「3K」とは何か、あなたはパッと答えられるだろうか?
そう、「危険・きつい・汚い」である。
かつてよりかは随分と一般的となり社会的認知度が上がったとはいえ、車中泊に対する一般層からのイメージは、いまだにこの3Kを脱却しきれていないと僕は感じる。
…確かにそうなのかもしれない。
牛肉の美味しさを知っている我々が、あえてネズミの肉を食べようとしないのと同じだ。
空調設備のある部屋のフカフカの布団で寝られるあなたが、わざわざ車中泊をすることに意味を見いだせない気持ちもよくわかる。
しかしだ。
考えて見てほしい。
我々も小さい頃、秘密基地を作ったり、あるいは憧れたりしなかっただろうか?
それはなぜか。
自分自身の寝床の方が確実に3K要素が低いのに、なぜ人は秘密基地に憧れるのか。
…まぁアレだ。
それをここで書いてしまうと味気なくなるので、辞めておこう。
今回僕は、「道の駅 あそ望の郷くぎの」を絡めて車中泊体験談を書く。
それをもって、あなたなりにご判断いただければと思う。
今夜の寝床を求めて
新型コロナウイルスが蔓延する4ヶ月程前の、2019年秋のお話である。
僕は、九州一周車中泊の旅をしていた。
高千穂から阿蘇へと向かう峠道を走り、18:40に「高森峠」から見下ろした阿蘇のカルデラの夕焼けは、それこそ鳥肌が立つほどに美しかった。
こんな景色と偶然出会えるのも、旅の醍醐味である。
阿蘇のカルデラに降り立ったころには、もう周囲には夜の帳が下りていた。
峠からたったの10分であったが、秋の日没は早いのだ。
あても無い車中泊の旅において、日が暮れた後にやることは原則3つだ。
- 夕食
- 風呂
- 野営
まさに昭和時代の亭主関白な人間の発する、「メシ・フロ・ネル」そのものだ。
夕食は、適当にコンビニなどで買って、野営地で食べるなどの方法もある。
だが、かなり空腹だったし、せっかくだからご当地のものをお店で食べたいなって考えていた。
お店、見つけた。
ログハウス風の食事処で、阿蘇の赤牛のハンバーグを食べている。
牛をかたどった鉄板の上で、肉厚だけどもとても柔らかいハンバーグがジュージュー言っている。
すまないな、今だけなら僕は、全人類の中で一番幸せかもしれない。
ひとくちごとに溢れ出る肉汁と笑顔よ。
さて、日中は食事の時間すら最低限とし、ほとんど休むことなく観光を続けていた僕。
ハンバーグが出てくるまでの待ち時間は、ツーリングマップルを見ながらの今後のプランの考察タイムとして非常に貴重だ。
食べ終わった後のことをいろいろ考えていたのだ。
まずはお風呂だ。
ちょっと見てほしい。
明日の朝一は上の図の中央、阿蘇山の山岳地帯の絶景を走りたい。
だから今日の活動は中央のやや下くらいで終えられるとベストだ。
メッチャいい場所に「南阿蘇 久木野温泉 四季の森」っていう温泉がある。
最高だ。そこで風呂に入ろう。
次に野営地だが、見つからない。
僕の手持ちのツーリングマップルでこの付近を調べる限り、道の駅が無いのだ。
まぁなんとかなるだろう。
この付近には数多くの水源公園がある。
確かそのいくつかは駐車場を兼ね備えていたはずだ。最悪、そこで車中泊だ。
お風呂施設、四季の森を目指して走り始めた。
一応、車中泊に適した場所が無いかキョロキョロしながら走る。
しかしその心配は無用であった。
道の駅の看板を見つけたのだ。
しかもお風呂に向かう僕の進行方向を、道の駅の看板も示している。
なんだこのラッキーは!
