インスタグラムで爆発的な人気となる観光スポットが稀にある。
「濃溝の滝」・「モネの池」・「父母ヶ浜」・「清津峡渓谷トンネル」・「あのベンチ」…。
少なくとも四角いフレームに収まる範囲で言えば、どれもインパクトは絶大であり、文化と自然の融合した芸術作品だ。
僕もそういうところには、それなりに足を運んでいる。
そして今回ご紹介する「燈籠坂大師(とうろうざかだいし)の切通しトンネル」も上記の例に違わない。
ここ数年でライダーさん界隈に人気爆発中のインスタ映えするスポットである。
ここだ。
インスタ映えスポットなので、正直この1枚の迫力をお届けすることでもうお話は90%くらい終わってしまう。
ただ、せっかくブログを運営しているのだから、もう少し多角的に書いて行こうと思う。
…僕がここを訪れたのは、ある晴れた冬の日…。
国道裏の切通し
いやはや。僕は驚いた。
房総半島は以前よりちょくちょく走っており、ましてや海沿いの国道はお馴染みのドライブコースであった。
燈篭大師坂の切通しトンネルは、その海沿いの国道沿いにあると言っても過言ではない。
距離にして200mほどであろう。
にもかかわらず、僕は近年まで燈籠坂大師の切通しトンネルを全く知らなかった。
インスタで人気沸騰してから知った。
皆さんの調査能力、素晴らしい。
ではでは、国道からのアプローチイメージをまずはご紹介したい。
国道127号。
房総半島を一般道で一周するならば誰もが走る、内房の国道の一角だ。
トンネル手前に鳥居のような赤いアーチがある。ここが入口だ。
赤い柱にちゃんと「燈籠坂大師」って書いてある。
そして、その後ろで黒い車が停まっているのが駐車場だ。6台くらい停められると思う。
駐車場から切通しまでは非常に道が狭いので車での侵入はよろしくない。
徒歩2分で切通しまで行けるので、ちゃんと駐車場に停めておくのが無難だ。
午後13時台だけども、もう太陽は見えない。
そういう谷間の立地なのだ。木枯らしが身に染みる。
では、歩いて切通しに向かおう。
すぐにトンネルが出てくるが、それは有名な切通しではないのでバシャバシャ写真を撮るのは時期尚早だ。
立て札がある。
これより先は駐車できません
手前の駐車場をご利用ください
※地域住民以外の車両通行はご遠慮ください※
手前の駐車場というのが、さっき僕が駐車したところだ。
ゴチゴチの素掘りトンネルだ。
有名な切通しではないが、これはこれでハンドメイド感が素晴らしい。
ただ、仮に車で突入したら擦れ違いはできないだろう。
インスタ等にUPするライダーさんたちはもちろんここを通過してしまっているのだが、まぁあえてそれには僕は言及しない。
トンネルの出口が見えてきた。
人がいるのがわかるだろう。あそこはもう切通しの目の前だ。
あの人がいるところで道は直角に右に曲がり、そしてすぐに切通しだ。
はい、すごーい。
綺麗に垂直に削られた岩盤。その隙間の小道が現れた。
右奥が黄金郷みたいに金色に光っている。神々しい。
ここが今回の目的、燈籠坂の切通しトンネルだ。
古代遺跡のような空間で
では、実際に切通しを歩いてみよう。
ちょうど数人のライダーさんが愛車の撮影に勤しんでいたので、うまいことその合間を縫ってトンネルに入った。
うん、確かにあそこに愛車を停めて撮影したらかっこいい。
僕の愛車の日産パオもできれば停めてあげたいが、さっき『通行はご遠慮ください』って書いてあったから辞めておくわ。
なんか途中で地元の方と思われる軽トラがすぐ目の前までやって来て、そしてバイクが数台停めてあったのでスムーズに通れずにマゴついてしまった事象も目にした。
うまいこと地元の方にも許容いただける状態が続けばいいけど…って思う。
しかし、かっこいいな…。
トンネルの天井までの高さは10mほどはあるだろうか?
トンネルの上の木々が生えているところまでは20m近くはあるのだろうか?
見上げるほどにダイナミック。
そんな素掘りトンネルなのだ。
あえてライダーさんが写真に入っているのは嫌味からでも無いし、本来はフレームアウトさせたかったとかそういうわけでもない。
このスケールをお届けしたかったための媒体だ。
少しだけ歩いて、トンネル入口を振り返った。
真冬の低い日差しがトンネル開口部から長く射し込んでいる。
それが神秘的ではなかろうか。
僕はまるで古代神殿のようだと感じたが、よくよく考えたら古代神殿を見たことがほぼゼロだ。お恥ずかしい。
進行方向の図だ。
既にトンネル区間は終わっている。頭上にトンネルがあったのは、15mほどだろうか?
