世界的に有名な巨大活火山、阿蘇山。その火口である「阿蘇中岳火口」は見学できるのだ。
ただ、それにはなかなかに運がつきものだ。地球のゴキゲンを窺わねばならない。
噴火警戒レベルが「1」のときにはアプローチできるが、「2」以上になると周辺含めて立入禁止。しかも相当頻繁にレベル「2」以上になってしまうのだ。
行った方ならご存じと思うが、火口付近はものものしい警戒でスタッフが常に状況を確認しており、観光客は緊張感をもって火口見学する。
ひとたび噴火したら、迅速かつ的確に行動しないとマジに命に係わるもんな。そういう世界なのだ。
大好きで日本1周目から何度も何度も訪問している阿蘇エリアであるが、阿蘇中岳火口に行けたのは2回のみである。たぶんアプローチ率20%くらい。
今回は、そんな貴重な火口リポートをするぞ。
日本3周目、真冬の火口
僕は4回目の阿蘇を訪問していた。今回初めて火口アプローチをするつもりだ。
今までの3回は時間が遅すぎたり、なぜか火口周りだけ雲がかかっていたりと不運続きで、今回が初めてとなったのだ。
今日の天気は最高だ。そして「草千里」から火口を目視をする限りでは、今日の火口のコンディションはバッチリ。落ち着いていて大丈夫そうな気配だ。
では、避難指示が出ないうちに突っ込んでいきますか。
火口へと続く阿蘇山公園道路の入口にて、料金所のおじさんが僕の愛車のナンバーを見てビビる。遥か東の果ての地から来ているからな。
さらにはその車のカンドシートのモリモリした羽毛布団を見て驚く。冬の車中泊旅ですもん、羽毛最強伝説よ。
おじさん:「そんなところからから車中泊しながら来ているの!?」
YAMA:「そうなんです。まだ九州上陸2日目なんですけど、これからいろいろ巡ります!」
おじさん:「そっか。経済的で賢いね。九州はいい温泉がいっぱいあるから、温泉はたくさん立ち寄って行ってね。」
YAMA:「もっちろん、そのつもりです!」
おじさん:「ところで肺や心臓は悪くない?この先は有害ガスが出ているから悪いところはある人は入れないんだよ。」
YAMA:「僕は健康体だから問題ないです!」
550円を払って火口に向かう。
まるで火星のようだろ?これは帰路で撮影したものなのだが、こういう荒涼としてゴツゴツの赤い溶岩がむき出しの地の果てに火口があるのだよ。別世界。
前方で噴煙を上げる火口がどんどん近づいてくる。
ドキドキするぜ。改めて阿蘇山が活火山であることを実感できる。ホントに山って、いや、地球って生きているんだなぁ…。
阿蘇山ロープウェーだ!荒野の上を飛んでいる!