「道の駅 あそ望の郷くぎの」だ。
入浴施設のメッチャ近くにある。1kmくらいの距離だ。
思わず「最高かよ!」と叫んだ。
これ、お風呂出て数分後には「すやぁ~」とできるじゃないか。
お恥ずかしながら、僕の所持していたツーリングマップルはだいぶ古い。
2015年に開設したというこの道の駅は、僕のツーリングマップルには掲載されていなかったのだ。
やはり持つべきものは、新しい情報だな。思い知った。
快適な車中泊スポットは重要だ。
あなたもツーリングマップルは、より新しいのを持っておくべきだ。
声高らかに、そう言いたい。
もう今夜の車中泊には困らないので、ドヤ顔でそう言いたい。
今夜のお風呂を求めて
まぁそれはさておき。お風呂入ろう。
道の駅あそ望の郷くぎのをチラリと確認した後、四季の森の前に到着した。
うん、なんだかヤベー暗さだよね、これ。
嫌な予感しかしない。
入口まで行ったけど、ドアが閉まっていた。いよいよヤバい。
目の前の施設である四季の森に電話をした。
録音音声で「本日休館日です」と言われた。
お風呂に入らず、1㎞先の道の駅で寝てしまうべきか。
いや、それは許されざる野蛮な行為である。
紳士の代名詞であるかのような存在の僕は、ちゃんと毎日お風呂に入って清潔を保つべきなのだ。
ほら、今日も日中暑くて結構汗かいたし。
四季の森の暗い駐車場でツーリングマップルを開き、片っ端からWeb調査&電話を架けて営業確認をする。
しかし、この付近の温泉施設は営業時間が終わっていたり、オーナー亡くなって閉鎖してしまったりと散々だ。
絶望の波が押し寄せる。
ようやく発見した。
10km離れたところに発見した。
「南阿蘇村役場 総合福祉温泉センター・ウィナス」。
僕は「よしっ!」って思った。
あと、「この辺の施設、全部名称が長ェ!」とも思った。
試しにウィナスに電話してみた。
「最終入場まであと30分、営業時間終了まであと1時間よ」と言われた。
人生ハードモードだ。
寝床はもう目と鼻の先なのに、短時間お風呂に入るためだけに往復20㎞。
楽しくなってきた。急ごう。
ここが僕の命の恩人、ウィナスさんだ。
既に時刻は20:20だ。閉館は21:00だ。
速攻で飛び込み、頭を体を洗う。湯舟にももちろん浸かる。
誠に失礼だが、どんなお風呂だったのかはあんまり記憶にない。
しかし、お風呂から出てきた僕の顔の爽やかさから、ウィナスさんへの感謝の気持ちはうかがい知れると思う。
再び、阿蘇山麓の真っ暗い道を運転し、道の駅あそ望の郷くぎのまで戻った。
高原にて安らかに眠れ
道の駅あそ望の郷くぎのだ。
もう後は寝るだけだ。
飯も食ったし、風呂も入った。完全にととのっている。
真っ暗で全然見えないが、高原にすごく広大な駐車場が広がっているっぽい。
施設の営業はもう終わっているが、内部にわずかに灯りがついている。
まだ従業員さんが後片付けとかしているのかもしれないね。
写真では明るく見えるかもしれないが、歩くのすら慎重になるほどに暗い。
上の写真で、ひときわ明るいのは月だからな。
どうやら駐車場には車が300台停まれるらしいが、たぶん今は5台もいない。
ガラッガラだ。
つまり寝るにはうってつけの環境ということだ。
では、寝る。
軽くお酒を飲んでも旅情を感じられていいのかもしれないが、少なくとも今夜は飲まない。
なぜなら、明日は日の出と同時に行動したいのだ。
朝日が出る瞬間から、阿蘇の絶景を堪能したいのだ。
ちなみにだが、道の駅で車中泊をしていいかどうかは、議論になることがある。
公式に「できる」と言っているところもあるし、「ご遠慮ください」と言っているところもある。
ここからは、大変に恐縮だが僕の持論だ。
道の駅は車中泊をするために存在している場所ではない。
仮に「車中泊をしていい場所である」とするなら、施設側にもなんらか最低限の管理責任が生じてしまう。
だからこそ、建前上は「車中泊のための場所ではない」と言うしかない。
仮に車中泊をするなら、施設側に迷惑をかけぬよう、ヒッソリとやるのがマナーだと考えている。
例を挙げると、路線バスの中は原則食事は禁止である。
ただ、人が少ない状態にときであれば、オヤツやおにぎり程度はいいかな…という意見が多い傾向と思う。
しかし、ギュウギュウに混んでいるバスで豚骨とかのカップ麺をすすっている人がいたら、もういろんな面でヤバい。
仮にそういう人が大量派生したら、バス会社は「車内での食事禁止」と張り紙やアナウンスをするしかない。
どこまでがOKで、どこまでがNGっていう線引きは難しいから、「食事は全部ダメ」って言うしかない。
もともと食事することを想定した運用ではないのだから。
車中泊も、それと一緒と考えている。
善意でやらせていただいている。
だからせめて極力静かにすごし、早朝には去る。
連泊などは間違ってもしないようにしている。
それでも反対意見はあるだろうが、感謝の気持ちだけは絶対に忘れない。
では、おやすみなさい…。
壮大な夜明けの到来
さぁ、今回の記事のメインだ。
朝の5:00、僕は起きる。
ほぼ真っ暗だ。
しかし山の稜線が仄かに明るい。
この時間から、徐々に朝になるのを見たかったのだ。
ふふ、楽しみ。
スマホから天気予報を見た。
まぁわかっていたことだが、今日は1日メチャメチャ快晴だ。
笑いが止まらない。
快晴の阿蘇を走るため、昨日はわざわざ九州の海岸線一周を途中で中断し、急遽内陸のここまで来たのだからな。
外に出てみた。かなりヒンヤリする。さすが阿蘇だ。
数日前に宮崎県で車中泊したときは「熱中症になりかねないな」って思うほどの暑さだったが、昨夜はとても快適に寝れたしな。
着替えたりトイレ行ったりしているうちに、みるみる空は明るくなる。
5:40でこんな感じだ。
「山が焼けている」みたいな感じだ。
遠くにキャンピングカーが1台だけいた。
車中泊仲間だ。
あっちの人は起きているのだろうか?
