本州本土の最西端。
あなたは「壇ノ浦だろ?」とか「関門橋だろ?」とか、思い浮かべているだろうか?
何を隠そう、かつての僕もそうだった。
しかし、実は違う。
「毘沙ノ鼻(びしゃのはな)」という岬。
これが本州最西端だ。
下関の中心地から北に向かって直線距離で20km強。
今回は、少々マイナーかもしれないこの岬をご紹介したい。
波花のクロスロード
北海道・本州・四国・九州。
日本の本土と言われるこの4つの大きな島、それぞれの東西南北端がある。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
毘沙ノ鼻。
「毘沙門天」を彷彿とさせるような猛々しい名前だ。
毘沙門天は武神。
じゃあ毘沙ノ鼻も強いのか?
すげー強い岬なのか?
戦闘力53万なのか?
そんじょそこらの岬とは一線を画しているのか?
ワクワクしてきたぞ。
そんな岬を求め、九州と本州の境目と言っても過言ではない地まで、出掛けてみた話をしよう。
今回は、日本2周目と3周目のストーリーがベースだ。
快走路なので、非常にのどかな気分だ。
そこに突如として出てくる、本州最西端を示す碑。
これを見逃してはならない。
いつぞや写真を撮った記憶があるのだが、ちょっと手元で見つからなかったので、Googleマップのストリートビューから拝借した。
事前案内なく、交差点を通り過ぎた先のところに「毘沙ノ鼻 →」って書いてあり、こちらを慌てさせてくれるカラクリだ。
国道を反れてからは、県道245号となる。
信号もほとんどない、別名「風波のクロスロード」という中二が歓喜しそうなかっこいい名前の道をスイスイ走っていく。
ただ、風波のクロスロードを信じてはいけない。
風波のクロスロードを辿ろうとすると、わけわかんなくなるから。
途中で吉母という小さな集落に差し掛かる。
吉母の集落を拡大しても、風波のクロスロードは元気いっぱいだ。
特に上2箇所、「この頻度で書かなくてもわかるよ」ってくらいに書いてある。
とりあえず、海の近くを走るシーンもあって気持ちがいい。
…と思いきや、アメリカ西部の平野部みたいにだだっ広い田園をスイーっと走るロケーションとなったりして、少々呆気に取られる。
それがここだ。
ちょうど1つ目の矢印が途切れる部分だ。
ちなみにここは矢印の通りまっすぐ行くのが正解なのだが、県道245号は右折であり、そっちの方が道が太い。
普通に走ると右折してしまう可能性がある。
なのに標識がないこともあってスリリングだ。(少なくとも僕の訪問当時)
風花のクロスロードも、ここで名前の通り悪魔的に交差しており、ドライバーを迷わせにかかってくる。
もちろん僕は、町を間違えて田園の果てに消えていったこともある。
まぁ賢明なあなたであれば、ちゃんとカーナビを使うだろうから安心だろうが、この記事は僕の思い出話ということで、詳細に書かせていただいた。
田園の向こうはモサモサに木々が繁った低い丘で、クネクネ道でその丘を上る。
車の擦れ違いはなんとか可能と行ったところか。
HUMMER_H3だと、少しだけ不安である。
そこでゴミ処理場のフェンスが出てきて不安を煽られるのも、規定路線だから安心してほしい。
正面に出てくる白い看板にデカデカと「ごみ」とか書かれているが、別にあなたのことをゴミだと言っているわけではないので、安心してほしい。
フェンスギリギリを舐めるようにさらに丘を上れば、毘沙ノ鼻の駐車場だ。
本州最後の夕陽が見える丘
駐車場は30台ほどだろうか?
公衆トイレがポツンとある。
海の見える気持ちのいい駐車場だ。
しかし注意せねばならないのは、この駐車場はフェンスで囲まれており、そのフェンスのゲートは夜間閉じているということだ。
岬の先端は、駐車場のさらに先だ。
つまり、原則夜には毘沙門ノ鼻には行けない。
これは覚えておいてほしい。
しかし、上の写真の通り、そのフェンスにも本州最西端を示すプレートが掲示されている。
マニアとしてはこれも撮影しておきたいものだ。
開所時間 8:30~日没まで
※時間を過ぎますと門が閉まりますのでご注意ください
こんな風に、青地に赤という目がチカチカするような配色で注意喚起をしてくる。
さて、この駐車場の最奥に、岬の先端へと続く遊歩道がある。
直近ではここに「毘沙ノ鼻」と書かれた木製の台座があり、その年の干支のオブジェが乗っているようだ。
僕の直近の訪問時は、これはまだなかった。
いいな、そのうちこれを見てみたいな。
ここからは気持ちのいい遊歩道だ。
毘沙門天とのバトルに向けての荒々しい最果ての岬と思いきや、どちらかといえば極楽浄土だ。
両側は木々で囲まれ、花が咲き、蝶も飛んでいる。
上は実際に日本2周目のこの遊歩道で僕が撮影したアゲハチョウだ。
ガラケーのカメラなのでそもそも画質が悪い上、原本を紛失したので圧縮したバッファした見つからなかった。
すごい解像度でデカデカと蝶をお見せしても苦手な人もいるかもしれないので、このくらいのボカしで結果良いだろうと自己納得しておく。
傍らに立つのは、「本州最後の夕陽が沈む丘」の標柱。
ロマンあふれる二つ名じゃないか、カッコいい。
「夕」だけ赤字にしているのが褒めていいものかどうか、絶妙なラインを攻めてくる。
この標柱も、日本2周目の頃から眺めているが、随分と痛んできた。
一部文字が取れたりしていた。
一番強調したい「夕」の文字が、もうほとんどお亡くなりになっている。
赤字はダメなんだよ。
紫外線で真っ先に劣化するのだよ。
まぁいい。僕はO型だから細かいことは気にしない。
「本州最後の 易がみえる」でも、別にいい。
九州臨むデッキにて
5分ほど歩いただろうか?
