"日本の滝百選"っていうのがある。日本の誇る名瀑が名前を連ねている。気軽にアプローチできるものもあれば、結構エクストリームな上級者用のものまでバラエティに富んでいる。
その中でも、今回は神奈川県の「早戸大滝」をご紹介したい。
この早戸大滝は滝百選の中でもトップクラスの難関滝だ。神奈川みたいなちっぽけな県にこんなゴツい滝があると信じられないかもしれないが、丹沢山地の深部に存在するのだ。幻の滝とも言われている。

そこに僕は単独で向かった。大変だった。
そりゃね、滝百選のラスボスである奈良県「双門の滝」に比べれば、まだかわいいレベルであろう。しかし完全に登山素人でロクな装備もない僕にとってはなかなかの試練であった。
この話は、ひと昔前のものであると思っていただきたい。
何年前とは言わないが、あれから年月が流れ、記事内の林道はさらに崩壊が進んで車両乗り入れエリアが狭まったそうだし、後半の河原の景観も変化したと聞く。
だからこの記事を参考にはしてほしくない。「へぇー、こんな滝があり、コイツ頑張って行ったんだな」と第三者目線で読んでほしい。
じゃ、ちょっくら秘瀑・早戸大滝に行きますか。
- 【第1章】愛車は落石散らばる林道をゆく(8:29~9:08)
- 【第2章】落石と緑の霧の向こうの造林小屋(9:08~9:38)
- 【第3章】ロープを掴め、丸太橋を渡れ(9:38~10:22)
- 【第4章】渡渉ポイント連続、どう攻略!?(10:22~11:16)
- 【第5章】幻の滝、上から見るか横から見るか(11:16~12:00)
- 【第6章】ボディブロー、水没、迷い道、ヒル(12:00~13:35)
- 住所・スポット情報
【第1章】愛車は落石散らばる林道をゆく(8:29~9:08)
「宮ヶ瀬湖」は、ライダーさんに人気のツーリングスポットだ。その宮ヶ瀬湖の西端から早戸大滝を目指すこととなる。西端は賑やかなツーリングスポットからはかなり離れ、静かな雰囲気なのだな。

道は湖畔の北側をトレースする林道荒井線に入る。クネクネした道がずっと続いていて、走りにくい。そしてほとんど車の通行もない。一気に秘境感がマシマシだ。
落石も多いらしいぜ。しかも『事故の責任は負えません』と書いてある。落石で僕が潰れたら「はい、そうですか」で終わるのだろう。なんて切ない人生だ。

小雨が降ってきた。降るなんて天気予報で言ってたっけ…。山の天気は変わりやすいのな…。
ときどきチラッと左手に茂みの隙間から宮ヶ瀬湖の湖面が見える。あと、自殺名所として有名な「虹の大橋」も見える。

そのうち宮ヶ瀬湖が終わり、湖へと注ぐ「早戸川」沿いの狭路に入る。
道はさらに細くなるのだが、序の口だ。しばらく走っていると「早戸川国際マス釣り場」が出てくる。つまり、まだ一般観光客も普通にいるエリアなのだよ。

ここが最後の文明的な施設であろうな。久々に人間を発見した。まだ朝の8時半だが、みんな元気に釣りをしている。
…で、ここでトイレを借りておいた。ここを逃すともう帰りにまたここに来るまでトイレにいけないからね、きっと…。

早戸川国際マス釣り場から先は「早戸川林道」というらしい。警告文言がベタベタに貼られたのゲートをくぐると、さらに道は狭く、そして荒れてくる。
さらに少し進むと見えてくるのが、上の写真の運命のゲート。
ときどき閉じていることもあったりするそうで、そうなると車は当然侵入できない。そうなるとゲートをどうにか生身で突破し、ここから滝まで歩いていくことになる。一気に時間もスタミナも増加するのだ。
だが、やった!今日は開いているぜ!!

車は小石の散らばる道路を上へ上へと登って行く。霧が濃くなってきた。登山路が濃霧だったり雨だったりしたらやだなぁ…。
途中で右手に「三日月の滝」が見えた。現地には滝の名前を示す看板も駐車場も無いけどね。後日調べてようやく滝の名前がわかったのだ。たぶん、三日月の滝であってる。

鬱蒼と茂る木々。ドキドキしちゃうワイルドさだが、梅雨時の緑は綺麗だ。
…と思っていたらまた雨が降ってきた。カンベンしてほしい。カサもレインウェアも持っていないのに。雨だと知っていたらわざわざ危険を冒して早戸大滝に挑まなかったのに…。

