10月も終わりを告げようとしている。
東北の朝晩はグッと冷え込み、紅葉シーズンまっさかりとなる。
紅葉を堪能したら、温泉で体を温めれば最高だ。
「紅葉 + 温泉」。
それはアメリカで言うところの「ハンバーガー + ポテト」と同じくらい、相性バッチリな組み合わせだ。
季節限定だけれども、だからこそ日本の秋は素晴らしい。
さて、東北には紅葉スポットも温泉地も数多くあるけれども、今回は僕が昨年(2019年)の紅葉シーズンに訪れた一風変わった温泉、このただ1つにフォーカスして執筆したい。
端的に言うとね、
温泉、掘った。
川原に湧く温泉
僕が向かっているのは、秋田県の内陸部に位置する「秋の宮温泉郷」だ。
発見は一説には1200年前だそうで、秋田県内で最古とも言われる温泉地であり、うち1つの温泉宿は「日本秘湯を守る会」にもエントリーされている。
戦時中には文豪「武者小路実篤さん」も滞在していたという。
はい、小難しい話はここまで。
温泉に行くぞー。
ランチ食べて大満足したところなので、次は無料だと聞いている、川原の足湯に浸かってまったりするぞー。
着いた。ここらしい。
マイルドに表現しても、一抹の不安を拭い去れない。
なんか空き地だし。
他に車は1台もいないし。
うすら寒いし。
しかし大丈夫だ。空き地の片隅を見てほしい。
「川原の湯っこ」。
これが、今回僕の目指していたスポットである。
この塀と向こうに見えている柵の間から、奥へと入ってみる。
すると…。
わー、川原が広がっているー!
これは「役内川」っていう川なのだそうだ。
ここの川原に、温泉がボンボン湧きだしているらしい。
何人かが川原で土木工事をしてらっしゃる。
あれは、温泉を掘ってらっしゃるのだ。
役内川の川原は、30cmほど掘るといたるところから温泉が湧きだすと言われている。
なので、ああやって温泉を探り当て、そして勝利の足湯に浸るのだ。
…っていう事前情報。
おもしろそうだぞ、僕もやりたいぞ。
「ゆ akinomiya」と書かれたナイスで武骨な小屋がある。
こう書かれていないと、農具かなんかを格納する作業小屋にしか見えないが。
うん、失礼。
中に入ってみたが、やっぱ作業小屋テイストだったわ。
乱雑に木材とか作業用具とか置いてあるし。
だけども、ここが無人かつ無料のスターティング・ブースである。
立て掛けられたスコップは、川原の石を堀るのに使う。
無料のタオルもあるので、濡れた足を使うのに使用させてもらうことも可能だ。
訪問者ノートもあるから、思い出を残せるぞ。
壁にはメディアで紹介された記事や、足湯の作り方などが掲示されている。
全て、地元の人の配慮。
道具からタオルから足湯使用まで、全てが無料なのだから、本当にありがたい。
よし、準備はカンペキだ。
なんかミステリアスな建物の裏を通り、川原へと降りる。
※「介護予防拠点施設 福寿荘」というらしい。
では、足湯を掘るぞ!!
土木系エンターテイメント
役内川の川原。
適当なポジションを確保してみた。
ここがきっと10数分後のマイ・ユートピアに生まれ変わる。
川原からの光景は、こんな感じだ。
紅葉と吊り橋、そして川。
本当は空はもっと青くてきれいなんだけど、紅葉を写そうとするとどうしても白飛びしてしまうのだ。
本当は今日は晴れなのだ。少しだけ太陽に雲がかかってしまってはいるが。
よっしゃー!
掘る掘る掘る掘る…!!
スコップは適度に穴が開いているタイプで、余計な水をすくったりせずに石だけ掻き出すことができる。
ありがたい!
ラーメンのレンゲでも、こういうのあるよな!最後に残りがちな、味噌ラーメンのコーンをすくうヤツ。
よいしょー、よいしょー!
…なんかね、心なしか、スコップに乗っている物体の質量が少ないよね。
もちろん、僕の足腰がすぐにお疲れモードになってしまったという要因もある。
しかしそれ以上に、この作業をスコップでやるのってシンドくないですか?
