「喫茶Y」というデカ盛りの名店がある。デカ盛りなだけではなく、サービス精神と人情味があふれるお店だというので、別に全然大食いではない僕の食指も動いた。
土日は営業していないし平日も13時には閉店するというちょっとハードルが高めのお店だが、気になる。なんとかしてこのお店の雰囲気を味わってみたいと考えた。
…というわけで、そこに興味本位で1人で突撃してヤケドした話をしたい。
マジにアホみたいに大盛りなので、行くならカクゴしてかかれよ、オマエら!!
商店街を歩いて行こうぜ
お腹を空かせるために、天満という駅の近くを歩いた。
駅前からかなり攻めた佇まいのお店がある。店名は「中トロと豚足」らしい。メニューみたいな店名だ。
1円で飲める立ち飲み屋とのことでさっそくフラリと覗きたくなるのだが、このあとの本命に支障が出ては困るのでここはガマンをする。
わぁ、なんて素敵な商店街。「千と千尋の神隠し」の冒頭で、両親が豚になるまで食った商店街みたいな雰囲気だ。
僕も豚になるなで食いてぇよ。黄色い「やきとん」の看板を見上げて、そうつぶやいた。
「グリーンカレー」というパワーワード。グリーンカレー自体はそんなに珍しいものでもないが、この看板を見ただけで「むふふ」と笑ってしまいそうになる。
僕はこの町に来るのは初めてなのでよくわからないが、こういう狭い商店街が格子状に組み合わさっているように感じた。
昭和時代のテイストを残す町並み。でも令和の今も活気がありそうな町並み。まだ朝なのでシャッターが閉まっているお店が多いが、夕方などはさぞかし活気づくのであろうな。
縦横無尽に続くアーケード。僕の心の中の少年が、「クラスのみんなでここで鬼ごっこしたらきっと楽しいね」と言っていた。そうだね。大人がやったら怒られるだろうけどね。
途中で古い町並みもあった。これは昭和ではなく、大正とか明治とか、そんな感じ?リノベーションしてオシャレなお店が入っているような雰囲気だった。
そんな新旧が融合した活気のある町の大通り沿いに目指す喫茶Yがある。
「思ったより普通だぞ」って思ったが、最近のドラマでも犯人は思ったり普通そうなヤツのことの方が多いよね。そういうこったよ。
嵐の前のざわめき
道路の対岸に見えた喫茶Yは、こうしてみるとそんなにとんでもないお店には見えなかった。しかしあなどるながれ、アイツはとんでもない牙を持っている。
まずはこうして広い車道の対岸から見学したのだ。
シックな看板。ブラウンの軒に黄色い文字で「Y」だ。かっこいい。こうしてみると落ち着いた純喫茶のような雰囲気もする。
こんな店がドカ盛りの名店なはずがないと思う。そうだよ、そうに違いない。
店の扉を開けると、10数席ほどのやや小さな純喫茶店風のお店。まぁ肩書は「喫茶」だしな。
数人のお客さんがいて、なんか目の前の大盛りのお皿と格闘していた。あぁマジだった。ここは戦場であった。
愛想の良いパワフルなおばちゃんオーナーが「奥へどうぞー!」と言うので、お店の一番奥の席に座った。
おばちゃんはお客さんにギャンギャンコミュニケーションを取ってサービスをしてくるそうだが、僕はそれに対するやや死角だ。少し残念だが、ビギナーだからこんなもんでいいだろう。
時刻は10:40であった。10時までであればモーニングセットというものがあり、1000円でドカ盛りプレートとコーヒーがつくらしい。
残念ながらその時間帯は終わっている。まぁ横ではまだモーニングと闘っている人がいるけど。最低でも40分は食べ続けているってことだよね、軽い地獄。
じゃあ何にしようかな。パンを食べたい気分だ。
ハーフサンドなんてどうだろう?1000円してちょっと高いし、ハーフだからなんだか量が少なめな感じもするけど、下手なものを頼んで自爆もしたくないし。
ドカ盛りを頼むのであれば、またいつの日か2回目の訪問をするときでもいいし。
ハーフサンドをオーダーした。それとホットコーヒーだ。
すぐに最初のお皿が出てきた。
パスタサラダだ。この写真ではそうは見えないかもしれないが、なかなかの量があるぞ。小腹を満たせるくらいはある。うまい。
カウンターのおばちゃんは、近くにいるお客さんに「粕汁!?豚汁!?」って聞いている。お客さんが「豚汁」と言うと、おばちゃんが「今日は粕汁がおススメなのよー!…で、どっち??」って選択肢のない二者択一を持ち掛け、お客さんは「じゃあ粕汁…」と言っていた。
「ふーん、なんかそういうセットメニューなのかなー」って思っていたら、僕も聞かれた。僕はおばちゃんの目をまっすぐ見据えて「豚汁を食べたいです」と言った。
豚汁が出てきた。お椀にたっぷりとだ。豚肉のエキスが解け出ていてとてもうまい。サラダパスタとこの豚汁があるので、あとはもうご飯をお茶碗軽めにもらえれば大満足といったところだ。
だがまだメインのハーフサンドとやらがまだなのだ。そこまでのボリュームではないと思うが、もうお腹はいい感じに落ち着いてきたので今後が気になる。
このタイミングでコーヒーが出てきた。マグカップで多めの量なのが嬉しい。クセのないビターなテイストでうまいんだぞ。
…外国人客の8人がやってきた。ここから風向きが変わる。
ハーフサンドの衝撃
