日本一大きい滝って、どこのなんという滝だろう?
水が一直線に上から下まで落ちる「直瀑」であれば、和歌山県の「那智の滝」だ。
落差は133mある。
三名爆の1つである有名な「華厳の滝」が落差97mなので、その1.5倍近くある。
すごい。実際に見たことあるが、圧巻だった。
しかし、直瀑ではなく段差を経て流れ落ちる滝であれば、日本最大の落差の滝は富山県の「称名滝」だ。
何とその落差は350m。
那智の滝を一気に倍以上も上回った。次元が違う。
しかし、実はまだ上がある。
「幻」と呼ばれるがゆえ、公式には認定されていない「ハンノキ滝」だ。
なんとその落差、500m。
突き抜けたスケールだ。
今回は、この幻の巨大滝を追い求めたときの話をしたい。
聳える「悪城の壁」
僕は立山町の山間部を、走っている。
立山町って言うとすぐにはピンとこない人もいるかもしれないが、「立山連峰」とか「立山黒部アルペンルート」の立山だよって言えば、わかる方も増えるだろうか?
すっっっごい山肌だ。
霧も出ているし「仙人が住んでそうだ」って一瞬思ったけど、アレは違う。
仙人も転がり落ちるわ。
仙人だってあんな立地に住みたくはないよな。
あれが、「悪城(あくしろ)の壁」である。
とんでもなく悪そうな名前だ。悪の幹部がきっといる。
壁のどっかに穴を開けて、悪の組織の根城にしている。
そして、その幹部はきっとあの崖から善良な仙人を転がり落として「グハハハハ…」とか笑っている。
そんな中二が好きそうな名前の壁だ。
「悪城の壁展望台」というのが道沿いにあったので、入ってみた。
雪がすぐ近くに積もっている。
ちなみに今、6月。上旬だけど、暦上は夏。
なのに雪なのだよ。
標高と山深さが下界を突き抜けているということだ。
ここは天上界に近い。
…悪も住んでいるようだが。
高さ500m、幅2㎞という、常軌を逸したスケールの一枚岩。
そのネーミングも、「恐ろしくて人を寄せ付けないレベル」という意味から取られたのだと、Wikipediaさんも仰っている。
この悪城の壁については、機会があれば独立した項目で取り上げたい。
今回なぜハンノキ滝の執筆においてこの壁を冒頭でご説明したのか。
それは、ハンノキ滝は僕の見上げる、あの大地の上から流れ落ちているからだ。
まずは、このスケールの大渓谷の奥地にいざなわれているというシチュエーションを、ご理解いただきたい。
さぁさぁ、あまりの山の迫力と自分の小ささに、鳥肌が立ってきましたよっと。
ホントにここは日本なのだろうか。
巨大滝への遊歩道
駐車場に愛車のパジェロイオを駐車した。
ここからは徒歩である。
目指すは称名滝。
…うん、ここであなたが訝しげな顔をしたのが分かった。
「ハンノキ滝を目指す話じゃなかったの?どっから称名滝が出てきたの?」と。
実は、ハンノキ滝は称名滝のすぐ隣にある。
しかし、ハンノキ滝への…世間の風当たりっていうのかな、それがちょっと厳しいもんでして、こういった看板には一切登場させてもらえないのよ。
まぁそこはおいおい話そう。
称名滝は、冒頭でも書いたけど、公式で日本最大落差(350m)の滝である。
ってか、称名滝まで1.3㎞で30分か。遠いな。
綺麗に整備されたアスファルトの遊歩道で、歩いている人も大勢いる。
ファミリーやカップル、高齢者の人も多い。なかなか賑わっているんだね。
そんな中、ぼっちですみません。
右手には、巨大な岩のカーテンだ。
ここも悪城の壁だろうか?悪の一味なのだろうか?どの辺まで悪いのだろうか?
ま、悪城の壁は幅2㎞だもんな。さすがにあそこから2㎞以上は来ているので、これは悪城の壁ではないのだろうな。
悪の要素は浄化されているのだろうな。
岩壁を流れる無数の水流。
霧の遥か上空にある、天上界からの滝だ。
今は6月。ちょうど天上界(立山連峰)の雪解けのシーズンである。
この時期のみ、こうやっていくつもの滝が姿を現すのだ。
遊歩道をテクテク歩き、正面遠方の巨大な岩肌を目指す。
前方180度全てが切り立った壁なんだよね。
圧倒されるね、この景観。
あの何筋か流れている滝のどれかが、称名滝あるいはハンノキ滝なのだろうか…??
遊歩道の向こうに、ひときわ存在感を放つ滝が見えてきた。
遊歩道に小さく映っている人が見えるだろうか?
まだまだ滝はその彼方にある。
にもかかわらず、この巨大さ。縮尺が狂う。
あれが、日本最大落差の称名滝…!!
いや、違う!!
今までガイドブック等で目にしていた称名滝とは、形状も違うしスケールも違う。
確かに称名滝の落差は350mあり日本一だが、あの滝の落差は目算でもっとあるでしょ。
…ということは、あれが幻のハンノキ滝!
