その岬の名は、「西崎(いりざき)」。
「与那国島」の最西端であり、つまりは日本の国土の一番西の端である。
読み方は、決して"にしざき"ではない。
「"いり”だなんて読めねーよ。覚えられねーよ。」というあなた。
「太陽は東からあがり、西にはいる」と覚えておこう。
ちなみに与那国島の最東端の岬が「東崎(あがりざき)」だ。
すげー納得感であろう。なぞなぞみたいだ。
僕ももちろん、与那国島に行ったことはある。
この日本最西端の島をグルグルとドライブし、知り合った旅人たちと毎晩酒を飲みかわした。最高の島だった。
では、今回はそんな国境の島から、日本最西端の西崎のお話をしたい。
その車は鍵がかからない。
レンタカーショップ、「与那国ホンダ」。
そこの受付で僕は朝一から「すみませーん、すみませーん!」と呼び続けていた。
なんかちょっとあなたの知っているホンダのお店とは違うかもしれないが、ちゃんと世界に名だたる自動車メーカーのHONDAだから安心してほしい。
壁に直描きされたクワガタやハイビスカスが躍っているが、まぁ落ち着いてほしい。
あと、自転車もレンタルできそうだが、驚かないでほしい。
僕はこれからここで車を借りるのだ。
いや、正確に言うともう借りている。
昨夜与那国空港に着いた途端、「はい、これ君の車だから今から自分で運転して。あ、手続きとか精算とかはいいから。明日の朝にでも来てくれればいいから。」と言われた。
なので明けて今朝なのだ。ゆるい。
…で、ようやく出てきたスタッフのおじさんから手ほどきを受け、料金を払って正式に車をレンタルした。
ホンダ・ライフだ。
なかなかにサビサビで、ツギハギだらけのボディだ。
鍵は壊れてドアロックが掛からないらしい。僕はそれをキーレスエントリーと呼ぶことにした。
おじさんは「ついでだからお茶あげるよ。」と、さんぴん茶くれた。ありがたい。
そして「晴れたねぇ。予想に反して晴れたねぇ、ハハハ。」とゆるく笑って僕を送り出してくれた。
そうなのだ。
本来、今日は降水確率80%である。しかし晴れたのだ。
まだ車のフロントガラスも地面も濡れている。ついさっき晴れ間が出たのであろう。
この奇跡を大事にしないといけない。
まずは一番晴れてほしいスポット、西崎を目指したのはあなたもご納得の決断であろう。
レンタルショップのある集落から10分と走らないうちに、与那国島の西の集落までやって来た。
あそこが日本最西端だ。
実はね、2019年に国土地理院の地図が更新され、西崎より260m沖の「トゥイシ」という岩が最西端となったのだ。
上の写真でいうと、画面右端の灯台の上あたりの海の中だ。
満潮だと大体沈む。
…とはいえ!
僕がやりたいのはそういう地理的観点の極めてギリギリに立つことではない。
世間一般的な突端に立つというステータスにロマンを感じたい人なので、トゥイシとかに命かけて行くようなモチベーションは無いわ。
さぁ登るぞ、あの絶壁の上へ!
灯台と東屋がチラッと見えている、僕の夢みた最高の舞台へ!
よーし、道が狭いぞー!とんでもない登り坂だぞー!
そして左右がソテツの木だらけでテンション上がりまくるぞー!!
ボロボロのライフはブオンブオンと唸りながら、坂を登る。
そして到着だ。
やった。来た。
ではあの展望台へ行こう。車には鍵をかけずに行こう。そもそもかからないから。
一般人が立てる、唯一の日本の端
西崎。日本の最西端の岬である。
国境の島、与那国島の西の端。もうとんでもなく西にいるのだ、僕は。
九州本土の最西端とか、与那国島から見たら遥かに東だ。
大阪から見た長崎よりも、長崎から見た与那国島のほうが西なのだ。
なんて広いんだ、日本。
だからこそ、隅々まで行きたい。
最西端の丘の少し手前には、カジキのオブジェがある。
見上げれば空を飛ぶようにも見えるカジキ、カッコいい。
与那国島の"町の魚"がカジキなのだ。
では、カジキの鼻の指し示す(?)、日本最西端の展望台東屋に登ろうぜ!
これが日本最西端の展望台だ。
すげーいい…。風、気持ちいい…。
どこまでが日本なのだろうか?
見えているあたりはもう隣国なのだろうか?
そういうドキドキ感がたまらん。それが与那国。
今さらながらのご紹介だが、今回の記事は上記の【特集】の一環である。
日本の極地や斜めの突端までをご紹介しているので、興味があったらあとで覗いてみてほしい。
ちょっと上記リンクから1つ地図を引用させていただこう。
日本が主張する領土の最東西南北端である。
結論から言うと、北東南の3つは一般人のアプローチは2021年現在で困難だ。
行けるのは西のみ。
(前述の通り、トゥイシの文言はスルーして考えてほしい)
そんな貴重な貴重な突端が、ここなのだ。
そりゃ晴れてほしいよな。
奇跡のように晴れ渡った国境の空を見上げ、僕は目を細めた。
…しかしだ。
突端マニアにとって真に重要なのは灯台でも景色でもない。
シンボルである。
こいつを何よりも見たかった。
マジで嬉しい。ゲロ吐くんじゃないかってくらいに嬉しい。
石板にはこのように刻んである。
『渡海の西崎の潮はなの清らさ与那国の美童の容姿の清らさ』
僕は教養がないので何言っているのかわかりそうでわからないけど、そんなことはどうでもいいくらいに嬉しい。
Webサイトで何度も見て、夢を馳せた場所に僕はいるのだ。
よくね、例えば日本最北端に立つと「今、俺が日本で一番北にいる!」って感じる人がいるじゃないですか。SNSなど見ても、そういう投稿は多い。
そりゃ事実だし、そう感じられるのはとてもステキだ。
だけども僕はなぜかそういう感情はない。
人と比べるのではなく、「日本は広いな」・「ここまで来れて幸せだな」って、なんかホンワカする。(僕の住む世界に、他人っているのかな?)
