絵になるはずだ。
…ん?
橋の真ん中に、かまぼこ板みたいなものが引っかかっていますぜ。
よく見てみよう。
「合流点」
メッチャ書いてある。
そっか、まさにあそこで2つの川が合体しているのだな。
下から出ないとあのプレートの存在には気づけなかったが、上から合流ポイントを見下ろしてみたかった。
あぁ、この構図ステキ。
秘境の夏休みって感じ。
実際、周囲には誰もいない。
さっき釣り人が1人いたけど、ザブザブ川を歩いてどっかいっちゃったし。
そういやあの人、熊鈴をつけていたな。
人間はいないけど熊はいるのかな。怖いこと山のごとし。
さらに奥側を覗き込む。
なんか川がもうもうと水蒸気を発生させている。
ちょっと引きで見ると、こんな感じだ。
淡い緑色の渓流。大自然の代名詞のような色合いだ。
まさに仙台市の秘境である。
県庁所在地でありながらも秘境要素までカバーしている、仙台市の懐の深さよ。
橋の下の川原に座り込み、僕はしばしこの渓流を眺めていた。
時を忘れるかのような流れであった。
…で、本当に忘れていたことがあったことに気付く。
僕は奥新川駅を目指していたんだった。
「国道から駅に行く」という、文字にすれば極めて日常なことをしたいだけなのに、なんだかアドベンチャーな感じになっていたのだった。
立て札がある。
奥新川駅までは、ここから1㎞。
歩いて18分という。
いや、車で行くけどね。熊出るみたいだし。
…というわけで、続編の奥新川駅編は、またの機会にご紹介しよう!!
もしあなたが続きを気にしてくれるなら、以下のリンクをご覧いただきたい。
決して損はさせないレポートだと思う。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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