ベンチが長けりゃ尻も喜ぶ。座り放題だからだ。
ギネスにも認定された世界一長いベンチは石川県の能登半島にあり、その長さは460.9mだ。残念ながら2025年現在は外国にもっと長いベンチができてしまっているが、それでもここは圧巻なのだぞ。
調べたところ電車の1人あたりの座席の幅は46cmだそうなので、約1000人が座れる計算になる。友達1000人と共に座って記念撮影でもしようかなって画策したんだけど、よくよく考えたら僕って友達10人ちょいしかいなさそうな気配だったので、泣いて諦めた。
何度も訪問して毎回違う場所に座ったら、1000回訪問することにはコンプリートできるだろうか?そう考えて10年ほど前から何度も通い始めた物語。
…いや、ぶっちゃけ言うとそれは動機を誇張しすぎであり、単純に好きだし能登半島一周ドライブの通り道だから、何度も訪問していたという物語。
日本2周目~4周目
初訪問は日本2周目、真冬の豪雪の日であった。
当たり前だけども屋外に設置してあるそのベンチの座面すべてにコンモリと雪が積もっていて、こんな日にベンチに座る人なんていないわけで。誰が1人でも座っていれば尻型がついているはずだけども、そんなものはなくって。
だからこそ、座るのだ。このベンチに!!我が尻をささげる!!
一緒にドライブしていた5名の仲間たちと、等間隔で座ることにした。これで僕らは尻友になれる。
座面の雪を自分の尻の幅だけ雑に払い落とすと、ためらいなく座ったよね。うん、大丈夫なんだよ、豪雪だから僕はスノボウェアを着てきているから。
…いや、ダメだった。スノボウェアは上着だけだったわ。尻、シットリした。冷たさで感覚無くなった。あと、なんやねん尻友って。
座面に雪のないベンチも見てみたいものだ。雪で覆われていたらベンチの素顔がわからないじゃない。僕はまだそのベンチのスッピンを知らないのだ。
上の写真は国道249号を北上している際に見える看板。だが、2023年から2024年にかけてリニューアルされた。よりオシャレにはなったが、文字は小さく読みづらくなってしまった。すこし悲しいぞ。
ベンチだ。やや古びているが、何の変哲もない木製のベンチ。それが海の方を向いて見渡す限りずーっと続いている。
ところどころにはテーブルも備え付けられており、その部分だけベンチはコの字に湾曲している。意地でも切れ目は作らないのだ。切れてしまったらギネス記録にはならないから。
日本3周目では2回、ここを訪問している。この写真はその2回目で、これまた真冬だ。寒さでちょっと写真がブレた。
そうそう、このベンチは「道の駅 とぎ海街道」のすぐ裏手にあるのだよ。道の駅に車を停めて、徒歩1分でベンチだ。
今回は道の駅に車を停めてグースカ寝た、翌早朝のことだ。時刻は5:30。寒い。春だけども今回も寒い。
ベンチの後ろ側には慈母観音がいる。あとは左側に見切れているけど「岸壁の母」の石碑がある。知らないけど、そういう歌があって、そのモデルの人がここいらの出身なのだそうだ。
それはさておき、着目していただきたいのはこのスロープ。道の駅からベンチまでやって来るにあたり、ベンチの裏から表に出る必要がある。
その際に上記の通り歩道橋でベンチを跨ぐのだ。ベンチを途切れさせるわけにはいかないもんね。だからこその歩道橋。でもすんごい低空に設置してあるから、歩道橋の部分は誰もベンチに座れないぞ。いいのか、ギネス。
歩道橋からベンチを眺めると、視点が高いのでいい感じだ。テーブル部分を避ける構造もよくわかる。
では、座るか。朝の5時半だからまだ座面も冷たいかな。当時の手記を読み返すと『とりあえず座ってみた。ケツ、冷え冷え!』って書いてあった。言わんこっちゃねぇ!