2・3mクラスの落石がゴロンゴロンだ。大丈夫なのかよ、この林道…。そしてこの先の登山路もかなり危険に違いない。心してかからないとだな…。
8:58、「魚止橋」に到着した。駐車場なんぞ無いが、ここの路肩に車を停めるのがならわしだと聞いている。この先は荒れたダートで、不用意には踏み込まない方がいい領域と判断した。
車は他に1台停まっていた。仲間がいるんだね、ちょっと心強い。

魚止橋からは砂防ダムが見える。水がドバドバと流れ落ちている。
ここで登山準備だ。…とはいっても装備はほぼ普段着まんまなので、やることはほとんどないけど。でも、ここでお塩を取り出すのだ。お塩、重要なのだ。

僕、車内で自炊したりもするから大体いつも塩くらいはあるの。この塩をどうするのかというと、ヒル避けのための塩水を作るのだ。
これから歩くルートは、そりゃもうヒル天国。靴の中に数匹ウジャウジャ蠢いて足は血だらけ、とかよくWebで目にしている。だから最低限の対策はしておこう。
持参した空のペットボトルに塩水を作り、ヒルが這い上がってくる靴の周囲にかけておく。これで足からの侵入はそれなりに防げるはず…。
9:08、雨はなんとか止んだ。歩行開始!行くぜ!!
【第2章】落石と緑の霧の向こうの造林小屋(9:08~9:38)
9:08、歩行開始。さぁ、行くよ。神奈川県の丹沢山地の奥地に足を踏み入れるよ。

まずは荒れ果てた早戸川林道の最深部を歩く。
少し昔であれば、ここを車で走行することもできたであろう。四駆じゃないと厳しいだろうけど。ちなみに僕の愛車は四駆だけど、この道に単身突撃するのはちょっとだけ躊躇するかな…。
道はつづら折りでゆっくりと高度が上がっていく。

仄暗い散歩道だぜ…。歩行開始2分で、早くも少し不安な気持ちになっていた。
人の気配のない、暗くてジメジメした不気味な林道。霧も出ている。誰だってこんな道を1人で歩きたくはないであろう。ポジティブなことで有名な僕も、ルンルン気分にはんなれぬよ。

歩行開始から3分、カーブを2つ切り返したところで、いきなりすんごい土砂崩れスポットがあった。ここから先はどう頑張っても車では入れないね。
こんなのがリアルタイムで発生したら、車に乗っていてもサヨナラになるぜ…。

おいおいおいマジかよ!!
9:16、大崩落ポイントに遭遇。どうすんのこれ、通れんの??
どうやらこれは、僕の訪問するほんの2週間ほど前に発生したそうだ。梅雨の雨の影響かな?1m大くらいの大きな岩が歩道を完全に塞いでいる。避けて通ることはできない。

しょうがないからガレキの上を乗り越えた。雨で滑る。そしてグラグラ。
ちなみに山側を見ると、さらに崩れてきそうな岩肌が頭上に迫っていた。谷側を見ると、足を滑らせて落ちれば無事ではすまない高さだった。序盤からヤバい…!!
9:23、伝道入口。イコール早戸川林道終着点。

ここで車道ともお別れなのだ。ま、車道というより既に廃道だったけれど。
昔はここまで車で来ることもできて、ここが駐車場として使われていたそうだ。ここに車やバイクが停まっている写真はWebで見たことがあるぞ。しかし今はもう雑草に覆われて草むらみたいになっている。
ここで気を付けるべきは、どこから登山路に入るのかということ。
一応写真の中央やや右にMAPの看板が立っているけれど、昔からここの登山路は発見しづらいということで有名だったそうだ。
正解は、MAPの看板の裏手からヘアピンカーブで右に130度くらい折れる道だ。これを間違えると最悪生死にかかわるぞ。

この看板、ここで撮影しておいたがとても大事なものだ。これがなければ滝にたどり着かなかったかもしれないくらいのものだ。
あと、こんなグチャグチャなロケーションなのに看板がやたら綺麗で感動した。汚れひとつ無いのはなぜ。

いろいろ注意書きがある。『渡渉を繰り返すことになりますが、丸太橋などはありません』が最大のポイントだ。つまり「橋はないけど川を渡れ」ってことだ。一休さんでもそんなことできるだろうか…。
ヒル注意の看板もあった。課題が多すぎる。先行きが不安すぎる。

じゃあ、意を決して行くか。MAP看板裏から本格登山ルートに入る。
ところでこのルートは、早戸大滝の他にも「雷滝」っていう滝にも続いているんだ。だから2つの滝が行き先として書いてあるよ。なぜ早戸大滝だけ"オオタキ"とカタカナ表記なのか、だって?そんなの知らん。

ここからは傾斜の激しい登り。雨上がりだから滑るぞ。ガシガシ登ると、鹿除けの柵とか出てくる。半分壊れているけど。鹿、侵入し放題。
ほどなくして上の写真の沢に合流。あ、ここは綺麗だなぁ…。

