昭和の時代に造られたレトロ自販機が、令和の時代にちょっとした人気になっている。
中からはアツアツのうどんやそば・ラーメンなどが登場する。そのギミックがなんだか楽しい。
店舗によってダシをこだわったり天ぷらを手作りしたり、などの個性も面白い。だからこそいろんな店舗を巡りたくなる。
さすがに麺は製麺所にオーダーするところが大半なのであるが、岡山県の山間部にある「ベンダーショップもみぢの里」は、本格的な手打ちうどんをこのレトロ自販機にて提供してくれるのだ。すごすぎるよね。自販機をナメんなよって話だ。
そこで今宵は、一度は売り切れで挫折しつつもついにここで手打ちうどんを食べられた、っていう話をしようと思う。
人生って挫折してもいいのよ。挫折したからこそ、次に食べたうどんがうまいのよ。大事なのは、挫折後に再び立ち上がれる力があるかどうかということ。
10年前の辛酸の記憶
まずは今から10年ほど前の話から始めたい。
国道313号は山の中。そして今日は朝から雨。とても止みそうにないな。
もちろん晴れの方が嬉しいが、ザーザー降る雨を眺めながらのドライブも風情がある。四季もあるし雨も多い日本。いろんな表情を楽しめた方が面白い。
そんな僕が今回目指したのは、この国道313号沿いの山間部に突如現れるドライブイン、ベンダーショップもみぢの里なのである。
これ。ベンダーショップもみぢの里の自販機小屋である。
実はメインはレストランであり、この自販機小屋はおまけ。
レストランは上の写真だと左にちょこっとだけ写っている赤い屋根なのだが、もうこのときは自販機小屋のことしか考えていないのでレストランの写真はない。あとあと出てくるのでレストランが気になる人はもうちょっと待っていてほしいぞ。
この手描き看板の味わいよ。丸を多用している字体がいいよね。
そんで上に乗っかっている拡声器は何に使うの?時報?チャイム?ラジオ?うどん茹で上がりの放送?
とりあえず拡声器含めて昭和感がダダ漏れですごく好き。
土砂降りの中をダッシュで自販機小屋に駆け込んだ。
そしたら外観とは違い過ぎる内装にあっけに取られた。何この亜空間。
あなたも2枚前の写真と見比べてほしい。白い壁に青い屋根の簡素な自販機小屋。昭和レトロな看板だねって、10秒前に話していたじゃない。
それがこれ。真っ赤な椅子。赤と白のタイル。
極めつけが ー
コイツ。
世界観を一気に塗り替えるインパクトを持つ象。おめぇどっから来た。なんで岡山の山の中にいる。その頭の上のピンクの花は何。
聞きたいことはいっぱいあるが、そのすべてを僕は飲み込んだ。
そしてこれがレトロ麺類自販機だ。富士電機製の麺類自販機だ。
ドアの近くにあるし、本来であればレトロ自販機目当てなので真っ先に目が行くべき存在。しかし今回だけは最初に象を見つけてフリーズしてしまったわ。出鼻をくじかれた。
さてさて、実は僕は空腹だ。
朝ごはんを食べておらず、かつ雨の中を結構観光で歩いたからな。売り切れていないことを祈りながらここまで来たのだよ。
お、おぅ…。ちょっと待て?
2つあるメニューボタン、両方とも下部に不穏な光が灯っているぞ。
これはもしや…。
『うりきれ』。
ヒザから崩れ落ちた。マジか。まだ11時半だぜ。もう売れたのか。ここは手打ちうどんがうまいと聞いている。みんな午前中のうちに食べつくしやがったのか。
メニューはきつねうどんと天ぷらうどんで、どちらも300円。お手軽でいい値段じゃないか。食べたかったなぁ…。
いつか絶対に再訪したいと心に決め、また土砂降りの中のドライブを再開した。
本場讃岐の手打ちうどん
さぁ、再びやってきたのだ。あの日の雪辱を晴らすために、再び国道313号の山間部を走っているのだ。
『さぁ』とかサラッと書いたけどもさ、実は前章から8年ほど時間が経過しているんだからな。相当貯めて来たぞ、もみぢの里への思い。
これでまた売り切れだったら、僕はダークサイドに堕ちるかもしれねぇ。でも時刻は17:30すぎ。結構もう遅い時刻なのだ。売り切れの可能性は充分にある。
なんでこんなスリリングな時間帯にリベンジ計画をしちゃっているんだろう、僕。
うわぁ、懐かしいなぁ!全然変わっていないなぁ!
