今回は、カキ氷の話をしたい。
「冬の始まるこの時期にカキ氷とは、YAMAのヤツは血迷ったか」と思われるかもしれない。
確かにそうかもしれないし、あながちそうでもないかもしれない。
いずれにしても、敢えてこの時期に執筆した理由は、この記事の中でしっかりご説明できればと思う。
「阿左美冷蔵」。
少なくとも僕はこの氷屋さんを知ったことで、カキ氷の概念が大きく変わった。
生涯忘れられない、カキ氷なのである。
絶品カキ氷の特徴とは?
超老舗の氷専門店が経営する、「長瀞(ながとろ)」にあるカキ氷屋さん。
冷凍庫などを使わずに自然の中で凍らせた天然氷を使ったカキ氷を出してくれるのが、最大の特徴だ。
まずは、このボリュームよ。
「日本むかし話」の山森ごはん級の聳え立つ氷山。
模擬店などで買えるカキ氷の、軽く3~4倍のボリュームがあるのではないかと思われる。
しかし、氷はとても柔らかいのだ。
この写真ではすでにシロップがかかっているのでしっとりしてしまっているが、氷自体は天使の羽のようにフワフワなのだ。
この写真であれば、少しは伝わるだろうか…?
仮に手でギュッと押したら、「フニ~」っと微かな弾力と共に圧縮されるような、そうまさに低反発まくらのような、そんな印象を持った。
この羽のような氷を口に入れるとどうなるかというと、繊細でやさしい食感が一瞬だけ楽しめた後、すぐに溶ける。
模擬店のカキ氷だと、最初からビショビショに濡れているかとような感じで、食感は「ジャリジャリ、ボリボリ」みたいな感じである。
正直、全然違う食べ物だ。
なぜこんなにも食感が違うのかというと、きっと氷を削る機械による影響なのだろう。
上の写真は、お店の庭に半ばオブジェとして設置されている、古い氷削り器だ。
ギロチンさながらの鋭い刃物が回転することで、大きな氷の塊をスライスしていくのだ。
だから氷はペラペラの平面になる。
何度か店員さんが氷を削っているのを見たことがあるが、器の上にフワフワと落ち葉が舞い積もるように造られていて、芸術だと思った。
かたや模擬店のカキ氷は砕いて小さくするパターンが多い。
小さな小さな氷のブロックの集合体、これが模擬店のカキ氷だ。
いや、別に模擬店のカキ氷をディスっているわけではないぞ。
あれはあれで、風流だし一気に体温下げてくれて嬉しい。
独特のボリボリした食感も好きだ。
なんだったら、夏は必ず数本はガリガリ君を食べるし。
カップラーメンと本格ラーメンの違いみたいなものかもしれない。
どっちもうまいのは事実なのだ。
これは、10年以上前のメニューを撮影したものである。
結論から言うと、2020年現在は軒並み1000円以上であり、ゴージャスにいくなら1500円ほどは用意する必要がある。
ランチであればたらふく食べれるくらいの金額である。
しかし、撮影当時は600円ほどが標準であった。
そのさらに前、僕がこの店を初訪問したころは500円だったのだがね…。
撮影したのは、春であった。
「さくらあずき」・「せん茶あずき」・「里のぶどう」・「こだわり白桃」などの、季節を感じさせるメニューが並ぶ。
ここはシロップも、こだわりの天然ものなのだ。
「せん茶あずき」・「こだわり白桃」・「黒みつきな粉」・「昔のキャラメル」である。
色映えがイマイチな茶色コンビが手前で申し訳ない。
この理由は、僕がフルーツが苦手なためである。
「じゃあカキ氷なんて食う資格なし!」とか言われそうなほどの特性ではあるが、そんなこと言われると泣くのでやめてほしい。
ちなみに初回から3回訪問した際のオーダーは、それぞれ「黒みつきな粉」・「モカキャラメル」・「昔のキャラメル」。
僕はいつだって、茶色いカキ氷を食べている。
ちなみにどれも、最高にうまい。
「はちみつレモン」であれば、少しだけ食べれた。
僕が黄色いカキ氷を持っているという、貴重なショットだ。