ここからは相当な傾斜。汗かくぜー、シンドいぜー。
道がはっきりしない。わずかに残る、木々に巻きつけられたビニールテープを手がかりに進むしかない。景観は全く開けない。緑は綺麗だが、やや退屈な気分だ。

また看板だ。簡単な"大滝"は漢字で書けず、難しい"雷滝"は書けるという矛盾に首をかしげる。
あ、ところで僕は今回雷滝には行くつもりは無いよ。雷滝との分岐については後述するね。

9:38、造林小屋が森の中からデロンと出現した。
廃屋だね。中はボロボロ。現役ではないのがひとめでわかるが、最悪の場合は雨宿りとか1泊くらいはできるかもしれない。

内部ではなぜか綺麗な小さい置時計がこっちを見ていた。
この時計、僕の腕時計より時間が正確で悔しかった。廃屋の時計に負けた。なんてこった。
【第3章】ロープを掴め、丸太橋を渡れ(9:38~10:22)
ここいらから、足場に小さな木の橋が登場しだす。谷ってほどではないけど、ホントに小さな谷がいくつも出てくるんだ。それを木の板で渡してあるのだ。

しっかりとした造りではあるけど、雨で濡れているし苔も生えているので滑ったら下まで転げ落ちる。ちゃんと注意しながら渡る。

霧も緑だよ、ここ。この光景、以前屋久島でも見たな。緑が豊富なところでのみ見られる光景なんじゃないかと思っている。しっかし暗くて視界が効かないなぁ…。霧も濃いので服が濡れる。
魚止橋に停まっていた車の主はどこにいるんだろう?もっと先かな?早く会いたいなぁ。1人は寂しい。

あと、ちゃんと早戸大滝って漢字で書けている看板を発見!
ここまで3枚の看板があり、すべて大滝はカタカナだったのだが、ここで学力UPだ。そうか、書けるようになったんだ!
我が子の成長を見れたようで嬉しい。仄暗い霧の中で僕はニッコリした。

造林小屋から10分、9:48にエグい谷が出てきた。
足を踏み出して見ると、感触が柔らかい。無駄にソフト。こんなに柔らかい橋は初めてだよ。半分朽ちているのだよ。もしお相撲さんが思いっきりここでジャンプしたら、橋全部ブッ壊れるかもね。

側面から見るとこんな感じだ。なんてアクロバティックな造りなのだろう。でも、これを命がけで設置してくれた誰かに感謝だ。

その2分後、今度は大岩クライミングだ。どうやら平坦な道はこれでいったん終わりらしい。
ロープを使って斜度70度くらいの大岩をよじ登る。ロープが雨に濡れててドロドロで気持ち悪い。そして岩が濡れてて靴が滑る。僕の靴、スニーカーに毛が生えたような簡素なブーツみたいな靴。失敗した。もっといい靴を履いてくるべきであった。
この難関を乗り越えると今までの暗い森が開け、明るい光景が目に飛び込む…!

うわぁぁぁぁー…!!
ちょっとーー!期待していた光景とは違ったー!
登山路が大崩落している。全部。そりゃ明るいはずだわ。木々も全部谷底に落ちちゃっているんだもん。おい、返せよ。僕の登山路、返せ。

この斜面の感じからすると、崩落からあまり日数は経っていなさそうだね。
下の方を見ると渓流があり、丸太橋がかかっているのが見える。高度30mくらい?なかなかの落差だ。これからどうにかこうにか、きっとあそこまで降りるのだろう。
とりあえず、この崩落地帯を横切れないか、足を出してみる。
うわぁぁ!ダメだー!
とても人間が立てる傾斜じゃない。仮に立てたとしても、体重でさらに雪崩が起きてスピーディに眼下の渓流の横まで行ってしまうよ。血だらけで。
まいったね。こうなったら無理矢理に高巻きでトラバースだ。斜面のさらに上の方に足を踏み入れる。当然ここは登山路じゃないから、もう木々いっぱいでワケわかんねー。

塗れた木々に絡まりながらもバキバキ進み、どうにか崩落地帯の反対側の上の斜面に到達。こで先人の残してくれた、1本のロープを発見した。
これを伝えば多少安全にここから登山路まで降りれそうだ!ありがとう、先人!