日本5周目・6周目
道の駅 とぎ海街道い再びやってきた。「ルーブル美術館」の、有名なルーブルピラミッドみたいな建造物があるのな、ここ。
では、世界一長いベンチができた経緯にも少し触れて行こう。
このベンチができたのは1987年。830人のボランティアの方々が作ったんだって。おぉ、最大スケールのDIYみたいなものだったのか。日曜大工の最上級か。
Googleマップにもスポット名として記載されているんだけど、この道の駅の裏手の海岸は「サンセットヒルイン増穂」って呼ばれている。つまりは西海岸に面した丘の上なのだ。
地元の人は、この夕日の名所をさらに盛り上げようと考え、この長大なベンチを作った次第だ。その2年後の1989年に、正式にギネス認定されたんだよ。
その後、2003年に栃木県鹿沼市の市制55周年の記念イベントにて、土木業者グループが550mのベンチを作った。これによってここのベンチは世界一ではなくなったんだな。
でも、今でも"世界一のベンチ"で検索するとその大半がここのベンチにHitする。それだけ観光の目玉になったってことかな。今もこうして名所になっているし。
…まぁ名所の割には誰もいないけど。100mくらい先で撮影している人がいるだけだけど。座ったところで海を眺める以外にすることもないけど。
でも、ベンチってそんなもんだよな。板と尻だけあればいい。他はなんもいらない。
現時点で世界一長いベンチはスイスにて2012年に造られた1013mのベンチだそうだけど、ここのベンチの名称を変更するつもりはないそうだ。もう"世界一長いベンチ"で固有名詞になっちゃったから。最強の理屈だ。
日本6周目の道の駅 とぎ海街道。
あ、写真の一番左奥に少しだけ階段が写っているね。あそこを登るとベンチを跨ぐ遊歩道になるんだよ。今回もベンチに座ろう。まだ座っていない座面が腐るほどあるから。
あぁ、歩道橋がかなり朽ちてきている。前回の写真と見比べると一目瞭然なくらいだ。ベンチも全体的に色あせてきているぞ。
定期的に地元の人たちが塗り直ししていると聞いたことがあるが、海辺で雪も多いこの地域の木材の劣化は結構早いのだろうな…。
毎度同じく、ほぼ無人のベンチ。でもここに座って潮騒を聞いているだけで、不思議と落ち着くのだ。
そうそう、ベンチの後ろの手形は、道の駅で申請することで自分の手形を残せるのだよ。2025年現在もやっているのかは知らないけど、何年もかけて訪れた人たちの手形をズラーっと残しているのだ。壮観。
思い出、ベンチと共にずっと残るといいね…。
日本7周目(能登半島地震後)
何度も通っていた大好きな能登半島が、今までと違う姿になってしまった様子だし、住んでいる人たちも1年近くたっても日常に戻れていないとのことで、僕もとてもショックを受けた。
2024年も終盤に差しかかる時期の道の駅。ここから北に行くと、海沿いを走る道路は未だ復旧していないという。道の駅の敷地内には仮設住宅も建っていた。
能登半島地震が発生したときにはね、もちろんこの世界一長いベンチのことも気になったよ。そしてWeb検索したよ。
すると『現在は入れない状態になっている』的な内容が出てきたからドキッとした。もしかして地震で壊れてしまったのかと。「まだ全然すべての座面に座りきれていないのに…!」って思った。
しかしね、実は違ったのだ。
実は世界一長いベンチは、老朽化が進んできたために2023年10月末からリニューアル工事をしていたのだ。だから入れなかったのだ。
能登半島地震が発生したものの、大きなダメージはなく、しかも地震後に一段落したら早々にもリニューアル工事をまた再開し、2024年5月に再リリースしたそうなのだ。
あ、ここの看板まではリニューアルされていないみたいだけどね…。
でもここに書いてあるのと同じく、県の木であるアテの木を使用して作り替えたそうだ。よかったよかった。地震で大きな被害が出た地だけども、明るいニュースだ。
ほぉーー、すっきりしたね、なんだか!
背もたれが無いのだ。取ってしまったそうなのだ。座ってみると背中が心元ないが、かわりに背後のカラフルな手形が見やすくなり、手形も含めてベンチのデザインって感じになったな。
みんなの思い出の手形もベンチも、自信を乗り越えたのだ。この並んでいる手形を眺めるだけでもホッコリした気持ちになれる。
ひそかに僕の好きな歩道橋部分、今回は数名の人がそのすぐ横でお弁当を食べてみたので近くでの撮影はしなかった。
かわりにすごく遠目で撮影はしたのだが、この写真ではわかんなかったなぁ。歩道橋も補修されたかどうか、もっとちゃんと見ておけばよかったなぁ。
角のないツルツル加工で真新しいベンチ。僕の尻も喜んでいる。460mすべて綺麗に新調するの、大変だっただろうなぁ。ましてや地震直後に…。
目の前の海ではショベルカーが何やら作業をしている。あれも地震からの復興作業の一環なのだろうか…。
だとしたらだけど、なまじ海が美しいだけに地震の爪痕に恐怖を感じる。それは、東日本大震災後に東北沿岸部をいろいろ見て回ったときにも感じたことだ。もうあんな思いはしたくないなぁ…。
じゃあ、また絶対に来るよ。
そうだ、次は夕方に来てみようかなぁ。"サンセットヒル"だもんな。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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