ここ数年のレトロブーム到来で各メディアに取り上げられ、どんどん知名度を上げているレトロ自販機。
僕自身はこの自販機が”レトロ”ではなかった時代を知らない。とはいえレトロブームによって知ったわけでもなく、その隙間の、あんまりみんなが興味を持っていなかった時代に興味を持ち始めたってのが実情だ。

そのレトロ自販機との記念すべき最初の出会いは2011年、「オートパーラーシオヤ」という小さなドライブインであった。ドライブインと呼んでいいのか自販機小屋と呼んでいいのか微妙なレベルのような気もするけども、ここが間違いなく僕の原点のレトロ自販機スポットである。
じゃあ、今回はこのスポットについて執筆していこうか。
2011年の初回訪問
暗闇のドライブインと麺類自販機
日が最も短い時期、僕は友人たちと千葉県北部をドライブしていた。僕のプロデュースのもとでちょっとマイナーなスポットを中心に巡っていたのだが、その最後に選んだのが、オートパーラーシオヤであった。

木々の多い静かな暗闇の道沿いにポッカリ出てきた黄色いドライブイン。時刻は18時なのだが、なんだかもう深夜のように錯覚するほどに静かな雰囲気だった。
この外観、どうやら数ヶ月前までは渋いベージュの小屋だったそうだが、最近ド派手な黄色に塗り替えたそうだ。個人的にはレトロ感ほとばしるベージュバージョンも見てみたかったが、黄色もセンセーショナルでいいんじゃないかと思う。

これが店内の全容だ。ここはたぶんリニューアルされる前からのテイストを保持しているのだろうな。なるほど、こういう世界があったのか。飾りっ気のない自販機小屋に、僕はちょっとカルチャーショックを受けた。
だがなんだろう、この闇の中でくつろげる空間は。僕ら以外にお客さんが誰もいなかったこともあり、とても居心地よく感じたのだ。

イス1つとっても、この経年具合が最高なのだ。いろんな歴史が刻まれてきたのだろう。
僕は考える。
今年である2011年は東日本大震災が発生し、東北を中心に多くの人の生活や設備・施設などが破壊されてしまった。当たり前にあったものが、そうではなくなってしまった。
今まであまり意識していなかったが、滅びてなくなってしまう文化もあるのだ。そうなってしまいそうなものを今のうちに追いかけるべきなのではなかろうか…。

このときから見て未来の2025年を生きる僕だから言えることなのだが、確かに東日本大震災は僕のドライブの方向性を変えたし、このときのオートパーラーシオヤも同じく僕を変えた。
僕は朽ちていくものの魅力に取りつかれ、廃墟や廃村巡りに精を出す。3・4年するとちょっと落ち着き、純喫茶・激渋食堂・激渋旅館などのレトロ好きになるんだけどね。レトロ自販機も「ほかにどんなところがあるのだろう?」と思い、全国すべてのスポットを巡ったしな。
のめりこむとすごいの、僕。

で、これがお目当てのレトロ自販機だ。昭和時代の産物であり、ここからアツアツのうどんやそばが出てくるギミックだ。
ちなみに右のほうに手が写っているが、これはそばが出てくるまでのカウントダウンをしている友人の手。僕らみんなレトロ自販機を見るのは初めてだから、否が応でもテンション上がるよね。

メニューボタンを押して20秒弱。秒読み表示がゼロになると、取り出し口から「ガシャン!」とそばが半分顔を覗かせた。
大きめのてんぷらも乗っている。僕らは大喜びだ。ちゃんと管理人さんが作ってくれたてんぷらがあらかじめセットされているのだ。たった300円で手作りのうどんそばが食べられる自販機、ありがたい。

これが、友人の選んだてんぷらそばだ。写真撮らせてもっらった。大きなかき揚げ、そこから染み出した油がダシに溶け込み、うまそうじゃないか。
僕は天ぷらうどんにしよう。この1台の自販機で、うどんかそばか選択できるのだ。
…が、ごめん。このときうどんの写真は撮らなかった。ぷりぷりの太麺でうまかったのだがね。気になるならあなた自身でWeb検索してほしい…。
自販機バーガーとその他の自販機
ここにはもう1つレトロ自販機がある。それがハンバーガー自販機だ。これも昭和時代から平成の初期にかけてのアンティークものだそうだよ。

