こんばんは、【週末大冒険】のYAMAです。
2022年度がスタートしますね。
あなたも多かれ少なかれ、新しい1年に足を踏み出すのでしょうね。
おめでとう。陰ながら応援させていただきます。
さて、この僕は…。
ちょっと思うところがありまして、ブログの体裁をガラリと変えます。
ドライブスポット情報ブログはもう卒業です。うん、そんなもん止めだ止めだ!
これからは日常ホラー系ブログをやるのです。
時代はオカルトですよ、あなた。
週末大冒険改め、【終末大冒険】。
4月からの新生活、一人暮らしを始める方も多いでしょう。
第1弾は、そんなあなたに贈るホラーでステキな応援歌!
それでは今年度もよろしくお願いいたします!
1. イワカン
これは、僕が仕事の関係で、とある都市(以下B市と記載)と実家の両方を拠点に生活していた時期のお話である。
7月の上旬。自宅のあるB市に久々に5日間だけ帰ってきた僕。
その最後の夜のこと…。
深夜1時すぎ、仕事を終えた僕はフラフラになりながらB市の自宅マンションに帰って来た。
もうここ数日シンドい。
朝6時台から24時台まで仕事。しかし今が踏ん張り時。
…ん?
アレはなんだ…??
僕の部屋の前に、なんか神社の狛犬みたいにドアの左右に置いてある、あの円柱状のものは何?
ま、すぐにわかったんだけども缶コーヒーだ。
眠くて頭の中には霞がかかっているが、そのくらいはわかる。
チッ、誰かここいらでたむろして捨てずに帰ったのか?
治安も良くない町だしな、ありえるかもしれない。
でも、オートロックの綺麗なマンションなのにな。
わざわざこんなところでコーヒー飲んで捨てていくかね?
しかも、こんな狙ったのように僕の家のドアの左右に…。嫌がらせも甚だしいぜ。
僕が出来るオトナであれば、ちゃんと缶を捨ててあげるんだけども、今は深夜1時過ぎ。ヘロヘロ。
だから今はどうでもいいやーって思い、そのまま無視してドアを開けて部屋に入ろうとした。
その際、チラッと足元の缶コーヒーを見る。
あれ…?未開封…?
背筋にゾクッと得体の知れないものが走った。
何かが奇妙だ。第六感が何かのアラートを告げている。
すぐに部屋に入り、そして施錠した。
2. サシイレ
午前1時過ぎのマンションの自室。
僕は心がザワザワと異変を告げるのをごまかすかのようにPCに電源を付ける。
そしてWebに『おぉ、退勤したのが24:30になっちゃった。でも帰れただけ幸運!』って書き込んだ。
…そのときであった。
僕のいる隣の部屋のドアが、「ギー… …」と開いた。
そして「カシャン…」と静かに閉まった。
まぁ僕の家は24時間眠らない町にある。
深夜だろうと何時だろうと、人が行き来するのは珍しくはない。
…いや。でもしかし…。
僕の隣って、人が住んでいたっけ?
それはさておき、僕の帰宅数分後という、このタイミングでのドアの開閉音に、言い知れない嫌な予感を感じた。
カツーン、カツーン、カツーン…
深夜のマンションの廊下にやけに足音が響く。
しかしその足音もわずか数歩でピタッと止まった。
あの…、そこってたぶん、今僕がいる部屋の前なんですけど…。
息を凝らして、聴覚全開でドアの向こうの動向を探る。
向こうも僕の気配を探っているのだろう。
しばらく時が硬直する。
…そしてまたカツーン、カツーン。
音が遠ざかった。ホッとする。
そしたらまた数分後にカツーン、カツーン。
音が近付いてきた。
誰かが僕の部屋のドアをゴソゴソ触っている。
なんだなんだ??
しばらくの後、遠のく足音が聞こえ、隣の部屋にギィィー、バタン!!
な に … ?
僕の部屋の両側の人は引っ越していなかったハズ。
あぁだけどもそうか、ここ3ヶ月間は家を不在にしていたから、その間に誰か入居したのかもしれない。
しかし、僕の家のドアの前で一体何をしていたのだろうか?
鎮座されていた未開封の缶コーヒーを回収したのだろうか?
いや、もっとなんか嫌な予感がするのだよ。
ソイツは今、僕の隣の部屋にいる。
ベッドの横たわった僕の、ほんの数㎝の薄い壁の向こうにソイツがいる。
くしゃみをすれば100%聞こえてしまうくらいの薄い壁。
うわぁ…、嫌な感じ。
しかも僕、暑いのでバルコニーのある部屋の窓は開けたところであった。
これでさらに物音は筒抜け。
今日は窓を閉めて寝ようか…?
