今年のねぶた祭りもきっと熱かったろう。
残念ながら僕はねぶた祭りを見たことはないし、ねぶた期間の青森市内に足を踏み入れたこともない。あ、でもな、ねぶた翌日の青森市になら行ったことがある。日本6周目でだ。
ねぶたの残り火を感じられるような、暑い日だったなぁ…。
そのとき宿泊したのは「民宿最上」。
世界TOPクラスの規模を誇るSNSで検索しても、僕の投稿以外は出てこなくって「あれ?」って思う。なんだなんだ全国民、最上の良さを理解していないのかよ。
ならばそれを宣伝するのは僕しかあるまいて。
プロローグ:ねぶたの翌日をナメるな
ねぶたが終了する翌日に、青森市内に宿泊することにした。
ねぶた期間の青森市内はすさまじく混雑し、宿も駐車場も高騰するのに全然空きがないこととか、僕はよく知っている。行ったことないけど有名なので。
だからねぶた終了日の翌日なのだ。
だが甘かったよね。
るるぶやじゃらんなどの大手の宿サイトを検索しても、どこも空いていないのだ。1軒もだ。激安から高級まで、どんな宿もない一部屋もない。もう1人も泊まれない。
じゃあどうするのかというと、そういうサイトに出てこない宿を探すしかない。
Googleマップで宿検索したり、あるいは役場のWebページの奥にちょこっと紹介されているような、電話じゃないと予約できないような民宿系が狙い目なのだ。
青森市の中心地で、そんな民宿を4軒ほどピックアップし、順番に電話していった。
しかしだ。1軒目も2軒目も満室だというのだ。「ねぶたの翌日なのでまだお客さんがいっぱいで…。さらにその翌日なら全然空きがあるんですが…。」みたいな感じだった。
なるほど、ねぶたをナメていた。しかし別日だと都合が悪いのだ。この日に青森市。それは譲れない。
めげずに3軒目も電話した。そして撃沈した。普段からポジティブな僕ではあるが、さすがにこれには焦った。これ、本当にマズいのでは?
最後に残った4軒目に運命を託すことにしよう。
こうして電話したのが民宿最上なのである。いや、別に最後に電話したから魅力最下位ってわけではないぜ。むしろほぼ宿の内容なんぞ確認せずに、「とりあえず泊まれればいい」で片っ端から電話していただけだ。
最上に電話すると、「ん-…、交通機関は何ですかな?」・「ねぶたのシーズンなので通常料金より高いけど大丈夫ですかな?」などの質問がくる。
「空いているのか空いていないのか!?別に値段なんて二の次でいいぜー!」という思いで僕はソワソワしながら質問に受け答えをした。
そして結論。空き部屋があった!やった!3部屋しかないという旅館で、直前予約で空きがあった件については一瞬だけ「はて?」って思ったけど、別に泊まれればどうでもいい!
こうして僕は灼熱の青森を訪れるのだ。
まぁ青森県は数10回、春夏秋冬全部訪問しているけども、この期間に青森市に宿泊するのは生まれて初めてなんだよな。ウキウキしてきた。
テーブルの上の一滴のソース
ねぶたの最終日翌日の夜。僕は青森市に到着していた。
これは…、ねぶた祭りの桟敷席なのだろう。まだ片づけられずに残っていた。
僕訪問時のねぶた祭りはコロナ禍が始まって以来の3年ぶりの開催だった。久々の開催、さぞかし盛り上がったのであろう。目を閉じれば迫力のあるねぶたが…、いや、見えないな。目を閉じていると真っ暗だし危ない。
さて、街中の喧騒も途切れつつあるくらいまで進んだところで、今夜の宿である最上が見えてきた。ちなみに2泊する。
なかなかにスパイシーな外観だな。築70年の古民家を改装して、数年前に旅館業を始めたみたいだ。
しかしなんだか暗いしシャッター閉まっているし、看板の文字はかなり剝げ落ちてしまっている様子だし、スゲーぞ…。どこから入るんだこれ。
…と思ったら、角を曲がったところにちゃんと明るい入口があった。一瞬ビビッてしまってすまない。明るい光が外に漏れ、紫色のかわいい暖簾が夜風にそよそよと揺れていた。
「民泊」と書かれていた。なるほど、民泊スタイルのお宿なのね。