傾斜70度くらいの斜面をロープにつかまりながらズドドーッと降りる。
トラバース成功!登山路に戻ってきたぜ!!
崩落地帯を振り返ると、こりゃ酷いね。人間じゃここは乗り越えられない。今後復旧できるんだろうかね?
とりあえず、これで道は開けた。
さっき遥か下にチラッと見えた早戸川であろう川と、そこに架かる丸太橋を目指して斜面を下っていくか。

9:58、第1の丸太橋に到達。さっき崩落地帯から見下ろした橋だ。
左側に『おつかれ様 もう一息です ガンバロー』と書かれた石があって嬉しくなる。ま、実際はまだまだ過酷なんだけどな…。

序盤のMAPを再掲する。今、丸太橋ポイントにいる。そしてここから早戸大滝まではずっと川沿いの道だ。
渡ってみる。おぉ、思ったよりしっかりした橋で満足だ!安定感もあるぞ!
ただ、水に濡れているのでヌルヌルして滑りやすいね。そこだけ注意すれば難なく渡れるぜ。

この川の上流に早戸大滝があるのだ。そう考えると胸が高鳴る。
じゃあもうこの先は河原をテクテク歩いていけばいいのかと言うと、そんな甘くはねぇ。

河原の大岩を登るのだそうだよ。岩肌に書かれた矢印が天空を指している。
ホント片時も休ませてくれないよなー、このルート。ひっきりなしに障害物が続くわ。バラエティに富みすぎだわ。岩にしがみつき、登っていく…。

あ、ロープが横向きに変わったよ。ということは、ロープを掴みつつ、カニ歩きで行けばいいんだよね?
崖に沿って慎重にカニ歩き、カニ歩き、カニ歩き、 カ… ニ… …??
…あれ?

怖すぎて写真がブレているし引きで撮れていないからかわらないだるけど、大事なものが無くなったの。何が無くなったのかというと、足場が無いの。
バカな。足場がない崖を、ロープだけが先へと進んでいる。
この垂直に近い壁を腕力だけで進んで行けと?そんなクレイジーな理屈が通じると?
おかしい。おかしすぎる。とりあえず片方の腕でロープを掴んだまま上体を思いっきり下げて、足周りの観察をしてみた。

あ、なんか痕跡がある。
足場を岩に打ち付けていたボルト?間隔からしてそうだと捉えた。
山によっては打ち付けたボルトを足場代わりにするようなルートもあるけど、それに使うボルトってコンクリートのビルに埋め込むようなゴツいヤツだもんね。こんな100円ショップで買えそうな代物ではない。
どうしよう、これ。上の写真もね、一見僕は地に足をつけているように見えるけど、それは地面じゃないからね。崖だからね。とんでもないよ。

しかし、足場が無いものはしょうがない。ロープをしっかりと握りしめ、腕力を頼りに岩肌を突破。人間、やればできるものだ。
上の写真は岩肌を突破し、ホッとして振り返った構図だ。
このあとは河原にまた降りた。しばらくは河原を歩いたり、渓流に腕を突っ込んで「冷てー!」とか言ってはしゃいだり、ちょっと森の中にも入っちゃうルートだったりと、比較的平和な時間が流れる。

10:11、再び川を渡る箇所が登場した。最初のMAPにも載っていた第2の丸太橋だ。
第1の橋に比べるとちょっと貧弱かな…?なんだか横板が若干傾いているんだけど、それでもまぁ普通に渡れるレベルの橋だと判断した。

余裕余裕。バランスを取りながらサクッと川を渡った。
で、対岸に渡ったたらさ、今度はいきなり崖にロープがベローンと垂れているのね。「間髪入れずにここを登ってください」と言わんばかりに。いや、登らないと滝まで行けないのだろうけども。

はいはい、登りますよ。もう慣れた。
それからもしばらく川沿いの岩場を登ったり下がったり。河原に降りたとき、初めて僕以外の人間に遭遇した。男性2人組だった。河原でご飯作っていた。
お互い普通にご挨拶してスルー。しばらくしてから思ったけど、アウトドアに慣れてそうな人たちだったから、滝の情報収集でもしておけばよかったかな?
10:22、雷平についた。さて、ここから早戸大滝も本気モードでくるぞ…!気合入れねば!!
【第4章】渡渉ポイント連続、どう攻略!?(10:22~11:16)
10:22、雷平の分岐だ。早戸大滝と雷滝で行く方向が異なる。滝が分かれるので、当然川の流れも分岐しているポイントだ。

地図をよく見てほしい。ここから早戸大滝まで、なんか川の中を赤線が蛇行している。
赤線を書くのがヘタすぎて川の流れに対しブレブレになってしまったわけではない。実際にルートは川を何度も横断するのだ。でもさっきみたいに『丸太橋』みたいな記載がない。
どういうことかというと、橋はないけど川を渡れってことだ。序盤にそう書いたポイントが、目前まで迫っている。

岩には『←オオタキ』と書かれている。またカタカナになっちゃったよ、この子…。
もう別にどうでもいいけど。では、左に進路を取ろう。間違っても右に行ってはいけないよ。