このロープウェイなのだが、2024年現在は存在しない。かつては車でない人が火口に近づくために利用していた、世界初の活火山ロープウェイだ。
1958年創業というなかなか古い歴史を持つが、阿蘇山の噴火の爆風とかでたびたび深刻な被害を受けてきた。決定的だったのが2016年の熊本地震と噴火で、当面の運行中止を余儀なくされた。
その後も「2020年には再開するぞ!」とかなり本格的なリニューアル策が走り出していたのだが、「でも永らく噴火活動で工事できない状態だし、大きな噴火が生じたらまたダメージがデカいしねぇ…」ってことで完全に廃業となったのだ。
阿蘇山火口の駐車場に到着した。
すごい人数の監視員がいる。敷地全体に響き渡るアナウンスに加え、個々の監視員が自身の拡声器でひっきりなしに危険性を訴えている。
「心肺機能の弱い方の火口見学は禁止します」・「有毒なので、なるべく早く観光してください!」…と、そんなことを言っている。場所がら韓国人と思われる人々も多く、アナウンスも韓国語バージョンがあった。
緊張感の中、火口の遊歩道を歩いて見学。
…なんだ、このスケールのデカさは!!上の写真はへたくそなパノラマ写真で恐縮だが、火口の圧倒的エネルギーを感じた。
再度、僕のチグハグなパノラマ写真を見ておくれ。恥ずかしいから裸眼か薄目で見ておくれ。
とにかくカメラでは捕らえきれないほど大きな火口なのだ。その迫力が1ミリでも伝わると嬉しい。現場はこれに加え、火山ガスのちょっとツンとする空気が流れている。不穏な雰囲気だ。
チラリと見えている青い火口の湖が、美しいがゆえの恐怖を感じさせる。
ウロウロしながら何枚も写真を撮りつつ展望スペースの端のほうまで行っていると、警備員のスピーカーに呼び止められた。
「そこの人ー!!そっちのほうにガスが流れていってます!至急こっちに戻ってきてください!」
アワワ…!!そうなの!?素人目にはガスの流れがよくわからないんだけど、危険だと言われたからには早速戻りましょう。死にたくない。
呼んでくれた警備員とちょっと話してみた。
YAMA:「やっぱ頻繁にここまでガスが来ちゃうんですか?」
警備員:「そりゃもうしょっちゅう規制がかかっちゃうよぉ!今日だってこれからどうなるか わからないですよぉ!」
YAMA:「へぇー、じゃあここに来れたってことは運がいいんですね。僕も今回4回目でようやくここに立てましたから。」
警備員:「なっ…、そりゃご苦労様です。今日は来れて良かったですね。」
YAMA:「うん。でも長時間ここにいるのでさえ危険だなんてビックリで…。…ん?ゲホゲホッ…!」
警備員:「大丈夫ですか?ガスを吸い込みましたか!?」
YAMA:「あ…いや、大丈夫です。ゲホゲホ。」
そういえば僕って、小児喘息を患っていた時期があったっけ?人よりも心肺機能が弱いかもしれない。
なんだか高山病のように呼吸がしづらくなったので、そろそろ退散しよう。
日本4~6周目、不発続きの時代
あのときの感動をまた味わいたくって、その後も僕は火口アプローチにチャレンジした。しかしなかなかあの火口に近づけない日々が続いた。
これは日本5周目のときのものだ。通算6回目の阿蘇エリアドライブであった。写真の下部に愛車のHUMMER_H3の鼻先が見えている。
ここは阿蘇山公園道路の入口部分なのだが、通行止の看板が設置されていた。『阿蘇山噴火のため噴石の恐れあり』と書かれている。今は噴火が活発な時期なのだ。残念だけどキケンなのだからしょうがない。
ちなみにこの数ヶ月後に比較的大きな噴火が発生して結構なニュースになったりもしたのだ。
草千里から火口を遠望する。
この日は朝から快晴でとんでもなく素敵な阿蘇ドライブを楽しんでたし風もなく穏やかだったのだが、火口だけ明らかに穏やかでない感じになっている。なんか1人で荒れ狂っている。
ちょいとズームしてみようか。
あれは噴煙か、それとも熱湯か…。どちらにしても地獄の1丁目だな。何かあったらここですら危ないであろう。阿蘇は危険と隣り合わせの世界よ…。
そして日本6周目のことである。
あぁわかっている、わかってるっつーの。
もう遥か彼方まで流れる噴煙。雲1つない快晴の空なのに、朝日を噴煙がジャマしてくれている。どんだけ存在をアピールしているんだ、阿蘇山の火口は。
こんなんじゃあ火口まで行けるはずがないよね。それでも一応見に行くけどね。
ほらね。阿蘇山、大変元気でいらっしゃるってよ。
阿蘇山公園道路には入れなかったのだ。最近ずっとこんな塩梅だそうだ。
こんなに晴れているのにね。
これは阿蘇警察署の阿蘇山上警備派出所だ。阿蘇山公園道路の入口駐車場脇にある。噴火とかしたらここの人たちが動き出すのかな?
