高知駅から徒歩圏内に、とんでもないマンションがある。
"高知のサグラダファミリア"・"高知の九龍城"・"日本最大の違法建築"・”軍艦島マンション”などなど、様々な呼称を持つマンションだ。その名は「沢田マンション」。"沢マン"と略されることが多い。
僕も以前よりここに興味は持っていたものの、住民ではないのでおいそれと足を踏み入れるわけにはいかず、そして高知県に引っ越すわけにもいかない。
ただ朗報だ、聞いてくれ。ここは実は1泊からホテルのように宿泊することもできる。つまりは旅行の行程でちょいと一泊…ってことができるのだ。しかもとんでもなく安い。
安く泊まれて、かつこのカオスで魅力的な世界を公式に垣間見れるとあっては、旅人の血が騒ぐに決まっているだろ!むしろ沸騰するわ、全身の血液!!
…というわけで宿泊してきたエピソードを公開したい。
結論から言うと最高だった。立地も建物もオーナーさんも。もう再訪したくってしょうがない。
では聞いてくれ、僕の小さな小さな沢田マンション物語。
【基礎知識】沢マンってこんなところ
まずは実録に入る前にな、沢マンについてあなたにもご理解いただく必要があるだろう。基礎知識を得た上で次章以降を読んでいただければ、ライヴ感もきっと3倍に跳ね上がるから。
さて、沢マンの特徴をザッと書き出すと以下の通りだ。
- 1971年に素人夫婦が図面も引かずにセルフビルドで建造した。
- 5~6階建で60部屋ほどあるが、同じ形の部屋はなく部屋番号もメチャクチャ。内部は迷路のよう。
- 家賃は月額2~5万円台。
- 屋上はオーナーさん一族の居住区であり、水田・池があって豚も飼育されている。
- ショップがあったり住人対象の祭りが行われていたりしてすごく活気がある。
- 現在は沢マン創設者の方は亡くなり、娘さんたちが運営している。
相当自由な世界観だ。少なくとも当初は生活に困っている人やワケアリの人など、あまり事情を深く聞かずに門戸を広く受け入れていたらしい。そして部屋を改造しようが壁を抜こうが、住民の意向を尊重したノビノビしすぎる運用スタイルだったらしい。
建造形態から運用形態まで、フリーダムだ。これ、ほとんど1つの立派なコミュニティが形成されているよな。江戸時代の長屋みたいな感覚かもしれない。
だからハマる人にはとことんハマるだろう。僕も学生時代の1人暮らしだとか老後の寂しい時期なんかをこういうところで過ごせたら自分的に楽しいだろうなって思う。雑多だが古き良き日本の暮らしの名残があるような感じだ。
違法建築という呼称もWebには多数あるが、当ブログでは宿泊体験談にスポットを当てたいので、違法うんぬんについては特に言及せずにいきたい。
この建物は1971年に建造開始されたものなのだが、当時は役所の対応もゆるゆるだったこともあるし、まぁ実際行政指導だとか工事の中座だとかピンチはあったのだが、それはもしあなたが興味あるなら独自に調べてみてほしい。
さて、ここまでは僕が最初に興味本位で沢マンの外観を見に行ったときのものである。だから敷地には足を踏み入れていない。
次章からは宿泊時の記録を執筆するぞ。
宿泊者用の部屋がきれいだ!