そして傍らには『本日空室あります』という幟もあった。おぅ、3部屋の民宿なのにまだ空きがあったのか…。
中に入ると、オーナーのおじいさんとおばあさんが出迎えてくれた。おばあさんはニコニコ顔で「遠いところからよく来たねぇー」的な感じで、なんか日本むかし話みたいな世界観だなぁと思った。
それから玄関ロビーから1つ奥に入った、ガチなオーナーさんのお宅の食堂だと思われるところにチョコンと腰掛けて宿帳を書いたよ。
おじいさんは「君を家族のように扱う。しっかりくつろいでくれていいし、家族だから我々も行き過ぎた干渉はしない!」のようなことを宣言してた。
ありがとう。いい距離感かもしれない。だけども夜遅くしか滞在しないけどな、僕。
おじいさんはいろいろ熱弁していて、その場で宿帳をもとに領収書を書いてくれたんだけど、しゃべっているときは手を休めるので10分かかった。
あと、テーブルの上にソースが一滴こぼれているのを発見し、おばあさんに「ちゃんと拭いておかんかー!」と言っていた。まぁまぁ落ち着いて。大丈夫です、僕ソース好きですから。
青森の暑い暑い夜を味わえ
客室は2階とのことだ。
おばあさんは「ウチは古民家だから2階への階段がとても急なの。お荷物を持ちましょうか。」と提案してくれた。いや、おばあさんに重いスーツケースを持たせるわけにはいかんでしょう。非力な僕ではあるが、このときは腕に全筋力を集中させて階段を登った。
暗ッ。
まぁこのあと電気つけてくれたんだけど、これが2階の廊下だ。光が漏れているのが僕の部屋だ。カラカラッとサッシを開けて部屋に入る。
ウッホ!渋い!渋いけどもベッド。でもベッドもなんだか渋い。具体的には枕カバーとか、タオルケットの柄とか。建物も部屋も古いが、清潔感はある。快適にすごせそうだぜ、ふふ。
ここからは余談なんだけど、すぐに夕食を食べに外に繰り出したのだ。20:30くらいであったが、夕食まだだったので。
宿から徒歩1・2分のところにある小さな焼き鳥屋さん「武蔵」に行ってみた。
どうやらラストオーダーを少し過ぎていたようだ。閉店時間まではあと20分らしい。店員さんがちょっと戸惑っていたが、大将が「1名だったらいいよ」と言ってくれたのでここで食べることにした。
大将、ありがとう!僕が悪いんじゃないんだよ。宿のおじいさんが領収書を書くのに10分もかかったからなんだよ。…とは当然言わないけどな。
生ビールを頼み、それからハツ・皮・ナンコツを焼いてもらった。
まずはビールうまっ!体に染み渡る!実はこの日は34℃もあって、青森市は今年1番の暑さだったのだ。もう体中がビールを欲していたんだよね。
そして串も当然うまい。この脂分がビールのうまさを加速させる。
僕はカウンター席に座ったが、こあがりではまだ数名の人が陽気に飲み会を継続していた。
壁TVを見ると、昨日終了したねぶた祭りの様子が映し出されていた。紙一重で見ることのできなかった祭り。僕の知らない祭り。
今年はハネトも全員検温や消毒をして受け入れたのだそうだ。マスクも着用だったのかな?あの熱気と運動量、マスクしていて耐えられるのかな?
キチンと21:00の閉店までに退店できた。お会計は1000円いかなかったぜ。良心的だ。大将ありがとう。
ま、ただこのあともう1店、居酒屋をハシゴしちゃうんだけどね。そのお話は今回は割愛しよう。
そして帰還した。明るい正面玄関もいいが、僕はこっちのアングルも好きだよ。知らんけど、昔はこっちが正面玄関だったんじゃないかなって推測する。
なぜならば、看板文字があるからだ。
たぶんだけど、この残っている文字は"最上"と読むのだろう。民宿最上だから。そして、オーナーさんが「最上さん」だから。
Webで検索できる過去画像を見ると、もともとは『株式会社(モ)最上商店』と書いてあったそうだ。
近年旅館業を始めたそうなので、その他の部分は剥ぎ取ったのだろう。もう株式会社でもないし商店でもないので、残ったのは"最上"だけだったのかな?