そこそこの広さを持つ広場に到達したところで、この遊歩道は終わる。
同時に両側の木々がなくなり、一気に視界が開ける。
本州最西端だ。
それを示す木の看板と、灯台型のオブジェが僕を迎えてくれた。
その後ろには、真っ青な空と海が広がっている。
嬉しいな。
日本で一番巨大な島、本州。
その一番西の端に来ているのだ。
僕は今、本州で一番西に立っている人間なのだ。
…少しだけ、昔話をしよう。
ここを初めて訪れたのは日本2周目のことなんだけどさ、当時は冒頭の通り突端岬に詳しくはなかった。
「関門橋」を見上げて満足し、「本州の端に来たー!」とか満足して帰路に着いてしまったのだ。
それも間違ってはいない。
1つのゴールとしては正しいであろう。
しかし、本当の突端を求めるのであれば、毘沙ノ鼻に行くべきだったのだ。
僕は突端を求めるタイプの人間であった。
調査も意識も不完全なまま、旅立ってしまっていた。
帰宅後にそれを知って大いに悔しがった僕は、数ヶ月に出直してきた。
ただね、「やり残したことをやりとげに来ただけ」では、カッコ悪い。
「前回ここを踏みさえすれば、今回来る必要もなかったのに」って卑屈になるだけだ。
だから、ここ毘沙ノ鼻を改めて目指す際に、もっともっと大きい目的を用意した。
車中泊しながら、毘沙ノ鼻を経由して九州の東西南北端の全てを踏み、さらに四国の最東端と最北端を踏んでやる。
そう考えた。
毘沙ノ鼻はその序盤を飾る、大事な大事な最初の岬だ。
しばらくは九州・四国を巡るから、本州に別れを告げるためにここに来たのだ。
先端にはデッキがある。
そこに立つと、遠くには九州の大地が霞んでいる。
関門海峡付近に浮かぶ島もいくつか見え、風光明媚だ。
本州の突端ではあるものの、その立地からも最果て感はあまりない。
しかし、「確かに本州と九州は繋がっているのだ」と感じ、僕の心は揺さぶられる。
公共交通機関の場合、一概には言えないが、九州旅行は九州のみを巡るだろう。
山口県への旅行であれば、九州に足を踏み入れることは少ないだろう。
しかし、自走の旅ではフィールドが移り変われ瞬間を味わえる。
自分の意思で、隣の大地に突入できる。
それがたまらなく好きなのだ。
その直前の、爆発しそうな興奮を感じているのだ。
少し南側を眺めると、先ほど脇を通り過ぎたゴミ処理場の敷地が見える。
僕にはあまり興味のないプチ情報だが、このデッキよりもさらに西の岩礁地帯に行きたい場合は、ゴミ処理場のゲートで監視員の人に頼み込めば案内してくれるケースもあるらしい。
あなたがもし興味のであれば、試してみてほしい。
掴めない夕日を追いかけて
さて、前述の通りここでは本州最後の夕陽も拝める。
僕も2回ほど夕刻に訪れた。
ちょっと時間にルーズな僕は、遅刻すること多いけどな。
(実際には、走行中にいろんな誘惑に捕まって日没に間に合わなくなる)
日本3周目では、「日没に間に合わないー。暗くなるー、暗くなっちまうー。」と、遊歩道をダッシュしながら先端のデッキを目指す。
本州を最後まで照らしてくれていたであろう夕陽は、僕なんかをとっくに見捨てて、もう九州に行っちまっていたようだ。
しかしステキな置き土産があった。
残照がとても綺麗だったのだ。
汗をかき、息切れしている僕も、この神秘さに思わず息を飲む。
本州最後の夕焼けを、今眺めているのだ。
背中に迫り来る夜を感じながら、1日の終焉を見送っている。
うん、いいじゃないか。
こうして僕は、以前日本最北の島である「礼文島」で出会った女性「のんたん」とここで夕焼けを見た。
今日は朝から1日一緒に遊んでくれたのんたんだが、そろそろお別れの時間だ。
ありがとう。
そして明日の朝、僕は九州に渡るのだ。
西日本を車中泊で一周する巨大イベント。
明日は朝一に福岡で、同じく西日本一周を反対回りする「ニコル君」という旅人と出会う予定があるのだ。
どういうヤツなのだろう、楽しみだ。
完全に暗くなった遊歩道を再び引き返す。
(早くしないとゲートが閉まる)
本州に夜が来た。
期待と興奮を内包した、静かだけども熱気のこもった夜だった。
日本6周目の夢を見る
…というわけだ。
使用した写真は日本4・5周目のものが多いが、ストーリーは日本2・3周目をベースとさせていただいた。
実は僕は、まだ日本6周目ではここを訪れていない。
本来であれば2021年1月現在において踏んでおきたかったのだが、コロナウイルスうんぬんで、機会を掴めていないのだ。
九州一周や四国半周はもう済ませてあるのだが、ここはまだなのだ。
恐らく僕は、日本6周目の最も終盤でここに戻ってくる。
万感の想いを抱き、花々に囲まれて、本州最後の夕陽を眺める。
きっとそのとき毘沙ノ鼻は、今まで以上に僕にとっては思い出深い岬となるであろう
まだ少し先の話になるかもしれないが、非常に楽しみだ。
本州の最果てに夢を馳せ、今しばらく力を蓄えるとしようか。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 毘沙ノ鼻
- 住所:
- 料金: 無料
- 駐車場: あり
- 時間: 8:30~日没まで