秋田県の山奥にすんごい滝があるという。
なんと名瀑ばかりが名を連ねる「日本の滝百選」で第2位に選ばれているのだそうだ。誰がいつどう選んで2位なのかは調べてもわからなかったが、2位はすごい。その滝の名は「安(やす)の滝」というそうだ。
ちなみに1位は富山県の「称名滝」だそうで、それはもう納得感しかない。だけども安の滝も滝マニアの中では「この滝が最強だろ…!」みたいに言われているそうなのだ。
芸術に点数や順位をつけるのって難しいよね。僕もよくわからないけども、とりあえずこの目で見たくって安の滝を訪問したのさ。
結果、すごく良かったぞ…!
明確な順位はつけられないが、僕が見てきた数々の滝の中でTOP5には入るんじゃないかと思う。
では、今回はそんな安の滝を攻略した日本6周目序盤の夏の話をしようか。もう夏前からずーっと暑いもんな。清涼感のある景勝地の話をしなくっちゃ。
マタギの里には木彫りじいちゃんがいた
まずはな、この安の滝の場所を確認してくれ。
ヤベーぞ、周囲に緑しかねぇ。野性味あふれる立地だ。しかしだからこそ、その自然に貌まれた景観が僕らに癒しを与えてくれるってことだ。到達した際のカタルシスは甚大なものに違いないぞ。
安の滝の東側には国道341号があり位置的にはこっちの方が近く見えるが、西側の国道105号からのアプローチとなる。東側からだと山脈が立ちはだかっており車道なんて無いので無理。
国道105号、快晴の夏の日にドライブすると最高なのだ。信号もないし交通量も少ないし道はストレートが多いし、空気は澄んで緑は綺麗。まるで北海道のようだろ?
この道をドライブするのが昔から好きなのだよ、僕は。
そうそう、このタイミングで行っておくけどな、安の滝攻略には十分な時間を確保してから行くと良いよ。
山奥のドン詰まりに存在するから、このあと登場する「道の駅あに」を拠点として往復で半日くらい見ておくといい。もし沿岸部の秋田市などを拠点とするならば丸1日くらい確保がオススメだ。そのくらいに山奥なのだ。
で、その道の駅あにである。山深いここはマタギという猟師さんが古くからいる地。
このすぐ近くから国道を反れてゴチゴチの山道に入っていくので、この道の駅で往復共に休憩しておくことを強く推奨する。
ここでは前回となる日本5周目に、木彫りのじいちゃんと話し込んだ場所だな。
施設内のホールの片隅で営業していた木彫りのじいちゃんは、東北にやたら詳しかった。男鹿半島の何がうまいだとかのマイナー情報やか、十文字ラーメンの情報だとか、「白神山地」のどこそこがいいだの、「尻屋崎」の景観が最高だの、津軽がどーのこーの。
僕もそれらの情報は全部わかり、むしろじいちゃんより詳しいくらいなのでうまく返答していたら「キミは相当に物を知っていなぁ!そして、旅の魅力も危険性も熟知している!キミは物事を理解している!そんな人間、滅多にいない!」とか言われ、40分くらい話し込んだんだったよな。
そのとき同行していた妻には「安心してに彼に着いていきなさい。彼といれば絶対に間違いはないから。」って言っていた。…そうなの?全国をプラプラしているだけで、人生を任せられる器って言えるの?まぁいいけど。
それと、「ここからずーっと山奥に安の滝がある。だけども今は行くなよ。春の間は雪が残る。先日も女子のライダー3人組に忠告したのに…」みたいな怖い話もしてきた。
あと、このときじいちゃんは40分で木工細工をカンナで2・3往復させただけだけど、そんなペースで大丈夫なのかなって心配になった。随分仕事の手を止めちゃった。
…ずいぶん余談が長くなっちゃったけど、そんな思い出を持つ道の駅だ。
あのときは忠告通り安の滝には行かなかった。こうして少し年月の流れた今回、日本6周目の夏に来た。
看板の最下部を見てくれ。道の駅のすぐ脇から県道308号でまずは18km走るぞ。
では山奥へGO!!
