全国津々浦々のレトロ自販機を巡ってきたが、きっと海から一番近いレトロ自販機がここだと思う。
漁港にて、漂ってくる磯の香と共に食べたレトロ自販機のうどんは、そりゃあもう旅情をくすぐるものだったよ。
ここに至るまでは(主に自販機さんの境遇に)なんやかんやがあったのだが、今回はそれを僕の旅のエピソードに絡めて少しお話しできればと思うのだ。
そんなわけで今回の舞台は穏やかな瀬戸内海を望む「大久保自販機_三島販売所」なのである。
【日本5周目】そびえる工場群の隙間で
大王製紙の中でうろたえる
数年前の真冬のことだ。
僕は少しでも温暖なエリアをドライブしたいと思い、瀬戸内海沿いを走っていた。そして、そのついでに四国内にあるレトロ自販機を全部巡ってやろうと考えていた。
レトロ自販機を目指しているとは思えない、すんごい光景が眼前に広がっていた。
ここは「大王製紙」という紙を作っている工場だ。エリエールが有名だね。あなたの家にもあるよね?無いなら、2024年ももうすぐ花粉が飛ぶ季節だから買っておくとよいよ。僕もファンだ。
もう地図を見ると道沿いしばらく大王製紙関連。右も左も大王製紙。盛り上がってる。
とりわけ「大王ですねー」みたいな存在感の煙突を見上げてみた。
雲1つ無い晴天の青空に立ち上る煙突からの煙がまぶしい。ゆらゆら揺れながら空に溶け込むその煙は、見ていて飽きないな。
…いや、違うんだ。煙突を見たくて停車したわけではないんだ。
このすぐ近くにレトロ自販機があるそうなのだが、そういう雰囲気じゃないよね…って不安になって停車したのだ。
調べたところこの道から少し反れたところにあるそうなのだが、少しでも反れたら大王製紙の敷地じゃないの?
もし警備員に「何しに来たの!?」とか詰め寄られたら気弱な僕、「エリエール買いに来ました」ってウソついちゃうかもよ。「レトロ自販機があると聞いて…」って正直に言って頭のおかしいヤツだと思われたくはないから。
着いた。まぁここに来るまではいろいろ大変でしたよ。
工場関係者しか通らないような道に入っちゃって僕以外はトラックと関係者の車のみで完全に浮いちゃったり、激狭の住宅地に入ってUターンすらできない危険性を感じたり。
一瞬あきらめようかとも思ったけど到達できてよかった。
場所はここだ。僕の写真では海が写っていなくってロケーションがわかりづらいので、GppgleMAPから引用させていただく。
もう背後は全部海よ。海以外は周囲全部工場よ。相当目立たないので知らなければ見過ごす立地。というより、工場関係者じゃなければこのエリアにすら絶対に入らないであろう立地。
よかったらストリートビューで視点をグリグリ動かしてほしい。
さっきの(勝手に名付けた)大王煙突も見えているから。
そんな埋め立て地の埠頭、巨大な倉庫にピッタリと背中を寄せて自販機が立ち並んでいたのだ。
埠頭で食べたうどんはうまかった
駐車場という名の駐車場は特にないけど、工場地帯の埠頭の一部なので適当な場所に駐車可能のようだ。愛車を停めた。
では、改めて自販機群を見ていただきたい。
ほとんどが飲料自販機。それが若干ヨレヨレした青いトタン屋根の下に並んでいる。
おそらくは付近の工場で働く人たちのために設置されているのだろう。だが一応公道だから一般人も利用可能だ。
自販機群のほぼ一番右、そこに目指すレトロ自販機がいる。あぁ、キミに会いたかったよ。
富士電機製のレトロ麺類自販機。
メニューは天ぷらうどん一択のみ。そして価格は250円。安い。
硬貨を投入し、ボタンを押す。わずか20秒で出来立てアツアツのうどんが登場するのだ。レトロなのに現代でもあんまり見ないこのギミックに僕は虜になり、こうして日本中を走りまわっている。
おいおいおいおい、正気かこの自販機。
天ぷらとお揚げが一緒に入っているぜ。こんなの他のレトロ自販機で見たことはちょっとないぜ。タヌキとキツネが同棲してる。盆と暮れが同時に来たようなお祭り騒ぎだ。
今しがた『メニューは天ぷらうどん一択のみ』とか書いたけど、実質2つ分のフィードバックだ。歓喜。
ここは、レトロ自販機販売スポットとしては珍しく飲食スペースが設けられていない。
大体こういうスポットってテーブルやイスがあったりするんだけどね。工場の人を対象とした自販機とかで、みんな工場内かトラックの中とかで食べる想定なのかな??
