あなたは琵琶湖を眺めるために設置された絶景ベンチ、「あのベンチ」をご存じであろうか?
ここ数年のインスタグラム等のSNSの台頭により、2・3年前からインスタ映えするスポットとして有名になって来た。
場所は少し前まで公開しないのが暗黙のルールだったようだ。
最近はずいぶん有名になり、Googleマップでもピンが立っている。
そんなベンチを目指したドライブの話をしよう。
あのベンチ_PartⅡ
たぶん、ここを右折なのだろうな…。
事前にあのベンチの場所を調べておいた僕は、「さざなみ街道」の別名を持つ湖畔の県道25号を右折することとした。
湖畔沿いの県道25号から、さらに湖に接近するのだ。
本当に琵琶湖ギリッギリの湖岸の道だ。この道沿いにベンチが存在する。
今、琵琶湖に向かっている。
右手に見えているのは琵琶湖ではない、「愛知川」だ。鈴鹿山脈を源流とし、琵琶湖に注ぐ一級河川だ。
愛知川と共に琵琶湖まで行き、僕は愛知川にように琵琶湖にダイブするわけにはいかないので、直前の道を左に進路を取る。
…ん?ここか??
スマホからGoogleマップを確認してみた。ピンは確かにここを指している。
しかしなんか違う。確実に違う。
もっとこうね、大きな木があって、その木の根元に琵琶湖を向いたベンチがあって…。
うん、確かに大きな木はある。そしてその根元には琵琶湖を向いたベンチがある。
でもなんか違うんだよなー。
いや、でもこんなもんなのかなー。マクドナルドだってメニューの写真と実物は違うしなー。
パラレルワールドに踏み込んでしまったような微妙な気持ちだ。
どこかがおかしい。
木は、こんなに和テイストなグニャッた松だっただろうか?
ベンチは背もたれもない、こんなグンニャリとしたカーブを描いたものだったろうか?
僕は今、グニャグニャした別の世界線に迷い込んでいるのではなかろうか。
ちょっと落ち着け、ベンチ座って考えよう、せっかくだから。
目の前に広がる琵琶湖は最高の眺めであった。
日本一大きい湖の貫禄は伊達ではない。どこまでもどこまでも広がり、対岸は霞んでいるのでパッ見では水平線まで続いてそうなスケールだ。
深呼吸してみた。冷たい空気が肺いっぱいに入る。
右を見ると、雪を被った「伊吹山」が聳えていた。
うん、これでいいじゃないか。
そこにベンチはあった。なんか違和感はあるけど、そんなちっぽけなことでガタガタ言う人生はつまらん。
この巨大な琵琶湖を見ていると、そういうおおらかな気分にさせてくれる。
…いや、待て。
さすがに違うだろ。
危なく「これでいいじゃないか」で終わるところだった。琵琶湖に絆されるところだった。
琵琶湖まで来て本命のベンチを逃して帰ったら、しばらくは悔いが残る。
ベンチに座り、ちょっと検索する。
結果から言うと、あと1㎞程湖畔を西に走ったところが本命の"あのベンチ"ではないかと考えた。
で、このベンチはと言うと…。
2022年3月の執筆時現在の僕が、得られた範囲から推測も交えてご説明する。
Googleマップでは「あのベンチPartⅡ」と書かれている場所だ。
たぶんだけど最近誰かがそういうネーミングでピンを立ててくれた場所だ。
僕が現地訪問したときには、確かにここが"あのベンチ"であった。パートⅡなんかじゃなかった。
そして、おそらく結構最近、少なくともコロナ禍が始まってから設置されたものだ。
本命の"あのベンチ"は緊急事態宣言のときなどに長らく撤去されたりしたそうだから、もしかしたら誰かが代わりとして置いてくれたのかもしれない。
さらに、Webなど検索すると"あのベンチPartⅡ"としてほんの少しずつ知名度が上がっているような気配だ。
決して偽物などではなく、「ベンチは2つある」ということで2つセットで立ち寄れるスポットとしてもっと知名度が上がれば、それは幸せな世界かもしれない。
では、本命に向かおう。
アクアブルーのコラボレーション
湖畔ギリギリの道をゆっくりと走って行く。
道すがら、何箇所かで数人ずつ固まった人々が、湖に向かって大きなカメラを構えていたのが目に入った。
バードウォッチングだろうか?いいね、確かにこのあたりは鳥が多い。
しばらく走ると、Web上でよく目にする"あのベンチ"が現れた。
うん、ここだ。間違いない。
時系列は少しだけ前後するが、ベンチと木と湖畔を映した写真をまずはご紹介する。
ここだここだ。
周辺は広い空き地となっているので、駐車は非常に容易だ。
先客は2人いて、うち1人の方はベンチの横に愛車”ハスラー”を停めて撮影をしていた。
知っていたし想像も容易なことであるが、ここはインスタ映えスポットとして有名になったので、ベンチに座ってゆっくり休むための人よりも、撮影のために来る人が圧倒的に多いと思われる。
特に車乗りやバイク乗りの人は、愛車とこのベンチを一緒に撮影したいのだ。
結構そういう人がゾロゾロ来るので、写真を撮ったらササッと車あるいはバイクをどかすのがスマートだと思われる。
すぐにハスラーおじさんがこちらに来て、「すみません、すぐどきますので」みたいに言ってくれる。
気を使わせたくないので「いやいや、ごゆっくりどうぞ」みたいに返す。
すると「一緒に車を並べて写真を撮りませんか?」と提案してくれた。
フォッ!?