おぉ…、ずいぶんとワンパクしている丸太橋が出てきた。
しかしこれ、地図にも載っていない非公式の橋だ。誰が親切な先人が作ってくれたのだろう。でも大雨が降ると流されたりするし、川の流れも年月と共に変化したりする。
そのときどきに合わせ、こういう橋を善意で作ってくれる人がいたりするのだ。
いやー、しかし何この橋。2つに分岐しちゃっているし。その片方はものすごい傾斜なので人間は立つことはできないだろうし。

ドキドキするけど、これを渡らないと先には進めない。恐る恐る渡って行く。
これ、落ちたら大惨事だよ。でもな、この橋が無かったら僕のような素人は川の中を横断できないであろう。感謝感謝なのだ。
公式には橋は存在しないポイントなので、ここを第1渡渉ポイントと呼ぼう。
10:28、早戸川の河原に出た。

先ほどの雷平の分岐後は、その前までとはちょっと景色が変わった。
ゴツゴツした白い岩が広がる河原。ここだけ木々が生えていなくて開けている。その真ん中を流れる早戸川。この早戸川に沿って上流へと岩場を歩いていくコースだ。
岩だらけだからちょっと道がわかりづらいけど、ところどころケルンがあってかろうじ
て登山路だと判断できる。キョロキョロしちゃうことも多いけどね。もともと道なんて、あって無いようなものだしね。

えっと…。橋??これ、橋?我が目を疑った。ウソであってほしかった。しかし周囲を見渡しても、道らしき道はない。否、これが道だ。この2本の丸太が。
渡れるのだろうか??2本の丸太の手前側は、奥のヤツより太い。まずはこれに足をかけてみるか。
…うわぁ!滑る!そしてグラグラする!まるでシーソーだ。手前に体重をかければ奥の方が浮くぜ。そして水に濡れた丸太は尋常じゃないくらいに滑る。足をかけた瞬間に滑るわ動くわでちょっと片足が水没しかけたよ。

仮にものすごいバランス力で手前の丸太を攻略しても、次は2本目の丸太に飛び移らなければいけない。写真じゃよくわからないだろうけど、この2本の高低差がまた凶悪なんですわ。しかも2本目の丸太は1本目よりずっと細いし、ずっと滑りそう。
これ、ムリ。渡るのムリ。しかし諦めたくはない。こうなったら、やりたくないけどやるしかないか。初の渡渉だ。本来はマリンシューズだとかちゃんとした装備がないと危険なんだけど、僕にはそんなものはない。
靴を脱いでハダシになる。そしてバッグと靴を向こう岸までブン投げる。さぁ、あとはYAMAさんが向こうに行くだけですよ…。
川の中を歩く。冷たーい!!そして流れが速い!丸太にしがみつく。冷たい!冷たい!!

第2渡渉ポイントクリア!
おぉぉぉぉ…、早速足の感覚が無くなったわ。あと、ヤゴが1匹足にへばりついていた。
タオルで足を拭き、しばらく乾かす。あぁ、先が思いやられるね。この先も川を渡るようなポイントがたくさんあるのだろう…。気が滅入るぜ。

第3渡渉ポイント!
これはもう、橋とは呼べぬわ。丸太を使わずに向こう側にいこう。
ということで歩幅を最大にして川を跨ぎ、ギリギリで渡りきれた。半分水流に飲み込まれている岩を足場にして渡り切ったのだが、振り返ると本当に危険だったな。死ぬほど滑る岩だったし。ましてやこの梅雨の時期は川も増水しているし。
ちょいと考えてみた。登山とか沢歩きをしている人にとっては常識なのだろうが、素人の僕はこのタイミングで考えた。
渡れもしないような橋を作る意味はなんなのか。それは、「ここが道ですよ」「こっちが滝ですよ」って指し示しているに他ならない。
そっか。木々は橋ではない。人為的な痕跡を作ることによる誘導だ。ちょっと勇気出てきたぜ。

さらにしばらく進むと、右手奥に幾筋にもなって流れ落ちる中規模の滝が出てくる。
そっちが道かなって思って茂みをガサガサ分け入って滝の足元まで行ったんだけど、どうやら道はないようだ。周囲を見渡し、ルートっぽい特徴を発見。

10:51、第4渡渉ポイントがそれだ。絶対に折れそうにない、巨大な丸太。よく見ると2箇所の接地面がしっかり小石で固定されている。あきらかに人工物だ。つまりルートはこっちだ。
…だが、これは渡れないな。ゴロンと回る危険性が無いとは言えない。それに太すぎて、上に登るのも危険だと判断した。
よく見ると太い丸太に平行して細い丸太が下側に架かっていた。川の途中からしか架かってないけどさ。なんとかその細い丸太に足を乗せる。普通だったらこんな細い丸太だったら立つことすらできないんだけど、そこは太い丸太を手すり代わりにした。
こうしてカニ歩きで何とかクリア!

