週末大冒険

週末大冒険

ちょっと出かけてみないか。忘れかけていた、ワクワクを探しに。

No.251【北海道】戦慄せよ、圧巻の廃墟系喫茶店!60年の歴史が創り出す退廃美に心震えた!

日本6周目の北海道は、2回に分けて走り回った。

広大な北の大地ならではの地平線・草原・青い海・グルメ…。

 

そういうあなたも想像できるであろう思い出ももちろんたくさんあるが、その中でも僕が「あそこは本当に良かったなぁ、ウフフ…」と思い出す回数が最多のスポットがどこなのかというと…。

 


そりゃあなた、「ランプ城」ですよ。

 

えっ?城はどこかだって?城に見えないって?

そもそもランプ城ってどういう施設だって?

 

よーし、耳をかっぽじって聞いてほしい!!

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 


…12月にTwitterで開催したブログ執筆希望のすごい飲食店アンケートで、わりとぶっちぎりでランプ城が1位となった。

序盤は「いろり山賊」がトップだったが、残念ながら山賊は失速してしまった。

 

そうかそうか、みんなあの廃墟系喫茶店の朽ちゆく美しさを知りたいか、そうかそうか。

 

では参ろう!

室蘭の住宅地の奥の奥に佇む、不思議の世界へ!!

 

 

獣道・ジャングル・ピンクの看板

 

えっと…、ここでいんだよな…?

茶店ランプ城を目指す誰もが戸惑うポイントに、今僕はやって来た。

 

邂逅1

なぜなら、車窓から見える景色が「カフェにやって来た」っていう雰囲気ではないからだ。なんだこれなんだこれ。

とりあえず車を降りてみた。

 

邂逅2

んー…、降りてもよくわかりません。

これ廃墟?あ、断じて僕の車が突っ込んで破壊したわけではないよ。元からこう。

 

少なくとも舗装されている道はここまで。

そして僕は知っている。喫茶店はさらに奥にあるということを。

 

ガチ廃墟を探索する人ならわかるよね?

電線を見るのだ。

ほら、奥に続いている。写真の向かって左奥、山の中だ。

つまり喫茶店はあっちにある。

 

邂逅3

獣道のようなものが山の中へと続いている。

なんだか途中からジャングルチックになっているけど。

すぐ左は崖で、その下は海である。危ない危ない。

 

そして写真奥にも写っているけど、途中に軽自動車が獣道を塞ぐように停まっている。

これ、お店の人の車だな。

体を横にしてギリギリで擦り抜ける。

 

あ、車の窓開けっ放しなんだ…。小雨が入りますよ…。

出るときは延々バックなのかな?夜は暗くて危険じゃないかな…。

もう自分のことも含めて全てが不安だらけ。

 

邂逅4

その先に、なんだかガタついた階段。

奥に不自然なほどにピンク色の看板が見えてきた。

 

邂逅5

 

「ラ ン プ 城」

 

 

なんだか昭和中期のエロい施設みたいなセンスしていやがる。知らんけど。

しかしこれが、夢にまで見た喫茶店の看板だ。

数年前は海風のせいか"ン"以外は全部バッキャバキャに割れていたりしたけど、新調したのだね。

 

邂逅6

そのまま建物の脇を進む。

建物はかなり老朽化が進んでいて、カフェ感はゼロである。

こっちだとわかっていても、この異様な光景に僕のハートはドキドキしてしまう。

 

邂逅7

手前から2つ目の窓の先を右に向いたところに入口のドアがある。

「ここが入口です」とも「店です」とも書いていない、普通の人のうちのガラスサッシだが、ここが正解なのだ。

 

深呼吸してからサッシを引こうとすると、もう立て付け悪くて全然動かない。

「ギギッ!」・「メキッ!」っと音をさせながら少しずつこじ開け、とりあえず店舗内に入った。

 

ふぅ…、そして無人

 

 

徐々に朽ちていくものに対する美学

 

僕の眼前には、ボロボロになるほどの年数を経た洋館の一部屋があった。

誰もいなくて無音。すごい世界だった。

 

古(いにしえ)の喫茶店1

こういう感じの廃墟となったスナックやホテルのバー、昔結構探索したよな。

そんな日々を一瞬思い出した。

 

…しかし思い出に浸っている場合ではない。

「すみませーん!」と何度か声をあげた。

すると奥から女性スタッフさんが出てきてくれた。

 

実はこのお店、90過ぎのオーナーさんとその娘さんの2人で切り盛りしている。

オーナーさんにお会いしてみたかったのだが、このときはどうやらご不在のようだった。

さて、以後娘さんのことを「お姉さん」と表記させていただく。

 

