妙義山の近くの山間部に、大桁湖という小さなダム湖がある。その湖畔では、恐竜が闊歩しているという。
そんな情報を掴み、のほほんと恐竜でも見上げられればいいなって、そんな軽い思いで現地に向かった。
しかし実態は想像よりもちょっとばかりビターだった。人生と同じように。
果たして時期が悪かったのか、運が悪かったのか。
僕らが見たそれは、まさしくロストワールド(失われた世界)になりつつあったのだった。
大桁山の山間部にて
冬枯れの群馬を、1台の車がひた走る。
その前方に姿を現したのは、僕が勝手にランキングした "荒々しさレベル" で日本トップクラスを誇る妙義山だ。ノコギリのようなギザギザな稜線が特徴だ。
令和の時代にあんなワイルドな山が存在していいのだろうか。
ああいう山が登場していいのは、映画「ジュラシックパーク」とかそんな世界観だけではなかろうか。
つくづくそう思う。
ちなみに恐竜好きな僕、「ジュラシックパーク」シリーズを好きな順に並べると、その栄えある最後尾にドッシリと鎮座してくれるのが「ロストワールド」だ。
なんなんだよ、あれ。特に終盤の展開。もうね…。
あ、話が反れてきてすみません。
車は大桁山の狭いワインディングの道を上る。対向車が来たら擦れ違い困難なほどの道幅だ。
そんな道を僕が緊張しながらハンドル握っているのかといえば、そうではない。
今回は旅友FUGA君とのドライブ。車もFUGA君に出してもらった。
なので僕自身はフカフカの助手席シートに身を沈め、ときどき思い出したようにFUGA君を応援するという、簡単なお仕事。
もっとも、対向車は往復合わせてもたった1台しか見かけなかったが。
しかしね、その唯一の1台がすごかった。
オート3輪。
ダイハツ・ミゼットだ。1972年には販売中止されたから、ザッと50年近くは経過している車だ。博物館や資料館に展示されるレベルの車。
日本6周をしている僕でも、生涯で走っているオート3輪はこれまで1回しか目撃したことがない。これが記念すべき2回目であった。
ところで、令和の時代に、昭和中期の車…。
僕はちょっと閃いたことがある。
これさ、僕の推測が正しいのであれば、この地域だけ時空が歪んでいるんだよ。
恐竜のいるジュラ期、オート3輪の走る昭和中期…。
ね?山奥に向かうほどに時間を遡っている。僕らは今、時間旅行をしているのではないだろうか。
…ま、恐竜の時代からしたら、「昭和と令和の違い」なんて誤差にもならないけど。
例えると、戦闘力2万だ3万だってレベルでキャッキャしていたところに、フリーザ様が出てきて「私の戦闘力は53万です」 と言われたときの、そのくらいの次元の違い。
うわー…!
なんか行く手がゲートで遮られた!!
カーナビによれば、もう少しで目的地に到着だったのに!!
何かプレートが下がっているので読んでみよう。
通 行 注 意
この先、台風災害により、路面に穴があいています。
関係者以外の車両の通行はお断りします。
じゃあ、「通行注意」じゃなくって「通行禁止」だろって思ったりもしたけど、理解した。とりあえず、もうダメだ。僕らの旅路はここまでだ。
…ところで、ここに記載の「台風災害」とは、2019年に関東近隣に壊滅的な被害をもたらした台風19号だ。
訪問時から2ヶ月半前の2019年10月に日本を襲い、86名の死者を出した台風。
「令和元年東日本台風」と名付けられたんだけど、台風名がつけられたのは42年ぶりなのだそうだ。それだけ甚大な被害があり、歴史に残さねばならない事象だったからなのだな。
台風としては歴史上初の激甚災害であり、大規模災害復興法の非常災害適用は史上2例目。東日本大震災を上回る過去最大の災害救助法適用自治体数であった。
※このあたりの知識はWIkipediaさんに教えてもらった。
ゲートの200mほど手前に駐車場があったので、Uターンしてそこに車を停めた。
横には「湖城の館」という施設があったが、営業しておらず、中には入れない。付近の案内看板とかも周辺にはない。ここでは何も情報は掴めそうになかった。
眼下には、おそらく台風の被害で崩壊しかけた公園のような広場。
詳細は敢えて書かないが、立ち入りはやめておいた方がいい状態。
ここがどこで、恐竜はどこなのか。スマホを取り出してみたもの、山奥すぎるからなのか、時空ジャンプしてしまったからなのか、圏外でWeb検索もできない。
でも、あそこをああ行って、こう行って…。
そんな感じでうまく深部に行けば、もしかしたらあの辺に恐竜いるんじゃないだろうか。なんとなく頭の中で仮説を立てた。
では、実際に歩いて行くのみよ!