対岸にはまた中規模の滝が見えた。無数の水流が美しい。
先ほどの滝といい、こういうのが出てきているってことは本命の早戸大滝も近いぞ。

第5渡渉ポイント。あー、ここは無理。無理してジャンプしても、こっちの岩も向こうの岩もツルツル。転んで後頭部強打するよ、これ。
周囲を見渡し、比較的川幅が狭いところを発見。バッグを先に投げた後に大ジャンプした。ふぃー、危ない。
引き続き河原を登る。もう道なんてほとんどわからん。進んでいくと河原がなくなるから、川を渡って対岸に行く。それの繰り返し。
ただ、ところどころで川の方に向いて木々が落ちているんだ。判断はつきにくいけど、人為的っぽくも見える。それを信じてそのポイントで渡渉する感じだ。
では、同じことの繰り返しなのでちょっとダイジェストで紹介しちゃおうか。

うえぇ…、もう足回りビチョビチョ。おまけに汗もかいているし、ときどきやってくる濃霧で体全体も濡れている。
うーむ、ところで雷平を過ぎてからは、全然早戸大滝の看板が出ていないんだよね。ちょっと不安になるぜ。まだかなー。
なんだか茂みみたいになってきた河原をガサガサ進む。そのとき、進行方向左手からひときわ大きい川の流れの音が聞こえた。茂みの間からその正体を探す。
そしてついに ― …

11:16、早戸大滝発見…!!
…じゃないわ。たぶん違うわ、あれ。僕が今までWebで見てきた早戸大滝ではない。しかしあの滝は早戸大滝の下流だろうね。あっちに進路を変えるか。
ここでふと思い出し、序盤に撮影したMAPの写真を見返す。

『直進しない 左注意。』って書いてあるポイント、それがここだ。ボケッと進んでいるとそのまま直進して本谷沢に行ってしまいそうなロケーションだった。Webを見ると延々そっちに進んでしまう人も一定数いるらしい。そりゃあ悲劇だ。
じゃあ、早戸大滝へのクライマックスといきますか!!
【第5章】幻の滝、上から見るか横から見るか(11:16~12:00)
茂みをかき分けて滝方面に向かった。道、ほぼ無い。

ところどころにケルンができているので、それが目印だ。あとは滝の音が目印だ。
ガサガサと草むらを強引に進むと、眼前に早戸大滝の1つ下の滝が現れた。

おぉー!デカいぞ、ダイナミックだぞ!
だが、早戸大滝はこの上だ。ってことは、あと数10m程どっかを登って高度を稼がないといけないってことだね。それがきっと最後の試練!

第10渡渉ポイント。もう慣れているが、慎重に進むぞ。最後まで気を抜くなよ。川幅の狭いところを探し、対岸まで大ジャンプした。

11:20、断崖が現れた。これは…、傾斜70度くらいありそうにも見えるけど、どうなんだろね…。
ロープにつかまりつつ登る。もう断崖の周囲は一面濡れていて滑る滑る。服とかも濡れているしドロドロになっているしで、大変な事態だ。

11:23、何本ものロープを経由して30mくらい登ったあたりかな?ちょっと一息つける平坦なスポットで、早戸大滝がチラッと姿を現した。
不完全ながら早戸大滝が見えたのだ!!元気、出た!!
眼前にはまだロープが垂れ下がっている。よーし、バリバリ登るよ!
相変わらずとんでもなくハードな崖で、僕ももうヘロヘロ。でも最後の最後なのだ。ロープを手繰りながら必死に登る。

…あの…、登りすぎてやいませんか?
さっき正面に滝が見えていたじゃない。なのにあれから数10m登っている。なんかおかしい。これじゃ、滝の上に出ちゃうよ。
僕が知っている早戸大滝の写真は、正面からのものだったよ。
どうしよう?この道、間違っている?せっかくここまで来たのに引き返す?いや、もうちょっと登ってみるか。展望台とかあるかもしれない。

11:29、大滝新道入口の皿看板が現れた。
新道ってなに…?さらに少し進んで確信したのだが、ここは本当に滝の真上みたいだな。最後の渡渉である第11渡渉ポイントにて滝の上部を横切った。

11:31、早戸大滝 落ち口に立った。
ひゃー!あの向こうが滝なんだぜ。すごいところにいるよ、今…!
でもな、真上だから全然滝が見えないよ。どうしよう。スリリングな気配を味わっているだけになっちゃっているよ。じゃあさ、滝に近付けるだけ近付いてみよっか?そうしよっか?
落ち口の左側からさらに崖に近付く。まだ滝は良く見えない。
さらに崖側…、というより崖より向こうに飛び出している木の枝につかまって身を乗り
出す。