石の1つ1つは3cm~5cmくらいはある。
それらが敷き詰められたところにスコップを突き立てても、「ガキッ!!」ってなるだけで、充分に刺さらないじゃないか。
ストレートな衝撃が手まで伝わってきて、痺れるし。
ちょっと水の中に手を入れてみた。
結構温かかった。
よし、ハダシでやろう。自ら水流の中に入って作業したほうが、すぐ足元を掘ることができるので作業しやすい。
腰への負担も少ない。
力は入れやすくなったが、相変わらずスコップは川底でガキンガキン言うだけで、作業効率は悪い。
なんだか疲れてきた。
土木って単純のようで難しい。いや、単純だからこそ難しい。
ときどき腰を伸ばさないとイテーのです。
後ろのキッズに土木のコツをヒアリングしたいが、プライドが邪魔をしてくれる。
「お、なんかこの構図は絵になるな!」とか、現実逃避をしてみる。
うん、この写真、完全に僕は川原の岩に座り込んでいるからな。
休養も必要。
そもそも日本のサラリーマンはクソまじめに働きすぎなのだ。
にもかかわらず、なんで休日にもこうやって働いているのだ。
…自分を正当化するための言い訳なら、目の前を流れる川よりもサラサラと無限に湧き出る。
おっと、これはついに川原の真理に気付いてしまった顔をしているぞ。
そう、僕は気付いてしまったのだ。
地球の周りを太陽が回っているのではなく、太陽の周りを地球が回っていることと同じように、真理に到達した。
足元は温水なのに、なぜ僕は温泉を掘っているのだろう??
これさ、掘る必要ないじゃん。
このまま足湯になるじゃん。
この真理に到達した者にとって、スコップはもう飾りだ。
男らしさをほのかにアップさせるだけのアクセサリーだ。
紅葉を見ながら、悠々と足湯を満喫しようぞ。
ところで、1つ注意点がある。
温泉は川原のいたるところでスポット的に湧き出している。
10cm・20cm位置がずれただけで全然水温が違うのだ。
サーモグラフィーで見たら、きっとダルメシアンの模様みたいになる。
従い、「右足は冷たいが左足は熱い」・「つま先はヤケドしそうだがカカトは真冬」みたいな事象が常に発生する。
頻繁に足を動かして位置を変え、どうにかバランスを保つのだ。
熱すぎて足が真っ赤になってしまったりしたら、川の本流に足を突っ込もう。
メチャクチャ気持ちいいぞ、これ。
なお、これは悪い例だ。
ちゃんとバランスの良い足湯を作る方法が、前述の小屋に掲示されている。
熱い温泉が出ているスポットに、川の冷たい水が流れ込むように水路を作り、そしてそこ全体を大きな岩で綺麗に囲って湯舟のようにする。
微調整しながら快適な温度になれば、世界で唯一のマイ・足湯の完成だ。
…そんな丁寧な作業、できなかったけどね。
いいの、O型だからこんなもんでいいの。
お湯と足さえあれば、そこは足湯だもの。
最後にもう1つだけ注意点だ。
上の写真のように、ビビッド・グリーンのゾーンがたまにある。
確か上の写真のところはそうではなかった記憶があるが、この色をしたところはメチャクチャ熱湯が湧き出しているので注意だ。
水温90°とか行くらしいぞ。足湯どころか、クッキングに適した温度だ。
必ず水温を確かめて、慎重に足なり手なりを入れてほしい。
まぁ、湯気がボンボン出ているのでわかるかとは思うが。
あとね、ここから100mほどのところにある「まこ食堂」に電話をすると、川原に出前を届けてくれるそうだ。
足湯をしながら、ラーメンとかすすることができるぞ。
なんというステキ体験。
このときの僕はランチ直後なのでやらなかったが、あなたがもし空腹なのであれば、ぜひチャレンジしてみてほしい。
心も体も温まった。
例えぶかっこうであっても、「なにかを作る」という行為は、確かな満足感を生み出してくれる。
土木サイコーじゃないか。
では、ドライブの再開だ。
色づく東北の紅葉を眺めながら、秋の宮温泉郷を後にする。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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