本州の最北東端は、下北半島にある「尻屋崎(しりやざき)」だ。
わりかし近くに本州最北端の「大間崎」があるのでそっちに観光客を持っていかれがちかもしれないが、ここはものすごく魅力的な岬なのだ。
"絵になる岬"で争うならば、僕は尻屋崎の圧勝と判断する。
こんな写真が普通に撮れるからだ。
この岬には大きな馬が何10頭と放牧されている。
灯台と馬と、芝生と海と…。
すごい贅沢なコラボレーションではないか。
マジで絶景だ。
だから日頃の仕事や勉強でお疲れのあなた、行こうよ尻屋崎。
命の洗濯しようぜ尻屋崎。
そこは最涯の地
まずは前提のご説明をさせていただきたい。
今回の記事は、日本の突端をいろいろご紹介する以下の【特集】の一環として執筆する。
端っこ好きや岬好きな諸君は、本記事のみならず上記リンクから行くまで突端を味わってほしい。
輪郭を知れば中身が見えてきて、それが日本を理解することにも繋がると思うのだ。
さて、今回ご紹介するのは本州最北東端の尻屋崎である。
僕は以前に今回の【特集】について、「勝手に僕が突端だと定義するんじゃないよ。ちゃんと公表されている突端だけを選ぶよ。」と言っていた。
実は尻屋崎は特集内では唯一、現地に明確に本州最北東端を示す碑などがない。
「じゃあYAMAが適当に定義付けただけか。あるいは一部の人が主張しているだけか。」と言えば、そうではない根拠が2つある。
…読めます?
"最涯(さいはて)地"と読むのが正解だ。
ここ以外であまり見たことがない表記だ。
しかし、紛れもなくここは本州の最果ての地。
なぜ最果て?
それはちょっとこの碑の言葉足らずなんだけど、本州の最北東端だからだよね?
地図を見るとメッチャ鋭く北東に突き出ているからね、刺さったら痛い系の岬だよね?
そしてもう1つの根拠は、自治体を始めとする複数のWebサイトで公式に本州最北東端だと定義付けられているからだ。
斜めの突端って、単純に緯度と経度から誰もがわかるような方法で定義できない。
言ったもの勝ちだったり、アレコレ協議して決まるのだ。
尻屋崎、大丈夫だ。
キミは間違いなく本州最北東端だ。
ところで僕は、この岬は結構好きで幾度となく足を運んでいる。
今回の記事はそんな中でも4回分の訪問履歴から写真を選りすぐって執筆して行こうと思う。
大体どこに行くにも自ら車を運転していく僕だが、うち1回は神奈川県にて旅友「FUGA君」の車に乗せってもらって、そのまま助手席で寝ぼけながら訪問したという貴重なパターンも経験した岬である。
うむ、助手席からだと道路の写真を自由に撮れてとても良い。
では、次項からはこの岬の魅力をモリモリ書いて行こう。
青い海とテキサスゲート
尻屋崎に接近する。
すると灯台よりも2.5㎞ほど手前でゲートが現れる。
こんな感じだ。
電車が来るわけではない。料金所があるわけでもない。
だけれどもこのゲートだ。
遮断器の真下はテキサスゲート。
ここからは後述する馬が放牧されているエリアだ。
その馬たちが敷地外に逃げないように、上の写真のように足場を網状にしておく。
馬たちは怖がってこの上を歩くことができないのだ。
「与那国島」でよく見かけるスタイルのゲートである。
…つまりここからは、どこで馬と遭遇してもおかしくないサファリパーク的なエリアである。ゆっくり進もう。
すぐに車窓から見えてくる海は、沖縄かと思うほどに青く澄んでいる。
馬たちはこんな環境でノビノビ暮らしている。
…もっとも、冬は極寒だけども。
愛車と共に青い海を撮影しても良いだろう。
愛車を写真フレームに入れたいなら、灯台に行く着く前の海沿いロードがオススメだ。
この写真を撮ったときは、少し霧が出ている日だったが海の色が最高だった。
初夏の海は綺麗。
こうして2㎞程走ると、向こうに「尻屋崎灯台」が聳えているのが見えてくるのだ。
…霧の中で下半分しか見えていないけどな…。
日本一のレンガ灯台と霧笛
次は灯台にフォーカスしたい。
僕も各地で灯台を見てきたが、その中でもこの尻屋崎の灯台はとても美しい。
青空と灯台。
これだけでご飯3杯はお替りできるよね。
さて、この灯台は見た目だけではない特徴がいくつもあるエリート灯台である。
まずはその歴史。
1876年に建てられた、東北で一番古い灯台だ。
それだけ航行に重要なポイントだったのだ、尻屋崎は。
そして、この聳え立つスケール。
地上からの高さは32.82m。
これは日本のレンガ造りの灯台としては1番の高さだ。
コンクリート造りも含めると上がいるけど、レンガでこの規模はすごいのだ。
まだまだあるぞ。
日本の灯台50選にもエントリーされている。
周囲が海だらけで岬だらけ、灯台だらけの日本において、50選に入るのはとてつもない確率だ。
俳優のオーディションを受けたら即合格でドラマの主要人物に抜擢されるくらいの確率だ。知らんけど。
それに、日本でたった16基しかない参観灯台(一般人が登れる灯台)の1つだ。
なんだったら国内最北の参観灯台だ。
ちなみに僕は登ったことは無い。登るの有料だし…。
さらに大きなステータスがある。
あえて霧の写真を掲載してみた。
あなたは霧笛(むてき)をご存じだろうか?
