結局のところ、人間の原動力は"やる気"なのですよ。
ほら、「元気があれば何でもできる」っていう名言があるじゃないですか。
裏を返せば元気がなければ何もできないのですよ。
…さて、今回ご紹介するスポットは「やる気地蔵」だ。
漢字で書くと「弥留気地蔵」だ。
あ、もしかして「どうせ地名かなんかのこじつけでしょ?」って思ったよな?
確かにそういうスポットは多い。
宮崎県の土々呂(ととろ)集落には「トトロのバス停」があるし、鳥取県の羽合(はわい)の町はまるでハワイのようだ。
ただ、ここは違うんだ。
ガチのやる気だ。
そこから名前を付けた、正統派の体育会系熱血地蔵尊だ。
さぁ気になって来たな。
あなたはどうする?ちなみに僕は気になって会いに行ってきた。
紅葉に染まる佐治川ダム
晩秋のある日であった。
もう冬本番が直前までやってきている、ギリギリのある日であった。
このツーリングマップルの記載を見てくれ。
山間部をグネグネと走る国道482号沿いの「佐知川ダム」の東端くらいに、弥留気地蔵という記載がある。
『参拝をすれば「やる気」がアップ!』なのだそうだ。
国道482号を走る以上、立ち寄るしかないだろオイ!…って思った。
ありがたき生命力をいただきたい。
そんなこんなで、鼻息荒く佐治川ダムだ。
山深い秘境ダム。
冬は湖面が凍るというレアな特徴を持つダムだそうだ。
それだけ山深いってことだ。
周囲一帯が見事に紅葉しているな。
まだ朝早く日が昇ったばかりなのでちょっと湖面は暗いもの、見事な水鏡を演出してくれている。
少し走り、ダムの堤体がやや近くに見えるところまでやってきた。
目を引いたのは、写真中央に聳える円柱状の建物だ。
どうやら取水施設らしい。なんともかわいらしくて絵になる。
そして湖面に映る山が綺麗すぎる。穏やかで波1つ無いのだ。
風も無ければ人も車もずーっと見かけず、だから音も聞こえない世界。
もしかして、この世界は僕を残してみんな消えちゃったのだろうか?…って思えるほどであった。
そのくらいに神秘的で幻想的な世界観。
見上げる紅葉も綺麗だ。
こんなに山は色付いているのに、昨日の日中はシャツ1枚で過ごせるほどの陽気だ。今日も日中はそのくらいの気温になるらしい。
紅葉もこの陽気も、秋の最後の贈り物だろう。
2・3日後にはここ、雪が降るそうだからな…。
集落奥で輝くお堂
この佐治川ダムのすぐ東の集落内にいらっしゃるのが弥留気地蔵である。
国道からの距離はそんなに長くはないが、集落内の道は笑みがこぼれるほどに細い。
僕は国道にいる時点で嫌な予感がしたため、国道沿いの駐車帯にうまく愛車のHUMMER_H3を停めておいた。
ここから歩く。
結論、それでよかった。
軽自動車とかならともかく、HUMMER_H3で対向車が来たら完全に摘んでいるところであった。
改めて2021年12月現在で最新のGoogleマップを見ると、弥留気地蔵から150mほどのところに10数台分の駐車場と公衆トイレらしき綺麗な施設がある。
ここを使うのが無難と思われるが、国道からここまでも狭いので気をつけよう。
さて、僕はテクテクと国道から7分歩いた。
集落から山の斜面に続く狭い路地へと入り、しばらく坂を登った先にお地蔵さんを祀るお堂があった。
これが弥留気地蔵と集落を一望する構図である。
まだ朝だから集落内では太陽は山に隠れて日陰であった。
しかしやや高いところにあるお堂の周辺だけ太陽がピカーッって照っていた。
早速神々しい。ありがたい。
あと、近くのイチョウの木が最高に綺麗に紅葉していた。
もっとちゃんとイチョウにフォーカスして写真撮影すればよかったと、あとから後悔した。
手前の屋根、いらなかったよね。
では、弥留気地蔵をご紹介しよう。
彼は、このお堂の中にいる。
左右を「やる気」・「やる気」と(漢字で)書かれた幟や提灯に挟まれて鎮座している。
もう本当にやる気の神って感じだ。
まだその顔は良く見えない。
周囲を取り巻く「やる気」の文字が暑苦しいのだけはよくわかった。