沢田マンションに宿泊すべく、数日前に予約電話をした。素泊まりで3500円だ。安い。
内心「こだわりの強い建設経緯があるし一族経営だから、ヘンクツなオーナーさんじゃないかな?」ってドキドキしていたが、とても感じのいい電話応対であった。
電話対応ってさ、「根はいい人」であってもなかなかそれが伝わりづらいんだけど、沢田マンションはそうではなくってすごくちゃんとした電話対応だった。嬉しい。もうワクワクが止まらない。
正面の店舗の敷地から、チェックイン前の沢田マンションを見上げた。かっこいい。この計算されていなさそうな天然な造形にキュンキュンする。なんだか、上からビー玉を落とすとコロコロと縦横無尽に転がっていくオモチャみたいなデザインだ。
予約時には車で行くことを伝えてある。その際、「停める場所がわかりづらいので近くまで来たタイミングで電話ください。マンションの入口で待ってますから」って言われていた。
なんて丁寧な対応。なのでここで僕は電話した。「もう目の前なので1分で行きます」的なことを言った。
しかし、ちょいと入口にクセがあって目の前に沢マンにスムーズに入れず、脇の小道に入ってからUターンしたりして、結果として5分以上かかったと思う。
だけども沢マンオーナーの方はちゃんとマンション入口で立って待っていてくれた。申し訳ない。ありがとう。
マンション正面に愛車の日産パオを停めた。なんだかこの絵、僕がマンションの正式な住民になったみたいじゃない?嬉しい。
オーナーの女性の方に「ずっと泊まってみたかったんです!」と興奮気味に伝え、そして導かれるままに最上階のオーナーさん居住エリアへと昇って行った。
ちなみにエレベーターは(原則)なく、徒歩での昇降だ。そして階段がまっ直ぐに1階から最上階までを貫いているわけではなく、ランダムに配置されているのでまるでダンジョンだ。覚えきれるな、ここの地理…。
屋上へと昇る階段のすぐ右にブタがいた。マジで普通に階段を登る僕の顔面のすぐ横、このアングルでブタが登場するので「ぎょえぇぇ!」って言ったね。
前を歩くオーナーさんに「ブタいるんすか!?」と聞き、「はい、います」との回答を得た。
このあと屋上の一室でお会計をし、説明を受ける。
チェックアウト時は鍵を部屋に置いたまま立ち去って良いそうだ。屋上エリアの写真撮影はしていいが、夕暮れ以降~朝まではNG。住民エリアはプライベートスペースを撮影しないように、とのことだ。
それから宿泊する部屋を案内いただく。
これが部屋だ。「うおぉ、スゲー!」って思わず声が出た。まずは広い。TVもあるしソファもある。これは今夜はここで1人で宴会ですな。
他もすごくちゃんとしている。充実している。キッチンもあるし食器もある。手ぶらで転がり込んでも生活をスタートできる親切設計だ。きっと入居者用の部屋もこんな感じなのだろう。喜ばしい装備だ。
「外観がちょいとジャンクテイストだから部屋はどうなのかな…?」って正直思っていた。しかし随所に丁寧な心配りが見受けられるのだ。さすがに設備はやや古いものが多いが、清潔感はある。
水回りも綺麗だ。1泊しかできないのが逆に悔しくなってきた。高知に数日間滞在してゆっくり観光する機会とかあったら、僕は間違いなくここにまた宿泊するだろうな。
それでは、次章では驚異の屋上風景をお見せしよう。
屋上が個性的過ぎて噴いた!
屋上はチェックイン直後とチェックアウト直前の2回に分けて見学した。この章ではその2回分をマージしてお届けしたい。
先ほどはいきなりブタの洗礼を受けたが、それ以外にも個性的な世界が広がっているのだよ。
管理人さんの居住区なので迷惑にならないように静かに速やかに廻ろう。
池がある。鯉も泳いでいる。池の真ん中に小島があり、犬小屋みたいなものもある。
オーナーさん、やりたいことを全部やってるな、きっと。夢全部詰め込んでいるな。ウォルト・ディズニーかよって思った。細かい仕上げがちょっとだけ苦手なウォルト・ディズニー。
屋上緑地化計画だ。畑・水田・果樹園があって自給自足みたいなことが実現しているらしい。
水は山から引いていてタダだし、屋上に水をためておくことで夏場もマンション全体を冷却できるとのことだ。マンション完成間もないころからこういう工夫を取り入れているんだよ、ここ。
地上だか屋上だか、もはやわからん光景が広がっている。しかしまぎれもない屋上庭園。下界を見下ろしながらここでくつろぐのは気持ちよいだろうな。
あとでもご紹介するけどね、かなりいい立地なのだ。目の前はヤマダ電機。そしてスタバもあるしコンビニも回転寿司ある。徒歩1~2分でこれらに行ける。
そして左上に見えている「SUNNY MART」というスーパーにも徒歩3分ほどで行けるだろう。あとであそこで晩酌の食料を買おうと心に決めた。
とにかくかなり便利な立地。
地上から見るとひときわ高くそびえ、「沢田マンション」と書かれた看板が掲示されているポイントの裏側まで来た。
ここは資材運搬専用のエレベーターになっているそうだね。住民が使用することはないが、大型の機材などはこれで昇降させるそうなのだ。
その横にはクレーンもある。建造時のものが残されている。
創始者のオーナーさんは、素人ではあるけれどもとんでもない熱量とそれなりの技術を持っているということが窺い知れるね。
機材がそこかしこに置いてあるゾーン。日曜大工っていうレベルじゃねぇぞ。どこかのガチめな町工場みたいな雰囲気を醸し出している。バイタリティしかねぇ。
あとは鳥がいたり金魚の水槽があったり、ご覧の通り植木がもう360°どこを見てもあって植物園みたいだし。「マンション暮らしもいいけど庭が無いしペットも飼えないし…」みたいなよく聞く悩みを消し飛ばしてくれている。なんでもアリだ。
屋上を見るだけでも相当に楽しめるぞ、ここ。
それでは、ここから地上へと向かいつつ共有部分を少しだけご紹介していこうか…。
町の方向に開けた前面とは異なり、背面は山を背にしていて少しダークな雰囲気だ。ここはベランダ…?たぶん3階か4階なんだけど、奥の方に車が停まっているのが気になるよね…。
あと、反対方向には住民の方のものと思われる自転車がたくさん並んでいた。駐輪場も兼ねているのかな?