最初は「残りは全部経年劣化で取れちゃったのかな?」って思ったけど、きっと意図的に取り外したのだ。
「暑い」。僕はそう思った。
前述の通り、今年一番の暑さなのだ。だけどもこの部屋にはエアコンはない。扇風機はあるので、扇風機をつけた。熱気が部屋の中を渦巻いた。窓も開けた。
ただし暑い。結構深刻なレベルだ。枕元にペットボトルを置き、自分に直風が当たるように扇風機をセットして寝ようか。
居心地はいいのだが、いかんせん暑かった。真夏の車中泊の旅と同じくらいのカクゴを決めて寝た。
もちろん無事に朝を迎えられたのだが、エアコンあった方がもっと熟睡できた。そろそろ北東北であってもエアコンが必要な時代なのだな…。
戸締り担当とカップラーメン
翌朝、おじいさんに「今夜の戻りは22:30くらいになりそうだ」と伝えた。
するとおじいさんは「結構遅いね。じゃあ帰ってきたら玄関の戸締りをしておいて。それとお風呂の電気も消えちゃっているだろうから、つけたあとにうんぬん…。」とオーダーが来た。
家族っぽいー!了解した!どうしても遅くなっちゃうから、このくらいのことはやるよ!
話は全然反れるが、宿の窓サッシのこの部分が好きだよ。いかつい建物なのに鮮やかな青色のサッシと、それを上回る反対色の目の覚めるような黄色いカーテン。文字通り異色の組み合わせ。
ちゃんと戸締りをして、暗い館内に帰還した。
ここが玄関部分。右が入口の紫暖簾。左側はオーナーさんたちのプライベートスペースだと思う。最初に宿帳書いたところだ。
まだ電気がついているのでおじいさんおばあさんは起きているのもしれないが、声を掛けずに静かに動こう…。
レトロな宿ではあるが、Wi-Fiがちゃんと提供されているのはありがたいよね。もうこの時代、どこにもWi-Fiがあるのが当たり前なのだろうね。
早速お風呂に入るのだ。もう時間も遅いので早めに入らないと迷惑になるし。
家庭用のもので情報量の多いお風呂場。ビジネスホテルや旅館を中心に宿泊していると初見でやや驚くかもしれないが、日本各地の旅人宿で慣れているので、全然違和感なくすごせる。
暑いので軽くシャワーのみだ。心身ともに蘇った。
さらには小腹が減った。何か食おう。こんなことになるだろうと、実はさっきコンビニでカップ麺を買っておいたのだ。
んー…。カップ麺を食べたいのだが、お湯を沸かせるポット類がない。宿のWebページにはポットがあるようなことが書かれていた気がするのだが、記憶違いだっただろうか…。
いずれにしても、事件は現場で起きているのだ。今さらWeb表記がどうだとか、確認する意味もない。
遅い時間なのでおじいさんやおばあさんに声をかけるのも気が引ける。
あ、電子レンジがあるではないか。これでお湯を沸かそう。
しかしカップ麺に水を注いで電子レンジに入れたら大惨事になるよね。…共有スペースに食器棚があったわ。そこに陶器製のマグカップもある。これを使わせてもらおう。
こうして旅先で食べるカップラーメンがうまいんだよ。窓を開けて、夜の真っ暗な街並みを眺めながらすするカップ麺。これも旅の醍醐味よ。
しかもな、このカップヌードル。高たんぱく&低糖質のシーフードヌードルプロなのだよ。これ初めて見たよ。食物繊維1日分入りだと?マジかよ。信じていいの?
2階の洗面台。結構暗い。最初は照明スイッチどこだかわからず、暗闇で歯を磨いたりした。僕は暗くてもいっこうにかまわないタイプ。
さらに先には広い共有スペースがあるようだが、真っ暗であまり見えない。
ねぶた期間中に、目の前を通るねぶたの山車を見下ろせる部屋があると聞いている。それがここなのかな?
ちょっとプライベート色も強い共有スペース。窓の外を向いて設置されているイスは、ねぶたの山車見学用だろう。すだれもいい味を出している。
ここから眺められたらさぞや壮観だろうなぁ。2024年のねぶたは終わってしまったが、来年に向けてあなたもここをチェックですぜ!