音が出ないようにそーっとそーっと、窓を閉める。
サッシの動くわずかな「キー」という音でも、僕の心臓は止まりそうになった。
そして寝た。寝るに限る。
4時間弱が経過。5:00に目を覚ました。
さぁ、すぐに仕事への出発の準備だ。
昨夜はシャワーどころでなかったので、朝一でシャワーを浴び、テキパキと荷物をスーツケースに詰める。
今日はいい天気だ。昨夜のモヤモヤした思いは、もう頭の片隅にあった。
いつもは朝ご飯もちゃんと自炊するのだが、今回は自宅の滞在日数が短いので、ほとんどコンビニで買ったもので済ませていた。
とりあえずこれから近くのコンビニでパンを買ってこよう。
そして出社したら仕事しながらそれを食べよう。
コンビニへ行こうと、ドアを開ける。
…ん?手ごたえが、変だ。
ドアの向こう側(外側)を見て、僕は面食らった。
ドアの取っ手にスーパーのビニール袋がかけてあったからだ。
中にゴッソリと何かが入っている。
うわっ、怖い怖い!!
だけどもとりあえずコンビニでパン買わねば!
ここはポジティブで現実逃避が得意なO型の僕だ。
スーパーの袋はそのまま見なかったことにして、コンビニでパンを買った。
そして帰宅時にスーパーの袋をチラッと覗く。
覗いただけだ。ドアノブから外したわけではない。
なんか食材が入っているみたいだ。
なんだ?なにこれ?差し入れ?
誰が何のために?
いや、普通に考えて例の隣人なんだけど、会ったことも無い僕のために深夜??
ゾッとするわ!
怖いから詳しく見ないで家に入る。
それから考える。
これは悪意か、それとも好意か。
好意を抱かれるような理由はこの4日間で何1つ無い。
悪意なら心当たりは1つある。
一昨日の夜、もうそれなりに遅い時間なのに洗濯機をゴインゴイン回したからな。
普段だったらそんなことしないけど、深夜にしか家にいないからしょうがなくやったんだよね。
それでキレて、毒入り食料をプレゼントされたのだろうか?
さて…。
人は好意にしろ悪意にしろ、人に物を上げたらその反応が気になるもの。
隣人は僕の反応を期待しているかもしれない。
僕がドアを開けた音は隣にも聞こえているだろうから、もし隣人が起きているのであれば、今このタイミングで自室のドアをちょっとだけ開けて、その隙間から僕の部屋の前を見ているかもしれない。
差し入れを僕が受け取ったか見ているかもしれない。
しかし、まだあれから4時間。時刻は6時前だ。寝ている可能性も高い。
だけども今僕があんまりゴソゴソやると、起きちゃう可能性がある。
ならば一刻も早く、静かにこの家を出なければ。
スーツケースを転がさずにそーっと持ち上げると、家を出る。
出る際にやっぱ後味悪いので、ドアノブにかかったスーパーの袋をひったくるようにして取り、ダッシュでマンションを後にした。
実はね、今日は仕事を終えたらそのまま自宅には帰らずに新幹線で実家のある町に移動する予定なのだ。
たった4日間だったが、さよなら我が家。
さらば謎の隣人。次にここに帰ってくるのは数週間後だぜ!
3. ソウメン
数10分後、到着した職場で考える。
これがB市最終日でよかった…。
また今夜この家に帰るような予定だったら、やっぱ怖いもん。
男の僕でも怖いのだから、こういうの1人暮らしの女子大生とかだったらマジで恐怖なんだろうなー。
そういう気持ち、ちょっとわかったぜ。
ちなみに僕は女子の平均よりも体格・筋力共にたぶん劣っているから、何かあったら相手が誰であろうと負ける気マンマンだ。絶望。
では、スーパーの袋の中身をチェックしよう。
職場のデスクに並べてみた。
- 大袋に個包装の袋のおせんべいがいっぱい入っているタイプのヤツ。それの個包装が2枚。
- おにぎり2つ。鮭と昆布。
- コンビニのそうめん、"揖保乃糸(いぼのいと)"。
- 缶コーヒー2本。
ん?缶コーヒー?
昨日の深夜に家の前に置いてあった2本の未開封の缶コーヒーがコレだったり?
