とあるSNSに僕が投稿したら、「頻繁に通るけど営業しているの見たことない!」・「20年前から変わらずボロボロ!」・「ずっと廃墟だと思っていた!」みたいなコメントが殺到してしまった、世にも奇妙なお寿司屋さんがあるんだ。
そのお寿司屋さんの名前は「出世寿司」。少なくとも店名は威風堂々としているね。
春と夏の境目あたりで僕はここを訪れ、大将と一緒にTVで「世にも奇妙な物語 」を見たよ。
そんな世にも奇妙な夜の話を語らせてくれ。
バネのチカラは侮れない
栗東市の国道8号沿い。高速道路の栗東ICも目の前だし、道路の対面には「快活CLUB」もあるし、「道の駅 アグリの郷栗東」だって数100mしか離れていない。そんな一等地にこのお寿司屋さんがある。
「こんなにも皮肉な"出世"という文字の使い方ってあるのかな?」という失礼なことを考えてしまった。でも大丈夫、出世寿司さんはバリバリ元気に営業中だし、煌々と光る照明が僕に「大丈夫だよ、入ってみなよ」と勇気を与えてくれる。
快活CLUBとのギャップがすんごい。光と影みたいになっている。
あ、ところで僕は今回このお店でお酒を飲みたいので、車は停めて徒歩で来ている。前夜にわざわざ営業しているか電話までして確認済みだ。すごい強い意志でここに来ているのだ。
23:30ラストオーダーだそうなので、1時間半前の22:00すぎにやってきた。開店時間が17:00と、夜しか営業していないお店なので、日中しかこのお店を見ない人にとっては廃墟と勘違いされるのも納得かもなぁ…。
回らないお寿司屋さんではあるが、「一皿100円より」とのことでかなり安価だ。実はこれはちょいと前の情報を記した看板であり、2025年現在はもう少し高騰しているのだが、リーズナブルなことには変わりは無いから旅人とかみんな訪問してみてよ。
では、入店しよう…!扉の左側に乱雑に積まれたダンボールが気になったが、意を決して僕は引き戸をガラガラッと開けて「すみませーん」と言った。
あれ、誰もいない…?お客さんがいないのは充分に想定していたが、お店の人もいない。
奥の方に見えている暗がりの畳の小上がりに、人の下半身が見えた。上半身は壁に隠れて見えない。何このシチュエーション。ここいらの地域のお客さんへの歓迎スタイルって、これが標準なの?
両足が持ち上がった!
おっ、これは来る感じ!?バネのチカラを使っちゃう感じ!?
僕は息を飲んでその様子を窺った。時間にして入店時の「すみませーん」からまだ1.5秒くらいしか経過していないが、10倍くらい長く感じるほどのドキドキ感に包まれていたよ。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
おじさん(大将)が全身のしなやかなバネのチカラを使ってマッハで起き上がり、「へぃ、いらっしゃい」と言ってきた。ところでこれらの絵はAIに描いてもらったが、実際は大将はもっとフレンドリーな顔立ちなのでビビらなくっていいよ。
「この店はアタリである」ってこの時点で確信した。
お寿司の味とかは、二の次なんだ。自分が楽しいかどうか、なんだ。僕の場合は味覚1つでお店を判断はしない。五感フルで評価したいんだ。なんだったら味覚判定NGでも、他の四感が満足するなら全然合格。
恋の記憶は止まらない
そんなこんなで入店した僕。大将は小上がりに寝転んでTVを見ていたらしいが、エプロンをつけて帽子を被り、臨戦モードとなった。
僕はカウンター席に座った。そこから見える光景がこんな感じだ。
小上がりの席もあるが、僕の入店時には照明が落とされていた。さっきまで大将は手前側の壁の影で座布団を枕替わりにしてTVを見ていたのだな。
大将は「カウンターのケースにネタが入って無くってすみませんね。このあと並べていきますんで。」と言った後、奥に向かって「おーい!」と声をかけた。
奥からネタが並べられた大きなお皿を持ったおじさんが登場し、ガラスケースに次々とネタを並べていく。どうやらここ、おじさん2人の兄弟経営だそうだ。
僕はまずは瓶ビールをオーダーした。夜は長い。ゆっくりとビールでも飲みながらこのお店を堪能しようじゃないか。目の前のガラスケースにじょじょにネタが増えていくのを見ながらビールを飲むのも一興だ。
大将が「待っている間にどうぞ」とメンマを出してくれた。この気遣いが嬉しいぜ。
大将が「何にしましょうか。みなさん盛り合わせを頼む人が多いですけど。」と言う。うん、あまりこだわりはなく適当に食べたい気分なので、では盛り合わせにしよう。そして、それで足りなかったらまた個別にオーダーする感じにしよう。
ちなみに、アラカルトにしてもどれも安いのだ。上の写真、拡大してメニューを見れるかな?
