日本にもピラミッドがある。
正確に言うと「ピラミッドみたいだね」って言われている建造物がある。
それが「頭塔(ずとう)」。
今までは周囲全てを建物に囲まれていて、なかなか見るのにコツが必要だったスポットだ。
ただし2023年1月現在は、一部の建物が解体されてほとんど丸見えになっている。
これは千載一遇のチャンスだ。
はい、ここまで156文字。
Twitterであればあとはちょこっといらない表現を削って、上限文字数である140文字に収まり、ストーリーは完結する。
ただしこれはブログだ。
文字数の制限は半無限大なので、もう少し詳細をご説明しよう。
じゃ、行こうぜ奈良県!!
夕暮れの路地裏にて
特は夕暮れ。
…とはいってもまだ17時前なのだが、1月の日没は早い。
日没最速日から1ヶ月が経過したとはいえ、まだまだ早い。
頭塔に着くころにはもう日が沈んでしまっているかもしれない…。
ちょっと焦る気持ちで僕はアクセルを踏んでいた。
悔しいので、到着20分前の写真を掲載しておく。
今日は快晴で1月なのに3月中旬並みの気温で、最高だったのだ。
ただし僕が頭塔近辺に到着するとほぼ同時に、太陽は地球の向こう側にお隠れあそばせた。
クソ、ちょっと飛鳥エリアの古墳巡りに夢中になりすぎていた。古墳が最高すぎたのだ、クソッ。
やってきたのは、まるで江戸時代の宿場町のような古風でコミカルな町並み。
車の擦れ違いが難しいほどに狭いが、静かな雰囲気で車の通行はほぼ皆無だった。
だけどもここ、あなたも大好きな「奈良公園」の敷地のすぐ南側なんだぜ。
他にも「興福寺」・「春日大社」などからも徒歩圏内なので、気になるなら最後に掲載するGoogleマップを元に、あなたの奈良観光のコースに取り入れて欲しいんだぜ。
どれだけ僅差で日没に間に合わなかったか、わかるよね。
電柱の上半分にはまだ日が当たっているのだ。
僕がもし身長4mであれば太陽を拝むことができるだろう。
だけども日本人男性の平均身長を大きく割っており「170cmない男は人権ない」と発言して炎上したという女性プロゲーマーから見たら人権無い僕なので、文字通りこれから日影でヒッソリ行動します。
あ、路地の右手に「仲村表具店」さんがある。
ご説明しよう。
頭塔を見るためには、ここのお店の方に見学したい旨を申し出る。
そして頭塔の敷地に入るためのゲートの鍵を借りるか、あるいはお店の人に開けてもらって、晴れて頭塔見学ができるシステムだ。そう聞いている。
どうにも入りづらいビジュアルのお店だけどな…。
そして気になっているのが、少なくとも2022年の暮れ時点では、Googleマップ上で頭塔は「臨時休業」と書かれているのだ。
奈良県の自治体公式Webを調べてみると、このように書いてあった。
史跡 頭塔 見学の一時中止について
頭塔内部の修理工事等のため、見学の受付を中止します。
中止期間:令和4年(2022年)12月1日から当面の間
再開時期が決まりましたら、このホームページでお知らせします。
むむ、タイミング悪かったな…。
僕は淡い期待を抱いてこの仲村表具店をあえて通るルートで頭塔に向かったのだが、見た感じ営業している様子ではなかった。
従い、頭塔の敷地に入る手段はない。
…ならばだ。
本題に戻るが、「今だけ丸見え」の特権を活用させていただこうと思う。
現れし荒野の頭塔
車を近くのコインパーキングに入れると、僕は頭塔の敷地の北東側を目指して歩き出した。
ここで頭塔の周辺のイメージMAPをご紹介しよう。
頭塔はとんでもない守備力を誇る。
ご覧にように、建物に完全包囲されていて道路からはまったく見えないのだ。
仲村表具店で鍵を借りて南側から入るアプローチが一般的であるが、鍵を開けてからしばらく内部に進まないと頭塔は見えない。
ただ、1年ほど前に事件が起きた。
頭塔の北東に立ちはだかっていた「ホテルウェルネス飛鳥路」が取り壊されたのだ。
その要因は2020年にコロナ禍の影響で休館となり、そのまま廃業して2021年に解体されたそうだ。
コロナによる観光業のダメージは胸の痛くなる話だが、結果として頭塔の北東部に空き地が生まれた。
これが今回のカラクリだ。
今までのように鍵を借りなくっても、車道から頭塔を見ることができるのだ。
しかも、今までは頭塔の周囲全てがピッチリ建物だったので、遠目で全体像を眺め、それをカメラに収めることは不可能だった。
だが今はそれができる!
見えた!
階段状のピラミッド!
ホテル跡地の空き地が荒野のようで、なおさらピラミッド感が出ているなぁ!
…すまん、それは言い過ぎた!興奮しすぎた!
東側から見た全容はこのような感じだ。
写真左奥が頭塔である。
手前に広がるホテルの跡地、右に看板が立っているが2023年1月現在は「売物件」である。
まだしばらくここに何か別の建物ができることはないだろうが、ずっと空いたままとも考えにくい。
タイトルに「今だけ」という文言を入れたのも、こういう理由からなのである。
写真の左隅にあるのは、「椿地蔵尊」といい、お地蔵様が祀られた小さなお社であった。
すぐ横にはこの地蔵尊の由緒が書かれた説明板もあったが、ちょっと表現が古風なために僕はあんまり理解できなかった。
まぁ今回のターゲットは地蔵尊ではないので、サラッと流してしまおう。
重要なのはそこではないんだ。
僕はこの地蔵尊を見ていたときに気付いたポイントなんだ。
地蔵尊の右から、頭塔方面に続いていそうな細い路地がある。
しかもここはギリギリ元ホテルの敷地ではなかったのだろうか?