あのときは銘柄までは見ていなかったから、コレとアレが同一かはもうわからない。
だけども思い返せば、今朝は家の前のコーヒーは消えていたな…。
じゃあコレがアレだろう。
全てがナゾだ。
これらをどうしようか?毒が入っているかもしれないし。
そうだ、あとで同僚が出勤してきたら、食べてもらおうかな?
僕は毒を食べるのはイヤだ。
毒を盛られている可能性があるのであれば、慎重にならざるを得ない。
しかし、毒が無い可能性もある。そしてなにより、食べ物に罪はない。
この事態をどう解決しようと考えた結果に出た答えが、「同僚に食べさせてみる」だったのだ。
…というより、得体の知れない隣人は、なんでコンビニそうめんなんていう要冷蔵の物をドアにくくりつけたのだよ?マジで意味わからん。
オニギリだって弱冷蔵環境が必要だしな。
8:30を過ぎると、オフィスに同僚が出勤してくる。
僕は声をかける。
「あのー、そうめん好きっすか?揖保乃糸好きっすか?そこのオフィス内の冷蔵庫に入っているんですけど」って。
当然「え?くれるの?なんで?」みたいな反応をされる。
そんなとき、僕はキチンと事情を話す。O型は損得なしに正直なのだ。それにわかった上で自己責任で美味しく食べてもらいたい。
だから話すのだ。
「昨夜の深夜1時に老若男女すらわからん隣人がゴソゴソ家の前の床に缶コーヒー置いたりドアにそうめんぶらさげたりした、そのそうめんです。」って。
当然誰しもビビる。僕も話しながら改めてビビる。
結局誰も食べてくれなかった…。
まぁそんなこったろうと思ったぜ。おいおいどうすんだよ、この食料の数々…。
昼近くになり、お腹が減ってきた。
しかし僕は仕事が忙しい。
食事のために外出もいいんだけど、そんな暇があるのであれば一刻も早く仕事をひと段落させ、新幹線に乗って実家のある町に移動する必要がある。
冷蔵庫から例の差し入れコンビニおにぎり2つを取り出して考える。
もし毒を盛るのであれば、一番容易なのがこのおにぎり。
チェックをして、包装が破れたりしていないことを確認。
うん、これを食べて無事であれば、他は大丈夫だと思う。だからまずはおにぎり食べてみよう。
最大リスクを乗り越えれば、それは安心への確信に変わるのだ。
同僚たちが「おいおい、食べるのかよ!」と心配する中、食べてみた。
まずは鮭。うん、大丈夫。
念のためにもう1つの昆布も食べてみた。うん、平気。
なんか胃が活発になって来た。僕の胃が「もっと食糧くれ」と言っている。
同封されていたせんべいもバリバリ食べた。
ここまで食べると喉も乾くので、缶コーヒー2本飲む。
この缶コーヒー、きっと昨晩ドアの前の床に置いてあったヤツだよな…。
一応飲み口の周りは入念に拭いておくけど…。
ただしこれが一番毒を混入させづらいだろうから、ここまで来たらたぶん平気。
これで仕事をしながら片手間にランチできちゃった。満足。
改めて考える。
誰が何のために、こんな奇妙なことをしたのだろうか?
まぁ、99%隣人なんだろうけど。
仲が良く、声を掛け合う間柄ならわかる。挨拶をする程度の人でも、まだわかる。
僕がすんごいイケメンで、そして隣人がいい感じの年齢の女性で、僕に一目ぼれとかでも、まぁわかる。
だけども僕の隣人のこと、名前も顔も性別も年齢も知らない。
…いや、もしかして知らないのは僕だけで、相手は僕のことを知っている?