ゴールまであと300mほどだろうか?
まだ称名滝は見えない。
遠くに東屋が見えている。
その後ろの巨大な山肌を、ハンノキ滝が左右まっぷたつに分断している。
ズームしてみた。
最下部にはミニチュアのようなサイズの、東屋と水門と橋。
今から僕は、あそこに向かうのだ。
あそこから滝を見るには、ほぼ真上を見なければならないんじゃないかな…?
そのくらいの高度だ。
ヤベーってことだ。
ハンノキ滝は、なぜ幻なのか?
さて、ここでハンノキ滝の正体をご説明しよう。
ハンノキ滝は、通年で出現している滝ではない。
雪解け水の多い、春から初夏くらいまでの期間のみ現れるそうだ。
だからこそ「幻」。
だからこそ、落差は500mもあるにも関わらず「日本一」の称号を得ることができずに、その座を落差350mの称名滝に譲ってしまっている。
ちなみに、ハンノキ滝も幻だが、もっとレアなヤツがある。
それが「ソーメン滝」だ。
写真の右側に映っている滝がそれである。
これは雪解けシーズンかつメッチャ雨が降った直後だけに現れる、幻の中の幻、都市伝説クラスの滝だ。
幻の巨大滝の共演。
圧倒的スケールで奏でる自然の神秘。
夏だから半袖で来たのにクソ寒いのだが、この時期に来れたことに感謝しか感じない。
称名滝&ハンノキ滝
先ほど、遠くに橋が見えている旨を書いた。
今、その橋のたもとまでやってきた。
すぐ脇を雪渓が掠めている。すごく寒い。
あと、滝の飛沫が降り注いでいて必要以上にクールダウンしてくれている。
「称名川」という、称名滝・ハンノキ滝の滝つぼから流れてきたこの川を、橋で渡る。
これで今までとは大きく視界が変化する。
ここで初めて称名滝が目の前に現れる!
左が称名滝、右がハンノキ滝である。
滝つぼは雪のバリケードで見えない。
でもすごい迫力。
ドドドドドドドドドド…!!!
って、すっごい音がしている。
雪の厚さは、いったい何mあるのだろうか…?
その重厚な雪に穴を開け、川が流れ出てきている。
さぁ、もう少し右側に歩みを進めよう。
右のハンノキ滝、ほぼ全体が見えている。
これが落差500mだ。
圧巻だ。流れ落ちる水の気持ちを想像すると、絶望しか出てこない。
そして左が称名滝。
山肌から徐々に全容を現し始めた。
通年流れ落ちている滝というだけあって、ハンノキ滝よりずっと水量がある。
雪のトンネルの正面までやってきた。
大きさ的に小型船舶くらいは通れる規模のトンネルだ。
なにもかも、スケールがケタ違いなのだ。
遊歩道はここから上り階段になる。
もう少し登り、さらに滝に接近したところで終点だ。
称名滝がずいぶん姿を見せてきた。
ハンノキ滝とで「V」の字を描いている。
まさにヴィクトリーだ。
さらに進むと、ハンノキ滝はやや岩肌に隠れてきたが、かわりに称名滝が全容を現す。
ではここからはちょっと称名滝にフォーカスを当ててご紹介したい。
称名滝は落差350m。
ハンノキ滝より150m短い。
ハンノキ滝は、飛びぬけた実力はあるけども肝心なところで故障したためにスタメンに選ばれなかった、みたいなスポーツマンガの設定でありそうなキャラだ。
だから称名滝が1番。
ここから眺望する称名滝は、立山連峰を源流とする称名川の流れが溶結凝灰岩の大地を侵食してできた落差日本一の大瀑布です。
4段に折れながら流れ落ちる水は通常毎秒0.5トン~2トン、融雪機や豪雨時などの水量の多い時には毎秒100トンにも達します。
また、その時には、隣に落差500mのハンノキ滝が現れます。
滝壺は直径60m、水深6mで、滝壺近くでの爆音は迫力があります。
称名滝は、昭和48年に「国指定名勝天然記念物」、平成2年「日本の滝100選」に選定されました。
…なるほど。
通常毎秒0.5トン~2トンのところ、融雪機に100トンってとんでもないボリュームアップだな。
そして、今僕は100トンの迫力を目の当たりにしている。
遊歩道の突き当りで、2つの巨大滝を見上げる。
わー、すごいなー。
でも飛沫でメガネがビショビショで、よく見えなくなってきたぞー。
4段に分かれて流れ落ちる、巨大な称名滝。
冒頭で記載の通り、和歌山県の超巨大滝である「那智の滝」の倍以上あるのだ。
天から降り注いでいる。
他の観光客に記念撮影を頼まれたので、曇ったメガネで快くOKし、そしてUターンして駐車場へと戻る。
しばらく歩いたところで、最後に振り返った。
再び姿を見せたハンノキ滝。
称名滝よりさらなる高み、雲の中から流れ落ちるその滝。
僕は再び、この滝を見ることがあるのだろうか?
願わくば、またいずれ…!!
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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