町中の警察署は悪い人と闘うけど、ここの警察署は火山と闘うのだね。独特のノウハウが必要そうだ。
立入禁止ゲートから火口を見上げる。もうモックモクですんごいことになっているね。太陽を飲み込んでる。
火山性の有毒ガスなのだろう。あの煙を少し吸い込んだら、僕はゲホゲホ咳が止まらなくなるかもしれない。
阿蘇の魅力は火口だけではない。いや、むしろ火口なんてほんの一部だ。それだけ阿蘇は雄大なのだ。
…だけども少し残念だな。また次、日本7周目に期待をしよう…。
日本7周目、久々の火口へ
火山ガスの道を行く
僕は約束を果たしに阿蘇にやってきた。
2021年から2022年にかけては、1年間も火口見学ができない時期があったりしたのだが、今(2023年秋)は比較的穏やかだそうなのだ。
外輪山を駆け下りてカルデラ内に突入する。
まだ朝早いのでカルデラ内は雲が溜まっている。さっき上から眺めたら綺麗な雲海になっていたよ。さて…では火口付近はどうなっているかな…。
曇りと晴れの境界線を一体り来たりしながら、カルデラ中央の中岳を登り始める。こういう世界、僕は好きだよ。
こうして草千里を通り過ぎ、阿蘇山公園道路の入口にやってきた。どうだ!?開いているか!??
やった!入れそうだ!
左手の看板を見てくれ。「一部開放」となっている。「全面開放」に対し何が違うのかわからないが、ひとまずゲートはくぐれそうでよかった。
そして「全面規制」と「立入禁止」の違いもわからないが、今回の僕はそういうネガティブな事象には縁がないので見なかったことにする。
火山ガス 危険 火山ガス
もう「どんなアホでもこんだけデカデカと書きゃあわかるだろ」って感じのヤケクソな看板が続く。ふふふ、盛り上がってまいりましたよ。
料金は普通車800円・軽自動車600円・二輪車200円。火口見学代も兼ねていると考えれば高くはない金額だ。
火星のような大地よ、再び。日本でここまで火星レベルの高いスポットは、他に福島県の「磐梯吾妻スカイライン」くらいしか知らない。
残念ながら雲だらけだけど、こういう世紀末な雰囲気も似合うんじゃないかな。こうして火口駐車場へとやってきた。
あぁ、懐かしいなぁ。いや、懐かしすぎて「こんなだったっけ?」って思っている自分もいるな。
あと、駐車場に僕の車1台しかいないように見えるだろうけど、実は駐車場はかなり広くってそして他に車もバイクもそれなりにいたよ。
駐車場の脇にあるこの施設は、「阿蘇山火口避難休憩所」。2023年8月に完成したばかりの施設であり、僕はまだそれから1か月ほどしか経過していないピカピカの様子を見ることができた。
実はこれ、かつてのロープウェイの火口駅だよ。
その名の通り、避難所を兼ねている。もし阿蘇山が噴火したらみんなでここに身を寄せるのだ。火山ガスが蔓延しても大丈夫な換気システムだし、50cmの噴石が飛んできても防御できるのだそうだよ。
そんなせっかくの阿蘇山火口避難休憩所だが、あんまり見るべきポイントがなくって、僕はただトイレを借りただけで終わった。写真も撮らなかった。上の写真は休憩所と屋外を繋ぐ部分にあった待避所を兼ねたトンネルだ。
では、火口見学に乗り出そう。
巨大火口を覗き込む
警告アナウンスが常に流れる火口遊歩道を歩き始めた。
火山ガスの濃度を常に計測しており、それに応じたランプが光るようになっている。もし赤ランプだと大変危険な状態であり、全員即時退避だ。今は青で安全らしい。
看板の一番下には『喘息の方は火山見学を禁止します』って書かれている。おぅ…、喘息持ちの人、完治するまで火口は見られないから注意した方がいいぜ。
遊歩道はゾーンごとに名称があり、B-1・B-2・C・D・Eゾーンとなっている。
Aゾーンは無いのか…。火口がAゾーンなのかな??