ベランダと通路が合体したような部分。ヘリが二重構造になっているのにお気づきだろうか?ここは土を入れられて、そこで住民が自由に草花を育てられるそうなのだ。つまりは花壇だ。オーナーさん自身が自然大好きらしくてね。こういうの、僕も好きだぜ。
しかしときどき「これは花壇と呼んでいいレベルじゃないだろ」みたいなサイズの木や鉢植えがバチコーンと突っ込まれていて笑える。
造りに規則性などはない。いきなり階段が出てきたり、花壇が出てきたり。
冒頭でも触れたけれども部屋番号もグチャグチャ。普通に考えると「201号室」であれば2階のような気もするけど、そうでもない。「201・202…」みたいに下2桁が順番に並ぶのが普通のような気もするけど、そうでもない。
かつて入居順に割り振り、しかも途中で付け替えたりしたのでわけわからんのだ。配達業者の人がこれで泣くらしい。そう、ここは壮大なラビリンス。迷い込んだら早々脱出はできぬのだ。
いきなり洗濯機が出てきたりする。コインランドリーというコーナーだ。僕の知っているコインランドリーとちょっと違うけど、1回200円で洗濯機を使用できるぞ。
この階段の後ろにあるのが、僕の宿泊する部屋ですな。この写真だけ見てもわかる通り、廊下と階段と裏の通路の位置関係が独創的過ぎる。
令和の現代、こんなアナーキーな建造物は絶対できないよなぁ。個性的でアートな建造物でも、裏ではしっかりと計算されているもん。でもきっと沢マンは、勢いと天然成分だけで突っ走ってきたんだもん。好き。
はい、部屋の前まで戻ってきたよ。どこか和のテイストが感じられ、漏れる光が落ち着く部屋だ。
おまちかね、お部屋で晩酌!
