海を臨む埋立地の工場群の中にポツンと自販機小屋がある。
小屋なので屋根もあるし壁もあり、工場群ではあるが不思議と居心地がよく、その小屋のベンチに座って眺める海が旅情をくすぐった。
僕の手の中には、レトロ自販機で買ったうどんがある。それをひと口すすると、喉から胃へとじわっと熱が伝わり、「あぁ生きているって素晴らしいな」って感じた。
まだまだ寒い春先の朝。1杯のうどんが、僕の今日の活力となる。
さてさて、今夜ご紹介するのは「大久保自販機_寒川販売所」なのである。
このブログを熟読しているわずかばかりの人は、聞き覚えのある単語だと思われるかもしれない。
実は以前に執筆した「大久保自販機_三島販売所」の姉妹店なのだよ。距離もかなり近い。なのに行った時期はズレているけどさ。
ちょっとだけ話が被る部分もあるから、あと5分ほど時間をいただけるのであれば先に上記リンクを読んでおいた方がスムーズかもしれないよ。まぁ読まなくても全然問題はないけど。
それでは本題に入ろうか。
秋の空は荒れ模様
日本6周目の秋。愛車の日産パオは暴風でぐわんぐわんと揺れていた。ハンドルを握る手も緊張するぜ。
時刻は20時過ぎ。今日の夕食をレトロ自販機のうどんとし、それからその近くでお風呂に入ってから車中泊スポットに向かおうと考えている。
四国北部を横断する国道11号からほんの300mほど反れたところにあるらしいが、反れた瞬間に世界が暗転した。
レトロ自販機があるのは工場地帯。きっと夜間はその工場は稼働していないに違いない。…であればこの漆黒の闇も納得できる。
自販機コーナー前に到着した。まずは前面のロケーションをご紹介したい。
…が、暗くてよく見えない。たぶん目の前は海だ。もう少し車を前進させると転落しかねない。右側にはさっき走ってきた国道11号の橋が見えている。
背後で「カランカラーン!」と音がして、何かが転がってきた。ポリバケツタイプのゴミ箱が転がるような音だが、真っ暗すぎて足元すら見えない。
この風は危険だ。ササッと撮影をしたら自販機コーナーに避難せねば。
後ろを振り返る。
はい、ここが大久保自販機_寒川販売所なのだよ。普段は滅多にフラッシュを使わない僕がフラッシュ撮影をしたのは、肉眼ではこの自販機コーナーをほぼ視認できないほどに暗かったからだよ。
左手には「天八代龍王大神」と書かれた社がある。この寒川地区の埋立地や付近の瀬戸内海の安全を祈るためのものらしい。
その背後に自販機コーナーなのだ。まるで拝殿のように佇んでやがる。尊いぜ。
力強い「うどん」・「ジュース」の文字。期待に胸が高鳴る。
実はここ、以前はこういう自販機小屋もなかったし、社もなかった。レトロ自販機が後ろの工場の壁を背にしてポツンと置かれていただけだった。
だけども2014年ごろに整備され、こうやって小屋になり社もできたのだ。大規模なバージョンアップがめでたい。
1だけ残念なのは、この自販機は以前は川鉄製だったのが、リニューアル後に富士電機製になった点。
川鉄自販機ってメッチャクチャ貴重なのよ。今でこそ神奈川県の「中古タイヤ市場 相模原店」に複数台並んでいるけど、一時期は京都の「ドライブインダルマ」にしか稼働する筐体がない状態になったりもしたよね。
そんな貴重な川鉄自販機を、ここでも継続しれくれていたら超ハッピーだったのだがね。
…とか、何も知らない部外者がアレコレ言うのもナンセンスだよね。ほら、食べましょうよ。富士電機の自販機だってすごく貴重のですもの。
というわけで、250円の天ぷらうどんなのである。
天ぷらうどんというより、きつねうどん?天かすは少しだけだ。でも嬉しいじゃないか、油揚げ。あとはワカメとネギが少々だ。
これが自販機小屋の全景。立ち並ぶ自販機を正面に、テーブルとイスの組み合わせが1つ、それとテーブル兼イスになっている広い台が1つ。
僕はレトロ自販機正面にある後者を選択した。こっちの方が風流だろ?なんていう名前か知らないけども、昔ながらの茶屋やおだんご屋さんの店頭みたいな感じでさ。
風はゴウゴウいい、何かが転がる音が頻繁に聞こえる。そんなBGMの中で1人うどんをすする。こういうのもいいじゃないか。旅の夜って感じじゃないか。
透き通ったダシが体に沁みた。
それではまた夜のドライブを再開しよう。またいつかここに来れることを祈り、僕は自販機小屋のある埋立地を後にした。
2024年春の再訪
穏やかな朝の埋立地
その後、ほぼ目の前の国道11号を走ったことはあったんだけどさ、満腹だったりしてスルーしちゃった。僕がここを再訪したのは、前回から少し時間の流れた2024年春のことである。
前回とは180度違うシチューション。穏やかな朝なのである。僕は大久保自販機_寒川販売所で朝ご飯を食べるために、早朝に石鎚山方面から走ってここまでやってきた。
あぁ、明るいとこんな景色なんだな。2回目だけども初めて見る光景なんだよ。
スマホだと拡大しないと見えないだろうが、左手の奥にエリエールと書かれた建物がある。
ここいらの周辺一帯は「大王製紙」という紙を作っている工場だ。エリエールが有名だ。あなたの家にもあるよね?花粉シーズンには間違いなくお世話になっているよね??