そいてB-1ゾーンは2023年である今年に、2016年の噴火以来の7年ぶりに行けるようになったゾーン。Eゾーンは僕の訪れる1ヶ月前、2023年8月にできた新ゾーンで、噴火によりB-1・2に立ち入りできなくなってしまったときだけに開く臨時ゾーンだ。
遊牧民の住居みたいにも見えるが、退避壕だ。万が一の時には噴石から身を守るためにここに飛び込むのだ。こんな退避壕が各所にある。
繁忙期のツアー客とか、全員逃げ込めるだけのキャパシティあるのかな?
遊歩道以外には当然立入禁止だ。命にかかわる。
あ、小さなお社がある。「山上身代不動」というらしい。おみくじも100円で売られているぞ。こんなところでもたくましく商売やっていてスゲーぜ。
このお社の先が、初めて中岳火口を本格的に見下ろせるポイントだ。ワクワクしながら見下ろす。
おぉーー!!すごいダイナミック!!
…いや、でもこんなだったっけ?昔見たときはもっと魂が震えるような気持ちになったんだけどな。年老いて感受性が鈍くなったのかな?そう思って僕は首を傾げた。
天気がイマイチなのも要因なのかなぁ…。
現場のYAMAさんはその違和感の原因を掴み切れずに、もわもわと形を変えていく噴煙をボケッと眺めていたんだけどさ、画面の前のあなたには後日僕が知った答えを教えちゃう。
原因は火口湖だ。
最初の章の写真を思い出してほしい。火口の中にはコバルトブルーのお湯が溜まり、もうもうと煙を上げていた。それが今は無いんだ。
いや、正確には深部にほんのちょっとだけあって、煙が一瞬風で流されたタイミングとかでチラッと見えるんだけど、その程度なのだ。
あ、遊歩道の後半まで足を踏み入れたタイミングでいきなり空が晴れたので、喜び勇んでまた火口に戻りつつ続きの説明をするね。
いやぁ、晴れてラッキーだったな。日がしっかりと昇ってきて気温が上がったから雲が晴れたんだな。
はい、これが初回時に僕が見たのと同じアングルだと思う。
2016年の噴火以来、7年ぶりに開通したゾーンからの眺めだ。まずはステキ。やっぱこの阿蘇のスケールは最高だわ。
しかし火口湖がない。
なぜかというと、2019年に細かい噴火が連続して起きた際に、火口湖の底が抜けたのではないかと言われているのだ。なのでお湯があんまり溜まらないのだ。スケールの大きい事故だ。
一瞬だけ噴煙が流れた。ドロドロしたものが火口内に溜まっているのが見えた。あと、黄色い硫黄泉分がこびりついているのも見えた。
かつての火口湖ではないが、充分に火山の力は窺えた。
ここから先の遊歩道は、全部2023年8月に再開した7年ぶりゾーン。
さっきの巨大な火口は見えないが、その代わり小さな火口をいくつも見ることができる。さっきの巨大火口を第1火口といい、その他を第2~火口って感じにネーミングされている。
ただし、第2火口以降はあまりきれいに円形にはなっておらず、噴煙も上がっていないのでどこがどこだかよくわからない。
上の写真はたぶん第2火口だと思うのだが、第1火口と対比すると正直見劣りしてしまうな…。
だから僕は、残りの行程は「火口を見る」のではなく「火山が生んだ地形を堪能する」という気持ちで歩いた。そうすればなかなかに楽しい。
こうして駐車場に戻り、少しずつ晴れ行く草千里側の景色を眺めた。
写真の中央から向こうが草千里だ。今まで何度もあっちからこっちを眺め、「あぁ、今回もアプローチできないのか…」と下唇を噛んでいたのだな。今回久々に来れたぞ、僕は。
昔と少し景観も違ってしまっていたけど、それも地球が生きている証なのかな?
初回の感動に思いを馳せつつも、また未来のどこかでここに来れることを夢見ている。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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