見た目はなんだか新しいそうなデザイン。それだけしっかり管理されているってことかな?
メニューはハンバーガーとチーズバーガーであり、どちらも250円だ。…であれば、チーズが入っているほうがお得に感じてしまうよね?チーズバーガーを選択する。

ハンバーガーは自販機内でおよそ60秒加熱されたあとに、紙箱に入って登場するシステム。箱越しに感じる温かみが、冬の日にうれしいじゃないか。

これがチーズバーガー。僕は後年日本中の自販機バーガーを巡ることになるが、このお店のバーガーがトップクラスにかたちが整っていたな。他店では結構かたちがグニャってなってしまうことが多いので。ゴマが多いのもいいねぇ。
外注で作っているのだろうか?それとも自社だろうか?箱のシールを見たところたぶん後者。

厚みのあるパティに、トロトロに溶けたチーズ。そして主張しすぎない程度にケチャップ。これ夜に食べるとマジでたまらんよね。
内臓電子レンジで温められたせいかバンズは少しパサつきを感じるが、あまり気にならないレベルだ。うまくて秒で食べ終わった。

では、食後にその他の自販機も軽く見てみよう。
これはボンカレー自販機。とんでもなくレアなものだが、ここのは非稼働だ。現役で稼働しているのは2011年時点では徳島県の「コインスナック御所24」の1箇所のみだ。だから僕はその後、徳島県に向かうこととなる。
2025年現在は、神奈川県の「中古タイヤ市場 相模原店」というレトロ自販機の聖地にもあるよ。

年季が入りすぎて、商品ボタンに何が書かれていたのか見えない。今はボタンそのものにマジックで『中止』って書かれているけどな。
ボタンに書いてしまうってことは、もうこの自販機を復活させる意思はないのかな…?過去の販売状況についてWeb検索してみたが、稼働していたころの情報は見つけ出すことができなかった。ずいぶん前から故障しているのかも。

ここが取り出し口。どうやらご飯のパックとボンカレーのレトルトパックが1セットで出てきて、自分自身でご飯の上にカレーをかけるスタイルだったらしい。
取出口をよく見るとマジックでお金を入れないと蓋は開かないという旨が書かれている。えっ、そんな仕組みだったのか。わざわざこの取出し口にそんな機能を搭載していたのか。すげー…。

他にもレトロなお弁当自販機がある。すでにこれを稼働させているのは国内で片手にも満たないほどに貴重なものだ。これまらた販売中止と書かれている。復活の見込みは極めて薄いであろう…。

お菓子などが売られていたというレトロな汎用自販機も、故障して修理不可となり非稼働となってしまったそうだ。
改めて僕は思う。今稼働しているレトロ自販機があること自体が奇跡なのだと。だからこそ、急いで巡らないといけないのだと。
2回目の訪問、春のある日
前章に対しあまり得新しい情報はないが、2回目に訪問したときのことも軽く触れておこう。
仲間内にレトロ自販機の存在を広め、この世から消滅してしまうのを少しでも遅らせるためのドライブをしたときのものだ。千葉や茨城に数店舗残るレトロ自販機保有店を一気に巡るドライブをしたのだ。

明るい時間にお店の外観を見たのはこれが初めてなのだが、前回と違う点がある。
それは入口のドアの上に白い看板が設置されたということだ。前回は看板がなかったので存在を知っていないとそこがシオヤだと気づくことができなかった。だが今回のこれでお店をアピールできるようになったね。

これは前回撮影し忘れた、レトロなドリンク自販機。原色のみで構成されたパネルがいかにも昭和って感じがする。たぶん紙コップのコーヒーなどが出てくるタイプなんだけども、これも販売停止で真相は不明だ。

非稼働のお弁当自販機、今回は『販・売・停・止』の芸術的な四連にフォーカスした写真を撮ってみたよ。
あとは、本来お弁当のディスプレイが展示される部分にある『バカンス気分でのんびりいこうよ』の犬の写真が気になる。なにこれ?かつてのお弁当のパッケージ?AIに判定してもらったが、ここシオヤ以外では使用された形跡のないデザインだ。このお店オリジナルのものだろう。

前回、故障で修理できないので販売停止の旨が書かれていた汎用自販機。カレンダーは更新されている。もう自販機ではなくってカレンダーを貼るための物体となっているようだ。