古(いにしえ)の喫茶店2

ホントすごいなここは…。どう形容していいのかちょっとわからない。

とりあえず「すごいっすね。来れて良かった。」とお姉さんに感動を伝え、写真撮影の許可をいただいた。

 

ディスっているわけではないが、決して綺麗なお店ではない。

そして古いけど手入れが行き届いているかと言えば、そうでもない。

失礼ながら「退廃している」という言葉を伝わせていただきたい。

ただ、それが最高・最強すぎるのだ。

 

古(いにしえ)の喫茶店3

ほぼ同じアングルで別のカメラで撮影したが、こっちをメインにして撮影すればよかったな…。

薄暗く・くすみ・色あせ、このまま朽ちていくかのような空間。

 

創業61年になるらしいが、ほとんど当時のままのセットが今も使われているそうなのだ。

時間、止まっている。

いや、止まっているようでちゃんと動いているから、いろいろ朽ちて来ちゃっている。

 

古(いにしえ)の喫茶店4

あのあたりの天井はヤベーな。もうフカフカしちまっているな。

廃墟あるあるが現役の喫茶店で見られる。もうYAMAさん、ときめいちゃうぞ。

 

古(いしにえ)の喫茶店5

「あの青い棒はなんですか?」とお姉さんに聞いてみた。

昔薪ストーブがあったときの煙突らしい。

 

なるほどー。

お寺の鐘を突く橦木のようだと思ってしまっていたわ。

こんなところで橦木で壁をどついたらお店崩壊しちゃいますもんね、すみません。

 

古(いしにえ)の喫茶店6

この照明のセンスがブッ飛んでいて好きすぎる。

車輪のような造形も、無造作なチェーンの垂れ下がりも、200点。

 

「かっこいいかっこいい!」とつぶやいていたら、「初代オーナーが馬車の車輪を外して作ったんですよ」とお姉さんが教えてくれた。

マジもんの車輪だった…!

 

古(いしにえ)の喫茶店7

鹿のツノが部屋の真ん中に飾られている。

さすが北海道だな。

土台のかたちから、なんだか真田幸村の兜みたいなフォルムになっているけどな。

 

古(いしにえ)の喫茶店8

では、どこに座るか…。

向かって右側の壁側の席は薄暗いしホコリが溜まっていそうな雰囲気だ。

いきなりど真中の円卓に座るほどの強いメンタルはないし、円卓の中央にボールペンが1本転がっているので無言の圧力を感じる。

 

向かって左、窓際が一番居心地がよさそうだな。

 

 

時の止まった世界に浸りながら

 

柔らかい光の射しこむ、窓際のピンク色のイスに腰掛けた。

 

亜空間を旅する1

あー、なんだこのエモい世界は。どんなレトロ喫茶店にも出せない雰囲気だ。

これを表現できる語彙力が無いのがもどかしい。

 

亜空間を旅する2

クッションはさすがに60年前のものではないだろうが、なかなかに年季が入っていている。

 

その下のイスはボロッボロに破れていたりもする。

中のスプリングもたぶんかつての柔軟性は失われており、勢いよく座るとあなたのお尻がかわいそうなことになるので注意だ。

 

亜空間を旅する3

もともと黒かったのか。

それともピンクだったのが剥げたのか。

 

そんなどうでもいいことを考える時間がとても愛おしいのだ。

 

亜空間を旅する4

窓辺にはよくわからないオブジェが架けられていた。

 

このお店、ピンクのクッションや造花といったかわいらしいものと、天井の車輪照明や鹿のツノやこいつのようなイカついものとが混在している。

初代オーナーさんの趣味と、現在のおばあちゃん&お姉さんの趣味とのコラボレーションだろうか?

 

それが不思議とマッチしている。

 

亜空間を旅する5

カーテンは束ね方もかわいいし、ピンクのリボンもかわいい。

窓の外に見えるプランターは若干傾いたりと波乱を感じるが、オーナーさんたちはお花が好きなんだろうなぁと思わせてくれる。

 

お姉さんは僕が入店した後、カウンターにあったラジカセのスイッチを入れた。

店内のスピーカーを通じ、まずは「ジェットストリーム」が流れ出した。

すげー雰囲気バツグンである。

特に思い入れがあるわけではないのだが、懐かしさ・エモさが3倍増しになるのである。

 

 

曲は変わってしまったが、ルンルン気分で動画撮影もさせていただいた。

もし環境が許すのであれば、音量ONで再生してみてほしい。

実際の生BGM込みで見られるから。

 

亜空間を旅する6

壁側の席のテーブルは、電子ピアノと帆船で完全にスペースを失っていた。

ビックリするほど茶色い帆船だが、精巧でいいものだきっと。

 

