市内には鬱蒼とした森もあり、その森の中には今はもうホーム等も撤去されてしまったかつての駅の跡地もある。
今回ご紹介したいのは、「八ツ森駅」。
駅自体があったころは秘境駅ランキングで第5位を獲得していたという、すんごい駅なのである。
ちなみにこの秘境駅ランキングとは、秘境駅のスペシャリストである「牛山隆信さん」によるWebサイト、「秘境駅へ行こう!」を基としている。
これまでこの【週末大冒険】で取り上げた、ランキング上位の駅は以下の通りである。
◆14位:峠駅(山形県)
この2つの駅も大変だった。
どちらも未舗装路だったし、駅周辺に家屋も2・3軒しかなかった。
じゃあ第5位ってどういうことだよ。心臓が高鳴るぜ。
プロローグ:奥新川駅への道から
実はこの日は、秘境駅ランキング55位の「奥新川駅」にも行っていた。
その詳細はすぐ上にリンクを貼っているので、気になる方はこの記事のプロローグ的な意味合いとして読んでいただきたい。だが、読まなくっても全然影響はないのでご安心いただきたい。
奥新川駅への道は、大体ずーっとこんな感じだ。
僕の愛車である日産パオはご老体なので、ことあるごとに「バキッ!メキッ!」といいサウンドを奏でながら森の中を進んでいた。
延々続くダートの中、ちょっと開けたポイントに出た。
しかも路肩には車を2・3台は駐車できるスペースがあった。これは好都合だと思い、車を停めて休憩がてら外に出た。森の中の空気ってうまいのな。これが仙台市内だとは信じられない。
…って思って景色を眺めていると、遠くの森の中に赤い鉄道橋が通っていることに気付いた。ちょっとズームしてみよう。
あぁ、あのあたりがきっと「仙山線」の八ツ森駅だった場所なのであろう。
これから目指す奥新川駅へと繋がる線路。かつては「八ツ森駅 ― 奥新川駅」という順だったのだ。
今はもう八ツ森駅は存在せず、仙山線を走るすべての列車はスルーしている。
アプローチはやや容易
2時間ほど後のことである。
僕は宮城県仙台市の中心地と山形県天童市を結ぶ国道45号の「ニッカウヰスキー株式会社 仙台工場 宮城峡蒸溜所」前にいた。
国道48号はご存じの方も多かろう。
上にあげたニッカウヰスキーの他にも、「作並温泉」・「鳳鳴四十八滝」・「関山大滝」などの有名なスポットもあるし、宮城県と山形県の両県を行き来するのに便利な道だ。
関山大滝については以下のリンク先の記事が、当ブログにおいてもそこそこ人気なのでお時間許せば読んでほしい。
何が言いたいかというと、そこまで山の中の大秘境ってわけでもない。
比較的みんなが走っている国道の近くに八ツ森駅跡がヒッソリと眠っているということだ。
国道48号沿いにあるニッカウヰスキーの赤レンガ施設。
この写真を撮ってからわずか13分後、僕は八ツ森駅のかつての駅前ロータリーに立つことができるのだから。
ニッカウヰスキーから南へと入っていく。
道路は2車線であり、すこぶる走りやすい。この先にもいくつか集落があるからね。でもこの道は最終的にはブツッと途切れる。
どこにも繋がらない、袋小路の道なのだ。
6分ほど走ったところで、傍らに「八ツ森」のバス停が出てきた。
この道路沿いの最奥の集落。しかしバスはここまで来るのだ。…いや、正確に言うと"僕の訪問時には"ここまでバスが来ていたのだ。
このバス停と、国道に出るところまでのニッカウヰスキー「ニッカ橋」までを結ぶ路線。
2021年3月末で、利用者減少のために廃線となってしまったとのことだ。
僕の訪問時であるこの記事は、その数ヶ月前の夏の記録である。バス停現役時代の最後の夏の、貴重な写真となってしまった。
このときはおじいさんがバス停周辺の草刈りをしていた。集落の奥ではあるが、キチンとメンテナンスされていたバス停であった。
2023年のロケーションはをGoogleマップから拝借してきた。
もうバス停ではないが、かつてのバス停が小屋として存在している。そしてまだここは2車線で走りやすい道である。
その30秒後、最後の民家を脇目で見た直後にいきなり道がワイルドになった。Googleのストリートビュー撮影車両もここで引き返している。
確かにここから先は秘境感バツグンである。
しかし先ほども書いた通り、ニッカウヰスキーから八ツ森駅跡までは13分。既にこの時点で7分が経過している。
メタ的に記載するのであれば、あと6分で八ツ森駅跡まで行けるのだ。
Googleマップからの航空写真でご説明しよう。
今、写真中央に見えている赤い屋根の家を通過したあたりだ。そして目指す八ツ森駅跡は道路が消えている部分である。ちょうど線路に突き当たって消えている部分だ。
徒歩でもたぶん5分くらいの距離。
ここがガンガンに栄えている町中なのであれば、八ツ森駅はきっとまだ健在だったろうし、この集落はすごい駅近物件で大人気だったであろう。
そういう世界線もあったかもしれない。
ただし現実は甘くはないぜ。
道はヌチャヌチャでタイヤを取られる。しかも進行方向は轍はあるとはいえ、轍以外の部分には草が生い茂っている。
「これは何かあったらUターンもできないな。危険だな。」って思い、上の写真の路肩に車を停めて、残りは歩くことにした。
どうぜここから3分も歩けば駅跡だろうし。
これが、僕が身の危険を感じて車での侵入を断念したエリアである。
むしろこれだけ綺麗な轍があるということは車で入ってもなんとかなるかもしれないだろうが、僕はビビリだからね。そして車もオンボロだしね。だから歩くのだ。
森の中のお散歩、気持ちいい。
秘境駅が上位ランキングするにはいくつかの要素があるが、正直ここはアプローチ面では容易な方だと考えた。
