おい、事件だ。
レトロ自販機を有する「コインレストランコウラン」が閉店するらしい。
2022年7月末で閉店、つまりもうあと数日しかない。
今月上旬にいきなり告知され、僕もレトロ自販機マニアも度肝を抜かれた。
中国地方にはポツポツとレトロ自販機のお店が残っている。
群馬県の次くらいの密集地帯だ。
この中でも知名度はトップクラスだと思っていたコウランがよりによってクローズとは…。
なんてこった。
…と思ったらすみません。
生地を一度公開後に知ったのだが、誤報が流通していたそうだ。
本店のお弁当屋さんが閉店であり、分店のこちらは継続するそうなのだ。
ホッとした。
さて、しかしせっかくなのでコウランについて書く。
最近の僕はコウランを訪れていなかったのでやや古い情報で恐縮だが、僕がレトロ自販機巡りに目覚めてまだ1年足らずの2012年まで遡りつつ、複数回訪問した思い出を放出する。
出雲のコインレストラン
そもそも、コインレストランとはなんぞや。
おそらくは昭和の後半に全盛期を迎えたスタイルの売店であり、僕が当時を未体験なのでリアルなご説明はできかねるが…。
それは、まだ世の中にコンビニが登場する前の物語。
夜間に営業している店はほとんどないが、でももちろんトラックドライバーや旅行者など、夜間に車を運転する人は存在する。
そんな人たちの夜間の空腹を満たすため、食料を購入できる自動販売機のお店が登場した。
それがコインレストラン。たぶん。
今では目にすることも耳にすることも稀な昭和な響きだが、各地をドライブすればコインレストランと看板を掲げているお店や自販機群をたまに目にする。
もっとも、どこにでもある飲料自販機やアイス自販機だけのことが多いが。
令和の現代、実際に食料を購入できるコインレストランは非常に希少だ。
ましてやそれが、アッツアツの麺類やトースト・ハンバーガーなどを買えるとなると、全国に10数店~数10店ほどしかない。
今回の舞台は出雲。
普通の人は"出雲"と聞けば条件反射で「出雲大社!」とか言うのだろうが、レトロ自販機マニアは「コインレストランコウラン!」と叫ぶのだ。
…ウソです、やっぱ出雲大社のほうが偉大です。全国の神々が集結するし。
でも、コインレストランコウランだってそこそこ偉大だ。
全国のレトロ自販機マニアを惹き付ける、とんでもなくレアな自販機があったのだからね。そのくだりは追って話そう。
上にご紹介したのが、コインレストランコウランの外観である。
そして、そのお店の古いバージョンの外観である。
以前は白かった。ちなみにここ数年は緑だ。
「白」⇒「赤」⇒「緑」。イタリアの国旗のカラーをなぞっていやがる。
白時代には、"昼定食"という文字が残っていた。
かつては定食も店内で振舞われていたのかな。
左側には僕の4周目の愛車であるパジェロイオが写っている。懐かしい。
かつての僕は、コインレストランコウランを目指して一人旅をしていた。
中国地方に数ある自販機のなかでも、コウランを真っ先に目指していた。
コウランに一番行きたかった。
なぜなら、そこには(当時)日本に1台しか稼働していない川鉄製カレー自販機があったからだ。
自販機から出てくるカレー、実際に見てみたいではないか。
そりゃ出雲大社もそこそこに、コウランを目指すわけだ。
では、ドキドキしながら店内へ…!!
