熊本空港のすぐ脇に、ホットドッグを販売するキッチンカーがあった。Webには「廃車にしか見えない」・「廃車だと思っていた」・「でもホットドッグ絶品」などという、ギャップ甚だしいコメントがあふれていた。
キッチンカーの名前は「ホットドッグ四ツ葉」というそうだ。
なんとも言えない興味をそそられ、そっとブックマークしていたのだが、コロナ禍で思うように旅ができずにやきもきしているうち、2021年3月に閉店してしまった。
これはかつての営業風景を撮影した方からご提供いただいた写真だ。あぁ、僕も実際にここに行き、このパイプ椅子に座ってホットドッグ食べたかった…!
ただね、その後に後継者が現れ、新しい車で営業を再開したそうなんだ。かつてのボロボロの車は引退し、西原村という村のあるところに保存されているらしい。
じゃあ行こうか!ホットドッグを目指す?かつての車を目指す?うーん、両方行こう!
ホットドッグ四ツ葉、その45年の歴史
僕の訪問レポートにカタルシスを感じていただくためにも、ホットドッグ四ツ葉とはなんぞやっていうのを簡単にご説明しよう。かつてのホットドッグ四ツ葉は一度も訪問したことないのに恐縮だが、それでも説明無しでは本題がボンヤリしてしまうのでご説明しよう。
ちなみにこの章で挿入する写真は、かつてのホットドッグ四ツ葉である。
僕は訪問したことないのだが、SNSを介してご紹介いただいた写真に対し、ブログ掲載許可までいただいたものを挿入する。誠にありがたい話よ。
1976年から熊本空港脇で営業していたこの店は、日産チェリーっていう昭和時代のバンを使ったキッチンカーで、ご夫婦が営んでいたそうだ。
ホットドッグは挟む具材に応じて6種類があった。リョーユーパンっていう福岡県の製パン会社のホットドッグ用のパンを使っており、オーダーごとに車内のオーブンでパリッと焼き上げており、そこに特製マスタードと共に具材を挟む。
そうやって1つ1つ丁寧に作っているので時間がかかり、ときには行列もできていたという。
そんな焼き立てのホットドッグがリョーユーパンの紙袋に入って提供される。この温かい紙袋を受け取ったときは、さぞかし幸せな気持ちになれるのであろう。
2016年の熊本地震においても、大きな被害なく乗り越えた。2017年頃にはオーナーのおじさんが体調を崩して1年以上の長期休業になったりもしたが、それでも復帰した。以前は移動式だったキッチンカーは年季が入りすぎてもう走行が困難になり、ここに据え置きとなったが、それでも普通に営業していた。
そんなホットドッグ四ツ葉。SNSで呼びかけたところ、当時を知る人からのコメントをたくさんいただいた。
「よく通っていた」・「通りすがりにいつも見ていた」・「親子三世代で長年お世話になった」・「オーナーのおじさんとお話ししたのが思い出」、などなど、ほっこりする生のコメントに胸が熱くなった。
そんなお店が2021年3月に、45年の歴史に幕を下ろしてしまった。僕もそのニュースを見て悲しんだ。…が、結論から言うと約半年後に別のかたちで復活するのだ。
閉店を知ったキッチンカー事業をしている人が四つ葉のおじさんに直談判し、営業を引き継いだのだ。これまでは頑なに後継者を作らなかったおじさんだが、信頼して任せられる人がようやく登場したそうなのだ。四つ葉2代目の誕生だ。
こうして2代目は半年間おじさんの元で修業し、デビューした。もともとの車を使うことも検討したが、ボロボロすぎて修理する費用が莫大すぎたので、新しい車を初代の車っぽいデザインにして活用することとしたそうだ。
熊本の多くの人に愛され、そして記憶に深く残っている思い出のホットドッグ屋さん。
残念ながら初代のお店は訪問できなかったが、どんなものだったのか気になる。だから自分の目で確かめに行くことにしたのだ。
ボロボロの日産チェリーに会いに行く
ようやく本題だ。
さて、改めて自分自身の想いを整理すると、僕が四つ葉ホットドッグの興味を持っている要素は「味」・「車」・「初代オーナーさんの人柄」の3つだ。
3つ目について、初代オーナーさんはすでに引退しているので、いきなり会うのは非常に困難だ。それにホットドッグを売ってくれるオーナーさんと交流を持ちたかったので、これは実現不可能であろう。
