日本本土の最東端。
それは北海道の本土の最東端でもある、「納沙布(のさっぷ)岬」だ。
民間人が到達できる日本の最東端。
納沙布岬という言葉を聞いただけで、僕の脳裏には肌寒く潮の混じった北国の風が吹きつける。
景色の良い素晴らしい岬ではあるのだが、同時に難しい政治背景を持つため、切ない気持ちにもなる岬だ。
今回は、そんな極東の岬をご紹介したい。
荒野の果ての世界
北海道・本州・四国・九州。
日本の本土と言われるこの4つの大きな島、それぞれの東西南北端がある。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
本土最突端16岬の中で最も東に位置するのが、この納沙布岬だ。
「日本の最東端」と言うのであれば、絶海の孤島である「南鳥島」だとか北方領土などもあるのだが、それらは2021年現在で一般人は行けないエリア。
実質現時点での日本最東端と表現してもいい地だ。
根室の町でご当地グルメのエスカロップを食べた僕は、最東端を目指して町を後にする。
すぐに市街地は終わり、小さな漁業集落がポツポツあるような荒涼とした世界が現れた。
「いよいよ最果てが近付いたな」という感じだ。
これは後述する北方領土への想いもあるのかもしれないが、この岬を目指すときの僕の感覚は「ワクワク・ウキウキ」ばかりではない。
例えると、賑やかな都心から乗った電車で、次々と乗客が下りていって自分1人となり、終着駅で降りると人のいない真っ暗で小さな町だった…、みたいな感覚。
もちろん納沙布岬近辺で元気に暮らしている人もいるから失礼な表現になってしまっていることは重々承知なのだが、僕がそう感じてしまっているのだからしょうがない。
さらに、この岬は曇天であることが多い。
春から夏は海霧が発生しやすいのだ。
逆に秋から冬は晴天であることが多いのだが、北海道を旅する人の多くは夏を中心とした季節をチョイスするし、僕も例に違わない。
つまり曇天アプローチであることが多い。
そして曇天だと寒い。
寒いと気が滅入ることが多い。
実際、桜前線の国内終着地点だしね。ソメイヨシノが咲くの、5月中旬とかだしね。
運よく快晴だったこともある。
良く晴れた初秋だった。
このときはアホみたいに勢力の強い台風が過ぎ去った翌日の台風一過であり、本当に最高の天気であった。
ただ、この前日はなかなかワイルドなドライブだったがな…。
まとめると、僕が納沙布岬に一種の寂しさを感じてしまう理由は以下の通りだ。
- 北方領土に関する政治背景
- 夏は曇りやすい
- 寒い
- にぎやかな街が無い
人それぞれ感じ方は違うだろうから、あなたはあなた自身でこの岬を体感してもらいたいと思う。
さて、そうこうしているうちにゴールが見えてきた。
あの高いタワーが見えているところが本土最東端の納沙布岬だ。
本土最東端の碑
納沙布岬エリアにあるものは、ザックリと以下の通りだ。
細分化すればもっとあるが、僕はO型なのでザックリ行かせてほしい。
- 本土最東端の碑、モニュメント類
- 資料館
- 展望タワー
- 土産物屋
- 灯台
このうち灯台だけは少し場所が離れている。あとで行こうと思う。
さぁ、いきなり突端マニアのハイライトをご紹介するぞ。
日本本土最東端の碑だ。
砂利の駐車場の一角に立っているぞ。
その左側の車は、日本3周目の僕の愛車であるbBだ。
1つだけ、みんながここで気持ちよく過ごすために、僕を含めて気をつけたいことがある。
それは、最東端の碑の前を占有しすぎないようにする、ということだ。
まずはこの碑は駐車場の一角ではあるが、他の駐車スペースが全て埋まっていない限り、この碑の前に駐車をするのは避けよう。
もっとも、お盆シーズンであっても駐車場全てが埋まることはほぼないと思うが。
僕もお盆に行ったことあるが、充分に空いてた。