おっ、おっ、おっ…落ちる…僕が落ちそう。
今、僕は崖よりも滝よりも外側にいるぞ。目一杯手を伸ばして滝を撮影する。
怖い…!今の僕、捕まっている木の枝が折れたとしても、足場の濡れている木の幹で滑ったとしても、50m下の滝つぼに落ちて死ぬ。

草木がジャマだが滝の上部の写真は撮れたので、長居は無用だ。戻ろう。この不安定な足場から落下する前に戻って、滝を正面から見れるところを探そう…。
また急な崖をロープを伝って降りていく。
11:43、最初に滝が見えたあたりで改めて確認すると、小さな矢印マークがあった。

あぁ、クソッ、あったじゃねーか。きっとこれだよ。これが早戸大滝のビューポイントへの表示だよ。これを見落としたがために、30mほども崖登りをしちゃったよ。貴重な構図を見られたからいいけど。
もう滝は目の前に見えている。ここで本当に最後の渡渉、第12渡渉ポイントだ。先ほど茂みから見えていた、"早戸大滝の1つ下の滝"の上部を横断した。
つまりは早戸大滝の滝つぼってことか?水量は多いし、滑って落ちた時のダメージも今までで最大だ。
これまた細心の注意で渡った。そうすりゃゴールだ!秘瀑・早戸大滝だ!!

11:45、早戸大滝到達!!
着いたー!早戸大滝!落差50mの大きな滝だ。その滝つぼの目の前まで行けるのだ。飛沫がすごく飛んでくる。涼しいー!すごい迫力!
もうこれ、絶対に写真じゃ伝わらない。ドゴゴゴゴー!!って滝がすごい勢いで落ちているんだ。爽快!

この最大の最大の特徴は、滝の中腹あたりで目の前に迫り出している大きな岩盤だろう。このおかげで滝の全容を見ることはとても困難。
だから幻の滝とも言われている。到達が難しいという意味と、岩で隠れているという、2つの意味での幻なのだそうだ。
大岩あっての、早戸大滝。ちょっと隠れているアングルからの眺めが好きだ。

早戸大滝は、正確には2段の滝。上部40mと下部10mとで形成されている。
その段差の部分が、上の写真。、思いっきり滝が跳ねている。飛沫がこっちまでジャンジャン飛んでくる。段差の部分は水圧できっと岩が丸くえぐられているのだろうな。

数分見とれていると、遠くから「ウヒョー!」みたいな複数の声が聞こえた。どうやら他にも客が来るようだ。
間もなくやってきたのは、若い男性3人組。もう滝を見てテンション最高潮になっていた。うん、僕も1人だから冷静だけどさ、誰かと一緒だったら騒ぐかもね。羨ましい。

ここで人と出会えるって貴重だな。嬉しいよ。ご挨拶をし、これまでの過酷な行程をお互い振り返りながら談笑した。短いひとときだが、とても良い交流となった。

彼らとはお互い写真を撮り合い、そして僕は一足先に滝を後にした。
バイバイ早戸大滝。きっと一生で一度の出会い。がんばればまた来れるのだろうが、一度切りだからこそ思い出も輝くような気がするよ。
【第6章】ボディブロー、水没、迷い道、ヒル(12:00~13:35)
また急な崖をロープで降り、"早戸大滝の1つ下の滝"の前に出る。そして、ここで来た時と同様に渡渉するのだ。先ほど第10渡渉ポイントと記載したところだ。
ここで僕はしてはならないことをした。それは、"油断"、そして"慢心"。
帰路ということもあり、どこかで緊張の糸が緩んでいたのだろう。渡渉も繰り返していたので慣れてきて、気が大きくなっていたのだろう。
僕が飛び、着地したのは川の中ほどにある濡れた岩。今まで何度も書いてきたとおり、濡れた岩はパッと見ではわかりづらいが苔むしていて、恐ろしいほどに滑るのだ。
それをわかっていながらなぜそこで飛び、その岩に着地しようと考えたのか、ちょっと思い出せない。
岩に着地…、と言えるほど体重を預ける前に、すさまじいゼロ摩擦で僕は岩に受け流された。文字通りツルッとなった。
そこに待っているのは、滝の直下の強い流れだ。瞬間、体をひねって川の中に落ちるのではなく、その濡れた岩に胴体着陸する運命を選んだ。コンマ何秒かの判断だった。
…グハッ!
でもボディに重いのもらっちゃった。そして腿から下は川の中。一瞬何が起きたかわからないほどの衝撃だったが、すぐに体を起こす。

12:10、グッチャグチャの状態で渡渉を完了させた。うん、アバラは大丈夫。数10秒息ができなかったけど、それも大丈夫。
もう、片足は腿から下はビショ濡れだー。上半身も霧とか滝とか今の転落のときとかの飛沫を被って相当濡れているよ。悲惨だよ。しょうがない。濡れた足をズルズル引きずって河原を下っていく。

