九州本土の最北端。
…こう言われてピンとくる人は、おそらく突端マニアと現地の関係者以外にはいないであろうと推測する。
それが風光明媚な岬なのであれば、訪れる観光客もいるのかもしれない。
だが、九州本土最北端は岬ではないのだ。
なんともかんとも、観光客目線では食指が動かないワードだ。
しかし、突端マニアとしては行かないわけにはいかないだろう。
…少なくとも、行ける部分までは。
最突端16岬の異端児
北海道・本州・四国・九州。
日本の本土と言われるこの4つの大きな島、それぞれの東西南北端がある。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
この16岬の中で、岬ではない異端児が1人だけいる。
それが、今回ご紹介する「太刀浦埠頭」だ。
それがいいか悪いかは別として、世の中には「複数の中に1つだけ、心なしか違う世界観のものが混じってしまう」という現象がしばしばみられる。
太刀浦埠頭は、16岬の中でのまさにそれだ。
しかも、残念なことに「悲しいほうの意味」でそれだ。
前述のとおり太刀浦埠頭は埋立地である。
天然の岬ではなく、人工の陸地である。
しかも観光地でも景勝地でもなく、思いっきり作業員さんたちが働いているコンテナターミナルである。
なんだったら、観光客は邪魔者にあたるかもしれない。
16岬を巡る旅人たちは、「太刀浦埠頭にはたいして興味ないけど、16岬の1つだからとりあえず踏んでおこう」だとか、思ってやいまいか。
例えば16岬のリーダー格である「宗谷岬」なんかは、「我ら16岬の中でも太刀浦埠頭は最弱のヒヨッコよ。アヤツを倒したくらいでいい気になるなよ、クックック…。」とか言ってやいまいか。
いや、そんなことはない。
16岬の中でも特異な属性を持つ太刀浦埠頭には、他の15岬には無い魅力がきっとあるハズだ。
僕はそれを探しに行くため、コンテナの狭間を猛進する!
目指せ、コンテナ埠頭
さて、ここからは日本4周目から6周目で訪問したエピソードを、オリジナルブレンドしながら執筆しようと思う。
本州から九州へと渡った先である「門司港」からほど近い場所に、目指す埠頭がある。
海沿いに東へと2kmほど進むと、徐々に風景が無機質になってくる。
トラックが多くなってくる。
そろそろなのかもしれない。
頃合いを見計らい、ハンドルを左に切って埠頭へと突撃する。
なんだか作業車両とかしか入っちゃダメそうな雰囲気だけど、「関係者以外進入禁止」とかは書かれていない。
部分的には立ち入り禁止エリアもあり、ゲートの前に立つ監視員の人から怪訝な視線をもらったりもするが、そっちには行かないので大丈夫。
行けるとことまで行ってみる。
トレーラーの後ろの部分が、片隅に鎮座している。
上にコンテナを積まれるのを待っている。
山積みのコンテナもある。
ははーん、わかった。
ここは積むか積まれるかの世界だ。
僕のような者は、ぶっちゃけお呼びではないのかもしれない。
モタモたしていると「アンタもコンテナ積みたいのかい!?」とか言われて、愛車の上にコンテナ載せられてプレスされかねない。
少なくとも、作業の邪魔にはならないように、慎重に歩みを進めねば。
完成形もあった。
文字通り、パズルのピースが噛み合ったってヤツだ。
あとは、これに動力源さえくっつければどこへでも移動させられるであろう。
前方に見えているのは、港へとつながるコンベアー的なものだろう。
あまりこういう設備には詳しくはないが。
少し離れたところから、ガションガションと大型重機が動く音が聞こえてくる。
工場感がほとばしっている。シンプルにかっこいいと感じた。
なんかのタンク。
巨大建造物を見るとドキドキしちゃう。
コンテナの間をグルグルしたりもしたが、海が間近に見えてきた。
これから目指すのは、九州本土の最北端である。
最突端を名乗るからには、海の要素は必須である。
僕と海との間を遮るものが、今ほぼ皆無となった。
この先どんな感じになるのかわからないので、ここで写真を撮っておこう。
…天気も相まって、ディストピアなテイストだが。
フェンスが現れた!
有刺鉄線が現れた!