未舗装路の上に狭路が18km続く…!
県道308号、それは安の滝に行くためだけに存在する道路だ。…と言ったら怒られるかもしれないけど。「阿仁マタギ駅」もあるし「くまくま園」もあるからね。
でも、ワイルドな道なのだ。普通の人なら「この道を突き進んで大丈夫なのかな?」って思うレベルだ。僕も夜だったらこんな道、あんまり走りたくない。対向車ゼロだからいいけど、ガンガン来たら肝を冷やしそうだし。
こんな道を18kmだ。メンタルしっかり保てよ。だから道の駅でしっかり事前休憩を取っておけと言ったのだ。
左の標柱に『安の滝入口 5.0km』と書かれている。
ここが1つの世界の分かれ目だ。前方の道を見ていただきたいのだが、道路の舗装が無くなるのだ。つまりはこの先はダートだ。気合入れていくぜ。
わぁ、狭い狭い!ここいらになるともう県道308号も終点を過ぎているのだろうな。県道の延長線上だから道に迷うことは無いけれども。
現状のGoogleマップを見ても車道すら存在しないが、「打当川」沿いの道だ。信じて突き進め。
うぉぉ、夏草夏草!!草がすげぇ元気。砂利の粒も大きくなってきて、車体がハデにガタガタ揺れる。
まだか。駐車場はまだか。未舗装路の走行経験のある方は同意いただけると思うが、5kmって相当長く感じるんだよね…。
突き当りの駐車場に到着する5分ほど前なんだけど、目の前に一筋の水流が見えたので車を停めた。赤丸の部分だ。おぉ、あれはまさか…!!
ちょっとズームしてみるぞ…!!
うおぉぉ、見えた!!あれが安の滝!!
僕はこの後あそこまで行くのだ。結構高低差もありそうだな。だけどもゴールが見えたことで俄然やる気がわいてきた。待ってろ滝ッ!
こうして道の終点にある駐車場に到着した。道の駅からの18kmにかかった時間は40分であった。平均時速30km弱ってところか。うん、そんなもんだよね。
駐車場には先客の車が2台停まっていた。
ここには綺麗なトイレもある。ありがたいね。
で、看板を見ていただきたいのだが、安の滝まではここから山道を徒歩で45分だ。つまりは道の駅を拠点と考えると「車40分+徒歩45分=85分」。往復で2倍して170分であり、仮に滝を30分眺めたら200分(3.3時間)だ。
実際は、下山スピードは行きに比べて早くなるだろうけども、さっき「道の駅から滝までの往復で半日ほど」って書いた理由がこれでわかったよね。
僕がこの駐車場に到着したのは11:50。そこから5分で身支度をした。
じゃ、行くか!
完全無欠と呼ばれる滝を目指して登山
清流のせせらぎを聞き森林浴をしながら
まずは駐車場にあったMAPを掲載しておこう。
中ノ又渓谷最奥部を行くルート。うーん、でもシンプルすぎてよくわからん。とりあえず川沿いにまっ直ぐに突き進めっていうメッセージはしかと受け止めた。
あと、クマ出没注意の看板もあった。秋田県の山って結構クマいるよね。だからこそマタギもいるって感じだよね。クマ怖いが、1人で騒ぎながら行こう。ここに人間がいるとアピールしながら歩こう。
11:55、歩行開始。
すぐに深い森の中へといざなわれた。風で木々の揺れる音が心地よい。心身がデトックスされるのを感じる道だ。あまり高低差も無いのでサクサク進む。
11:58、歩き出して3分ほどで少し視界が開けて綺麗な沢が姿を現した。
森の中の清流、爽やかでいいなぁ…。どうよ、この青空と濃い緑、そして川の流れ。人生にはこういうのを眺める時間が必要だったのだと痛感する。
12:05、川のすぐ脇を歩いてくルートとなった。手の届くところに清流がある。まだ高低差はあまりなくって鼻歌を歌いながら行けるレベルだ。川のせせらぎが耳に心地よい。
これは同じエリアを帰り道に撮影したものだ。
やや劣化しているものの、ちゃんとアスファルトで固めてくれているのもありがたいよね。もちろん登山靴が望ましいが、雨あがりとかでない限りはスニーカーでも行ける工程だ。