出世巻き・しんこ巻・玉子巻・きゅうり巻などは120円。これらはちょっと前までは100円だったそうなのだ。いか・たこ・玉子などは150円、えび・はまちなどは200円、うに・あわびも400円だ。お財布に優しい。赤だしが100円なのも気になる。
僕はわりと恥知らずな人間なので、大将に「ちなみに盛り合わせはおいくらなのですか?」って聞いてみた。9貫で1500円なのだという。なかなかにお得ではないか。やったね。
「実はここに来たくって旅の行程を調整してきたんですよ」みたいな話をすると、「実は旅人も多くってね。自転車日本一周とか徒歩旅の人も来たことがあるよ。」と、旅トークで盛り上がった。
ふと僕は、店の奥のTVに「タモリさん」が写っているのに気が付いて、大将に声をかけた。「大将、まさか世にも奇妙な物語を見ていたのですか…!?」と。
大将は「そうだ」と言った。
そうだったか、世にも奇妙な物語35周年SPの放送日は今日この時間であったか。家族に録画を頼んであったが、すっかり忘れていた。
長寿番組の世にも奇妙な物語は、2025年で35周年になる。これを記念して、視聴者からリクエストの多かった過去作4本を放映しているのだそうだ。
大将は「さっき織田裕二とかキムタクとか出ていたけどさ、みんな若いのよ!」と興奮気味に話し出した。「織田裕二の出演作は35年前だから、そりゃ若かったでしょうね。」って答えた。
あと、織田裕二もキムタクも見ていたということは、直近1時間半はお客さんいなかったんだなってことにも気付いたが、その件はもちろん口には出さなかった。
世にも奇妙な物語の最後の作品、「恋の記憶止まらないで」が始まった。2019年の比較的新しい作品だが、近年の作品にしてはとんでもなく怖いものなのでネットが大いにザワついたものだ。僕も2019年当時に見て戦慄した。
そんなことを大将に報告し、一緒に見た。大将は寿司を握ったり電話対応をしながらチラチラとTVを見て、「そうかそうか、確かにこの女は怖ェな、ギャハハー!」とか言っていた。うん、この人と一緒に見ると全然怖くねぇ…。
しかもながら見だから大将、このストーリー頭に入ってないだろ?僕が来なかった方が(タモリ的には)よかったかもしれないな。
あぁ、なんかずっと世にも奇妙な物語の話になってしまって恐縮だが、握り寿司の盛り合わせも来た。ボリューミーだーし美しい。失礼だがお店の外観や内観とのギャップに驚いた。
TVから流れる、恋の記憶止まらないで~♪ の歌を聴きながら寿司を食った。
寿司、どれもうまい。あんまり魚の種類には詳しくなくって、いくつかは何を食べているのかわからない。でも、ビールを飲みながらいろんな種類の寿司を1つずつ、自分の好きな順番でテキトーに食べるのが楽しい。
カウンターのお寿司屋さんではあるが、大将は気さくで話好きであり、いい意味で全く緊張感はない。等身大で楽しめるお店なのだ。
当初はネタを追加注文しようと思っていたが、これだけ食べると結構満腹だ。それでは、最初に気になった100円の赤だしで締めるとしようか。
ちょいと時間がかかったが、お茶を飲んでいると赤だしが出てきた。あぁ、赤だしと温かいお茶が体に染み渡る…。100円でこのボリュームでこの味。オーダーしてよかったなぁ。
満腹だし満足して、大将にお礼をいいお店を出る。
ところで僕が店内にいた間も、他のお客さんは来なかったよ。
時刻は23:30。少し歩いたところで振り返ると、大将が閉店準備のために外に出てきたのがチラッと見えた。
改めて見れば廃墟かもしれない
翌朝、僕は再び出世寿司の前にやってきた。国道を挟んだ対岸、快活CLUBもあるのだがコンビニもあるのでね、そこで朝ごはんを買おうと思っていたのだ。
うーん、明るい時間に見るとボロボロっぷりが際立つなぁ。昨夜は照明が付いていたので生活感があったが、この状態では「営業していないのかな?」って思われてしまうのもしょうがないなぁ…。
むしろ、昨夜の出来事は夢で、本当に廃墟だったらどうしよう。世にも奇妙な物語なら、絶対そういう展開になるよね。
側面からの図だ。中央の赤い看板には「大人のおもちゃ」と書いてある。ちょっと待てちょっと待て…。いや、しかしとっくに廃業している雰囲気だ。
横から見えるこの建物、過去に出世寿司以外の店舗がいくつか入っていたのかもしれないが、今は出世寿司以外は全部廃業しているのだろう。つまりは「廃墟ビルの中で1軒だけ営業しているお店」みたいな表現が妥当なのかもしれない。
…となると、「ほぼ廃墟」って言ってもあながち間違いじゃないのかもしれないな。
外階段を登ると「カラオケ・バーGARAGARA」というお店があったようだ。
看板はあまり劣化していないものの、階段の行く先のビルはボロッボロだ。そんなところでカラオケしたら、歌声が国道で信号待ちしている車や人に全部聞こえちまうぞ。
40数年の歴史を持つという出世寿司。一時期は緑のテント看板が破れたりなくなったりと、今よりさらにボロボロだった時代もあるそうだし、ぶっちゃけ入る人を選ぶかもしれないけど、入ってみれば安くていいお店。
さぁ、あなたが夏休みに訪れる場所、これで決まったね?
出世寿司の反対側のコンビニで朝ごはんを買った僕は、こうして栗東市を後にする。
これにて世にも奇妙な夜の物語はおしまい。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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