僕の訪問時は花粉シーズン後期だ。もちろん僕は鼻をかみながらドライブしてここまでやってきた。
工場群の突き当りまでやってきた。前回真っ暗な海を眺めたポイントだ。
いかにも埠頭って感じ。僕の背中側には自販機群や工場があるが、目線の先は瀬戸内海だ。青いし穏やかで好きな海。
遠くには大王製紙の煙突が見えている。姉妹店である大久保自販機_三島販売所の記事内で、僕が大王煙突と呼んだヤツだ。懐かしい。
三島販売所とここ寒川販売所は3kmほどしか離れていないのだよ。
あなたがレトロ自販機巡りをするのであれば、この2軒は間違いなくハシゴするのが吉であろう。レトロ自販機麺はちょっと少なめなので、空腹であれば2杯はいけるから大丈夫。
そして自販機小屋である。
あぁ、工場の倉庫と自販機群は、こういう位置関係だったのね。今回初めてその全容を掴むことができた。
小屋も社も健在。あれ?しかしアイツがないぞ…!
朝のうどんは沁みる
さて、あなたは前回と今回で比べた際に、何が無くなったのかお気づきになったであろうか…?
僕にとって一番大切な富士電機のレトロ自販機はある。上の写真にも写っている。これがなくなっていたら僕、ひざから崩れ落ちるところだったぜ。
では何がないのかというと…。
上に赤囲みしたところに不自然なコンクリートの台座が残っているだろう。以前はここに看板があったのだ。「うどん」・「ジュース」と書かれた看板があったのだ。
なんで無くなってしまったのだろう…。風で壊れた?いや、あの強風の日でもしっかり立っていたのだからそれはないだろう。
劣化というのもないだろう。前述の通り、ここはこんな風に整備されてからそんなには年月は経っていないのだから。まぁそれでも10年は経過したけども、本来看板の寿命はもっと永いであろうのに。
まぁいいや。うどん食べようぜ。腹減ったし。
ご覧の通り小屋の中の正面部分には4台の自販機が並ぶ(反対側の壁際のもあるけども)。
この壁の素材はポリカーボネート波板なのかな?朝の柔らかい光が小屋の中をいい感じに明るく演出してくれている。
小屋内はさすがに10年の歳月を感じるテイストになってきている。だけども麺類自販機がそもそもレトロなんだから、小屋もそれに近くなってきて馴染んできている、という見方もできるだろう。僕は好きだぜ。
小屋内をワックワクでウロウロしているうちに、軽トラで近所の方と思われるおじさんがやってきて、慣れた手つきでうどんを購入すると立ったまま秒で食べて去って行った。かっこいいぜ。
メニューは前回と同じく天ぷらうどんのみ。料金は50年UPして300円だ。
しかしこのご時世で、300円でアツアツうどんが食べられるんだぜ。日々このレトロ自販機をメンテナンスし、中の麺類を調理してセットしてくれているオーナーさんには感謝しかねぇよ。
キャー、出てきた!
あれ。今回は油揚げがない?そして天ぷらが巨大化している?
いや、このタイミングで判断するのは尚早なのだ。素人なのだ。自販機内の湯切りの際に具がこぼれないように、麺の下に忍ばせてあるパターンも多くあるからな。
イートスペースに運ぶと、慎重に天地返しをする。
はい、ハーフ&ハーフでした!天ぷらも油揚げも入っていました!
ひと口すすると、喉から胃へとじわっと熱が伝わり、「あぁ生きているって素晴らしいな」って感じた。うめぇ。
朝の埋立地。小屋の中にもかすかに潮風が入ってきていて、それがまたうどんの風味になる。海鳥の鳴き声も最高のBGMだ。
これが座っている僕が小屋の中から眺める外の景色。いい朝だなぁ。
まだまだ寒い春先の朝。1杯のうどんが、僕の今日の活力となる。それでは今日も元気にドライブを楽しもうじゃないか。
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出発した直後、エルモアと書かれた建物も見えてきた。
そうなのだ。このエリアはエリエールの大王製紙と、エルモアの「カミ商事」がしのぎを削っているのだ。
まだしばらく続きであろう僕の花粉との闘い。きっとどちらにもお世話になるのだ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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