秘湯マニアよ、刮目せよ!
あなたが「いや、秘湯って…、そういうことを言いたいんじゃないんだけどな…」とモゴモゴしてしまいそうな物件を、今回ご用意させていただいた!
那須にある「ピラミッド元氣温泉」!!
もう宿に対峙した時点での最大瞬間風速がハンパない!
試合開始のゴングがなると共に、いい感じの右ストレートが顔面に炸裂した気分だよな、これ。
那須の温泉宿。
そこにスフィンクスとピラミッドを持ってきやがった。
2文字で表現するなら「暴挙」である。
温泉にもエジプトにも失礼だ。食べ合わせとか考えないタイプの宿だ。
こんな宿に泊まる人なんているのか。
僕だ。
では、ご紹介しよう。
那須のエジプトへようこそ
那須の温泉宿でゆっくりお風呂に浸かり、そしてお酒を飲んで眠りたい。
いいじゃないか。
極めて健康で文化的な旅行イメージである。
僕だって人の子だ。
たまにはそういう平和な旅行をしてみたい。車中泊もいいけど、温泉宿もいい。
ただ、それを実現するプロセスに甘さがあった。
旅行を企画したのが直前すぎて、「那須塩原温泉」だとかの有名どころの宿は全部満室であったのだ。
梅雨真っ盛りの7月の19:00。
この空気の重さは、梅雨の湿気によるものか、それとも夕闇によるものか、はたまた人里をどんどん遠ざかる不安によるものか…。
実は、那須エリアに2箇所だけ宿の空きがあったのだ。
1つはどこにでもありそうなビジネスホテルだ。
もう1つはピラミッド温泉だ。
せっかくの旅行であれば、忘れられない思い出にしたいじゃない。
じゃあ、どっちだ。
うん、そうだね、ピラミッド温泉だ。
その選択はある意味正しいが、ある意味で身を滅ぼしかねない諸刃の剣だ。
薄暗く人家も車の通りも無い木立の中をひたすら走って行く。
本当にこっちでいいのか心配になる。
そんな道をしばらく走ったところで、前方に奇怪な建造物を発見した。
…うん、間違いない。あそこが今回の宿だ…。
うわぁ…。
温泉宿の外観で「うわぁ…↓↓」ってなったのは、初めてかもしれない。
スフィンクスの後ろに連なる2つのピラミッド。
それが今夜の宿だ。
いや、ある意味すごいんだけど。
僕の中には5歳男児くらいの人格もあるから、その彼は手放しにはしゃいでいるんだけど、同時に社会の多くの人と接するサラリーマンとかの人格もあって、その彼は「このあとどういう顔をしてスフィンクスの股間をくぐればいいのか」と思案しているのだ。
ちょっと周辺を見渡して、心を落ち着けよう。
中和できるものをくれ。
倉庫。異国情緒。
スフィンクスがここにもいる。
背後にはピラミッドを思わせる四角推が、無駄に遠近感を以て描かれている。
薄っすらと、ラクダと旅人だ。
何と形容したらいいのかうまい言葉が思いつかないが、なんだか心がザワザワする絵柄だ。
身も心も活性化!
世界初のピラミッド温泉
入苑料 … 平日¥550 土日祝¥650
宿泊料 … 2食付 湯治 一般 ¥5,100~
素泊まり … ¥2,500~ 安い
すごいね。
"世界初の"ピラミッド温泉。そうであろう。
てゆーか、改めてピラミッド温泉ってなんなんだ。
そして、書いてある通り安さがほとばしっている。
今回は素泊まりなのだ。2500円だ。
いらっしゃいませ
大浴場・露天風呂
ピラミッドパワールーム
奇木・奇石・美術館
休憩室・個室・集会室・食堂・釣り堀・野外バーベキュー
息もつかさないのキラーフレーズのラッシュで、宿に入るのが3倍怖くなった。
ピラミッドパワーか。
彼が出てくるってことは、今宵は荒れるぞ。
しかし、僕もかつては考古学者を夢見た身。
冒険なくして発見はない。
そんな感じでカクゴを決めた。
では、突撃だ。
スフィンクスの脇はガラ空きだが、ここは神社の鳥居と同じように、スフィンクスの股間を通っていくのが礼儀だろうか?