2つ目の車についても、初代の車は既に引退しているので同上…って思っていたが、模索していたら出会える可能性を見つけた。
…ってことで現地に飛んだ。2023年のことだ。
場所は熊本空港にほど近い西原村にある「キッチンカー九州.Lab」という、キッチンカーを製作・販売している会社の敷地内だ。実は2代目オーナーは、ここの会社の社長さんなのだ。
いた。カーポートの下、直接の雨からは守られる立地に、初代のキッチンカーである日産チェリーがいた。
Webでは幾度となく目にしている車であったが、やっぱ本物は存在感が違う。有名な神社仏閣を前にした際も感じていた感覚だが、そうか、この車は僕にとって「金閣寺」や「奈良の大仏」と同じ位置づけなのか…。
サビッサビで鉄臭いにおいがしそうなほどだ。こんな車体で45年間も、ほんの2年前まで営業していたんだなぁ。
屋根に乗っている黄色い電飾看板はもうバッキバキに割れている。ボンネットにはかどうじて『HOT DOG』の文字が、まるで亡霊のように浮かんでいるのが見える。
側面に回った。ボディに引かれた水色のかわいいラインに「HOT.DOG」と書かれている。窓を見ると後部にはまだカーテンが設置されている。
この中でオーナーさんは、夏の暑い日も冬の寒い日もホットドッグを作っていたのだなぁ。今のキッチンカーと違い、45年も前の車だと寒暖は相当に応えていただろう。車と共に過酷な環境を耐えてきたのだと、ヒシヒシと感じた。
車内は周囲の景色が反射してほとんど見えなかった。だが、そんな中でも唯一目立っており認識できた存在が、コーラのロング缶。
車内ではドリンク類も売っていたというが、そのときの残りの1つなのであろうか?わずかに垣間見えた営業時の名残に興奮と切なさが同時に込み上げる。
四つ葉のクローバーのマーク。
今回僕はこの車を見つけられて、まさに四つ葉のクローバーを見つけたときのようにハッピーな気持ちになった。当時の人はどうだったかな?偶然見かけて立ち寄れた人は、間違いなくハッピーになり、記憶に深く刻まれただろうな。
この勢いで2代目の営業場所にも突撃し、ホットドッグに前歯を突き立ててやりたい気持ちなのだが、2代目は毎日営業しているわけではない。
週末をメインに、道の駅やイベント会場を転々としており、その情報はインスタグラムで告知されている。この日は平日で日営業日であり、そして旅の日程的に週末まで熊本に滞在するわけにもいかない。
従い、この2023年の旅路では初代の車を見るだけとした。
春うららな空の下で絶品ホットドッグを
少しだけ時は流れ、2025年春のことだ。僕は再び熊本県を訪れた。もちろん四つ葉のホットドッグに食らいつくためだ。そのためにずっと牙を研いでいた。
この日、ホットドッグ四ツ葉が出店するのは、阿蘇に向かう道沿いにある「道の駅 大津」であった。13時ごろ、僕はここにワクワクしながら到着した。昼ご飯だ。
夕方まで出店予定なのでこの時間に売り切れている可能性は低いと思ったが、それでもドキドキしながら駐車場に滑り込んだ。
愛車を降りた直後に見えた画角がこれ。澄み渡った春の青空の下の道の駅。
人も多いしパラソルもたくさんあって賑わっている中、あなたにはホットドッグ四ツ葉のバンが見えるかな?ちょうど写真の中央にそれが写っている。営業している雰囲気が見て取れたので、僕は小さくガッツポーズをした。
間近に見えてきた。これが2代目のバンだ。ピッカピカだ。初代も昭和時代はこのくらい綺麗だったのだろうな。紅白のパラソルも初代を踏襲しているっぽいな。リスペクトが丁寧だ。
斜め前方から眺めてみた。「ホット.ドッグ四つ葉」の黄色い電光掲示板も再現されているし、車体のペイントも初代のままだ。
個人的には初代同様に丸めの車がレトロっぽくて好きなのだが、さすがにそこまでは再現できないよね。これはしょうがない。
車内には『本日開催 ウインナー祭』というプレートが掲げられていた。なにそのめでたそうな名前の祭は。どうやら今日だけ特別でウインナーが増量なんだそうだ。それは確かに"祭"以外に表現しようがないね。祭りだ祭りだ。
じゃあ、具体的にメニューを見ていこう。