安心感のあふれる自販機小屋。僕の記憶の中と1ミリも変わっていない。僕はあの日に戻ってきたんだね。あの日をやり直すために。
あ"ーー…!さすがに看板は劣化が激しいな。
赤い文字はかなりペンキが剝がれてきてガッサガサ。一部は垂れて滴った血のようになっている。
しかも建付けも悪くなっているね。お相撲さんが軽く張り手したら、看板が枠から外れて吹っ飛んで行っちゃうね。
中に入った。正直、前回ほどのインパクトはなかった。
少し赤い部分が色あせたから?イスは特にあせているし。てゆーかイスの数が減ったな。ソーシャルディスタンス??
そして大事な象さんがいなかった。アレがいるのといないのとでは、空間の持つイメージが全然違う。どこに行っちゃったんだろう…。
それはさておき、うどんなのである。
喜べ、今回はどちらも売り切れていなかったぜ。この夕刻なのに在庫があった喜び。途中できっと補充してくれたんだろうなぁ。
ようやくここでうどんを食べることができるよ。しかも価格は300円のまま。うれしいね。天ぷらうどんにしてみようか。
そういえばこの自販機、右下に写っている丼取り出し口のカバーが弱くなっちゃっていて、パカパカ開いていたよ。8年経過したことでちょっとだけ劣化してしまっている。
ま、機能には問題ないけど。なんだったら、このカバーすらないが現役バリバリのレトロ自販機もあるしな。
自販機に貼ってあるポップな貼り紙がかわいい。こういうところでオーナーさんの人がらが感じられるのも、レトロ自販機の楽しみの1つだよ。
この人は丼の絵が絶望的にヘタだね。中央の白い貼り紙に描かれている黄色い丼はほぼ平坦な真四角で、丼だと思って見なければ丼に見えない。
右下のオレンジの吹き出しの中の丼は、スマホからだと拡大しないと見えないだろうけど、テーブル(?)に対する角度がおかしくって、これ丼が横倒しになって全部こぼれている絵だね。すごくほっこりする。
待つことおよそ20秒で完成したうどん。
前章でもふれた通り、手打ちうどんなのだ。レトロ自販機で手打ちうどんが食べられるのは、僕はここ以外は知らない。
で、見てくれこの天ぷらのクオリティを。
レトロ自販機の天ぷらって、ほぼ衣でふっこふこなかき揚げであるところが多い。それはそれでうまいのだが、ここは具材の主張がすんごいぞ。エビとナスだったかな?ゴージャスなのである。これで300円だからすごすぎだ。
プリプリでもちもちのうどん。のどごしが最高だ。そして澄みわたった上品なダシ。天ぷらも食べ応えがある。
永年恋焦がれていたうどんはうますぎて一瞬でなくなってしまったが、確かな満足がずっと残ったよ。
次回、レストラン入店への野望
では、最後にレストラン側にも少し触れておこう。
これがもみぢの里の全景だ。
ドライブインだけあって駐車場がすごーく広くって、カメラを構えている僕の後ろも駐車場だし、写真に写っていない右側も広大な駐車スペース。
「なんだか自販機小屋よりも赤い屋根のレストランの方が小さくない?」って思われるかもしれない。
理由の1つは、僕の写真の撮り方がヘタだから。もう1つは、実は一番左に見えている黒い屋根の建物とも内部が繋がっているので、そこそこのスケールなんだよ。
看板には『本場讃岐の手打うどん』と書かれている。
そうなのだ、この横の店舗でうどんが作られているのだ。その打ち立てのうどんがレトロ自販機に入れられるのだから、うまいに決まっているのよ。
あと、看板によれば備中和牛の焼き肉が食べられるそうだな。あー、肉食べたい。
松茸うどんをアピールする看板もある。なんと、そんなメニューもあるのか。
これはいつか秋に再訪して、店内で松茸うどんと焼き肉を食べるっきゃないよね。あ、秋だったらもしかして紅葉も見られる?もみぢを見られるから"もみぢの里"??
またここに訪れなければならないぞ。夢は広がる。
チラリとガラス戸から店内が見えた。店舗は夕方にもかかわらず数組のお客さんがいて、何やら楽しそうに食事をしていた。
同じオーナーさんだから、きっと店内もポップで綺麗だろう。かつて自販機小屋にいた象さんも、もしかしたらこっちにいるかもしれない。
では、また来る日を楽しみにしておこう。
夕暮れの中、僕は山間部ドライブを再開した。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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