山手線の駅もある、大都会恵比寿。
その駅のすぐ近くに、かつて「あそびば20」という日本一小さいと言われたゲームセンターがあったのだ。オーナーのおじいさんが自宅の一部を改装して作った、数10年の歴史のあるゲームセンター。
昭和時代のレトロなゲーム機が多数設置されていたのだよ。

2012年~2015年ごろにWeb等でもちょこっと話題になったりしたのだが、その後訪問した人の話はほとんど聞かない。オーナーのおじいさんはその当時で90歳近かったので、その後に引退されてしまったものと思われる。
僕はそのお店の長い長い営業の歴史の中での最終盤にあたる2015年の年末にここを訪れている。
そのときの思い出と、ふとそれを思い出してお店の跡地を再訪した、今から1年前の2023年12月のお話をしようと思う。
2015年の年末の訪問
あそびば20と出会う
東京恵比寿。もう年末だというのに、まだ町には黄色いイチョウの木が多数残っており、南関東が温暖であることを窺わせていた。
僕は友人らと3名であそびば20を目指す。

目的地のあそびば20は住宅地にあると聞いているので、恵比寿駅近辺のコインパーキングに車を停めて、あとは歩いていくこととする。距離的には300mほどだろうから、充分に歩ける範囲なのだ。

あった、ここだ。山手線の線路沿いの静かな住宅地に目指すスポットが潜んでいた。
とてもレトロで小さなゲームセンターだ。
外観の全体を写真に撮っていなくってわかりづらいかと思うが、普通の一軒家の倉庫を改装したゲームセンター。上の写真の右から左までが、ゲームセンターの建物の幅と一緒なのだ。
ちなみに最終章での訪問時に周辺風景や建物の全容をご紹介するので、この章では2015年当時に撮影した写真のみをご紹介することをご容赦願いたい。

まずは屋外、ドアの左右に狛犬みたいな配置で置いてある2台をご紹介しよう。向かって左がフィーバー・チャンス、右が新幹線ゲームだ。
フィーバー・チャンスは1983年にカプコンが開発したものなのだそうだ。僕が小さい頃遊んでいたショッピングセンターのゲームエリアにもあった記憶。絵づらのインパクトが強烈だったので覚えている。
でも、遊び方わからなくて難しそうなのでまだガキだった僕はほとんどやったことなかったんだよな。で、今見ても遊び方が不明。なので遊ぶのは辞めておこう。

新幹線ゲーム、聞いたことはあるけど初めて見た。電気を使わない完全アナログなゲーム機なんだね。
10円を投入したら、それが玉代わり。レバーを操作して穴に落ちないように強弱を付けながら10円玉を弾き、ゴールを目指すゲームだそうだ。
ゲームが進むにつれて「東京→新横浜→名古屋→京都…」のように移り変わり、博多まで行くので新幹線ゲームと名付けられているのだね。
何度かやってみた。序盤は極端に強くか極端に弱くレバーを弾けば穴に落下しないけど、そのうちビミョーな強さじゃないとゲームオーバーとなるゾーンが出てきて苦戦。
結果クリアは出来まかった。でも、子供がなんとなくズルズルと小銭を消費してしまうであろう吸引力は理解できた。
店内はほぼ動けない
そして店内に入る。…あ、店内はとても狭いので全容を把握できるような写真がなく、すまない。

中は薄暗くって、ドアを開けるのに少々勇気が必要であった。中には80代後半のオーナーのおじいさんが1人いて、ゲームに興じていた。パズルボブルやってた。声を掛け、僕らも遊ばせてもらうこととした。
さらに店内、ゲーム機やジャンク系の機械類だとかダンボールだとかが山積みになっていて、人間の存在できるスペースがとても狭い。4人か5人入ったら、身動きできないだろう。まぁそもそも内部にゲーム機の種類自体が4・5くらいしかないから、そこまでギュウギュウになることもないのかもしれないけど。
それと、機械類の修理などの使用しているであろう工具類と備品がそこかしこに置いてあった。

内部のスペースの大半を占めるのは、2つあるジュークボックス。超重厚感ある昭和のBGMが流れている。
今かかっている曲はオーナーさんが既にチョイスしていたのかな?数10円を入れると自分で選曲できるそうだ。

経年でちょっと茶色になった手描きの曲名リストが味わい深い。
これを眺めながら音楽を聴いているだけでも、楽しい空間じゃないか。狭いけど。身動き取れないけど。

スーパースコープは1回50円。景品のカプセルを乗せた円形のプレートがクルクル回っている。
手元のボタンを1回押すと、円形のプレートの中心に垂直に立てられた棒が1回だけ、ボードの外側に向かって動く。そのときにうまくカプセルが棒に押し出されてプレートの外に落ちたら、それが取り出し口からゲットできる仕組みのようだ。
1回やってみた。ダメだった。ゲットできるビジョンも浮かばなかった。これ、難しくない?無理じゃない?