尚、ここのカキ氷の特徴は「キーンと頭が痛くならない」ことだという。
正直、僕は生まれてこの方、冷たいものを食べて頭痛がしたことがないので、ここはうまく説明できない。
しかし、天然氷は体にも優しいので、頭痛がしないと言われたことがある。
…うん、確かになんか「冷たすぎない」っていう気がするかも。
ロケーションを紹介しよう
このお店のすごいところは、カキ氷だけではない。
店舗自体も、また味わい深い昭和レトロな建物なのだ。
縁側があり、広い庭のある木造家屋。
その庭にこうやってパラソル付きのテーブルがあり、そこでカキ氷を食べられる。
真夏であっても、このパラソルの下でカキ氷を食べれば、一気に清涼感の訪れを実感できるであろう。
春であれば、こんな感じ。
少々肌寒さは感じるもの、温かいお茶を飲みながら外でカキ氷食べてもいい雰囲気。
これは2月の真冬の時期に撮影したもの。
冬だって阿左美冷蔵は営業している。通年営業だ。
冬特有の低い日差しに包まれる店舗もまた、美しい。
真冬に庭でカキ氷を食べる、豪傑たち。
「カキ氷を極めし者」っていうのは、きっとこういう人たちを指すのだろう。
カキ氷道の到達点が、ここにあった。
敷地への入口となる小道も、「ようそこアイスワールドへ」みたいな感じで、氷塊が並べられている。
ちょっとした「氷のダンジョン」みたいな雰囲気を醸しだしている。
このときはさすがに、屋内の席に逃げ込んだよ。
中は温かかったし、卓上のランプの炎のゆらめきも、暖かく感じた。
純和風の喫茶店って感じだった。
このあと登場するのはキンキンに冷えたカキ氷だけども。
僕と阿左美冷蔵との出会い
僕が阿左美冷蔵を知ったのは、とあるTV番組であった。
あれは確か、2000年か2001年ごろ。かなりの昔話だ。
「どっちの料理ショー」という、2つの魅力的な料理を戦わせる番組があった。
「かつ丼VS天丼」みたいに。
出演者は食べたい方に投票し、多数決で自分の投票した料理が勝っていれば実食でき、もし負けていれば食べられない、という構成であった。
どの料理も、一流の人がメッチャ魅力をアピールしながら作っていた。
そんな中で、カキ氷が登場したのだ。
カキ氷のライバルは忘れた。たぶんバランス的に、何かのスイーツだったろうが。
ここで、カキ氷の専門店として紹介されたのが、阿左美冷蔵であった。
創業1890年(明治23年)だそうだ。
きれいな沢の水をプールのようなところに引き込んで、冬の間ゆっくりゆっくり、少しずつ凍らせていた。巨大なスケートリンクのようだった。
ときどきホウキみたいなもので綺麗にしていた。
こうして充分な厚みに凍ったら、四角く切り出して保存しておくのだ。
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まだ世間知らずだった時代の僕は、それを見て「スゲーな。いつか食べに行きたい。」と感動し、店名をずっと覚えていた。
初めて僕が店舗を訪れたのは、その数年後であった。
12月上旬の「秩父夜祭」を見るついでに、立ち寄ったのだった。
あまりのうまさに感動した。
カキ氷の概念が変わった。
次の年の暑い暑い初秋にも来た。
春にも、真冬にも来た。
秩父に行くたびに思い出した。
ふらりと立ち寄り、カキ氷を食べた。
驚異の大行列
そんな時代が、ゆるやかに崩壊したのかもしれない。
いつしか、店舗は常軌を逸するレベルの大行列店となったのだ。
駐車場出会った場所は、ディズニーランドのごとき長蛇の列が右に左にと、続いている。
夏場にカキ氷を食べて涼もうにも、まずはこの炎天下の行列で倒れかねない。
2000年代は、夏場でも1時間待ちと聞いていた。
しかし、2010年代も半ばになると、3時間待ちに達するようになったそうだ。
付近の道路まで渋滞する。
ヤベー感じだ。
カキ氷を食べようと店舗前まで行ったが、行列を見て諦めて素通りすることもあった。