とはいえ、みんな愛車と最東端の碑とのコラボ撮影はしたい。
だから、碑の横にバイクなり自転車なり四輪なり、愛車を置いて撮影。
そしたら後の人に譲るために愛車を移動…。
こんな感じにできるとスマートだ。
ところでこの碑は丸太のような木の柱なのだが、その足元を見ていただきたい。
黒光りする石のプレートが埋め込まれている。
ここも忘れずに、ぜひ注目だ。
緯度と経度が記載されている。
そして、方位記号の中には本土最北の海と、後述の灯台の絵が描かれている。
東はご覧のように右上を指している。
この方向には、灯台だとかまだ陸地が続いてはいるけれど、最東端の碑はこの位置なのだ。
僕も細かいことは全く気にしない。
この碑と撮影できることが、最大の目的だ。
北方領土への想い
前述のようにこの敷地内にはいくつかの施設やオブジェがある。
しかし残念ながら僕は施設類をあまり詳しくは見ていない。トイレを借りたことならあるけど。
写真も少なく、充分に満足いただけるご説明はできないと思う。申し訳ない。
まずは一番目立つ巨大オブジェ、「四島のかけはし」だ。
北方領土は大きく「択捉島」・「国後島」・「色丹島」・「歯舞群島」の四島だ。
これを4つのブロックを繋げて表現したらしい。
「北方四島は日本の領土だぞ。返せよ。」という思いを具現化し、このビッグでゴチゴチのオブジェを製作したのだ。
かけはしの真下では、祈りの火が燃えている。
1972年(昭和47年)に、アメリカから沖縄が返還された。
その沖縄の最南端の島「波照間島」で採取した火をここまで持ってきて燃やしている。
「沖縄に続け。北方領土返還活動の火を決して消すな。」というメッセージだ。
引きと撮るとこんな感じだ。
付近一帯は「望郷の岬公園」という名前。
望郷とは、手が届かない状態になってしまった北方領土を指しているのだろう。
この公園のテーマ自体が、北方領土返還だ。
園内、さっきの本土最東端の碑のすぐ脇には、『呼び戻そう 祖先が築いた北方領土』という碑もある。
碑にも日の丸、その横のポールにも日の丸の旗。
風が強いため、旗はボロッボロだ。
隣には『北方領土奪還 日本民族連合』というパワーワードが掲げられている。
日本人を日本民族連合と表記するとは…。
表現が強いな。
しかしこれ以上ヘタなことを書くと「それがYAMAを見た最後であった…」という説明書きと共に僕の存在が消されそうなので、このあたりで筆を止めよう。
ヤベーヤベー…。
『返せ!北方領土
四島還り 広がる交流 深まる友好』
アザラシの笑顔と「返せ!」のギャップの差に戸惑いを隠せない。
この笑顔でバイオレンスな発言。
これヤバい。クラスで一番怒らせてはダメなタイプのヤツだと、僕の本能が警鐘を鳴らした。
『北方領土は日本固有の領土です。』、と書かれた床面のMAP。
これは2013年くらいに設置されたと記憶している。
納沙布岬を間違って「日本最東端」とか言おうものなら、自警団にしょっぴかれかねないな、これ。
そして、ここから見てどの方角に北方四島があるのかをMAPで確認できる。
年数が経って少し劣化したバージョンも掲載しておく。
このときは霧が濃くって、北方領土は何も見えなかった。
そして、2枚上の写真にはチラッと写っているが、このMAPの奥にも納沙布岬の碑がある。
これだ。
かたちこそ、さっきの本土最東端の碑に似ているものの、書かれている文言は『返せ北方領土 納沙布岬』だ。
とんでもないシュプレヒコールの嵐である。
公園全体が「返せ!返せ!返せ!!」ってなっている。
これが正論とかどうとかは置いといて、正直ちょっと疲れる。
これらを見ると、もう敷地内の「根室市北方領土資料館」だとか「望郷の家」だとかは、おなかいっぱいで入ることができなかったのだ。マジすみません。
北海道灯台発祥の地
次に、本土最東端に立つ灯台をご紹介したい。