自販機メシを堪能しよう
ラーメン
レトロな自販機が複数台並ぶ店内。
そのワンダーランドっぷりに、僕の目はキラキラと輝いた。
昭和時代に青春を送った人たちにとっては当たり前なのかもしれないし懐かしいのかもしれないが、僕にとってはこのレトロさが斬新で心にブスブス刺さりまくる。
さて、前項で「カレーライスが目的だ!」と書いておいてアレだが、まずはラーメンの話を最初にしたい。
3台並んだレトロ自販機の中央。
格子状の黄色いパネルに「天ぷらそば・らーめん」と書かれている。
このパネルデザインはこのお店オリジナルのものかな?他で見たことはない。
ラーメンは250円だ。安い。
ちなみに後年訪問した際には『ラーメンの当たりにはチャーシューが多めに入っています。』との張り紙がしてあった。
しかし初回訪問時の2012年にはそのようなアタリ・ハズレ運用は無かった。
残念ながら僕はアタリのラーメンを見たことが無い。
お金を入れてラーメンを選択し20秒ほど。
写真の中央下に見えている取り出し口から、スープが並々と入ったラーメンが登場する。
この瞬間が、人生で有数のワクワクである。
うわ、すっげーモヤシ。
生活費を切りつめて最近モヤシばっか食べていたのだが、またモヤシ。
まぁいいけど。
どこにでもありそうな、しょうゆ味で化学調味料多めのスープ。
そしてプリプリのスタンダードな麺。
このあと何年もかけて全国のレトロ自販機を渡り歩くが、その中でもトップのモヤシ量。
味はきっとあなたも想像できるものと差分はほとんどない。
ありふれたチープなものだ。
だけどもこうやって食べるとうまいのだ。
前時代のロボットみたいな自販機から出てきて、昭和の雰囲気の店内で食べる。
味じゃないんだよ。雰囲気なんだよ。
カレーライス
本命だ。カレーライスを食べる。
自販機群の一番左だ。他の時間気と比べて少し大型。
しかしカレーライスの自販機とは…!
こんなものがかつて当たり前に存在したのか…!
僕の心臓はバクバクいったさ。
麺類自販機と比べてもかなり複雑な機能を持つものであるため、早めに世の中から姿を消し、もう2012年時点で稼働しているのはここの1台のみ。
下手をすれば、カレー自販機を見るのも食べるのも、これが最初で最後だ。
これは心して食べなきゃならない。
緊張の面持ちで自販機前に立った。
シンプルな絵柄だが、いい雰囲気が出ている。
フォークとナイフが臨戦態勢だが、少なくともナイフの活躍の場は少なそうだ。
貼り紙がしてある。
召し上がり方
本格炊きコシヒカリ米
ご飯にカレーパックの封を切りかえてお召し上がりください
陽気の持ち帰りはご遠慮ください
島根県産こしひかり
ここ島根県のお米を食べられるのはありがたい。
しかしちょっとだけ残念なのは、カレーがご飯にかかった状態で出てくるのではなく、レトルトパックである点だ。
本来この川鉄製カレー自販機には、レトルトパックを自販機内で開封してご飯にかける機能があるのだ。
(2012年時点においては)もう日本には存在しない、ロストテクノロジー。
メニューは3種類だ。
カレーライスの中辛と辛口はそれぞれ350円。たっぷりビーフカレーは400円。
よし、辛口のカレーにしよう。
27秒後、自販機の下部の丸いトレイ部分に「シュゴッ!」って感じでご飯の盛られた丸いお皿が登場した。
同時にその1つ上の「カレーパック出口」と書かれているドアの向こうにレトルトカレーのパックが落ちてきた。
よーし、役者はそろったぞ。
ご飯に福神漬けが添えられている点に、お店の心意気が感じられる。嬉しいぞ。
パックのカレーをご飯にかける。
余談だが、ご飯とレトルトパックが別々に出てくるのは、このお店オリジナルの改造だ。
実は自販機内でこのパックを開封する機能はとても複雑であり、故障が多かった。
だからこのようにしてしまったそうだ。
ずっと時は流れて2022年5月、神奈川県の「中古タイヤ市場相模原店」というレトロ自販機を100個くらい並べている聖地の社長が、このカッター機能を有する川鉄製カレー自販機を復活させた。
これは2022年3月、最終調整中のその自販機を見せてもらったときのものだ。
このお店のネタは多すぎるので、またいずれ機会があったら語りたい。
コウランのカレー自販機は2015年くらいから故障を繰り返し、2020年ごろから撤去されてしまっている。
2022年現在で川鉄製カレー自販機があるのは、もう中古タイヤ市場相模原店だけなのだ。
このビジュアルに痺れた。
レトロ自販機でカレーが出てくるところは他にもある。
徳島県の「コインスナック御所24」、千葉県の「24丸昇」などだ。これまら死ぬほど貴重ではある。