上の写真が、スーパースコープの景品だ。筒状のカプセルに入っている。
それを、例えば箸1本を使って、その箸を絶対に寝かせたりせずに垂直に立てたまま、このカプセルを20㎝移動させるとしたらかなり大変だと思う。円形の筒だとツルッと力が逃げちゃうからね。
だけどもこのゲームではそれと同じ原理であり、しかも筒は床と一緒に動くし、箸は決められた速度で決められたルートしか移動できない。そういうゲームなので激ムズなのだ。

難易度が原因なのか、はたまたゲームが魅力的じゃないのが原因なのかわからないけど、景品はどれも数10年前のものと思われるレトロなもので経年劣化もなかなか。入れてあるビニールパッケージとか、もうくすんでいる。
まぁでもそれもレトロゲームの醍醐味かもな。

あっちむいてホイ、知ってるぅーー!!これも小さい頃近所にあったショッピングセンターにあったわー!懐かしい!
小さい頃、ウチはゲーム機の所持がが禁止されていた。周囲みんながゲームの話題で盛り上がっている中、僕は全然その輪に入ることができなかった。
だが、なけなしの数10円のお小遣いでメダルゲームをやったよな。弟や妹と、このゲームもやったよな。

「じゃんけん…!」の掛け声に合わせてグー・チョキ・パーのいずれかのボタンを押す。勝てたらあっちむいてホイで、レバーを左右いずれかの方向に倒す。それだけ。
たったそれだけ、10秒もない時間なのに当時何度もやったんだよな。
そのときの感覚を懐かしみながら10円を投入する。数回やってみた。別にゲームとしては面白くはないが、遠い記憶がよみがえって来たよ。
おじいさんの夢の空間
そのおじいさん「荒巻徳蔵さん」は、戦時中は軍のメカニックであり、戦後もエンジニアの道を歩んだそうだ。特にジュークボックスに強い思い入れがあったらしい。
1970年ごろ、自宅の1階を工場のようにしてジュークボックスやピンボールのメンテナンスなどをやる事業を開始したそうだ。
だけども1980年半ばごろ、時代の流れがジュークボックスからゲーム機に移ってきたことに伴い、その工場をミニゲームセンターとして地域に開放した。それがこのあそびば20の原点だ。

1980年代は近所の子供たちがこぞってここに訪れ、そして2000年代に入るとその子供たちも遊びに来るようになったんだって。
10円~100円あればなんらかのゲームで遊べる。当時の駄菓子屋の延長みたいな感覚でみんな来たのだろうな。

ただ、やっぱゲームがどれもレトロなこともあり、2010年近辺は子供というよりかはマニアックな大人が興味を示すレトロスポットとなった。
YouTubeも台頭し始めてきたから、珍しいものや懐かしいものが好きな大人が好むスポットとなったようだ。ま、僕もそういう類の人間なのだろうな。

前述の通り僕がここを訪れたのは2015年の年末なのであるが、2016年以降はここを訪れた人の話はほとんど聞かない。
かろうじて2017年に訪問した人の記録を1つだけ見つけたことがあるが、そのときはおじいさんも90歳ほどになり、営業もかなり不安定になっていたようだ。
それでもジュークボックスを愛し、音楽を聴きながら作業をしていたそうだね。
何10年も昔から、おじいさんの夢を実現させてきた小さな空間。
既に廃業してしまっているが、今はどうなっているのだろうか…。そう考えて久々に恵比寿の住宅地に向かったのは、2023年の暮れのことであった。
2023年の年末の再訪
恵比寿の町の街灯は、エビスビールのジョッキのかたちなんだぜ。あぁ、ビール飲みてぇなぁ…。

そんなことを考えながら恵比寿の町を軽く歩き回っていた。
さて、あなたは「恵比寿ガーデンプレイス」を知っているかな?
オシャレなカフェやショップ、ホテルや美術館やシネマも入っている複合施設だ。意識高い系の男女の社交場って感じでさ、僕みたいに地平線を追いかけて走り回りボロ食堂でニコニコしながらご飯食う人種には無縁のところだ。
だから僕は知らん。恵比寿ガーデンプレイスなんて知らない。

その恵比寿ガーデンプレイスから徒歩2分くらいのところにあるんだよね、あそびば20は。山手線の線路の頭上に架かる橋を渡って1つ角を曲がると、線路沿いの静かな住宅地が現れる。

うっすらと見覚えのある景色の、あそびば20があったと思われた場所で重機が作業しているのが遠目に見えた。
まさか…!あのあそびば20のあった場所が、今まさに解体されようとしているのか!?訪問するのが数日遅かったのか…!!?

冗談抜きでマジでそう思った。だけどもセーフだった。
工事していたのはあそびば20の正面の家であり、あそびば20跡の建物は健在だったのだ。上の写真では、トラックの奥にチラッと見えている黄土色の壁の家があそびば20であった場所だ。

あぁ…!あそびば20…!!
なんだか涙が出そうになった。ずいぶん前に1度訪問しただけの場所なのに。
なまじあのころの雰囲気が残っているだけに、切なさが増幅される。
屋外ゲーム機も鉢植えもそのままだし、ガラス扉の文字も残っている。だけどもメンテナンスされている気配がなく、くたびれてしまっているのだ。

新幹線ゲームとフィーバー・チャンスに掛けられたブルーシートも経年でボロボロだ。ついでにその下から除くゲーム機もそこそこ傷んでいるように感じる。
オーナーのおじいさんが元気であれば、もうちょっとしっかり管理していただろう。少しずつ朽ちていくであろうその姿が切ない。

ガラスの向こう側には、かつて線路脇に置いてあった懐かしい黄色い電飾看板が見えている。
UFOキャッチャーの中には、持ち帰ってもらえなかった商品たちが無邪気な顔をして大量に残っている。

あそびばは、無くなってしまった…。
だから、せめてあの日の小さな思い出を、心の中に留めておきたい。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: あそびば20
- 住所: 東京都渋谷区恵比寿南1-21-22
- 料金: ¥10~
- 駐車場: なし。付近のコインパーキング使用のこと。
- 時間: 12:00~18:00