その後は、上の写真のように深いクレバス状の切通しとなって続いている。
ただ、その切通し自体も間もなく終焉だ。
山の傾斜に合わせてここから50mほどで消えているのがお分かりだろう。
天を仰いだ。
わずかな隙間からは、冬とは思えない緑が覗いていた。
「天上界はまだ夏なのかな?」と思ってしまうような眺めであった。
再び後方を見る。
まだ入口のバイクが視界に入っているが、そろそろ切通しも終わりだ。
切通し自体の長さは100mに満たない程度なのだろう。
そして出口だ。
短かかったが、そこには確かに冒険があった。
「あのSNSで有名なスポットを歩けたんだな」という満足感があった。
燈籠坂大師を参拝する
よし、ここで重要なことを忘れてはいけないぞ。
今回訪問したのは燈篭坂大師である。
あくまで、あの切通しは"燈籠坂大師に行くための切通し"なのである。
…となれば、ゴールの燈籠坂大師とはどういうものなのか見ていかねばなるまい。
なにせ、燈籠坂大師のために切通しができたとも言えるのかもしれないからな。
燈籠坂大師は、切通しを抜けたところから折り返すように山の斜面を登る立地だ。
上の写真の右上の隅に赤い社が見えるだろうか?あれが拝殿のようだ。
徒歩2分ほどの距離なので、あなたもせっかくここまで行かれるのであれば、ぜひ参拝も兼ねてほしい。
石段を20段ほど登ったところで参道は二手に分岐する。
男坂は短いが階段であり、女坂は少し距離はあるがスロープが多く取り入れられていた。
僕は何も考えずに目先のゴールに飛びつく人種なので、ゴールに向かって一直線の男坂をチョイスした。
谷間を脱出し、参道にも僕にも冬の日の光が当たる。
地下から天上へと出てきた気分だ。とても気持ちがいい。
さぁ、もう少しだ。
そして到着。
うおぉ、なんか気持ちがいい!
ここは切通しの真上とまではいかないが、天井部分の真横近くに当たるのだろう。
道路からの高さは20mほどだろうが、なかなかに爽快だ。
拝殿付近には何名かの人がベンチに腰掛けて景色を見ていた。
SNS世代は下の切通しを眺めているが、シニア世代はここからの眺めだ。
人気が二分されているのが面白い。
景色を眺めていたら、ちょうど眼下の線路を内房線が走って行った。
深い谷間ではあるが、ご覧の通り背後には海が見えている。東京湾だ。
ここは、海沿いの房総半島一周ルートからほんの少し離れた秘境なのだ。
なぜ切通しはできたのか
燈籠坂大師は、あの「弘法大師」が旅の途中に立ち寄って休憩した、という伝説があるらしい。
もっとも、弘法大師さんは神出鬼没で全国各地に足跡を残しているし、なんでもなんでも弘法大師さんに絡ませているような節もある。
だけどもそういう謂れは大切にしたいね。
どうやら江戸時代の人々は、海沿いから山を越えてこの燈籠坂大師を参拝していたようだ。
しかしそれはシンドいので山を削ってトンネルを作り、アプローチを楽にしたらしい。
こんな感じだそうだ。
まずは明治時代、素掘りで小さな切通しとトンネルが出来た。
まぁまぁ便利にはなったが、まだ地面との高低差があるし、切通し自体が狭くて不便であったのだろう。
昭和初頭、さらに切通しを掘り下げて、現在のようにほぼフラットな路面を実現したのだそうだ。
だから現在、バイクや車で切通しを通り抜けすることもできるほどに高低差がないのだね。
そして、これを念頭に改めて切通しトンネルの断面をご覧いただきたい。
こんな感じで、2段階工事の痕跡がわかるのだ。すごい。
ちなみに昭和のこのダイナミックな掘り下げは、地元の人たちが頑張ってやったそうなのだからなおすごい。
ただ、地元の人も素人ってワケではない。
石切りのスキルを持っている人たちだったのだ。
内房を走ったことがある方であれば、この"石切り"の単語でピンと来るものがあるだろう。
上の写真から窺い知れるように、この山は石切り場跡であり、大規模な石切りが江戸時代から昭和末期までずーっと続いていた。
房州石っていう、石のブランドになっていたのだよ。
内房の人たちは、このスキルを要していたのだ。
鋸山をここまで削っちゃうくらいだもん、燈籠坂大師の10mや20mの切り下げなんて朝飯前だったのかもしれない。
こうして完成した切通しトンネル。
苦労して開通させた、燈籠坂大師への参道である。
昭和時代に成就した利便性と、令和に通じるカッコ良さの双方を持ち合わせたこのスポット。
今後も大事に守っていきたいね。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 燈籠坂大師の切通しトンネル
- 住所: 千葉県富津市萩生8-2
- 料金: 無料
- 駐車場: あり
- 時間: 特になし