今日は昨日ほどは暑くない。なんとか快適に寝れそうだ。
天井の照明から垂れ下がるヒモはとんでもなく長い。ベッドに寝ていて余裕で届く。まるで"蜘蛛の糸"のようだぜ…。
約束どおり宣伝します
あいにく翌朝は雨であった。でもねぶた期間中が雨でなくってよかったね。そして僕のチェックアウトの日だ。
歯を磨いていたら他のお客さんを見かけたので挨拶した。あ、同泊者いたのか。初めて気づいた。僕、夜遅い時間しかいなかったからなぁ…。
そして上の写真を見てくれ。暗い時間の渋い写真が中心であったが、いかに建物内が綺麗かわかるでしょう。床がピッカピカだ。
他の客室がチラッと見えた。
あ、ここは畳の和室だ。ここも渋い。こっちにも泊まってみたいな。僕の宿泊したベッドの部屋に比べると、たぶん半分くらいのスペース。
昨夜に少しだけ覗いた、ねぶたを見下ろす共有スペースだ。宿のWebページでもここの場所をアピールしているよ。
和室を取り囲むように外周が廊下になっている。昭和前期以前の日本家屋の構造だよね?
…ということは、民宿の前の商店だった時代は、ここはオーナーさんたちの居住空間だったのかな?それとも今も、団体さんが来たときにはここの和室を客間として使っているのかな?
昭和時代のものと思われるグッズが随所にある。
最初はありきたりなビジネスホテルでもいいかなって思ったけど、流れ着いてここに宿泊できて良かった。ビジホにはない、オンリーワンな体験をできるからね。
床の間に刀剣がある…!すっご!!
それではチェックアウトの時間なのだ。
正直おじいさんともおばあさんともチェックインのときくらいしかまともに話せておらず、その点はちょっと残念だったのだがしょうがない。いい宿であることは、こうしてすごしてわかったよ。
急な階段を下りて、おじいさんとおばあさんに挨拶をする。
おばあさんは「雨だけどもそのスーツケースで大丈夫??」って聞いてくれた。うーん、少し心配だな。大きめのビニール袋を持っているので被せてみた。これでたぶん大丈夫。
おじいさんは「また来てくださいね。これ、良かったら友人や同僚などに…。」と、宿の宣伝用のビラを数枚くれた。
むぅ…。言っちゃ悪いが、今の時代紙媒体では効率悪いよ。
僕は「ビラの情報と今回宿泊したときの写真や思い出をブログに書いてもいいですか?」とおじいさんに聞いた。そしてOKをいただいた。
なので、あれから2年も経ってしまって恐縮ではあるが、約束通り情報を展開するのだ。
外観や内装など、もしかしたらちょっとネガティブに聞こえる表現をしてしまったかもしれないが、僕の正直な感想ではあるし、そしてこういうの好きだから実際はネガティブではなくかなりポジティブに捉えている。
ただ、やはりビジネスホテル等に泊まり慣れている人からするとややカルチャーショックかもしれないので、リアルな側面も書いた次第だ。
でも旅に出るなら、カルチャーショック受けた方がいいよ。思い出になるから。
おじいさんおばあさんにお礼を言い、雨の町中に繰り出した。
ありがとう、民宿最上!
エピローグ:豪雪に埋もれて
半年後のことだ。つまりは2月。今度はとんでもない寒波の中、僕は青森市にいた。さて、あなたは以下の記事を覚えているだろうか…。
雪の中、焼きそばの名店「後藤食堂」を目指すエピソードだ。その中で僕はこんなことを書いている。
『これぶっちゃけ後藤食堂に向かう道ではないんだけど、歩いてみたいから歩いた。』
青森駅方面から真っすぐに後藤食堂を目指したのではなく、少しだけ道を反れたのだ。
なぜかっていうと、もちろん民宿最上の姿をひとめだけ見たかったのだ。
夏にお世話になった民宿、この雪の中ではどんな姿なのだろうか…。
こんもりした雪山の向こうに最上が見えた。周囲のロケーションは全然違うが、民宿自体は当たり前だけどもあのときのままだ。あぁ、たった半年前のことなのに懐かしい…。
おじいさんおばあさん、あの夏の暑い日、ありがとうございました。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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