境界線のようなロープがホテル跡地との間に張られている。
入っていいのか、ここ…?
手前に三角コーンが置かれており、それが向かって右手にある工事資材の一部としてただ単に置かれているだけなのか、それとも立入禁止を示しているのかわからない。
ちょうど近所の人が地蔵尊に来ていたので、「ここ、入っていいんですかねぇ…?」と聞いてみた。
「大丈夫だと思うよ」という旨の返答をいただいた。
地元の方がどれだけご存じかは微妙だし、そのコメントに責任を押し付けてしまうわけではないが、心強いコメントをいただいたので入ってみよう。
テクテク歩く。正面が頭塔だ。
右手の空間がすんごいな。
世界的価値のある奈良の町のかなりの一等地なのに、廃業してしまって残念だ。コロナの威力に改めて恐怖する。
歩きながらもう1枚、荒野を撮影した。
写真では表現が難しいが、実際は青空だったんだよってのをわかっていただきたくて。
左端が頭塔である。
今でこそ住宅の中に埋もれているが、できた当時はどんなロケーションだったのだろう…?
そんなことを考えているうちに、一瞬で頭塔前まで来た。
歩道はここで行き止まりだ。
それでは次章、頭塔をこの歩道の突き当りからと、いろんな角度の車道から見た図をご紹介したい。
頭塔とはなんなのか?
頭塔…、かっこいいよ頭塔…。
この頭塔は一辺が32mの正方形であり、7段の段差で高さ10mまで石組みを積んでいるとのことだ。
雰囲気はエジプトのピラミッドよりも、マヤとかのピラミッドに似ているなって思った。
「奈良のピラミッド」と言われるこの頭塔、そもそもなんなのか。
本当にピラミッドなのか。
結論、ピラミッドではない。
仏塔の一種なのだそうだ。
じゃあ仏塔ってなんだよって話にもなるだろうが、仏塔はデカいものは五重塔のようなもの、小さいものは燈籠みたいだったりする。
定義も形もバリエーション豊かであるが、偉いお坊さんの遺骨だとか経文とかを中に収めて祀る塚・塔・シンボル的なものが仏塔だ。
ただしこんな形のものは類がないらしい。
(正確には大阪の「土塔」がちょっとだけ似ている)
じゃあこの頭塔は仏塔の一種とのことで、何が収められているのか。
正解はお坊さんの頭だ。
うぇっ、マジっすか!
奈良時代のお坊さん「玄昉(げんぼう)」の首塚との伝承があり、だから頭塔という名称がつけられたんだって。
そう聞くとなんだか恐ろしくなってきたぜ。
上の写真、本来鍵を借りたら歩ける歩道が目線のちょっと上に見えている。
歩道を使えば頭塔の周囲をグルリと歩けるそうだが、よほどの広角レンズを使わないと全体イメージを撮影できないのがネックだったのだそうだ。
少し引きで見ると、ピラミッド頭頂部に「僕が仏塔と聞いてイメージしやすい物」がチョコンと乗っている。
なるほど仏塔。
そして下の7段は、アイツに箔をつけるためのオプションなのか?…とか思ってしまう。
あの7段にももちろん意味はある。
瓦屋根がチョビチョビくっついているのがおわかりになるだろう。
あの屋根の下には仏像が彫ってあるのだ。その数、実に44体。
仏像は浮彫り(2.5次元)、あるいは線彫り(2次元)であり三次元にはちょっと足りないこともあって、僕の写真ではわかりづらいと思う。
しかしこの1つ1つの瓦屋根がかわいいし、それぞれの屋根の下に仏像がいると思うとキュンとする。
奈良時代の仏像アパートだよ、これ。仲良く暮らしてほしい。
頭塔がしっかりと発掘調査され、このように綺麗に復元されたのは意外と最近で、1986年から2000年までをかけて行われたのだそうだ。
それまではパッと見では遺跡・史跡とはわからない、木々の生い茂った小山だったらしい。
そういう扱いだったから、周囲全部建物になっちゃったのだね、納得。
それが再び日の目を見れて嬉しく感じる。
そして、今後頭塔がどのような道を歩んでいくのかも、また気になる。
もうちょっと一般人が見学しやすいシステムで、そしてロケーションも整えられるといいけどなぁ…。
いや、でもこの鍵を借りるという面倒な見学方法もマニア心をくすぐられるしなぁ…。
夕暮れの奈良の町。
そんなことを考えつつ、ホテル跡地を左手に見ながら、僕は残照に向かって歩き出した。
エピローグ
コインパーキングまで戻ってきた僕は、愛車の目の前を見て「あぶねっ!」ってつぶやいた。
愛車の日産パオの前、なんか配管の蓋部分がハデに割れていた。
最初からだっけ?入ったときはどうだったっけ?
とりあえず踏まないように気を付けて発進した。
ここでタイヤパンクとかしたら、このあとの旅路に多大なる影響が出る…。
管理会社とかに連絡した方がよかったのかな。そこまで頭が回らなかったな…。
そのあと、奈良の山間部を走りながら残照を眺めた。
眼下には奈良盆地の夜景が見えていた。なんだこれ感動。
ありがとう奈良県。
最後に奈良盆地を振り返ったあと、このまま僕は次の三重県へと向かう…。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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