もう、何が何だか…だ。
カキ氷の値段も急上昇をみせてきた。
前述の通り、初回訪問時は500円だったカキ氷も、今は1300円とかになっている。
温暖化のせいもあるかもしれないし、人気になり過ぎたお店にくるお客さんを絞っているのかもしれない。
いずれにしろ、お店に行くのはオヤツ感覚ではなくなってしまった。
「ギャラリー喫茶 やました」
しかし、阿左美冷蔵の氷を食べられる、裏技がある。
何度か書いた通り、阿左美冷蔵は氷屋さんだ。
氷屋さんということは、氷を売っているのだ。
つまり、阿左美冷蔵の天然氷を使ったカキ氷を出すお店は、他にもあるということ。
僕が訪れたのは、阿左美冷蔵と同じく長瀞地区にある「ギャラリー喫茶 やました」だ。
誇らしげに、阿左美冷蔵ののぼりがはためいている。
阿左美冷蔵以外で、阿左美冷蔵の氷を食べるのは、これが初めてだ。
うん、雰囲気もバッチリ。
青空に赤い傘。そして新緑。
爽やかな季節に、爽やかなカキ氷を求めてやってきたのだ。
赤い傘の下は、テラス席であった。
ここにしようかこっと迷ったが、ちょうど屋内にも席が空いているというので、中に入ることにした。
窓際の2人掛けの席から見た、店内の様子。
待たずにあっさりと入れてラッキーであった。
このあと「宝登山」に登山した人がゾロゾロやってきて、結構混雑したので。
しかし、先ほどチラッと覗いた阿左美冷蔵で食べようとしていたら、あと1・2時間は普通に並んでいることだろう。
「黒みつきなこ」のカキ氷を頼んだ。
出てきたのは、こんもり真っ白な氷だけであった。
味付けはセルフのスタイルだ。
見よ、このフワフワ感を。
やはりいい氷かき器を使っているのだろう。
せっかく阿左美冷蔵の氷を使うのであれば、そりゃ削り方にも気を遣うだろう。
黒みつをそーっとかけるんだ。
氷をなるべく崩さぬように。
そしてきなこを掛ける。
練乳もついているが、僕はそれは掛けない主義だ。
文句なしにうまい。
清涼感が体内を駆け巡る。
濃厚な黒みつも、しっかりとした満足感を感じさせる。
うまいうまいと食べ進める。
すごいてんこ盛りだから、こぼさないように気を遣う。
土木工事のように、慎重に掘削を進めるのだ。
…それでもこぼすけどな。
O型だからしょうがない。
あ、ちなみにだけど、この店の焼きプリンも絶品であった。
濃厚なプリンにちょっと芳ばしいカラメルソース。
このハーモニーは、あなたも機会があればぜひ味わってみてほしい。
スプーンの上のカラメルソースとか、写真で見ただけで身もだえするわ。
絶対間違いないヤツ。
ブラックコーヒーとの相性は驚異的である。
冬こそ、決戦の時期
話は冒頭に戻ろう。
なぜ僕がこの時期にカキ氷の話をしたのか。
それは、夏に阿左美冷蔵を訪問するのは、極めて難易度が高いからである。
狙い目は、冬だ。
まず並ばずに、店内に入れるだろう。
店内はストーブで暖かく、そして温かいお茶も提供される。
カキ氷を食べても苦にならないシチュエーションが出来ているのだ。
普通、人々はカキ氷に「涼を求める」。
そのための手段が、カキ氷である。
しかし、阿左美冷蔵においては涼とかはおいといて、「カキ氷を求める」ためだけに訪問する価値がある。
それが重要なのだ。
純粋に、カキ氷を味わってみてほしい。
その体験が、少しだけ人生を豊かにしてくれるだろうから。
…というわけで、12月、今がチャンスだ。
ちょっと今はコロナウイルスの第3波で、僕が阿左美冷蔵に行くのは難しいが、僕も再訪を夢見ている。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 阿左美冷蔵(金崎本店)
- 住所: 埼玉県秩父郡皆野町金崎27-1
- 料金: 1000円~1300円くらい
- 駐車場: あり(混雑時は閉鎖。近くの有料駐車場を使用。)
- 時間: 10:00~17:00(木曜定休)