予想外のお申し出。よしっ、面白そうだ。
あぁ…、美しい…!!
空も湖も車も青だ。
ハスラーおじさんは、「同じ色合いの車だから並べて見たくって」と言っていた。
どちらもレトロな風合いの車。
「珍しい車と並べて嬉しい」としきりに言ってくれてた。
僕も、他の車と一緒に撮影する機会ってあまりなかったから嬉しいな。
ハスラーおじさんは「別にナンバープレートをマスキングなんてしなくっていいから」って言ってくれたけど、ポリシーとしてマスキングさせていただこう。
ハスラーおじさんは何度もここに通っている常連さんとのことだ。
「葉の茂っている時期もいいが、冬のこの姿もいい…!」って言ってた。
この木は"センダン"っていう名前の木だそうだ。
センダン…。今までの人生で聞いたことのない名前だった。
Wikipediaさんの情報によると、別名はアフチ・オオチ・オウチ・アミノキなどがあるそうだ。
なるほどなるほど、1つも知らない。
どうやら温暖な国の木らしく、西日本より南にしか存在していないようだ。
…そっか、滋賀県って結構寒かったり雪がドチャクソ積もったりするんだけど、大丈夫なのかな??
「さぁ、お次はソロでどーぞどーぞ!せっかく遠くから来ているんだから!」と譲ってもらった。
さっきのコラボ写真でも結構満足しているのだが、せっかくなので日産パオだけの写真も撮ってみようか。
写真のセンスは無いので、ただただセンダンの木の周囲を一周するだけの活動になるけどな。
しかし、センダンの木はカッコいいな。
非常に絵になる感じで枝が綺麗に広がっている。
これが春以降だと青々とした葉が茂るし、ベンチの周りの草もより生き生きと映えるようになる。
まさに「木陰のベンチ」って感じで最高になるのだ。
だが冬もいい。この枝付きを見ることができるのだから。
他の車が敷地内にやってきた。
別に圧力をかけられたわけではないが、早く譲ってあげたい気持ち。
かといって速攻で立ち去ったらそれはそれで相手に後味悪い思いをさせてしまいそうな気がして、「あとちょっとで終わりますんで待っててくださーい!」と声をかけてみた。
さっきのハスラーおじさんも見ているし、後続の人もいるので、実際はちょっとだけ恥ずかしい思い。
後日談ではあるが、僕が立ち去った後すぐにベンチ設置者の方がここに現れ、ハスラーおじさんはその方といろいろ会話ができたそうだ。
あー、羨ましい。僕もいろんな話を聞いてみたかった―。
どうやら、このベンチが設置されたのは2008年頃。
近くに住む、2022年現在は70代の男性によるものらしい。
もともとこのセンダンの木は、その男性のおじいさんが植えたのだそうだ。
その木の根元に男性がベンチを置いたのが、2008年頃。
この1代目のベンチには背もたれが無かったようだ。
背もたれの付いた2代目のベンチが置かれたのは2015年。
そのころから写真映えするとのことで、少しずつ口コミで広まる。
その後2018年にTVで取り上げられたりして、一気に有名になったらしい。
詰めれば3人くらいの大人が座れる規模だろうか?
ゆっくり座るのはちょっと憚られるくらいの人気スポットではあるが、見るだけでも絵になるベンチというのも、また素晴らしいステータスなのかもしれない。
いつか機会があったら、緑豊かな時期に来てみようか。
そのときは、また違う感動を味わえるだろう。
パオに乗り込み、エンジンをかける。
近くで見守ってくれていたハスラーおじさんにお礼を言い、僕は次のスポットへと走り出した。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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