恐竜に出会う
崩れかけた公園は、もしかしたら今まではピクニック広場的な場所だったのだろうか?
「危ないです」的なことを書かれた橋で渓流を渡り、広場を横切って奥へと進む。
…グッチャグチャだな。
そしてすぐ脇は怖いくらいにギリギリまで溜まったダム湖。大桁湖だ。
大雨で水嵩が増えたら、大惨事になりそうだ。
そのせいもあり、台風19号で被災してしまったのだろうか?
前方には大桁ダムの堤防が見えてきた。
あそこまでが大桁湖と呼ばれるエリア。14haの小さな小さなダム湖なのだ。
堤防の向こうに聳えるのは妙義山。かっこいい!
この先、少し歩いたところで遊歩道左手にある丘に登れる階段を発見。
そこを登るとついに…!
恐竜だ!!
これはティラノサウルスだ!
ここでようやく僕は、ここが大桁緑地公園で間違いがなかったことに気づいた。よかったよかった。ぶっちゃけ事前の調査不足だった。
ディメトロドンもいるぞ!
いずれも遊具であり、中に入って口から外を覗けたりだとか、そういう構造になっている。…本来は。だけどもこの恐竜たち、劣化が進んでいるようで今は「使用禁止」の立て札あり。
…アレですね。
もうこの周辺もこの恐竜たちも、全部ひっくるめていろんな意味で「ロストワールド」ですな。
なにもかもが、失われすぎている。
少し気付くのが遅れたが、奥のほうにはディプロドクスもいる。
写真の角度的にわかりづらくて申し訳ないが、しっぽが滑り台になっているのだ。使用中止でなければ、子供たちにとっては楽しい遊具だったのだろう。
ディプロドクスは草を食む。なかなかにリアルな造形だ。
今は冬だから周辺の木々には葉がないが、葉が生い茂る時期であればいい感じにマッチしているのではなかろうか。
ディメトロドンはペルム紀。そしてディプロドクスはジュラ紀の恐竜だ。
同じ恐竜ではあるが、ティラノサウルスに対しディメトロドンは2億年分くらい先輩。恐竜の世界が年功序列であれば、ティラノサウルスはディメトロドン先輩に頭が上がらない。
小高い丘の上に東屋がある。
「恐竜の見えるが丘公園」みたいな立地。いい季節であれば、ここでお弁当食べたら気持ちよさそうではないか。
そして、うまく配置を調整すれば、ティラノサウルスに餌付けをしているような写真も撮れるかもよ。
もっとも、あなた自身が恐竜の餌になることも可能だ。
そして僕らは湖城の家へと引き返す。
最後に、何かの参考になるよう、訪問当時の大桁緑地公園のMAPを以下に記載しておこう。
そして復活へ…。
執筆中に取り掛かるまでの僕は、正直懸念をしていた。
2019年秋の台風19号での被災、そして2020年のシーズン前から現在も続く新型コロナウイルスの影響に伴う「新しい生活様式」…。
このレジャースポットが被った影響はあまりに大きい。
ただでさえ、アイデンティティの1つである恐竜の遊具で遊べないのだ。
さらに、大桁緑地公園は北側からしかアプローチできない、ドン詰まりのスポットなのだ。
一旦山間部に入ってしまえば、途中に立ち寄りスポットも店舗もない。「ついで」ではない、訪問のための強い魅力が必要だ。
これを機に、撤去・あるいは公園廃止の可能性もあるのではないだろうか。2011年の東日本大震災の折には、そうなってしまったスポットをいくつも見てきた。
そうなると、僕らはまともに恐竜と邂逅した、ほぼ最後の人物となってしまう。
政府が「都道府県をまたぐ移動を解禁」と発表したこ2020年6月18日のタイミングで、僕は怖々と大桁緑地公園に電話をしてみた。
建前上は、今週末に大桁緑地公園にドライブに行く人物とか、そんな感じで。
電話、つながった。
今週末、営業していることを確認できた。
復活した大桁緑地公園。
「使用禁止」と表示された恐竜たちは、きっと今もあの湖を見下ろす丘の上で、あなたの来訪を待っている。
しかし、明日もそうなのか、明後日もそうなのかといえば、それは誰にもわからない。
台風19号やコロナウイルスの影響を、誰も正確に予知できないのと同じように。
ほんの少しの要素の違いが、その後の運命の大きな分岐になるのかもしれないのだから。
これも「カオス理論」、ですよね?マルコム博士。
願わくば、また恐竜たちの周囲や背中から、キャッキャとはしゃぐ子供たちの声が聞こえる日がやってきますように…。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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