前述の通り、灯台だけ少し離れた場所にある。
緑地帯が、ここまでにご説明したスポットだ。
本土最東端の碑もそこにある。
これに対し、さらに東に300mほどの場所にあるのがこの灯台だ。
上の地図をご覧の通り、本当に本土最東端なのは灯台の裏手である。岬の先端も同様である。
まぁでも細かいことは置いておこう。
ずんぐりむっくりな、かわいい灯台。
しかし日本の灯台50選にエントリーされているし、北海道最古の洋式灯台だったりと、なかなかすごいお方らしい。
本土最東端の碑からは、徒歩ではなく愛車を使ったほうがスムーズだ。
ここはいつも風が強いし寒いので。
さて、まずはちょっと古めの2010年の写真からご紹介する。
薄汚れているしサビているしで、なかなかのダメージであった。
数年後に再び見に行ったら、すごく美白されていた。
これ、ウェディングケーキじゃないのか、そうなのか?って思うほどだった。
「ケーキ職人の監修のもと、改修しました」と言われたら、僕は単純なので信じる。
灯台の前のポール。
『北海道最初の納沙布岬灯台』・『北海道灯台発祥の地』の表記がある。
明治初頭から、この本土最東端の海を照らし続けている。
ちょっと前までは霧信号所もあった。
長年、北海道本土の海の安全を守ってくれているのだなぁ。
本土最東端の眺め
最後に、ここからの景色をご紹介したい。
ちょっと本土最東端の碑のところまで舞い戻ろう。
碑の後ろ側は 海が広がっている。
一見すると穏やかで平和な海に見えるだろう。
しかし、政治的な事情を踏まえると、もうここから先はなかなかにハードな治安なエリアとなってしまうのだ。
波が打ち付ける岩礁。
その奥に広がる青い海。実はこの写真も、左奥をオリジナルサイズで見るとわかるのだが、 北方領土の建造物がちゃんと肉眼で見えているのだ。
僕のチープなコンパクトカメラではこれが限界だが、ちゃんとしたカメラを使えばボロッボロの灯台がはっきりと撮影できると思う。
貝殻島は満潮時にはほぼ水没する島。
老朽化してやや傾いた灯台だけが海上に突き出し、たまーにチカチカ点滅するのだ。
ホラーだ。
位置関係はこんな感じだ。
天気が良く空気の澄んだ日であれば、これらの島が目視できる。
車を飛ばせば3~4分の距離だ。
灯台も肉眼で見える距離だ。
日本の領土と言われている場所だ。
しかし、行くことはできないのだ。
ロシアの巡視艇もいたりして、突撃しようとすると国際問題になる。
これは「水晶島」だな。
見えているのに、手が届かない。
こう考えると、さっきの「返せ」と連呼したくなる気持ちもわかる。
ここから根室の市街地に行くよりも遥かに近い場所に見えているんだもんな。
僕は道民ではないので、ピンと来ない部分もあるのだろう。
例え真剣に考えたところで、どこか他人事になってしまっているのかもしれない。
しかし、この地に住む人にとっては、そうではないのだ。
北方領土が故郷の人もいるだろう。
親や祖父母が北方領土を故郷に持ち、「帰りたい」という思いを口にしている様子を見てきた人もいるだろう。
「故郷に帰りたい」っていうのは人間の本能に近い部分もあるかもしれない。
昨今のコロナウイルス流行で思うように実家に帰れない人の気持ちを、数100倍にしたかのような辛さなのかもしれない。
いろんな事情が渦巻いているのでなかなか簡単な問題ではないだろう。
しかし、どんなかたちであれ、この地の人の心の平穏を願わずにはいられない。
そしていつの日か、僕もこの先に浮かぶ島々を訪問できる日が来るのだろうか。
ひとまず、今行ける範囲はここまでだ。
再び愛車に乗り込み、半島を引き返す。
視界の隅に、祈りの火の揺らめきがチラリと見えた。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報