でもこの4日間で僕は深夜にしか自宅にいないし…。
なんとも得体の知れない気持ち悪さを感じながらも午後の仕事をサクサク行い、夕方に仕事を一段落させる。
そして駅から新幹線に乗る。
今日からしばらく自宅に帰らなくっていいことに、ここからの安堵感を覚えた。
とりあえず、新幹線の中で小腹が減った。
よーし、オヤツにしよう。
取り出したのは、そう、アレだ。
揖保乃糸。
ある意味一番怖い、隣人からの差し入れだ。
だけどもさ、これってコンビニで買うと400円くらいするのよ。
のり弁であれば400円で満腹すぎる状態になるのに、そうめんだとツルツル入ってすぐ終わっちゃうでしょ。
なのに400円。コストパフォーマンス悪い。
だから僕はコンビニでそうめんなんて買ったことない。お金がもったいないから。
しかしもらい物なら別。
つまり、コンビニそうめんを食べるチャンスは我が人生で今だけ。
だから勇気を出して食べた。
うまい。ツルツルだ。
こうして合計で推測850円ほどの奇妙な差し入れを1人でたいらげてしまった。
B市から逃げだした僕。
しかし、これは事件の解決にはなっていない。
僕の本来の自宅はB市なのだから…。
数週間後の帰還が怖いぜ、これ。
4. スイロン
「なぁ、どんな人がどんな気分のときに隣人に差し入れをすると思う?」
揖保乃糸を食べてから2日経った日。僕はまだ生きていた。
昨日から今日にかけて、旅行をするほどには元気だ。毒は盛られていなかったのだと思う。
この旅行でどこに宿泊したのか気になる方は、以下のリンクでも見てほしい。
僕は車内で同行の彼女に不思議な事件の話をしつつ、自分の見解を述べていた。
- 悪意。やはり数日のB市帰還時に僕が隣人を怒らせた。夜中の洗濯機の音がうるさかった。だから毒入りの差し入れで殺そうとした。
⇒ 差し入れを全部食べた僕が、2日経ってもピンピンしているので可能性は低。 - 好意。隣人は女性(男性かも知れんが)。「YAMAさんってステキ!お近づきになりたい!」と思ったが、シャイで直接声を掛けられないのでいのでプレゼント作戦。
⇒ 隣人と会ったことが無い。深夜にしか家にいないので、擦れ違った可能性も低い。そして、「ステキ!」の結果の差し入れがせんべいやおにぎりや揖保乃糸?なんかセンスが変。 - 友情表現。男性の可能性。「チーッス、せっかくお隣さん同士だから飲みましょう!でもYAMAさん深夜しか在宅じゃないから誘えなかった…。飲み会のために買っておいた食材をあげるっす。」
⇒ 揖保の糸を缶コーヒーを?これがビールであれば、ちょっと可能性UPしたかもな。 - 譲渡。「ウチで仲間とホームパーティーしていたんだけど、食材があまっちゃって…。捨てるのもったいないんで、お隣さん、いります?」
⇒ これも食材チョイスがちょっとおかしい。 - 慰労。「YAMAさん毎日お疲れっす。これでも食べて元気を出してくださいね。」
⇒ ちょっと現実的だが、普通そういうときは栄養ドリンクとかじゃない?そして見ず知らずの人にねぎらってもらう理由もない。
…どうにも、もらったものから隣人のキャラや意図が全く見えない。
ちょうど一食分くらいの分量なのだが、要冷蔵の揖保の糸があったということは、僕が当日の夜食で食べることを想定していたのか?
ドアをゴソゴソやって荷物をかけていた行動は、あえてその物音で気付いていもらうことが前提だったのか?
だとしたらインターホンを押さなかったのはなぜ?
そして、なによりドアの前の床に2本置いてあった未開封の缶コーヒーが不可解。
人に物をあげるアクションとしては相当な悪手だ。
これで好意を示したつもりであれば、大いに感覚狂っている。うーむ…。
助手席の彼女が言う。
差し入れを食べた時点で好意を受け取ったと思われるからキケンだと。
そのままドアノブに掛けたままで放置するか、マンションのゴミ捨て場とか目に見えるような場所に捨てることで「拒否」を示さないと、受け取ったとみなされて行動がエスカレートするかもしれない、と。
いやー、でもドアノブに掛けたままB市を数週間留守にしてさ、ホントにそのままだったら腐るぜ。
この夏場に放置したら、次にB市に帰ったときに部屋の前がすごいことになっていそう。
それに揖保の糸、食べてみたかったし…。そんでおいしかったなぁ、ウフフ。
すると彼女がブリブリ怒り出すのです。
ヤッベ、さすがに得体の知れない差し入れを食べたのはまずかったか…。
僕のO型が故の軽率な行動を怒られるのだな…、怖いな…って思ったら、違ってた。
「アホなYAMAはそういうエサをぶら下げられたら食べるのが当然!その点はもうしょうがない!!そんなYAMAに変な差し入れをした隣人が憎い!!」とか言ってる。
あれっ!!?
怒るのそっち!?僕はアホ確定!?食べちゃうの当然!!?
しかし、悪意でないのであれば、なんらかメッセージがあってもいいと思うのだが。
でないとこうして気持ち悪がられるのが普通。
だから「あまったのでどうぞ」、「いつもお疲れ様」、「YAMAさん好きです」とかのメッセージと共に、「誰それより」と自分の素性を明かすのが普通ではないか?