なんか濡れると動きが鈍くなるからさ、途中でまた片足が滑って水没しちゃった。もう、どうにでもなれ的な気分だぜ。
12:40、青空がのぞいた。今回初めての青空だ。あぁ、嬉しい。

ここいらで、行きのときに自炊をしていた男性2人組にまた出会う。今度はいろいろお話した。
彼らは何度もここには来ている人だそうで目的は沢歩き。マリンシューズでジャバジャと川の中を歩いて楽しんでいるんだそうだ。いいなー。僕が苦労して飛び越えたり転んだりした渡渉も、マリンシューズがあればかなり快適なのだろうなー…。
13:33、例のハダシになった渡渉ポイントに戻ってきた。行きと同様に渡る。やっぱ死ぬほど冷たい。

13:55、第2の丸太橋に到着。もうここから先は水に落ちる心配もほぼないね。
さらに第1の丸太橋も越え、崩落した登山路を崖を使って高巻きし、山の中の登山路に入る。一度経験すると驚くほどスムーズだ。何があるかわかっているってのは大事。

ありゃりゃ、さっきまで晴れていたのに、また霧が出てきたよ。
ここいら辺、行きのときも霧だったよね。ここの天気はずっとこんな感じだったのかな?暗い。

13:08、造林小屋まで戻ってきた。
造林小屋を通り過ぎたら、雨。おいおいー、山の天気ったら、変わりやすすぎー。
このあとは林の中の急な坂下りが始まる。
うおぉぉ、急だ。ズザザッと滑り落ちるように進んでは、近くの木の幹に掴まってブレーキ。だけども掴まった衝撃で木の枝から大量の水滴が落ちてくる。ズブ濡れっすよ、これ。

…そしてさらに道を見失う。もともとほとんど踏み跡の無いこのエリア。木に巻き付いたテープを目印にしてきたつもりだけど、見失っちゃった。滑りすぎたかな…?
なんだが道のように見えるが、ここは道ではない。
坂をまた上って、最後にテープがあったであろうところまで戻る。そして注意深く周囲を見渡すが、テープが1つも無い。なんで??焦る。不安になる。ここまで来て遭難か…??
苦し紛れに一番登山路っぽい方角に進んでみる。
なんとか当たりだったみたいだ。テープが復活。この暗い雨の森の中で迷ったら、体温下がって大変なことになるところだった。食料も持ってないし。よかったよかった。
ズザッ、ズザザッっと豪快に林の中を降りていく。
そして!13:20、ついに登山路のゴールだ!最初の登山路入口の場所に戻ってきたか!?

…あれ?ここはどこ?
知らないところに出ちゃった。なんか朽ちたガードレールがある。これは初見だ。異世界に来ちゃった気分だけど、ここは現世??
そういえば、序盤で「沢が綺麗だなぁ」とか言いながら写真を撮ったスポットとか、通らなかったよなぁ。道は複数あった?よくわからん。
とりあえず、これは車道だ。廃道だけど、車道だ。きっと早戸川林道のさらに奥だ。
行きは早戸川林道の最奥と思われる伝道入口から登山路に入ったが、実は林道はさらに奥に続いていたのだ。
少し歩くと、行きのときに登山路に入った伝道入口の空き地が見えてきた。ホッとした。これでゴールは間近だ。

なぁんでお昼なのにこんなに暗いのかなぁ、この林道は…。
もっと僕の帰還を明るく祝福してほしかったんだけどな。ゴロンゴロンしている岩を乗り越え、崩落箇所を突破。
13:35、魚止橋に帰還。ただいまー!!愛車の元へと戻って来たぞ!!

とりあえず全身ズルズルなので、体や髪を拭いたり。そして着替えよう。
裾部分、転んだときに岩の苔をこそぎ取っているからほのかに緑でしかも臭い。最悪だった。さらにヒルがくっついているのを発見!しかも2匹!ここできたか!最後に来たか!
慌てて払い落とす。そんで濃厚な塩水をダバダバかけて始末。
幸いにも噛まれてはいないようだ。念のため全身チェック。この2匹以外はどこにもいないようだ。
ヒルは麻酔を出すから、ちゃんと目視しないといるかいないかわからんのだよね。気付かないうちに血だらけになっている可能性も大だから怖い怖い。
…じゃ、町を目指すか。宮ヶ瀬でパンでも買って遅いランチにするか。僕はフラフラと車に乗り込み、そしてガタガタの荒井林道を宮ヶ瀬湖に向かって走り出した。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 早戸大滝
- 住所: 神奈川県相模原市緑区鳥屋
- 料金: 無料
- 駐車場: 無し
- 時間: 特になし