勝手にあっちの人と感動を分かち合った気分になった。
太陽が生まれるのは、あのあたりからだろうか?
目星をつけておく。
道の駅の24時間トイレの向こう側は、阿蘇の雄大な山々を一望するウッドデッキが広がっていた。
明るくなって初めて気付いた。最高のパノラマだ。
ボクシングのシャドーをしている人がいた。
99%、彼はボクサーではない。
僕に見られて少し恥ずかしそうであったが、僕は彼がシャドーをする気持ちがわかる。
男性はテンションが上がるとシャドーをする習性があるのだ。
ちなみに僕は、ここで歯磨きしたね。
最高じゃないか。
車中泊ならではのイベントだ。
ウッドデッキにて歯を磨き終え、愛車のもとに帰ろうとする頃には、もうかなり空は明るくなってきた。
あと、拡大しないと見えづらいと思うが、向こうの方に牛の親子のオブジェがいる。
これも明るくなって今気づいた。
さぁ、急ごう。
朝日が昇る前にやることがある。
僕はアルポットを使ってコーヒーを淹れる。
コーヒーを飲みながら朝日を迎えるのだ。
6:13、日の出。
ギリギリでコーヒーも間に合った!!
朝日にカンパイだ!
世界一おいしいコーヒーだ。車中泊して飲むコーヒーに勝るものはない。
ヤバいだろ、これ。
これからあの山を越えていくんだぜ。
今が人生のピークとしか思えない。
赤牛の親子のオブジェも、朝日を浴びてより赤く見える。
世界はキラキラだ。
残りのコーヒーを飲みほした。
行くぜ。愛車のパオ、エンジン点火。
最高の1日が始まる
6:28、僕は走り出した。
高原の空気は棲み、テンションはMAXであった。
自分自身の寝床の方が確実に3K要素が低いのに、なぜ人は秘密基地に憧れるのか。
- 自分だけの空間が欲しい
- 自分の手で、自分らしさを求めたい
- 不自由の中に創意工夫の楽しさを見出したい
- 外の環境をより身近に感じたい
- 非日常を求めたい
- 普段とは違うワクワクが欲しい
車中泊には、それが全部ある。
今回、寝る場所を見つけられなかったり、お風呂に困ったりした。
そんなのは全然いい。
数日経って振り返れば、むしろいい思い出だ。
「何かをがんばったこと」っていうのは、忘れられない思い出になるのだ。
家にいたら「どこで寝ようか?」とか「お風呂はどこだ?」ってならないでしょ?
そんないつもであれば当たり前の環境を、知らない土地で自分1人で見つけるのだ。
これをワクワクを言わずに何と言う?
そして、朝起きればスペシャルなご褒美だ。
まだホテルに泊まっている人は寝ているかもしれない。
そんな時間に僕はもう、走り出している。
1日がとても長い。
そして、今日どこで夕食を食べるか・どこでお風呂に入るか・どこで寝るか。
そんなことは全部決まっていない。
自由なのだ。
九州一周をする人はたくさんいるだろう。
阿蘇を走る人もたくさにるだろう。
だけどもこの物語は、あなたが主人公であり、あなた1人だけのものなのだ。
僕は愛車日産パオのアクセルを踏んだ。
行こう、阿蘇へ。
最高の1日へ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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