この自販機の、お金を入れた後の商品選択ボタンがまた渋いではないか。
ここにランプでもつくのだろうか?古びたブリキのロボットのようなこの筐体にランプが灯る日が来たとしたら、もうそれはファンタジーな世界観だと思う。

さて、前置きが長くなったが、もちろん今回も自販機飯を食べている。
麺類自販機はまだ午前中だというのにうどんが売り切れ。従い選択肢はそばしかない。前回うどんを食べた僕としては網羅性を高めることができるので何の不満もないわけだが。
いい意味でクセのない食べやすい麺。濃い目のダシ。少しいびつで手作り感のあるかき揚げ。うまい。

ハンバーガー自販機も元気に稼働している。
やはりここはチーズバーガーを選んでしまうね。アッツアツの箱には僕の仲間たちもビックリしたが、これが醍醐味。まだ世間にコンビニが普及していなかった時代に、アツアツの麺やハンバーガーを食べられる喜び。それを僕らは知らない。

管理人さんによる日々の補充や管理が必要なのでコストも稼働も掛かり、コンビニの登場で一気に衰退した自販機飯。その生き残りがこれらだ。「次世代には伝えられないかもしれないこの文化を僕らが嚙み締めなければね」って仲間と言い合いながら食べた。
2025年も時は止まったまま
さて、最新である今年の訪問記を書きたい。まだ寒い時期に行ってきたぞ。

朝日指すオートパーラーシオヤ。なんてかっこいいお店。こんなお店が令和時代に残っていてくれてうれしい。
令和時代に免許取った人とか、こういうところでドライブ中に休憩したりはなかなかしないっしょ?コンビニ使うでしょ?それはそれで正しいんだけど、だからこそ失われていく文化に着目したいんだよね、僕の場合は。

まったく令和時代にこびていない店内。初回訪問との違いが全然ない。
レトロ自販機はちゃんとあるし、汎用自販機には『修理できないので販売停止』の手書き文字が貼られたままだし、お弁当自販機では犬が「のんびりしよう」的なこと言ってるし、ボンカレー自販機はボロボロで停止したままだし。
タバコは吸えるし電子マネーはないし、本当にかつてのままだ。故障中自販機に貼られたカレンダーが新しくなったくらいだ。

だが麺類自販機は350円に値上げされている。そりゃそうだよな。同じままだったら逆に不安になるもん。手間暇かけて管理しているのだから、それ相応の値段設定にならないとだよな。
それでは朝ごはんに天ぷらそばでも食うか。この日の僕は、長い年月をかけて全国ほぼすべてのレトロ自販機を巡り、原点に戻ってきたのだ。食わねば。

このそばが出てくる瞬間は、いつだって僕を童心に帰してくれるよ。
2011年、この一杯の自販機麺から僕の長い長い旅路が始まったのだ。なんて感慨深い。

寒い寒い、凍えるほどの朝だったのだ。店内は空調も効いていないので寒い。そんな中でこの一杯の温かいそば。心身に染み渡るに決まっている。
このオートパーラーシオヤ、お店の向かいのガソリンスタンド「塩谷石油」が経営している。ガソリンスタンドの店長のお姉さんがオーナーをしているそうだ。
僕がそばを食べているとき、ちょうど1人のおばあさんが車でやってきてテーブルを拭いたりと掃除してくれていた。この方がそのオーナーさんかな…?邪魔にならないようにし、そして挨拶をさせていただいた。

ちなみにね、寒い中で麺類食べるとトイレ行きたくなるよね。おばあさんに「ここってトイレありましたっけ…?」って聞くと、申し訳なさそうに無い旨を教えてくれた。
…ってことで、食後の僕は急いで最寄りのコンビニを目指すこととなるのだ。
コンビニ拡大前のドライブインを堪能していたのに、結局はコンビニを頼ってしまうジレンマ。まぁしょうがない。それぞれに良さはあり、それを楽しむのが人生ではなかろうかね。
僕はこれからもレトロ自販機を巡るであろう。
2巡目もするし、新しい店舗が誕生したらそこにも行くし。かつて訪れたお店、そして原点のシオヤが長らく営業できることを祈っているよ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: オートパーラーシオヤ
- 住所: 千葉県成田市猿山935-4
- 料金: 天ぷらそ¥350他
- 駐車場: あり
- 時間: 24時間(ただし麺類自販機は夜間停止)