ウインナー・チーズ・魚肉ソーセージ・たまご・ツナ・ハム、そして複数の具材が入っているミックスの計7種類だ。初代の頃のミックスはウインナー・チーズ・たまご・ハムだと聞いているので、初代のもとで技術を学んだ2代目もきっと同じであろう。全部500円。
よく見ると魚肉ソーセージとツナにはSold outのテープが貼られていた。残りは5種類だ。
今回は同行者がいるので、ミックスとたまごの2つを購入することにした。
やはり初回訪問ではいろんな具材を食べてみたかったのでミックスは即決。初代の頃は基本300円でミックスだけ350円であった。それが一律同じ金額になったってことは、ミックスはお得感があるな、という浅ましい考えももちろんある。
2つ目を何にするかは迷ったけど、たまごが食べたい気分だったのでそれにした。
焼き上がりまでは10分弱かかるというので、四つ葉のバンが見える範囲でほんの少し歩き回ることにした。
道の駅大津の敷地内には、オートバイ神社っていうのがある。ライダーさんたちの大好物である阿蘇エリアが近いので、こういうコンセプトの神社を設置したのだろう。
ポールの上には本物と思われるバイクが高々と掲げられている。なるほど、あのバイクを崇めるのね。僕はバイクには詳しくないが、SNSで質問したら「CB1300SFのSC54」だと教えていただけた。よくわからないけども、かっこいいね。
そろそろ出来上がりかなって思って戻ってきた。
ここで気づいたんだけど、幟に「ガツンとカラシのホットドック」って書いてあるね。初代からの特製マスタードが健在であることを示す幟だ。ただね、結論から言うとそんなに辛くないよ。ちょいとスパイシーではあるが、子供でも安心して食べられる。僕の味覚が鈍いだけかもしれないけども。
そして僕のオーダーしておいたホットドッグが焼きあがった。
温かい紙袋を受け取り、道の駅内のベンチスペースにルンルンで向かった。…え?スキップしてました、僕?
紙袋は前述の通りかつてはリョーユーパンのものだった。だけどもリョーユーパンがその紙袋の製造を辞めてしまったので、2代目になって早々に紙袋をチェンジせざるを得なくなってしまったそうだ。
なので今はオリジナルの紙袋。これもいいよね四つ葉マークがかわいい。
中から出てきた半透明の袋。これはかつてのままのデザインだ。『貴方に幸福 ホットドッグ四ツ葉』と書かれている。この袋を手にした時点で幸せが約束されたってことだ。
Webでこのお店の存在を知った数年前、閉店に涙した2021年、再開に喜んだ同じく2021年、ボロボロのバンを見に行った2023年、幸せを掴んだ2025年。走馬灯にように思い出が流れる。
出てきたのは表面をカリッと焼いたホットドッグ。でも中はフワフワ。この食感がたまらない。
ミックスは、食べる方の側からたまご・ウインナー・チーズの順に並んでおり、そのサイドをハムとキャベツとキュウリが固めている。これは「アツアツなのでまずは食べやすいたまご」・「最後は少し冷めて食べやすくなり、かつインパクトを残すチーズ」と、計算された配列になっているそうだよ。初代の考案した方程式だ。
僕もまんまとこの作戦にはまった。まるでフルコースのように食べていくホットドッグ、真ん中のウインナーのときのテンションが爆上がりでヤバかった。パキッとした食感が神。
たまごの方のホットドッグは、たまごと野菜のみなのだが、マイルドでなごむ。ケチャップがアクセントになっており、最後まで飽きない。
初代の営業時に訪問することは叶わなかったが、充分にいい思い出を作れた。
次は2代目が数10年営業を続けることで、また新しい思い出を地域の人と気付いていくことだろう。そうやって2代目のピカピカのバンがボロボロになる頃、また僕もここを訪問したい。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: ホットドッグ四ツ葉
- 住所: 出店場所は複数あるため、公式インスタを確認のこと
※記事内に登場した道の駅大津は、 熊本県菊池郡大津町引水759
- 料金: 各種ホットドッグ¥500
- 駐車場: 出店場所による
- 時間: イベントに応じて変動するため、公式インスタを確認のこと