差し入れの時点で大なり小なり自己顕示欲があるのだから、それを示さないと意味がない。
もし示す必要が無いのであれば、得体の知れない差し入れをもらって困惑している僕をいつでも見れる位置にいるってことか…。それは怖いな。
いや…。
僕は考えた。
既にメッセージはある。しかし僕が気付いていないだけだとしたら…?
メッセージを置いておけるような箇所に心当たりは複数ある。
実家拠点の生活からB市に戻るまではあと数週間。
それまでに心の準備ををしておかないと、突発の事態に耐えられませんぜ、こりゃ。
5. メビウス
僕は考えた。
隣人が差し入れと一緒にメッセージを伝えていたとしたら、それはどこに?
一番可能性が高いのは、ドアノブに掛けてあった食材モリモリのビニール袋の中。
しかしそこにはなかったことを確認済み。
残る可能性は、玄関の郵便受けと、マンションのロビーの郵便受けの2つだ。
そこに手紙などが入っているかもしれない。
しかし僕はあの日は差し入れを見ただけでビックリしちゃって、その後すぐにB市を出発したからこれら2つを確認していない。
数週間後にB市に戻った際に確認できれば、隣人が誰なのか、隣人の意図が何なのかわかるかもしれない。
しかしね、怖いのはその隣人が非常に僕に執着心を持っていた場合。
僕の部屋のドア郵便受けには、マンションの住民であれば誰でも触れることが可能だ。
なんか生卵だとか腐ったトマトとか入れられて、数週間後に帰ってみたら部屋がとんでもないことになっていた、とか辞めて欲しい。
僕の部屋は1階だから、外からバルコニーに物を投げ入れることもできる。
それに、今は夏場。大体みんな窓を開けている。
少々の生活音はお互い様だからいいんだけど、こういう人が隣だと本当に用心しないとヤバそうな気がするよ。
ドアの開け閉めだって気を使わなきゃ。
僕が外出する音を聞きつけて隣人がこっちを覗いてきたら、マジ気持ち悪いし。
廊下で擦れ違うのも怖いし。
てゆーか向こうから「あの差し入れ、どうだった?」って聞いてきたらどう答えようね。
彼女と考え、もし相手から聞かれたら「どこの誰からのかわからず怖かったので手を付けられませんでした」でいこうってアドバイスを受けた。
正直者の僕は「いや、食べたしおいしかったよ」と反論したのだが、「それはわかっている、アホ!」と一蹴された。
そして数週間が経過した。
8月中旬だ。
僕の実家のある町に住む彼女は、行楽がてら一緒にB市までやってきてくれた。このまま一泊の予定。
家の近くまで来た時点で、僕は彼女に言う。
「オマエは近所の喫茶店でちょっと待ってな。まずは僕1人で部屋の様子を見てくるから。」
そう言って僕は1人自宅を目指す。
マンションロビーの郵便受け…。怪しいものは無し。手紙等無し…。
ま、普通ないよなー。予想はしていたけど。
自室の前の共用の廊下部分には、ピンクのモコモコしたスリッパが片方だけ落ちていたが、これはまぁ気にしない。
そして玄関のドアを開けて部屋に入る。
バルコニーにも物を投げ入れられたような気配はない。
数週間前のままの、綺麗な我が家だ。
んっと、じゃあ最後に自室のドアの郵便受けをチェックしてみるわ…。
んで、なにこれーー!
20本入りのタバコの箱に、18本が残っている状態。
隣人?いつ入れた?揖保乃糸のとき?それともこの数週間の僕の不在時?
タバコだなんていう、吸わない人からしたら何のプラスにもならないものをなぜチョイスした?
僕が吸うことを知っているのであればまだ理解できるが、僕は吸わないし。
何度も言うけど、隣人に会ったことないし。
それに、なぜ開封済み?「自分が手を付けたタバコをYAMAさんにあげる」という、なんらかの繋がりを持ちたい心情?
