僕は、なるべく宿泊費を抑えたい。
何を目的として遠方に赴くのかによって考え方は異なるが、「なるべく宿泊費を抑えたい」と考える人は一定数はいるだろう。
その日の僕も、その1人であった。
あぁ、なるべく安く宿に泊まりたい。
その分のお金を、これから行くバーでのカクテルに投資したい。
大都市名古屋で、極力安く泊まる方法ってなんだろう?
それが今回のテーマだ。
ただし、カプセルホテルやネットカフェは除外とする。
もちろんそれらだって快適に寝られるところもあると思うが、僕はちゃんと個室のある宿に泊まりたい気分なのだ。
…というわけで、ターゲットは「第3松竹梅ホテル」。
どんな宿なのかは、これからの本編でじっくりご紹介しよう。
TVなく、暖房切れ、そして狭いらしい
名古屋近辺で極力安く泊まれるホテルはどこか。
2023年1月、僕はそんなことを考えながら名古屋の町を運転していた。
僕が調べた限りでは、それは「名古屋近隣の駅」でもなく「駅から少し離れた立地」でもなく、意外なことに「名古屋駅に充分に歩ける場所」であった。
ならばそこに向かってみよう。
まばゆいばかりのネオンの中を、僕は車で進む。
名古屋駅のすぐ横もかすめる。
ホテルの場所の検討はついているが、たぶん駐車場はない。
あるいは駐車場は別途自分で確保したほうが安上がりだと判断した。
数分、路地裏をウロウロと徘徊して安そうなコインパーキングを物色する。
最大料金1000円。
東京都心だと1時間600円とかもザラなので、一晩で1000円はありがたい。
もっと探せばさらに安いコインパーキングもあるのかもしれないが、探す手間をそんなにかけたくない。ここにしよう。
ここが第3松竹梅ホテルだ。
今回の話は1も2もなくいきなり「3」だが、まぁ受けれてくれ。
そして気になる「下宿可」の文字だ。
気に入ったらここをあなたの住処にすることも可能なんだぜ。
ここが屋外からホテル内に入るためのドアだ。
一般的なホテルと比べると結構閉鎖的なイメージがある。
自動ドアではなく、手動の引き戸。曇りガラスで内部は見えない。
ドアには「男性専用」の文字。
そうなのだ。女性には申し訳ないが、ここは男性専用なのだ。
きっとそもそもこの宿ができた経緯とか治安だとか、そういうのが理由なのだろうが、そのあたりも追って話そう。
上の写真は翌朝に撮影したものであるが、例のドアを内側から撮影した図だ。
撮影した僕のすぐ後ろに、小さなフロントがあるという構図だ。
チェックインした際には、そこにおばちゃんが座っていた。
僕:「1泊お願いしたいのですがー。」
おばちゃん:「はいよ。部屋のグレードがいくつかあってね…」
どうやら部屋のグレードは3つあり、それが松竹梅というホテル名の由来のようだ。
おばちゃんは部屋の広さや値段等について何か説明したようだが、僕にはよく聞き取れなかった。
なので「一番安い部屋で」って言った。
1600円らしい。安い。
おばちゃんは迷わず最安を選択した僕を心配したのか、「ここは初めて?」って2回僕に聞いてきた。
さらに「狭いですよ。TVないですよ。22:30で暖房切れますよ。」と念を押してきた。
大丈夫、きっと車よりは広いであろう。車中泊よりマシ。
そして車中泊ではTVもないし、エンジン止めて寝るから朝方にはキンキンに冷える。
ホテルのほうが全部マシ。天国。
「今日は平日だから、大浴場を23:00まで使えますよ」って案内を受けた。
上記以外の時間や土日はシャワールームなのだそうだ。
まぁこれは普段シャワー派の僕としてはどっちでもいい。
そんなこんなでカギを受け取り、チェックインした。
さて、この第3松竹梅ホテルであるが、名古屋駅の西側(太閤通口側)にある。
実は名古屋駅、東側は大きくきれいに発展したのに対し、西側はちょっとカオスでアンダーグラウンドな雰囲気が長く続いていた。
「笹島ドヤ街」。
それがかつてのこのエリアの呼び名。
ドヤ街、つまり日雇い労働者が多く暮らす町であったのだ。
2023年現在はドヤ街といわれるような場所は大阪の西成・東京の山谷・横浜の寿町にしかない。しかし少し前までは名古屋にもあったのだ。
これであなたもご納得されただろう。
第3松竹梅ホテルは貴重なドヤの名残り。
ドヤ街で働く日雇い労働者(圧倒的に男性が多い)のため、安い簡易宿泊施設としてたくさんあったドヤの生き残りなのだ。
だから「下宿可能」なのだ。
独房のようだがくろろげる空間
受付からは階段で2階にあがり、客室群の並ぶ廊下を奥まで行くと、そこにエレベーター。
そのエレベーターで6階に昇った。なんだか複雑な構造だな。
こうして自室にたどり着く。
うむ、なかなかクールな部屋だな!