外国人の人が扉を開け、おばちゃんに「8人ですけどいいですか?」みたいに言っていた。おばちゃんは少し考え、「いいよ」と答えた。
大柄な西洋人の男女8人が入店した。そして3つのテーブルに分かれて座った。
店内はもともとテーブル間隔も狭いので、彼らが座るともうすべてのテーブルとイスが密着するほどのギュウギュウ詰めとなった。
僕、絶対に出られない配置になった。もう逃げられないぞ、この店から。
ハーフサンドが出来上がったそうだ。
店員さんは西洋人に阻まれて僕のところまで近づけず、なんかもう「ラピュタ」でパズーとシータがギリッギリで飛行石を渡すシーンみたいにお皿を受け取った。
思った以上にお皿は大きく、そして重い。腕がガクッと下がりそうになるのを耐え、それを自分のテーブルに置いた。
西洋人が僕のお皿を見て一様に「ワーォ!!」と言った。
いや、それは僕のセリフなのである。先に言うなよ、このリアクション泥棒。
アホみたいに巨大なサンドイッチが4つ、お皿に載っている。1つ1つのサイズはビックマックをさらに大きくしたような感じである。つまりビックマックを4つほど1人で食べるのよりもう少し多いくらいに思っていただきたい。
さらに忘れちゃダメなのが、さらにサラダパスタと豚汁をすでに食べているという点だ。ヤベーぞ、これヤベー案件。
サンドイッチは片手でなんどか持つことができるくらいの厚さ。でも口には入らない。端っこから食べていくしかないな。
パンはこんがりとトーストしてあって香ばしくておいしいが、いかんせん口の中の水分を持っていかれるな。
モリモリのレタス、玉子もたくさんだ。無料で10個まで増やせるらしいが、特にオーダーしない場合は何個なのだろう?これ5個くらいは使っているのかな?
それとスライスハムがエグい。6枚重ねくらいになっている。
外国人のグループはおばちゃんに「アメリカンスタイル」と言ってオーダーしていた。あぁそんなメニューあるの?
キッチンで大量の玉子や肉が焼かれだしたらしく、店内にもうもうと煙が立ち込めた。「ここはステーキハウスですかな?」って思った。
大皿に山盛りのスクランブルエッグ、そしてベーコンの山が西洋人の前にドンと置かれた。これホテルのビュッフェだね。外国人たち「ヒュオォォーー!」みたいにテンション上がって突っついていた。
それからトーストが2枚切りくらいのブロックで山盛りにされて次々出てきた。
おばちゃんは外国人グループにも「粕汁!?豚汁!?」って聞いていた。物おじせずにロクに話せない英語で果敢に突っ込んでいくおばちゃん、すごい。大阪のおかんだ。
サンドイッチは残り半分となっていた。つらい。もう既に相当につらい。
忘れていたが、ハーフサンドでこれだぜ?じゃあハーフじゃないサンドイッチはこれの倍なのか?誰が食えるんだ、そんなもん。
のどが渇く…。しかし外国人に阻まれて水を頼みづらい。
なんとか隙を見計らって水をオーダーし、外国人の肩越しに受け取った。冷たい水がうますぎる。しかしそれによって胃のキャパはさらに少なくなったぜ。
残り1つ…。もう僕、遠い目をしている。
多分僕は完食できずに撃沈するのだろう。そんな未来しか見えない。あとはどれだけ頑張れるかだ。
もう手も口の周りもケチャップなどで汚れているし、それを拭いたティッシュもテーブルの上にたくさんある。激しい闘いの軌跡。僕は身も心も疲れてきている。
ここでダウンした。もうあと1ミリも食べられない。
「あとちょっとじゃないか」って思われるかもしれないが、たぶんコンビニの230円くらいのサンドイッチと同じくらいのボリュームある。無理。ごめんなさい。
会計時におばちゃんに「美味しかったのだけども、少し残してしまってすみません」と謝った。
おばちゃんは「いいのよー、量が多いもんね」ってにっこり笑ってくれた。
最後に僕は「ハーフであの量ってことは、普通のサンドイッチはどんな感じなのですか?」って聞いてみた。
するとおばちゃんは「昔はあったんだけどね、今はないの。だってあれ以上の量だと食べきれないでしょ?」とのこと。昔ってスゲーな。
もともとは地元の学生に安い値段でお腹いっぱい食べてもらおうと始めたという大盛りのお店。
学生はいなくって西洋人に囲まれた異様な時間だったけども、その精神はしかと見届けた。それから「サービスしてモーニングと同じ1000円にしちゃう!コーヒー代はいらないわ!」って言われた。ありがとう、感謝です。
もう今日は何も食べられないだろうし、何も食べたくないな…。
フラフラしながらお店を出た。冷たい風が心地よかった。…と、ここで店内にマフラーを忘れたことに気づき、慌てて戻った。そして外国人の肉の隙間を「すみませんすみません」って言いながら搔い潜り、マフラーを回収した。
次があるのだとしたら、ご飯系のメニューを食べてみたいかな。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 喫茶Y
- 住所: 大阪府大阪市北区豊崎1‐3‐1 丸善レヂデンス豊崎 1F
- 料金: ハーフサンド¥1000他
- 駐車場: なし。付近のコインパーキングを使用のこと
- 時間: 8:00~13:00(土日祝定休)