ちなみにここにも手紙とかはない。うむ…、マジで謎。
モヤモヤと同期を考えながら、タバコは試しに後日1本だけ吸ってみた。
長らく吸っていないが、昔ちょっとだけ吸ったことあったので。毒など無いか、念のためだ。
とりあえず、釈然としないけど、これからまたしばらくB市での生活となる。
そう、隣人との密着生活は、これからが本番なのだ…。
6. ホウモン
B市での生活を再開させて2ヶ月半が経とうとしていた。
10月下旬、秋も深まって来た。
忙しすぎて、ここ最近は例の隣人の存在はもうあまり気にしなくなっていた。
相変わらず微妙におかしな現象がマンションの廊下で目撃されたりもしたけど、ここに書くほどのイベントではない。
この日、久々に再会する同僚がいた。ここまでの一件を大体話している同僚だ。
その同僚に「あれ以来、奇妙なお隣さんはどうだい?」って言われた。
いや、やめてよ。せっかく忘れかけていたのに。
こういうこと言われると、また何か起こっちゃいそうじゃないか…。
…ってなやりとりがあったりもしたのだが、昨今のあまりにボリューミーな残業時間のために産業医に面談をしてもらい、珍しく早めに帰宅する。
あと、先日いきなりお風呂の配管が取れたので、やってきた業者の対応をした。
同時に、明日の夜から訪問予定の新潟県にある「世界一神社」っていうワイルドな神社の情報を調べる。忙しい。
あ、ちなみに世界一神社について詳細を知りたい方は、以下のリンクを見てほしい。
まぁそんななんやかんやがあった1日だけど、今日は久々に早めに寝れる…。
そう思ってベッドに入り、たぶん24時前にはグースカ寝てた。
…このまま朝まで寝れると思っていた…。
ピ ン ポ ー ン …
ん!?
いきなり鳴ったインターホンの音で目を覚ました。
枕元の時計を確認すると、午前1:10。
え…?
こんな時間に誰…?
嫌な予感がする。
今日の昼、同僚に「あれ以来、奇妙なお隣さんはどうだい?」って言われた言葉が甦る。
言わんこっちゃない…。意識したことは現実になるのだよ…。
でも、まだそうと決まったわけではないけどな…。
とりあえず、ベッドから上体を起こす。
そうすると、マンションのロビーに設置してあるカメラが撮影した、インターフォンを押している人物の映像が見れるからね。
微妙に見えぬ…。
そもそも深夜でロビーも暗いし、こっちは眼鏡もない裸眼だし、そもそもベッドからインターフォンの液晶画面まで数mあるし…。
でも、確実に誰かが立って、こっちを見ている。逃げもせず。
その様子が液晶画面にボンヤリと映っている。
だけども性別すらわからん。
かといって、立ち上がって液晶画面をまじまじと見に行くのもイヤだ。
ピ ン ポ ー ン
もう一度インターホンが鳴った。
当然僕は出ない。
まともな用事のハズがないからな。
もう一度言うが、今は深夜1時なのだ。
何度かインターホンが鳴ったが、しばらくすると相手も諦めたのか、静寂。
一定時間が経過したことで、液晶画面も消えて真っ暗になる。
さて…、僕の勘が正しいか実証されるのはこれからだ…。
耳を澄ましてみよう。
1階にある僕の部屋から、マンションの1階ロビーまでの距離は10数m。
深夜に耳を澄ませば、ロビーの音が聞こえるのだ。
ガチャガチャ… 、キー… 。
カギでマンションのロビーのドアを開けた音。
これで誰かが鍵を忘れたので僕に代わりに開けてもらいたかった、という理由が消えた。
もっとも、そんなことを頼まれるほどの知り合いもいないが。
カツーン、カツーン、カツーン。
足音が聞こえてくる。
カツーン、カツーン、カツーン、カツーン!!
来 た 。
悪い意味で予想通りだ。
足音はエレベーターホールの前を通過した。
つまり足音の主の行き先は、2階より上ではなく、1階のどこかの部屋だ。
僕の部屋の前までやってきた。
足音が止まる。
はいビンゴー!!
息を止めて次の行動を見守る。
揖保乃糸?
また差し入れくれるか?YAMAさん食べちゃうぞ?
静寂。
ドア越しの睨み合い。なにこの緊張感。
空気がビリビリと張り詰める。
足音の主の目線は、間違いなくドアを透過して、ベッドの上にいる僕を見ているはずだ。
しばらく時間が経過した。
「カツーンカツーン」とまた足音が進み、隣の部屋のドアの前で「ガチャガチャ、ギー」という音がした。
やはりお隣さんだったか…。
僕はもう今日は進展はないだろうなーと、そのまま寝た。
翌朝、ドアに何かまたいたずらされていないかドキドキワクワクで確認したけど、何もなかった。
一体何だろう、あの深夜1時の行動は…。ナゾだらけ。
せめて性別と年齢層くらいは知りたい。何もわからないのは恐怖すぎる。
…って望んでしまった。
これもすぐに、変なかたちで現実化するのだ。
7. モクゲキ
8月中旬、僕の部屋のドアの前付近に、スリッパが片方転がっていた。ピンク色のフワフワモコモコなスリッパ。
…そう書いたのをあなたは覚えておいでだろうか?