鉄フレームのベッドは、シングルサイズの布団が少しはみ出るくらいの狭さ。
大丈夫、車よりは全然広いし、自宅のベッドで寝るよりも広い。何の問題もない。
そして傍らには小さなサイドテーブルが1つ。充分充分。
これは寝たときに頭になる方を撮影したものだ。
では足元側はどんなロケーションなのかというと…。
ドアに干渉している…!
これによってドアが開かなかったら大問題だが、外側に開くからこれも問題ない。
要するにクイーンサイズのベッドくらいの広さの部屋なのだな、ここは。
受付のおばちゃんが言っていた通りTVはないが、別に普段からそんなにTVは見ないし、この後酒を飲みに出かけて帰ってきたら寝るだけだから全くいらない。
コンセントがあってスマホが充電できるのがありがたい。
照明とがあり、スマホ充電さえできればひとまず電力について文句はない。
ドアの上には鉄格子の通気ダクトがあるようだ。
なんだか刑務所の独房みたいでドキドキする。
ここから暖かい風がゴウンゴウンとすごい音をさせながら部屋の中に流れ込んでくる。
ちなみに廊下も「ここは潜水艦ですかな」ってくらいにゴウンゴウンと言っていた。
例えるとフェリーの船室みたいな感じ。船室はずーっとエンジン音が聞こえているからさ…。
ただ、この暖房の風はちょっと強力すぎた。
気持ち悪くなるほどに暑い。だけども調整できる機能がない。
最安の部屋なので22:30に暖房が切れると言っていたな。これはむしろ好都合かもしれん…。
そう考えた僕の予想は当たった。
23:00すぎに帰還してもまだ充分に暖かかったし、翌朝も特に寒いとは感じなかった。
なんだなんだ、最安万歳じゃないか。
さて、これも翌朝のことだ。
これまた鉄パイプで厳重に防御された窓を開ける…。
この向こうにはどんな景色が広がっているのかな??
うん、わりといい。思ったよりいい。
こういうホテルの特徴として、開けた瞬間数10㎝先は隣の建物の壁…ってパターンを期待していたのだが、名古屋駅に直結する大通りを見下ろすことができて清々しい気分になれた。
おはよう名古屋だ。
結論、寝るためだけの部屋としては充分であった。
館内を探訪しようぜ
狭いドアの部屋・非常階段・洗面室
それでは館内をいろいろご紹介していこう。
まずは僕の泊まった6階のMAPを見てくれ。
ガッタガタの面白い部屋の配列だな。
これ、何度も訪問していろんな部屋に泊まってみたくなるヤツ。
向かって右上のほうの616号室なんてすっごい細いけど大丈夫か?
僕の606号室でさえシングルベッドよりこぶりなベッドしか置けないのに、それより細くて大丈夫なのか?