知らんけど、足の間の通路を通って宿に入った。
…ただ、スフィンクスは上半身だけで、下半身はなかったけどね…。
ちなみに、そのスフィンクスの後ろには2体のミニスフィンクスがいた。
宿のエントランスの左右を、まるで狛犬のように守っていた。
なるほど、意味不明だ。
ガラガラとスーツケースを転がす音が静かな那須の大地に響き、その音が周囲に僕の存在をアピールしているようで恥ずかしかった。
めくるめく黄金郷
薄暗くて神秘的なロビーの受付。
そこで、チェックインの手続きをする。
対応してくれたのは、オーナーの「伊藤雄次郎さん」ご自身である。
伊藤さんにご案内され、長い長い廊下を歩いて部屋へと向かう。
途中、話のネタに「ここは何年くらいやっているんですか?」って聞いてみた。
なかなかに昭和な雰囲気だったので、40~50年くらいの回答が来るものと期待をした。
しかし、意外なことに平成の建物だった。
1994年(平成6年)に伊藤さんが作ったらしい。
研修施設として建築し始めたけど、途中で温泉が湧いたので温泉旅館にしたそうだ。
エジプト要素がどこで入り込んだのか聞き忘れたが、アクロバティックな路線変更をものともしない伊藤さんの柔軟な思考であれば、いつどこでエジプトが現れようとも柔軟に取り込めるのだろう。1人で納得した。
部屋の鍵の開け方にはコツがいる。
昔ながらの、鍵穴が押しボタンを兼ねているヤツだ。
ちょっと古いと、鍵と共に鍵穴も回ってしまい、一生入れないヤツだ。
伊藤さんと共にガチャガチャやり、ようやく開いた。
ついでにコツも伝授してもらった。
部屋が金色。
部屋も柱も、ブラインドまでゴールドなのですが。
畳やちゃぶ台の茶色まで、ゴールドと脳が判断してしまうような黄金郷が広がっていた。
こんな部屋で安眠できるのか、僕は?
金色部屋のわけ?
本館ピラミッド塔から発する「氣のエネルギー」を多量に受け取るために金色にしております。
短くて簡潔な文章だ。
でも5箇所くらいわからない。まぁいいけど。
早速温泉に入りに行こう。
休憩ロビーを通って大浴場へと向かう。
人の気配はゼロだ。
ここまでの周囲の喧騒からして、どうやら宿泊しているお客さんは少なめな模様。
僕の宿泊した部屋の並びには部屋が10部屋くらいあるけど、確実に人がいると分かったのは、他に1部屋だけだったし。
那須塩原温泉の他のホテルはあらかた満室だったのだが、ここは相当な穴場なのだ。
大浴場に繋がる通路の前にいるのは、ピラミッドのマスコットである「レオちゃん」だそうだ。
ひたすらスフィンクスを推してくる。
あと、「↑大浴場 パワースペース」のプレートが気になる。
パワースペースに行きたいんだっけか、僕?
傍らのガラスケースには、様々な宝石や水晶などが展示してある。
右隅の暗がりには、気になる人物が見えているな。
ファラオ、風呂への通路に座っている。
マスクのデザインからして、「ツタンカーメン」をイメージしたものだろうか?
その足元にはアヌビスがいる。
さらにその奥には信楽焼のたぬきがいる。
暗闇から控えめに、こちらを覗いている。最高過ぎる。
以前に執筆した、信楽焼の記事へのリンクを貼っておく。
これを踏まえて上の写真を見ると、たまらなく愛おしい気持ちになった。
その奥には、黄金の展示物がきらめくショーウィンドウだ。目がチカチカする。
「奇木」と書かれたコーナーではあるが、どちらかというと木彫りだ。
あと、ショーウィンドウ上部のキラキラしたライティングが、小学生のころに自宅に飾っていたクリスマスツリーに巻き付けていたヤツみたいで、懐かしかった。
その奥に壁画。
もう、いろいろとヤバすぎる。
このショーウィンドウや壁画の前を、僕は浴衣姿でお風呂セットを持って歩いているのだよ。
場違い感が甚だしい気もするが、温泉なのだからしょうがない。
ピラミッド温泉入浴
この温泉には、チェックイン直後と翌朝の2回、入浴した。
今回ご紹介する写真は、翌朝に撮影させていただいたものである。
お風呂の中は、外の雰囲気と比べるとまだ普通だと感じた。
不思議な像が立っていたりするけど、もうそういうのを気にしているような次元は突破している。
「水辺で舞う天女」という作品名通り、僕が湯舟に使っている横で天女が躍っているが、もう気にはならないのだ。
お湯はいい感じだった。
源泉かけ流しの天然温泉なのだ。それはありがたい限りだ。