当時、「誰の?なにこれ?」…って思った。
誰かがまたまた落としていったものかもしれないので、どこかに撤去するわけにはいかない。
少なくとも僕のものではないので、若干例のお隣さん方向の廊下に場所をずらして置いておいた。
その後普通だったら、落とし物なら落とし主が拾う。
あるいはゴミなのであれば、定期的に清掃しているビル管理会社が回収していく。
このマンション、ビル管理会社はかなりしっかりしているのだ。
だけども不思議なことに、そのピンクのモコモコは、いつまでたってもそこにあった。
むしろ、ときどき僕の部屋のドアの前に移動していた。
もうこっちも疑心暗鬼だからね、そうなる度に「隣のアイツー!」って思って、かなり隣人寄りにピンクのモコモコを移動させていたりした。
ピンクモコモコ攻防戦。
今から振り返れば、何も根拠のない子供じみたやりとりなんだけど、ちょっと心の余裕が無かったよな。
そんな攻防が、実に3ヶ月続いた。
いや、長かったね。
もう季節は夏から秋もめっきり深まろうとしているんだけど。
ピンクのモコモコも、もう雨やホコリで灰色っぽくなっていたしな。
そんな10月末のことだ。前章のピンポン事件から数日後だ。
僕は最大の油断をした。
マンションのロビーの郵便受け(集合ポスト部分)から、溜まっていたチラシ類をゴソゴソと引き抜いていた。
後ろから視線を感じた。
「あぁ、誰か僕の次に郵便物を取り出したんだな。さっさとどかなきゃな。チラシを捨てる作業は今じゃなくってもできるしな。」
そう思い、すぐに郵便受けの前を立ち去ってマンションの中へと入るドアを開けた。
…ん!??待てよ!!
1秒後に嫌な予感がした。
僕がいたら郵便物が取り出せないほどに、郵便受けが近い人物?
そんなのは、数人しかいない。
郵便受けの列が縦に並ぶメンバー、僕と同じフロアに住むメンバーだ…。
ひょっとしたら…。
僕は悟られぬよう歩調を崩すことなくサクサクとマンション内を歩きつつも、次の角を曲がる際にほんの一瞬だけ、ロビーの郵便受けを振り返った。
その人物は、僕の郵便受けのすぐ下を開けているところだった。
つまり、隣の住人の郵便受けだ。
女性。
そして、僕と同じくらいの年代か、わずかに上くらい。
一瞬だから全然見れなかったけど。
顔も覚えられないくらいの一瞬だったけど。
少なくとも、知らない人。
冒頭で書いたような差し入れをもらう理由は何1つ無い。
これで得られた情報は大きいけど、失ったものも大きい。
それは、僕の方が長い時間監視されたということ。
僕がチラシ類をゴソゴソと取り出していた時間はわずか数10秒だけど、でもその間はほぼ一方的に見られていたかもしれない。
どう思われていただろう?「あれ?あんな人か?差し入れあげて損したわ。」みたいな感じだと最高なのだが。
とにかく、僕は最悪横顔をガッチリ覚えられた可能性がある。それが一番の失態。
しかし、僕は内心隣人は男性だと思っていた。
女性だったとは…。
僕にコンビニのそうめんを送り付け、床に缶コーヒーを並べ、部屋の郵便受けに開封したタバコを入れ、廊下にピンクのモコモコを3ヶ月も放り出し、そして深夜に僕の部屋のインターホンを鳴らし…。
インターホンの件、もし仮に僕が応答していたらなんて答えていたのだろうかね?
「一緒に飲みましょう」とか言われていたんすかね?
深夜に女性から、見知らぬ男性の部屋に乗り込んで来ようとするかね?
マジでナゾだ。
そんなこんなでさらに数週間が経過し、11月上旬。
まだピンクのモコモコは転がったままだ。
友人の「バンザイ」がウチに泊まりに来たりした。
そのあと、2人で「黒部渓谷」を始めとするドライブ旅行に行ったりもした。
詳細は以下のリンクをご参照いただきたい。
上記エピソードの数時間後のことだ。
B市に向かっている車内で、バンザイが眠いというので、眠気覚ましにここまでの一連の話をた。
「オマエ、先日僕の部屋に泊まって気付かなかったか?あのときもそのピンクのモコモコは、廊下の前に転がっていたんだぜ。」と言う。
うん、我ながらカンペキな締めだ。
バンザイは「ひいぃぃーー!」みたいなリアクションをしてくれた。素晴らしい。
僕は悪ノリして「せっかくだからピンクのモコモコ見て行けよ!なんなら持って帰ってよ!B市土産!」とか言うんだけど、断固拒否された。
僕の家の10数m手前まで来ながら、僕の家に寄ることなく、バンザイはそのまま電車に乗って帰って行った。
「ふふ…、怖がりなヤツめ…」
バンザイを駅で見送った僕は、1人自宅に引き返す。
そこで僕は隣の部屋を見て、腰を抜かさんばかりに驚いた。
ドアがー!!隣人の家のドアがーー!!