あとは左端の604号室がVIPっぽい広さなのと、その隣の603号室が激狭なのが良い。
このままだと2つの部屋のドアがぶつかるので、604号室だけ内開きなのだね。
部屋の扉を開けて左を見てみた。
例の603号室が見える。
せっま!!ドア細ッ!
「こんな規格のドアがあるんだー!」ってくらいに細い。
そしてこの604号室との親密っぷりよ。
ドアとドアの間に壁を一切挟まず、ドアドアの連鎖だ。
同時に出入りしたら気まずいヤツだこれ。
普通より少し狭い程度のサイズのドアを見ると、すごく安心する自分に気づいた。
そうなのだ、ドアとドアの間に壁があると安心するのだ。
窓がなく、日の光が入らない狭い通路。
こういうのが苦手な人もいるかもしれないが、1泊であれば僕は気にしない。
この廊下の先にWiFiの入るエリアがあるのだ。
無料WiFiがちゃんとあるんだよ、ワックワク。
ってゆーか、自室にはWiFi電波が届かないという残酷設計。
WiFiがあるのはありがたい。
だが「ドアの向こうがWiFiの使える場所となります」とか書いてある。
そのドアとは、非常階段に通じるドアだ。
はい、非常階段。
ありふれた非常階段なので特筆すべきようなものはないが、まぁ寒いしくつろげないし、なんだか侘しい気持ちになるよね。
なんてこった。
ここは洗面台とトイレだ。
向かって左手前にはポットもあってお湯を沸かせる。
このブースの隣には簡単なキッチンスペースもあった。
ステンレスの洗面台の向かいには、トイレの個室のドアがある。
バッキバキに昭和レトロな和式便器だった。
便器が床から一段高い部分に設置されているタイプ。
だけどもドアを閉めるとさ、あまりの狭さに段差とドアに足を挟まれて捻挫する。
軽く愉快。
シャワールーム・休憩スペース
僕は風呂に入る。
バーをハシゴしたら大浴場の使用可能時刻の23:00は普通に過ぎてしまったので、シャワールームの使用だ。
地下1階だそうなので、エレベーターでそこに向かった。
このドアの向こうに大浴場と2つのシャワールームとトイレがある。
なんだかベタベタと多数の貼り紙がしてあるし、文字通りアンダーグラウンドだし、曇りガラスで内部が見えないので少しドキドキしながらドアを引いた。
そしたら中、ワインセラーだった。
いや、壁紙なんだけどさ、いきなりここだけオシャレ。
シャワールームは最近リフォームしたものとみられ、とても清潔感があった。
これはうれしい。
こういうところって絶対にシャンプーやボディソープは備え付けられていないだろうなって思っていたのだが、バッチリあった。ありがたい限り。
そしてシャワーの水流はとても細かくてソフトだった。いいシャワーヘッドを使ってやがる。ありがとう、癒された。
あと、これまた絶対ないだろうと諦めていたドライヤーも備え付けられていた。
ただしなかなかに本気なチェーンがついていた。
本気で盗難防止に取り組んでいる。油断できない街なのだな、この界隈は。
シャワールームの隣は大浴場だ。
もう真っ暗だしドアが閉まっているので中を確認することはできない。
あと、さらにその隣のトイレは「便所」の文字が郷愁を誘うような昭和レトロな風貌であった。
今から振り返ると、中をちょっと覗いてみればよかった。
ちなみに大浴場にはしっかりと南京錠がかかっていた。
締めておかないと通りすがりの人が風呂にでも入ってしまうのか、はたまた深夜に妖怪でも出るのかってくらいのセキュリティであった。
隣のエリアは休憩室だそうだ。
休憩するなら自室でいいかなって思っているが、興味本位でちょっと覗いてみよう。
なんだかセピア色の部屋に、テーブルとイスと灰皿と…。
要するに喫煙室か。
しかし変だぞこの部屋!下半分を手で隠すとまるで風呂場だ!