ピラミッド温泉の公式Webサイトを見ると、このように書かれている。
ピラミッドで集めた宇宙エネルギーと、1.2km深層水の地殻エネルギーをコラボした、生命力強化出来る次世代型温泉です。
心の安らぎを得られ、体の治癒の強化がはかれる環境を整えたモールです。
宇宙のエネルギーと、地下のエネルギーのコラボレーションだ。
それをつなぐのが、このピラミッドなのだ。
なんだかよくわからないけど、ここに来てから心の安らぎはあまりない。ドキドキしっぱなしだ。初恋かってくらいだ。
朝のことなんだけどね、シャワーを浴びようとして蛇口をひねると水が出てきた。
冷たかった。他の蛇口も全部水だった。
「なんなんすか、これ。ボイラー壊れたんすか?」って思った。
でも相談する人もいないので、水で体を洗った。
真夏とは言え、少し寒かった。
しかしお蔭で目が覚めたし、湯舟の暖かさをありがたく感じることができた。
ちなみに女湯は普通にお湯が出たらしい。
浴室内には、気柱という柱がある。
触るとピラミッドパワーを受け取れると書かれていた。
「普通にこれ、ピラミッド型の建物を支える大黒柱だろ?」とかツッコみそうになった。
しかし、前述の宇宙と地下をつなぐ媒介となっているのがこの柱だ。
めちゃくちゃすごい氣がこの中を取っているのかもしれない。
だが、別にそういうパワーはいらないし、って思った。
僕は意外にドライであった。すみません。きっと早死にする。
さよならワンダーランド
夜の入浴後は金ピカの部屋の中でコンビニ弁当を食い、そして缶ビールをしこたま飲んださ。
旅先でのお酒は、酔いが回るのが早い。普段の3倍酔う。
キラキラした部屋が、なおさらそれを加速させてくれた。
では、チェックアウトである。お世話になりました。
建物を出て、振り返ったその世界観はやはり異世界である。
ここに泊まった自分自身の勇気をたたえたい。
この施設は、伊藤さんの思いがこもっている。
伊藤さんは若いころからエジプトを訪問し、ピラミッドを実際に目視し、さらにピラミッドパワーの勉強などをしたそうだ。
さらに、この背後のピラミッドは「クフ王のピラミッド」を正確に10分の1にしたサイズ感なのだそうだ。
ピラミッドの屋根の直下には瞑想室もあり、有料ではあるが一番ピラミッドパワーを受け取れる空間で過ごすこともできるらしい。
僕は、それらを根っから信じるほどの心の余裕はないタイプの人間だ。
しかし、そうした信条の元で突き進む人間を応援したり、その人の想いを感じる余裕だったらある。
不思議な世界ではあるが、とても楽しめたと思う。
敷地内の小屋にはクジャクもいる。
僕個人の勝手な統計ではあるが、不思議スポットではクジャク率が高い。
不思議な人に好かれる鳥、クジャク。神秘的な容姿だしな。
別棟である「いやしの和楽座」。
女将がこのシャッターの絵に描いてあるような衣装で舞踊ショーを見せてくれたり、カラオケ大会を開催したりもするそうだ。
楽しそうだな。
あまり大声で名前を呼べないネズミも2体いる。
これ以上のことを書いてしまうと、僕も深夜の来訪者に連れていかれて、以降のブログ更新が出来なくなってしまうので、ここまでとさせてほしい。
これも別棟の、「太陽の船」と書かれた施設。
Webサイトによると「Solar boat・とり専」という鶏肉料理のレストランだそうだ。
しかし、コロナ禍のためか2021年現在は営業を見合わせているらしい。
早くコロナが収まり、また観光業界が活性化してくれることを心から願う。
宿泊客や来訪者のため、さまざまなエネルギーを集結させて楽しんでほしいし癒されてほしい。
そういう思いが根底にあることは、しっかりと受け止めた。
しかし、僕の主観を言わせてもらおう。
珍スポットである。
ごちゃ混ぜのカオスな世界観である。
万人受けは決してしない。
だからこそ、楽しめた!
だからこそ、ありがとな!
車に乗り込んでアクセルを踏むと、あっというまに異空間は見えなくなった。
広がるのは、那須ののどかな緑である。
一夜限りのアラビアンナイトのような体験談。
今となっては、それは夢か幻か…。
以上、 日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: ピラミッド元氣温泉
- 住所: 栃木県那須塩原市接骨木493-4
- 料金: 素泊まり¥2900~
- 駐車場: あり
- 時間: 日帰り入浴は10:30~21:00