では僕も車の中でいただくか。
食べてみると、自販機麺とは思えないほどにしっかりコシがある。
ダシはさっぱり系。ごくごく飲んでも罪悪感のないタイプだ。おいしい。この寒い時期に車の中で食べているから、一層おいしい。
車の中で、隣の埠頭でモクモクする大王煙突の煙を眺めながら、僕は真冬にあたたかいうどんをすすった。こういう旅路、いい…。
(「ティッシュがエリエールじゃないじゃないか!」みたいな目ざといツッコミは禁止ですよー…)
【日本6周目】第2の人生は海の近くで
2021年の撤去危機を乗り越えて
今でこそ笑って話せるかもしれないけどな、このあとこの大久保自販機_三島販売所には大ピンチが訪れたのだ。
それは2021年4月のことだった。
詳細は大人の事情なのかWeb検索してもわからなかったが、設置場所の都合上撤去せざるを得なくなったという事件だ。
1965年から56年間も、ここでずーっと自販機麺を提供してきたというのに。(←途中で自販機は変わったりしているけども)
終盤、自販機には以下のような貼り紙がしてあったという。
この度、四月をもって撤去する事に成りました。永らくの御愛食ありがとう御座いました。
設置場所を検討しております。御希望の方はご連絡下さい!
大久保
おぉぉぉ…!まだ自販機は生きようとしている!まだまだ自販機は、これからも色んな人にうどんを提供しようとしている。
僕も当時、SNSで最後の様子をハラハラしながら眺めていた。
そして2021年4月末、自販機は撤去された…。
…がッ!!
次の設置場所が決まったようだ。朗報!!嬉しさで号泣ですわ。エリエールで拭いた。
そこは「三島漁港」。これまでの設置場所から500mほどの距離だろうか?
撤去からおよそ1ヶ月後には、早くもそこで営業再開となったようだ。
めでたい。僕も見に行きたいが当時はコロナだ大流行。
少し待機し、翌年である2022年に腰を上げた。
漂ってくる磯の香と共に
季節は違えど、あのときのように雲1つない快晴なのである。
あぁ、懐かしき大王煙突よ。大王製紙は今日も休むことなく稼働しており、周辺は相変わらずトラックなどが多い。活気づいている。
三島漁港の場所は、西向きに走っていると工場群を通り過ぎた直後。
国道11号沿いにあるようにも見えるが、実は一本裏道に入る必要があり、スイスイ流れるこの国道においてその脇道に入っていくには少しタイミングが必要かもしれない。
これが三島漁港の建物だ。堅牢な感じだ。
さて、あの埠頭の倉庫群からやってきたレトロ自販機はどこだろう…。あなたは気付いたかな?
丸囲みしたところにあるのが例の自販機だ。
「一般人があそこまで行って自販機でうどん買っていいのかな…?」ってちょっと躊躇した。日陰にあることが、より一層に行きづらさを感じさせた。
だけどももう先人たちはあそこのうどんを食っている。だからいいのだ。
僕も勇気を出して、漁港のうどんを食おう。そのためにここまで来たんだもん。
自販機のすぐ左はリアルに漁港内の作業スペースで、このときも数名の人が黙々と働いていた。
この建物に沿って設置されている自販機群も、ほぼ従業員の方専用みたいなスタンスなのであろうな。お邪魔にならないようにササッと撮影しつつ購入しよう。
よぉ、お久しぶり。第2の人生はどうだい?エンジョイしているかい?
うどんの取り出し口のプラスチックカバーは取れてどこかに行ってしまったようだ。
自販機時代の右下の部分も、たぶんダシがこぼれてしまったりした影響からかずいぶんと錆びてきている。…ずっと頑張ってきているんだもんな、それもしょうがない。
ボタンは手書きの『うどん』になっていた。"天ぷら"とはもう書かれていない。天ぷらではなくなってしまったのかな??
しかしお値段はかつてと変わらず250円だ。
硬貨を入れて出てきたうどん。どこで食べようか。イートインスペースはなく、そして自販機の前で食べたら漁港の人の邪魔になってしまうかもしれない。
だから三島漁港の建物の正面、海を眺めるこの駐車場で食べようと思うのだ。
車内で食べてもいいけど、せっかくのポカポカの気候だからな、もう立ったまま食べちゃおうぜ。
お揚げと天かす。以前はタヌキとキツネが同棲していたけど、タヌキ瀕死ですな。
でもうまい。麺はもちもち。ダシはさっぱり。
…だけどもな。正直味なんて二の次だ。
大事なのは、この自販機と再会できたということ。こんな素敵なロケーションでレトロ自販機のうどんを食べられているということ。
ザザッ、ザザーッと打ち寄せる波の音が心地よい。どこからかカモメの鳴き声もする。
つまり…。また冒頭と同じ文を書いてしまうことになりますが。
漂ってくる磯の香と共に食べたレトロ自販機のうどんは、そりゃあもう旅情をくすぐるものだったよ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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