このお店のランプ城という名前の由来も、初代オーナーさんが船乗りで世界各地を渡り歩いており、その中でもアラブエリアが印象的だったから名付けたとの事だ。

帆船模型が置かれているのもそんな経緯なのかな…。

 

ちなみに正面奥のドアはトイレである。

興味本位で使わせていただいた。

 

亜空間を旅する7

「1+1=3 そんな人間になりたい…」

これ確か、お客さんが置いて行ったものだよね。Webにご本人の記事があったりしたよね。

僕、見ましたよー。

 

亜空間を旅する8

水色のカウンターと、毒々しい赤のイス。ここまではまだわかる。

しかしイスの足元には武骨なブロック。
どこにでもあるブロックだが、喫茶店の中で見たのは初めてかもしれない。


ここにもチグハグを発見してしまった。

 

亜空間を旅する9

どこを見ても楽しい空間。

奥側の窓はステンドグラス風だが、どことなく造りが荒くて歪んでいる。

それがまた温かい。

 

このお店に他にお客さんがおらず、そして僕1人で訪問して本当に良かったと感じている。

エナジーをかけてこのお店を体感できているからだ。

 

 

400円のチャーハンとコーヒー

 

ちょっと時系列は前後するが、僕は入店してからササッとオーダーを済ませていた。

ちなみにここにはメニューブックのようなものはない。

店舗入口部分に一枚の紙が掲示してあるのみだ。

 

ランチタイム1

店内のインテリアはいろいろこだわっているのに、このメニュー掲示だけは用紙も文字もやたら庶民的なんだな。

 

コーヒー・紅茶・ココア・オムライスは500円。

チキンライス・チャーハンは400円。

オレンジジュース・グレープジュースは300円。

以上。

 

僕はチャーハンとコーヒーをオーダーした。

Webなどの情報によれば王道はオムライスだそうだが、僕はチャーハンを食べたかったのだ。

 

ランチタイム2

「待っている間にどうぞ」と、チョコなどが入ったガラスの器を出された。

この店の雰囲気に合う、いい器だな。

チョコを1つだけいただいた。

 

ランチタイム3

次にコーンスープとポテトサラダがやって来た。

これらもチャーハンのセットなのだ。ちなみにオムライスやチキンライスでもこれがついてくるらしいぞ。

 

ポテトサラダは温かいタイプだ。

ホクホクしていた。心安らぐ。

 

ランチタイム4

コーンスープはこんな絢爛豪華な模様の冬季の器に入っているんだぜ。

冷めないようにと蓋つきの配慮が嬉しいね。

 

スープ自体は、あ、これスーパーでお馴染みの風味だ。

誰もが思い浮かべる"当たり前"がここにある安心感よ。

 

このあとはお店の中をグルグルと旋回して見学していたら、メインのチャーハンがやってきた。

 

ランチタイム5

何か特筆するようなトピックスも無い、普通のチャーハンである。

しかし僕にとっては特別すぎるチャーハンなのである。

 

ランチタイム7

正直、味のことはよく覚えていない。

チャーハンを食べているのではない、僕はこのお店の雰囲気丸ごと食べているのだ。

チャーハンはその1ピースに過ぎないのだ。

 

…しかし、なんて幸せな時間。

ラジカセから聞こえる音楽を聴きながら、薄暗い店内でゆっくりとチャーハンを掬い、口に運ぶ。

それだけのことなのに、生涯忘れられないひとときになるような確信があった。

 

ランチタイム8

お姉さんがちゃんとドリップしてくれたコーヒーがやって来た。

なみなみと注がれており、運ばれる途中でソーサーに少しこぼしていたけど、それも愛嬌だ。

温かいコーヒーがジワッと胃に落ちていく感覚を、僕はしばらく楽しんだ。

 

ランチタイム9

食後くつろいでいると、お姉さんが「良かったら来訪者ノートにコメントを書いてください」と言って来た。

 

うん、書く書く。

中身を見てみると、来訪者はポツポツといった感じだ。

1日複数組が来る日もあるけど、数日置きになるタイミングもある。

 

まぁ、そんな感じなんだろうな…。

今でこそWeb等でマニアな人たちの間で知名度が上がって来たけど、一昔前は全然お客さんいなかったというし。

 

それでもこのお店はほとんど年中無休で夜までやっているのだ。

住居がお店と繋がっているということもあるのだろうけど、60年もこうやって営業を続けてきたことは、ただただすごい。

 

ランチタイム10

そういった感動をいろいろ伝えたいところだが、ノートはシンプルに。

このお店の歴史の1ページになれたこと、感謝です。

 

 

歴史の深部を垣間見る

 

お姉さんとはいろいろお話をした。

僕が小樽を起点に北海道ほぼ一周のドライブをしており、反時計回りに室蘭まで来た話とか、全国のレトロな純喫茶を訪問したい野望とか。

 

そんなお話をしていると、「じゃあ、お店の奥の方を見てみますか?」と提案してくれた。

ありがたい!実は気になっていたのだ!