ただしそれらは、どこにでもある四角い惣菜パックにご飯が詰められ、そして一緒にカレーパックが出てくるものだ。
しかし、この丸皿に盛られたスタイルは、ここにしかない。
この絵を僕は求めていたのだ。
この出会いに僕は感謝する。
天ぷらそば
少し時が流れて再訪したときのことを書きたい。
実は、またカレーを食べたかった。次は400円のたっぷりビーフカレーでも食べたかった。
ちょっとふところ暖かかったからな、僕。
あるはずのものがなかった。
コウランの最大のアイデンティティである、川鉄製カレー自販機がなかったのだ。
動揺した。ショックだった。
自販機があったところはベニヤ板で覆われていた。
あと、貼り紙がしてある。見てみよう。
めっちゃカワイイ文字。好き。
只今修理中です。
もうしばらくお待ちください。
なお、手作りカレーを対面販売しております。
お声を掛けて下さいませ。
8時~17時。400円
400円でレトルトカレーを食べる予定が、同じ400円で手作りカレーを食べられるのだ。
普通の人間であれば喜ばしい提案だ。
しかし僕はこのとき、自販機の天ぷらそばを選ぶのだ。
悲しいかな、レトロ自販機マニアはレトロ自販機から出てきたものを好む。
仮に同じものだろうがグレードアップしたものだろうが、それが自販機経由でないとなると、ちょっと興奮が抑えられてしまうのだ。
天ぷらそばは300円だ。
ボタンを押すと中で調理が行われ、20秒ほどで登場する。
なかなかに気合の入った黒さの麺だな。
ダシは西日本にしてはやや濃いめかなって感じだ。
大きなかきあげが乗っかっている。
具もたくさんで、これは嬉しいぞ。
そして僕は出雲大社に向かう。
当時の手記を見たら『もう出雲大社は散々行っているので特に行きたくはないんだけど、本当に目に前を通過するし駐車場はタダだしと誘惑いっぱいなので、今回も一瞬立ち寄ることにした』と、八百万の神々に大変失礼なことを書いていた。
お詫び申し上げます。
歴史に幕が下りるとき
最後の章では、店内の雰囲気と汎用機についてちょっと触れたい。
僕はそんなに興味を示したことは無いのだが、"汎用機"と呼ばれるフレキシブルなレトロ自販機も設置されている。
自販機内の小部屋に入る大きさのものなら、なんでも入れて売ることができる形状。
僕ら購入者はお金を入れて、購入したい小部屋の番号を押すのだ。
焼きそば・エビピラフ・チキンライス、そして具はなんなのか不明だが”丼どんぶり”と書かれたもの…。
どれも比較的安価だ。そして店内の電子レンジで温めて食べることができる。
ご丁寧に、レンジでどれくらい加熱するのがオススメなのか書いてある。
フランクフルトや唐揚げもある。
これだけのものを用意しているのだが、バックヤードはさぞかし大変だろう。
しばらく見ていると、地元の人と思われる方々がちょいちょい購入しに来ていた。
白飯も150円で売っている。
汎用機で惣菜を買い、別売りの白飯をオーダーすれば、それだけで定食の完成だ。
ありがたいシステム。
ちょっと写真がボケちゃって恐縮だが、それらをこの雰囲気の中で食べる。
オシャレでもなんでもなく、余計なものの一切ない店内だが、不思議と落ち着く。
一番奥の扉の向こうはゲームコーナーになっていて、ちょっと古めなコインゲームなどが並んでいる。
レトロドライブインあるあるだ。
惣菜を買いに来る人も多かったことから、地域に愛されていると感じた。
だからこそ、この度の閉店の知らせには驚いた。
カレー自販機は結局復活しなかったし、そばも廃止されて、ここ最近はうどん・ラーメンのみだったと聞いてはいる。
昨今のレトロブームでも、閉店する店は閉店するのだ。
いや、冒頭で書いた通り実は閉店しないのだが、いずれにしても昭和の文化は脆く儚いものなのかもしれない。
昭和時代から、もうそのくらいの時間が流れてしまっている。
2022年5月、僕はコインレストランコウランの前を車で通っている。
「おぉ、懐かしいな」と思い、横目でチラリと見ながら通り過ぎた。
あの日は島根県内のレトロ自販機の他店舗をたくさん巡っており、コウランで何かを食べるだけの胃のキャパシティがなかったのだ。
閉店ではなくて、本当に良かった。
そして元気に営業しているうちに、もう一度行かねば。
1977年(昭和54年)創業から45年間頑張り続けるドライブイン。
令和の荒波に負けずに営業し続けてほしい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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