怖いけど、まだ進めるので構わず進んでみよう。
コンテナトレーラーが立ち並ぶ。準備万端だ。
作業員の人がチェック作業をしていたり、フォークリフトがキュラキュラ言いながらコミカルに動き回っていたり。
そんなエリアを抜け、埠頭は開ける。
「あぁ、ここがゴールなんだな」と肌身で感じた。
九州本土最北端の海
…着いた。
僕は岸壁近くに愛車を停め、そして静かにエンジンを切った。
ここが、旅人ととしてのゴールであろう。
ここから先は、フェンスがあって関係者しか入れない。
海ギリギリまで来れた。
海の反対側はコンテナが積まれているものの、海側は美しい「関門海峡」が広がっている。
僕のすぐ近くには、数人の人が釣りをしていた。
ここだけのどかな雰囲気だった。
すぐ対岸に見えているのは、関門海峡越しの本州、山口県である。
だから最果て感は薄い。
じゃあ山口県にすごく近いのかというと、そうでもない。
「関門橋」が架かっている場所が一番近い。
ちなみにその関門橋、すぐ後ろに見えているけどな。
九州本土最北端は、関門橋とマイカーを綺麗にフレームに収められるスポットの1つである。
この点、お気に入り。
車と海との間に、フェンスもガードレールも何もないもんね。
それだけに、転落には最大限の注意が必要だが。
関門橋の右手に見える小高い山は、山口県下関市の「火の山公園」である。
あそこの山頂からの、関門海峡の夜景はとても綺麗なんだぞ。
それはまた、機会があったらご紹介したい。
僕は往々にして、あの関門橋を渡った地点から九州のドライブを開始し、そしてまた関門橋へと戻ってくるケースが多い。
僕にとって関門海峡エリアは、始まりと終わりの地である。
北九州のこのエリアは都市部であるが、この先九州の大自然・高原・岬などを多く巡り、そしてたくさんの思い出を胸に抱えてここへと戻ってくるのだ。
太刀浦埠頭から、そんな思いを込めて関門橋を振り返る。
それから、視線を少し西方面へと向ける。
改めて関門海峡を観察する。
海路には全然詳しくはないが、日本地図を見る限り、ここ関門海峡は海の交通の要所なのだろう。
見ていると大型船がゆっくりと前を通過していく。
あまり大きな船を見る機会がないので、新鮮な気持ちだ。
すぐ側には海難救助船の「早潮丸」がいる。
何か出動するような要件が発生したのだろうか?
…まぁ、よくわからないのでいいや。
きっとパトロールしているだけなんだと思う。
釣り人たちに交じって、ぼーっと海を眺める。
日の出が近づいてくる気配を感じる。
あれね、釣り竿を持っていないだけで、僕も釣り人だからね。
…何を釣り上げるのか、だって?
そりゃもちろん…、
太陽だよ。
積まれたコンテナ越しに、少し遅めの日の出を眺めた。
赤く焼ける関門海峡の景色がステキだった。
最北の限界を極める
…ところでだ。
下記の簡易MAPを見てほしい。
Googleマップなどを見る限り、太刀浦埠頭の構造は大体こんな感じだ。
前述の通り、厳密に九州本土の最北端に当たる部分は、一般人は入れない。
この九州本土最北端の人気が他の突端と比べてイマイチなのは、「埋立地の埠頭」・「途中までしか入れない」という2つの要素を兼ね備えていることが大きいと思っている。
たぶん、あのキリンさんが立っている当たりが最北端だ。
しかし、僕は一般人であり、キリンの飼育員でもなんでもないので、これ以上は進めない。
少なくとも、現時点で「景観と北限がナイスブレンドになったポイント」は踏んでいると自負している。
ギリギリまで北限に近づこうとすると、それは埠頭内部に当たるので、景観は期待できないだろう。
(2つ前の簡易MAP参照)
しかし、1度くらいはチャレンジしてみたい。
限界地はどんなところなのか、知っておきたい。
はい、来た。
厳重にゲートに守られている。
愛車と限界点のコラボ写真を撮りたかったので、素早く車を降りた。
ドアが開けっ放しなのは、何かあった場合にすぐに乗り込めるようにするためである。
キリンさんには、さっきよりかはずいぶん近づいたが、ここが限界である。
でも、自分の限界を知れてよかった。
このゲートの向こう側には警備員が駐在している監視小屋がある。
僕がここに愛車のパジェロ・イオを停めていたら、2人の警備員が顔を見合わせ、そしてうなずいた後にこっちに向かってきた。
いや、ちょっと待って。
悪いことをしようとだなんて考えていないよ。
なんだったらここ、Googleのストリートビューの撮影車も普通に来ているよ。
…というごたくを言っている場合じゃない。
エマージェンシーだ!
素早く愛車に乗り込むと、Uターンしてさっさとここを後にした。
…ふぅ。
別に楽しくはなかったけど、貴重な体験ができた。
九州本土最北端がどんなところなのか、身をもって知ることができた。
まるでアメリカのショッピングモールのように、うず高く積まれたコンテナの隙間を縫うように走りながら、高揚を隠し切れない自分がいた。
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… なお、余談だが「埋立地ではなく、日本の本来の地形の上での九州本土最北端」であれば、それは同じ福岡県の「遠見ヶ鼻」である。(諸説あるらしいが)
1990年代の半ばまでは、ここに「九州最北端」の碑もあったそうだ。
また機会があれば、僕が遠見ヶ鼻を訪問したときのエピソードをご紹介したい。
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さぁ、僕の壮大な九州ドライブは、ここから始まるんだ。
車中泊で九州1周。
いろんな出来事が待っているだろう。
再びここ北九州に戻ってくる頃には、ひとまわり成長できているに違いない。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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