 

深部へ1

お店の奥とは、上の写真でいうところの中央奥のガラスサッシの向こう側を指す。

この写真はお店に入ってきた位置から撮影したものだ。

入口から見て一番奥、そのサッシの向こうにはなんだかゴツゴツした岩で形作られた謎のエリアがあったのだ。

 

深部へ2

お姉さんは、このお店の歴史をポツリポツリと語りながら奥へと向かう。

 

61年前、おばあちゃんオーナーの旦那さんが始めたお店。

ジンギスカンなどの食事を提供しており、当時の室蘭は製鉄業でとても賑わっていたから、昼夜を問わずお客さんが来たのだそうだ。

 

深部へ3

これらは本物の岩だね。ハリボテではない。それがすごい。

戦時中に中国にいた人が、中国の「西湖」あたりの建物をモチーフにデザインしたのだそうだ。

 

お姉さんが、この岩石通路に点在する部屋の1つの扉を開けてくれた。

 

深部へ4

かつてはジンギスカンや宴会に使われたという個室。

金屏風が立派ではあるが、かなり痛みを感じさせるお部屋だった。切ない。

 

20年目くらいで一度お店を畳もうとしたが、地元の人たちからの要望があってジンギスカンをやめて喫茶店にしたのだそうだ。

 

深部へ5

岩場の上にチグハグに造られたドアがかわいい。

だけども今は使われていない部屋。次第に朽ちていく部屋。

通路の奥に静かに眠っている。

 

深部へ6

岩石エリアの突き当りのドアを開けると、その向こうは外のようだ。

うわっ、しかしこの隙間は狭いな。そしてなんだか歪んでいるな。

お姉さんに続いて建物の裏側に出てみた。

 

深部へ7

木々が生い茂っていてよくわからないが、断崖の岬の突端の、狭いエリアだ。

どんな感じなのかは、Googlemapさんの衛星写真を引用しよう。

 

深部へ8

今僕は、ランプ城の建物の左側を少し進んだところにいる。

すごい秘境地帯だ。

オーナーさんご夫婦は、60年前この地を切り開いてお店を造ったのだ。

 

深部へ9

今も転々と残るコンクリートのテーブル状のものは、かつてのジンギスカン台。

この岬の先端でみんながワイワイとジンギスカンをしていたのは、40年以上前になるのだな。

 

お姉さんはどんな思いでこの光景を見ているのかな?

60年の歴史の詰まったこのお店は、とても数分で語ることなんてできないほどの重みがあるのだろう。

 

二度と時間は戻ってこないし同じ光景も戻ってこないけど、大事にしたい思い出ってあるよね。

 

深部へ10

しばし岬の風に当たり、そしてまた喫茶スペースへと戻る。

 

くたびれた喫茶スペースではあるが、音楽が響きコーヒーの残り香があることで、「あぁ、この部屋はまだ生きている」としみじみ感じた。

 

お姉さんは最後、「旅の途中にどうぞ」と栄養食品をくれた。

ありがとう、とても助かります。

またいつの日か来ることを誓ってお店を出る。

 

さよなら白昼夢1

サッシを閉めようとするが、ギシギシいって全然閉まらない。

「そのままでいいですよーwww」とお姉さんが言うので、このまま失礼させていただくこととしよう。

 

さよなら白昼夢2

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…ここで過ごした時間は、果たして現実のものだったのだろうか…?

そんなことを何度か考えた。

この後の行程が濃霧だったことも、そういう気持ちを助長させたのだろう。

 

僕はカメラのアルバムを確かめ、そして車内に栄養食品があることを確認する。

大丈夫、夢ではない。

現実に僕はランプ城を訪れたのだ。

 

あの岬の森の先にある、不思議な喫茶店を。

 

さよなら白昼夢3

僕のランプ城での思い出が、撮影した写真たちが、ランプの煙のように消えてなくなってしまわないよう、今回の記事を執筆した。

 

そしてこの記事を読んだことが、あなたの心の中にほんの少しでも記憶として残ってくれるととても嬉しい。

 

さよなら白昼夢4

― 海霧の町、室蘭での白昼夢 ―

 

以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。

 

 

住所・スポット情報

 

  • 名称: ランプ城
  • 住所: 北海道室蘭市栄町1-127−3
  • 料金: チャーハン¥400他
  • 駐車場: あり(未舗装路直前の廃墟付近で良いとのこと)
  • 時間: 12:00~20:00