たぶんお地蔵さん本体も、めっちゃ暑苦しいスポ根あふれる顔をしているのだろうと推測していた。
彫りが深くて眉毛が太くて、金剛力士像とか不動明王みたいだったら優勝だ、って思っていた。
…そしたらだ。
聞いてくれ。
割と淡白なお顔立ちであった。
いや、人の外見にあーだこーだと言いたくは無いのだが、なかなかにやる気なさそうな顔だなって失礼ながら感じた。
これ、月曜朝の出勤前の僕と同じ顔じゃないかって思った。
「人生オワター」みたいな顔だ。
カップ焼きそば作るとき、お湯きりする前にソース入れちゃったことに気付いたときの顔だ。
いいけど。
ご利益あるなら全然それも良し。
やる気をくれ、この僕にも
冒頭でも少し書いたが、弥留気地蔵はマジにやる気を授けてくれる設定のお地蔵さんだ。
「為せば成る」をスローガンとして製作された。
近くにあった説明板に書いてあったのだが、芸術家の「水野邦雲さん」っていう人が「やる気地蔵っていうのを作るぞ!」って発起して1977年に造ったのが、この弥留気地蔵だそうだ。
ちなみに水野さん、「やる気おじさん」と呼ばれており、やる気マラソンややる気キャンプなど様々な企画を作り出したのだそうだ。
バイタリティ、とんでもないよね。
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あらあら、向こうから冴えない男が歩いてきましたよ。
どうやら彼、職場ではうだつが上がらず、プライベートもパッとせず、おまけに旅行に行っても車の中で寝るような、しょっぱい人生を歩んでいるそうですよ。
そりゃ顔には生気がなく、足取りもおぼつかないですよね。
やる気とは反対側の世界にいる人間なのでしょう。
そんな彼が弥留気地蔵を参拝しました。
生まれて初めて熱心に、「やる気をください」とお願いしました。
彼は後に語ります。
「お地蔵さんの静かな瞳の奥に吸い寄せられるようだった。」と。
また、「お堂の周囲にだけ光が差した」とも言っていました。
ここに奇跡が起きます。
彼の表情はみるみる明るくなり、その場で「うおぉぉ、やってやるぞー!僕の時代の夜明けだー!」と叫んで飛び跳ねたのです。静かな朝の集落の片隅で。
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…とまぁ、信じるか信じないかはあなた次第である。
どうやらやる気おじさんは、ここにかつてあった「佐治谷青少年旅行村キャンプ場」の一角に「やる気の美術館」をOPENさせ、それと同時にこのお地蔵さんを開眼させたらしい。
しかし2004年の"平成の大合併"でキャンプ場のあった佐治村は鳥取市に吸収合併され、あまり盛り上がっていなかった佐治谷青少年旅行村キャンプ場もその後すぐに解体されてしまったのだそうだ。
せっかくのやる気が空回りしてしまったようで切ないが、そんな中でもこの山間部にポツンと残った弥留気地蔵がすごい。
今でもやる気が欲しい人がポツポツとここを参拝しているのだという。
…あなたには充分なやる気があるだろうか?
冬は日照時間が少なく、ウインターブルーという鬱状態になることもある。
僕もね、なんか寒いしすぐ日が落ちてしまうしで、やらなきゃいけないことをやる気力が全然ない。
仕事や思いっきりドライブする日であればいいが、そうでない日はゆっくり起きてブランチして、コーヒー2杯飲んでいたらもう日没だ。
なんだこの人生…。
だからね、ときには無理にでも奮起させなきゃいけないこともある。
心のどこかに弥留気地蔵がいれば、それができると思うんだ。
…弥留気地蔵を参拝した後は、もう結構日が高く昇っていた。
車道が熱せられて蒸気があがり、寒い時期ならではの見事な演出が見られた。
来たる冬に負けないよう、突き進もうぜ!
僕はHUMMER_H3を走らせ、中国地方奥地の旅を続けた。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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