12:08、つまりは歩き始めて13分で、安の滝まで800mとの標柱が出てきた。
どうやら駐車場から滝までの距離は2kmだそうなので、すでに半分以上の距離を稼いだっぽい。
12:13、安の滝まで400mの看板を過ぎて少し階段を登っていると、茂みの向こうに安の滝が見えてきた。安の滝って2段に分かれている滝なんだけど、あれは上段の方だな。写真ではわかりづらいが、そこそこ見上げるようなアングルだ。
そこから階段が続くが、整備されていて歩きやすいし、ヘロヘロになるようなレベルでもない。程よい疲れと共に、僕は安の滝の目の前へと到着した。
そして辿り着いた、念願の安の滝
12:21、安の滝に到着。歩行時間は26分だった。
2kmの道のりって、平坦な道を普通の人が歩いても30分ほどだという。山道にもかかわらず26分で辿り着いたのは、それだけ僕のペースが早かったってことだな。だから歩きなれていな人はあまり参考にしない方がいいかも。
僕は山歩きが結構早いのだ。慣れてないけど、普通の人のタイムの倍くらいなことも結構あるくらいなのだ。
そんな御託はさておき、これが安の滝だ!
落差は90mあり、上段の滝が60m・下段の滝が30mだ。遥かに見上げる高さから落ちて来る真夏の水流。なんだこれ。本当にすごいぞ。泣きそうだぞ。今まで数々の滝を眺めてきた僕だが、この滝には心底震えた。
先ほどは滝に近づいて滝壺まで見える構図で撮影したが、少し引くとこんな感じである。
階段を登った丘は少し開けてベンチもあり、そこから滝全体を臨むことができるのだ。引きで見ることにより、上段の滝がかなり見えるようになっているよね。
昔、ある人に聞いたことがある。
安の滝がなぜ素晴らしいか。それは、豪快さと繊細さ・静と動・剛と柔などの対極する特徴を同時に兼ね備えているという特異な滝だから、だと。
そう言われるとすごく納得する。力強くて美しいよ、この滝は…。神懸かり的にカンペキすぎるステータスだよ…。当時の手記に僕は『この人生でこの滝を見れて、本当に良かった。』とまで書いている。
だかしかし!僕は飛び跳ねて喜んでいたが、1つ大きな宿題を生んでしまった。2025年現在も、僕はすごく後悔をしている。
それは何かというと、上段の滝の滝壺に行かなかったということだ。下段の滝の目の前まで入ったが、まだ続きの道があるのだ。あと15分登ることで、上段と下段の滝の中間地点まで行くことができたのだ。
すごく華麗な雰囲気の上段の滝。ストレートに力強い下段の滝に比べ、真に芸術点の高いのは上段の滝であろう。もう少し上れば、この上段の滝の全容がしっかりと眺められたのに…!
なぜ登らなかったのか、正直思い出すことができない。
僕は常人の3倍くらいのスケジュールでドライブをするので、この日も「八幡平」を走りつくしてここまで来たり、このあと男鹿半島を一周してさらに日本海側を南下したりと、たった1日でアホみたいに20箇所くらいを観光している。だから時間が惜しかったのか?
いや、違う。念願の安の滝だもん。またいつ来れるか分からないから、片道15分くらい突っ走ったはずだ。
では上段の滝の前まで行けることを知らなかったのか?その可能性もあったかと思うが、上の写真の通り道半ばまでどうやら歩いて写真を撮ったようなのだ。
うーむ、ドライブの情報量が多すぎて記憶がうやむやだ。
…考えたところで答えは出ないし、出たからといってどうにもできない。事実として上段の滝の前までは行っていないんだから。
それはそれでいい。いつかの次回への宿題だ。またいつか安の滝に行こう。そのときは、絶景だという紅葉の時期がいいかもな。
雪のために5月末から11月中旬までという、1年の半分以下の期間しか到達できない絶景の滝。また会えることを楽しみにしている。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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