『日本国 最西端之地 与那国島』
あぁ、いるんだよ。
今まさに僕はそこにいるんだよ。
日本はここで終わる。
西で果てで浮かれる僕の話
石碕にはいくつかのオブジェ・モニュメント・説明プレートなどがある。
突端でそういうのを見るの僕は好きなのだ。
いくつかご紹介したい。
まずは最西端の碑の裏のプレートだ。
上記の数字の単位は「㎞」だ。
特筆すべきは、日本国内よりも海外の方が近い点だね。
首都である東京に行くよりも、ソウルや北京やマニラの方が近い点。
距離感がバグる。
東屋の壁に埋め込まれていたプレートだ。
ここでも台湾への近さをアピールしている。
しかし、年間平均気温24度ってなんなのさ。
極楽か。そんな楽園で僕もヌクヌクと暮らしたいって思ってしまった。
まぁ実際はいろいろと苦労も多いかもしれないが、24度の魅力は恐ろしい。
あと、なんか黒潮が与那国島に激突して無残にバラける図があった。
与那国島って固いんだなーって思った。
あと、日本最西端の碑のすぐ近くには「太陽の火」というモニュメントがある。
これは曇りの日に行ったときの写真しかなくって恐縮だ。
全然詳しくないんだけど、1987年に行われた「第42回国民体育大会」の主催地が沖縄で、そしてテーマが「海邦国体」だったそうだ。
そのときの採火を西崎でやったらしい。
だから上の円盤状の石に"沖縄海那国体採火記念碑"と刻んであるのだ。
最後に、やっぱもう一度日本最西端の碑を見てほしい。
手元のあらゆる写真を放出するから見てほしい。
これまで日本全国の突端に行ったのだが、ここは格別だった。
本州最東端の「トドヶ崎」到達と同じくらいの感動だった。
だからね、僕はこの碑の周りをニコニコしながら盆踊りみたいに何周もしたわ。
ちょっと下の写真を見てほしい。
盆踊りにうってつけなロケーションだから。
このとき西崎には僕1人しかいなかったが、碑の周囲ではソテツがギャラリーのように輪を描いていた。
日本最西端は、常にお祭りモードだ。
あなたには台湾が見えるか?
西崎、それは台湾が肉眼で見える岬だ。
前述の通り、台湾までは111㎞。論理的に見えない距離では全然ない。
でも、晴れれば見えるかっていったらそういうレベルではない。
年間数回とかそのくらいの激レアなイベントだ。
これは、僕が3泊した旅人宿の壁に貼ってあった写真の切り抜きだ。
「台湾が見えたぞ」的な新聞記事になるほどレアだ。
住民らが歓声を上げるほどの事態だ。
まぁ僕だって夢見るお年頃さ。
あの日は台湾見えるかなって少しは期待したさ。
雨が上がって突然の快晴。つまりは空気中のチリが少ない状態だから。
しかし、西の水平線上には雲がかかっていた。
無念。やはりそうそう簡単ではないのだ。
年に数回しか台湾が見えないのは、なぜだろう?
このように雲がかかりやすいのかな?黒潮の影響かな?
気象予報士ではないので、そこいらはよくわからなかったし、調べるほどの根性もなかった。
日を改めて行ったら、台湾どころじゃないスケールで曇っていた。
本来は日本最西端で日本最後の夕陽を見て、あなたにもその感動を伝えたかったのだが、全然無理。
空のどこを見渡しても、太陽自体がナッシングであった。
ちょっと絶望の顔して記念撮影をした。
さて、そんな僕にもあなたにも朗報だ。
現地で台湾ビューの追体験をできそうな場所がある。
それは先にもご紹介した日本最西端の東屋だ。
はい、じゃじゃーん。
写真の中央を見てくれ。
ソテツの赤ちゃんの群れではないよ。
その後ろ、東屋の壁に大きな絵が描かれているであろう。
これが、台湾が見えた日の光景なのだ。
なんというダイナミックな大陸なのだろう。
晴れればこんなにも大きく台湾が見えるのだ。それは先ほどの写真の切り抜きからも窺い知れる。
こんなにも大きな陸地が、普段は雲の中に隠れているんだね。
見えなかったのは残念だが、なんだかラピュタのようなロマンがある。
レアで都市伝説チックな方がワクワクするもんな。
この後フラリと入った雑貨屋さんで、日本最西端到達証明書が売っていたので記念に買った。
これ系は日本1周目とか2周目くらいの初期の頃しか購入していなかったので、久々の購入だ。
それだけ、与那国島の思い出をかたちに残しておきたかったというわけだ。
日本の西の、端の端。
普段は他の島も見えないような絶壁の孤島で、僕はたくさんのステキな景色を見て、たくさんのステキな人たちと知り合った。
一朝一夕で書ききれるほどの内容ではとてもないので、また機会がございましたら、故郷の島について語りたい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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