隙間という隙間、お札まみれ!!
なにごと?そんでピンクのモコモコ、また僕の部屋の前に転がっているし。
バンザイ、オマエ正しかったよ。これは見ない方が良かったよ…。
今夜、僕はどういうテンションで自室で過ごせばいいというのだ…。
8. サヨナラ
いつしか季節は晩秋から冬へと移り変わった。
7月の下旬にドアの前に転がっていたピンクのモコモコスリッパは、11月半ばにようやく消滅した。
誰がどう撤去したのかは謎だ。
例の、黒部渓谷から帰って来た際に死ぬほどビックリした、ドアを封印していた御札は、翌日にはさすがになくなったた。
ま、ドアと壁を塞ぐような形で貼られていたからね。
つまり家主は外出中ということ。
剥がさない限りは家に帰ってくれないということ。
どういう意図だったのだろうか?
留守中の自分の家に守備魔法でもかけていたのだろうか?
12月下旬には、ピンクのモコモコの代わりに我が家の前の廊下に黒いサンダルが片方転がっていたことがあった。
デジャブ。
そしてまた片方なんだー。そうなんだー。
結局、まともに対面したのは10月の郵便受けの一件のときの1度きりだ。
てゆーか、生活の気配がほぼ皆無。不自然なほどに皆無。
ただ、気になる情報がある。
前章で僕はバンザイに眠気覚ましにこの話をしたと書いた。
その際に「住んでいるはずなのに、家に帰っている気配がないんだよねー…」とも付け加えたのだ。
するとバンザイはこう答えた。
「いや、YAMAは寝ていたから気付いていたんだろうけどさ。深夜1時過ぎに帰って来たみたいだ。隣の部屋から壁をゴソゴソカリカリと何かをやっていたぜ。しばらく寝れなかった。」
うん、寒気がした。
夜型生活の人かな?
そういえば、今までのなんやかんやも、深夜1時過ぎに起きたことが多いしな。
だとしたら昼過ぎだとか夕方くらいの、僕が仕事で外出している間に出掛けているのだろうか?
しかし、例え夜間の仕事をしている人間だとしても、休みはあるはずではないか。
買い物したり廊下で擦れ違ったり、洗濯物干したり窓を開けたりゴミを出したりするはずではないか。
それが全くない。
愛車の駐車場に行く際には、外からバルコニー側の路地を歩く。
その際にバルコニーを追う壁越しに、隣人の家も少し見える。
だけども、夜間に電気がついているのを見たことがない。
日中に洗濯物が干してあったりカーテンが空いているのを見たことが無い。ひたすら漆黒なのだ。
何10回どころか、何100回見てもそうだった。毎日毎日、こうだった。
そして、バルコニーって隣人との区画の間に下の方に少し隙間があるでしょ。
その区画から汚いダンボールがチラッと見える。
そして、なんかナゾの汁がそこから漏れて、ウチのほうのスペースにデロデロ入って来ていたり。
うわぁ、カンベン。
そんでなんで毎日毎日汁が出ているのかなー、このダンボール…。
前年の冬は、結露による湿気を防ぐために朝とかは家のドアも少し隙間を空けて風通しを良くしていた。
しかしこの年は、怖くてそれができない。
ドアの隙間からキッチンとか丸見えになっちゃうからね、怖い怖い。
朝に料理をしていてふと背後からの視線に気づいたら、隣人がドアの隙間から覗いていた…とかあったら、ホラーだもんよ。
そんな妄想劇場を楽しみながらも冬は終わり、春になった。
春の陽気が心地いい。
僕は引っ越す。仕事の都合で、ずっとずっと遠い地に行く。
あれ以来隣人との接触はなかったし、いろんなことが謎のままだ。
だが、これは映画でもドラマでもマンガでもない。オチや結論があるとは限らないのだ。
「もうビクビクしながら暮らす必要もない。」
それが重要なのだ。
春うららかな日。
僕はB市を後にした。
… …
…!!
~ END ~