しかし駅の周辺200mくらいの環境がすさまじいために、第5位に食い込んだのだろう。
森の中の廃駅を堪能
かつてのホームへ行ってみよう
歩いていると、道が左右に分岐する地点が出てきた。
僕は「えっ!?ここまで来て分岐なんて聞いてないよ!しかもどっちも同じくらいの轍があって正解がわからないよ!」って思った。
だけども後から確認したところ、ここはかつての駅前ロータリーだ。どっちに行っても一応正解。
1分後、こんなロケーションになった。
右手に鉄道の送電線が見えている。そして、かなりわかりづらいけども右奥の茂みに上へと登る踏み跡がついている。あそこからかつてのホームに行けるのだ。
ボロボロの木の階段が現存している。あるだけありがたい。これがあるから、今も僕らはホーム跡まで行けるのだ。
ちなみに八ツ森駅に最後の電車が停車したのは2002年。駅として正式に廃止されたのは2014年。そして駅自体が撤去されたのだ。
来るのが数年遅かったなー…。駅があった時代に見てみたかったなー…。
階段の上から駅前ロータリーを見下ろした図。
こうやって上から見るとまだちゃんと階段があることがわかるね。
たぶんだけど、かつて存在していた時代の八ツ森駅もすっごく整備されていたわけではなく、ワイルドなテイストだったのだと思う。
八ツ森駅が誕生したのは1937年。
この近くに「八森スキー場」っていうのがあり、その利用者のために臨時の駅として造られたらしい。
枕木を並べてホームにしている、すんごい簡素な駅だったらしいよ。その後、鉄板を敷いたホームになったけど、やっぱ簡素な感じだったみたい。
階段を登り終えたところが、かつての八ツ森駅。今はホームも無く、ただ眼前に線路が通っているだけだ。
1970年にその八森スキー場が閉鎖され、わずかに停車していた臨時列車の本数もさらに削減されたとのことだ。
つまり最初から最後まで、かなりのレベルの秘境駅だったのだな。
その場で線路の反対側を眺めた。こんな感じ。
まぁ正直「だからなんなの?」ってレベルの、どこにでもありそうな線路だ。もう駅の痕跡が無いのでこんな写真しか撮れない。
そして、いつまでもこんなところにいて電車でも来ようものなら、運転手さんをビックリさせてしまうかもしれない。
撮るべき写真を撮ったら早々に引き返すのが利口かな。
鉄橋を通る電車を見上げて
駅の周囲を一周してみよう。そう思って僕は歩き出した。
僕が最初に歩いてきた側から見ると、駅の裏側にあたる部分。そこにはたぶん昔は駐車場だったんだろうなって感じのスペースがあった。
たぶん今も駐車場としてここに来る人に活用されているのだろう。
僕はビビッて手前で駐車してしまったが、度胸があるならあなたは訪問時にここを使えばよいと思う。
こんな立て札があった。
「新川ライン」というのはハイキングコースだな。奥新川駅まで車で行くとなるとすんごい迂回しなければならないのだが、ハイキングコースを使えば5.4㎞だ。まぁ歩ける距離。
奥新川駅周辺は現在目ぼしい施設はほとんどなく、このハイキングコース利用者と秘境駅マニアがいる程度だと聞いている。
そして八ツ森駅についても、1970年に八ツ森スキー場が閉鎖して以降はこのハイキングコース利用者に細々と利用された程度だったらしい。
(最寄りの集落の人は、やっぱマイカーを使うんだろうな、こういうエリアの人は当然そうだよな。)
さて、この近くには高架橋があるはずだ。それだけは事前情報として知っている。
そこを目指して僕は歩く。
最後に1つ、やりたいこと、見てみたいものがあるんだよ。それは、八ツ森駅近くの高架橋を通過する電車を眺めることだ。
はい、2分で見つけた。緑が真っ盛りの季節、最高のアングルじゃないか。
先ほど奥新川駅に立ち寄ったとき、僕はそこの駅舎で時刻表を撮影しておいた。それを確認する。
奥新川駅とこことでは、さっきの立て札の通り5kmちょっとしか距離が離れていない。
電車であれば3分程度の距離であろう。
その時刻表によれば、あと数分でこの高架橋を列車が通過するはずなのだ。なんていいタイミングなのだ。
僕はカメラアングルを定めて待機する。
小鳥のさえずりしか聞こえなかった森の中に、わずかだが「コトーン、コトーン…」という列車の走行音が聞こえてきた。来たッ!
たった一度だけ押したシャッターは、我ながらベストのタイミングだったのではないかと思った。
仙山線、通過。乗客の多くはここに駅があったことすら知らない、もしくは覚えていないだろう。ただの森の中だと思っているだろう。
そんなところにも、かつて駅があった。誰かの日常が、思い出が、ここにあった。
それを1ミリでも感じられてよかった。
ヌチャヌチャした道を歩きながら、駅周辺の一周を終えた。
そうだ、最後にご紹介したいものがある。
それは川のせせらぎが綺麗であるということ。
川の名は「新川川」。奥新川駅の近くまで、鉄道に沿うように繋がっている渓流だ。
そしてこの川は、先ほど僕が奥新川駅に行く途中で見つけてちょっと遊んだ綺麗な川だったのだ。なるほど、ここで繋がっていたのだね。
大都会仙台の奥の奥。そこにはこんな光景があるのだ。
駅は残念ながらもう無いけど、貴重な自然は残っている。奥新川エリアと合わせて遊びに行ったら、それはきっととても素晴らしい休日になるに違いない。
あなたもこの秋、訪問してみてはどうだろうか。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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