正方形のタイル、銭湯によくあるような山と海の絵、なんとなくシャワーをセットしたら似合いそうな配管…。
かつてはもっとお客さんも多くて、隣の大浴場はさらに広く、ここまで浴場だったりしたのだろうか…?
やたらレトロでファンシーなキャラクターの描かれた時計。
このキャラクターは見たことないのだが、誰さんですか?
その奥には洗濯機と乾燥機があった。
これだけあれば、ひとまず立派に生活できるよね。
ドヤ、すごいな。
1日1600円で、名古屋駅のすぐ近くで生活できるのだ。
家は寝るためだけにあると思えば、ある意味勝ち組なのかもしれないね。
都会に息衝くかつての風土
いろいろご紹介してきたが、僕がこのホテルでシラフであった時間はそんなに長くはない。
チェックインしてすぐにバーに出かけたからだ。
数10m名古屋駅方面に歩くと、そこには系列店の「ニュー松竹梅ホテル」があった。
ドアは透明で自動ドアであり、入りやすくて綺麗な雰囲気だ。
ここは3000円~のプランだそうだ。なるほど、結構高い。
そしてこっちは女性も宿泊できるぞ。女性のあなたに朗報だ。
通りの一本裏には、「第2松竹梅ホテル」があった。
しかしこの日はここは営業していない感じの雰囲気であった。
Webで調べてみるととりあえず予約はできそうだから、この日はたまたまだったのかな?
なんかWebだとどの日も「残り2部屋」で謎が深かったが、まぁよい。
「第1松竹梅ホテル」は存在しない。
かつてあったのか、いつ滅びたのか、などはWebで調べてもわからなかった。
誰か教えてほしい。
調べ方次第ではそうではないのかもしれないが、僕の宿泊した第3松竹梅ホテルはWebからの予約だと3000円くらいからのプランしかなかった。
チラッとそれを確認した僕は、Web予約せずに直接宿の乗り込む作戦に出た。
もともとドヤなので、飛び込み対応はしているだろう。そして、もしかした最安の部屋はWebには掲載されず、そういう飛び込みの人のみに提供されるかもしれないと踏んだのだ。
裏を取ったわけではないのでなんとも言えないが、本場の大阪西成のドヤではそもそも電話予約すらできず、突撃した人のみしか泊まれないところもある。
チャレンジしてみる価値はあると思っていた。
10分も歩けば、名駅に聳えるツインタワー。
お陰でお気に入りのバーをハシゴし、非常に楽しい夜をエンジョイできた。
安くて便利な宿、最強。
…そして翌朝僕はチェックアウトする。
ここのホテルは夕方か~夜しかフロントに人がいないのだ。
つまりセルフチェックアウト形式。
ここで最後にあなたにご紹介したい、おもしろいギミックがある。
「カギ落とし」。
ここ以外ではあんまり聞かない単語かもしれない。
廊下を貫く赤い鉄パイプの一部に穴が開いている。
チェックアウトするときにはここにカギを入れると、そのまま1階のフロントまでカギがパイプ内を疾走していくのだそうだ。
僕はチェックイン直後にこれを見た時点からこれを使ってみたかったんだけど、チェックインしてすぐにここにカギを入れたらきっと怒られるし、だからといってカギ以外の物を入れたらもっと怒られるであろう。
満を持して、チェックアウト時に使用した。
スコーンと軽い音が下のほうに流れていった。
「受付に普通にカギ回収箱を置けばいいのでは?」って、ロマンのある人はそういうことは言わない。
雲1つない快晴。冬の名古屋の1日が、また始まる。
えっと、僕の愛車…、どこに停めたんだっけ?
元ドヤ街をしばらくウロウロするのだが、それはご愛敬ということで。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 第3松竹梅ホテル
- 住所: 愛知県名古屋市中村区太閤4-1-14
- 料金: 1泊¥1600~
- 駐車場: おそらく無し
- 時間: チェックイン…17:00~23:00と思われる