霧の中でも灯台の場所がわかるように、濃霧のときに音で知らせるシステムだ。
今は各船舶がレーダーを備え付けているので、2010年のその歴史に幕を閉じた。
では、日本最初の霧笛はどこなのか…?
…そうですね、もうわかったね。
尻屋崎だ。
1879年(明治12年)、我が国の霧笛はここで産声をあげる。
ただ、尻屋崎の霧笛は1994年には廃止されたのだそうだ。
僕も聞いてみたかったなぁ、生の霧笛。
ビッグホース・寒立馬
尻屋崎の最大の特徴は、前述の通り馬が放牧されていることであろう。
この馬が、とっても絵になるのだ。
どこかの高原のような絵だが、背景に灯台があって海の近くのような気もして、脳がバグる。そんなスポットだ。
馬が闊歩している岬は、僕の知る限りは日本で3箇所ほどだ。
尻屋崎以外では、宮崎県の「都井岬」、与那国島の「東崎」だ。どっちも行った。
まぁでも灯台の馬とのコラボを一番綺麗に撮影できるのはここだろうな。
美しいの一言だ。
ただし、あまり馬に見とれていると足元がおろそかになるから気をつけよう。
ほら、足元にはアレがあるから。
茶色いアレがあるから。
どうしても生きていく上では、出ちゃうから。
この馬は寒立馬(かんだちめ)という。
尻屋崎にしか存在しない馬だ。
20数年前には9頭まで減っていたが、2021年現在は40頭くらいにまで増えてきている。
すごい希少種だ。
特徴は、ゴツくてデカいこと。
このくらいある。
この地域で冬の寒さに負けず、そして農耕馬としての働きをするために、どんどんマッチョになっていったのだ。
だけども性格はすごく穏やかそうだ。
人が近付いても悪気さえなければ、ノンビリと草を食べている。
海をバックに馬が歩いている様は、とても絵になる。
こんな風景が灯台周辺では普通に見られるのだ。
リラックスして寝っ転がっている馬もいたりする。
気持ちよさそうだな、僕も混ぜろって言いたい。
僕のかつての愛車の前で「キャキャウフフ」と戯れていたりもする。
ちなみに上の写真、あたかも車で草原を走っているようにも見えるが、これ実は駐車場だ。
未舗装の駐車場のギリギリ端で撮影するとこうなる。
季節によっては仔馬もいる。
春に生まれるのだろう。まだ生後数ヶ月なのだろうが、とても大きい。
僕からはあまり近寄らず、相手から来るのを待ってみる。
近くで母馬が心配そうに我が子を見守っていた。
うん、僕もドキドキしている。動物にはあまり接したことがないので。
灯台の周囲をゾロゾロと群れになって闊歩していることもあった。
逆に、テキサスゲートから灯台周辺まで1頭も見かけずに「あれ?」ってなったこともあった。
そのときの同行者はFUGA君だったんだけど、なんか馬に異様なラブ精神を抱くFUGA君は、現地近くの馬好きの知り合いにすぐにTELして、馬の場所を問い合わせしていた。
そしたら灯台から少し離れた林の中にいた。
馬は風が吹くと林の中に隠れるのだそうだ。
FUGA君のエマージェンシーコールでやってきた馬好きの「SilverMacおじさん」が、ここまで案内してくれたのだ。
一般観光客が間違っても行かなそうな、岬の奥の方だった。
1頭1頭の見分けがつくSilverMacおじさんからは、いろんな馬たちの物語を聞いた。
ただ"光景"として見るだけではない、深い知見を得ることができた。
こういう経験、大事だね。
最後、SilverMacおじさんはお気に入りの馬を発見すると、車から飛び出て追いかける。
馬、草原を地平線の彼方まで逃げる。
おじさん、それをポテポテ走りながら追いかける。
西に傾いた太陽の中に馬もおじさんも消えて行ったことを確認し、僕とFUGA君は岬を後にした。
ダイナミックな最果ての岬で
本州最涯地、尻屋崎。
本州の最北東端、そして下北半島の鋭く北東に突き出た突端にある、まさに最果ての岬である。
今回は灯台や馬に絞って記事を書いてきたが、ただただ灯台周辺を散歩していてもとっても楽しい。
天気や季節にもよるが、東北を吹き抜ける風は爽やかだ。
芝生の上を歩き、断崖ギリギリから海を眺め…。
確かに同じ下北半島にある、大間崎も最高だ。
本州最北端の碑・お土産物屋・グルメ…。万人を受け入れる体制が整っている。
だけども、"岬らしさ"を楽しむのであれば、僕は地形的にも景観的にもこちらに軍配を上げる。
こんな風光明媚な岬はなかなかないのだ。
日本全国、数100の岬は見てきた。
その中でも尻屋崎は、おススメしたい岬のTOP10には間違いなく入っている。
もしかしたらTOP5にも入るかもしれない。
どんな岬にも特徴があり、あまり序列をつけたくないので曖昧だが、そのくらいに好きな岬ではある。
だからこそ、何度も通ってきた。
もしあなたが青森県の下北半島に行くのであれば、この尻屋崎にも足を伸ばしてみていただきたい。
僕が言いたいのはそれだ。
もっとも、これからの真冬の季節はさすがに厳しい気候でおススメはできないかもしれない。
SilverMacおじさんの撮影する冬の尻屋崎の写真で、僕は「ヤバい世界だ」と驚愕した。
しかし、また春が来て、夏が来て…。
尻屋崎にまた仔馬が増え、緑の大地が広がる…。
そんなシーズンは最高だ。
僕もまた下北半島を走りに行きたい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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