ここからが一番のお楽しみの時間だぞ!夕飯を買いに行き、そして部屋で食うのだ。料理もできれば最高だったが、1泊分だけ食材や調味料を用意するのも大変なので、そのまま食べられるものだけにするぞ。
でも、それでも近所のスーパーに買い物に行って部屋で食べるということが、沢マンに暮らしているかのような錯覚になってウキウキする。
…てゆーか通路狭ッ!外に出るにはここを通るしかないんだよ、たぶん。なんて構造だ。
集合郵便受けの裏あたりに、僕の宿泊する部屋へと通じる狭い通路があるのだが、知っていないと全体に気付かないような立地だなぁ…。
写真の左は屋上へと車で登っていけるというスロープだ。ただしどこか微妙に歪んでいるような気がして、見上げるだけでもスリリング。
スロープの下には地下駐車場があるらしい。しかし狭そうだぞ…。僕の愛車の日産パオでも入り込めるかどうか…。中でちゃんとUターンできるスペースが無かったら詰むな…。
そこかしこに古い発動機がある。創始者の方が古い発動機をいろんなところから集め、稼働できるように整備したそうだ。その名残がコレクションとして展示されている。40個くらいあるそうだよ。
そして沢マン内のお店の看板。活気があるねぇ。
無人販売コーナーもあるのだ。住民たちの関係は良好で、助け合って生活しているのだろう。こういうのを見るとほっこりする。
古本などは10円だ。古かろうと傷んでいようと、捨てずにリユースする精神だ。良い。
さて、見どころが多すぎて時間がかかってしまったが、ようやく沢マンの敷地の外に出た。さっき屋上から見下ろしたスーパー、SUNNY MARTに行って高知特有のお刺身や総菜、そしてお酒を購入した。
歩いて3分でスーパー。なんという素晴らしい立地。ビールもキンキンに冷えたまま帰宅できるではないか。ま、冷蔵庫でさらに冷やすけどな。
そんでな、SUNNY MARTにて後ろを振り返るとな…、
ブホホ、異形のものが見えている。スタバや四国銀行というありきたりな建物の後ろに、白いガチャガチャした建物が垣間見えている。沢マン、日本の九龍城とはいい例えだぜ。
ディズニーランドでいうところのシンデレラ城みたいなところにズームしてみた。さっきはあそこの裏側で赤いクレーンを眺めていたのだ。
改めて、わけわからん建物だよ。いい意味で。
じゃ、飲むぞーー!!沢マンの夜にカンパイ!!
これ結果論なんだけど、このとき9日間ほど中国四国地方をドライブする旅をした中で、この時間が一番幸せだったぜ。ま、宿を取ったのはこことあと1箇所だけで、後は車中泊だったってのもあったかもしれないけど。
土佐の酢の物盛り合わせ!何がなんだかわからないけど全部うまい!
カツオのお造り!高知のカツオがマズいわけないと思い込んでいる!そして天然ブリのお造り!プリップリで脂が乗っていて、ビールが瞬く間になくなるぜ!!
うめぇうめぇ!なんで僕、1人なのにこんなに盛り上がっているのかなぁ!!
毎日毎日ヘロヘロになるまで運転しまくって遊びまくっているので、酔いが回るのが早いんだなぁ。普段の3倍酔う。
「ビールもう1缶買いに行こうかな…」って思ったら、すぐ近くにコンビニがあるありがたさ。酔っていると部屋までどのように行けばいいのかちょっと迷うという危うさ。
どれもこれもが最高の旅の夜なんだぜ。
夜の沢マン、初めて見た。物見遊山で来る人も夜の沢マンを眺める人は少ないだろう。現地の人じゃないとなかなか見られない光景かもしれない。
この煌々と明かりの照らされた沢マン、無骨でかっこいい。
最後はドリップコーヒーを買うためにもう一度コンビニに行き、そしてアツアツのうちに部屋でゆっくりと飲むことができた。至福。僕はコーヒーが大好きなのだよ。
こうして旅の夜は更けていき…。
バイバイ、沢田マンション!
翌朝、朝風呂の好きな僕は浴槽にお湯を張って浸かろうと考えた。日常ではシャワーのみで済ますのだが、ちょっと色気を出したんだよ。
この作戦、失敗した。蛇口を全開にするのだが、「ジョボ、ジョボボ…」と頼りのない水流。
20分待ったがくるぶしくらいまでしか溜まらないのな。しょうがないので半身浴しながらシャワーを浴びた。ここだけ改善してくれると嬉しいと思ったよ。
その後、朝の散歩に出かけたのだ。どこに散歩に行ったのかというと…。気になるなら下のリンクから先に飛んでみてほしい。
そして戻ってきた後に再度屋上などを見学させてもらい、チェックアウトの準備を進める。
巨大でカオスな建造物、沢田マンション。オーナーさんと奥さんが昔々から長い年月をかけて築いてきた夢の城。
現代ではもう同じようなことは法的にも困難かもしれない、伝説の建造物だ。こんなファンキーな建物、今後の日本ではお目にかかれないかもしれないぞ。
そこに一介の旅人である僕が泊まれたのだし、あなたも泊まれるのだ。そんなスペシャルな体験、しないわけにはいかないでしょ?
序盤に書いた通り、チェックアウトのときには鍵はそのまま部屋に残して退室できる。オーナーさんにご挨拶できないのが少し寂しいけれど、まぁいいや。だってまたいつかここに来ればいいのだから。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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